第98回全国高校野球選手権のある地方大会の準決勝に進出していた野球部室で火事が発生し、現場からタバコの吸い殻が見つかった問題で、県高野連は同校が出場を辞退すると発表しました。そして、予定されていた準決勝は対戦相手の不戦勝となりました。同校は夏の甲子園2年連続出場へあと2勝としていた強豪です。思わぬ形で夏を終えることになってしまいました。
ニュースなどでは、当時、部室には8人の部員がおり、午後0時30分開始予定の準々決勝に向かうため、午前10時30分前後に部室を出たそうです。その後、午前11時25分ごろに野球部室から煙が出ていると、近くを通りがかった男性から119番通報され、同校の教員らが消火活動にあたり、火は約10分後に消し止められたものの、消防車6台、救急車1台が出動する大騒ぎとなりました。幸いケガ人はいませんでしたが、床や壁の一部約15平方メートルが焼けたそうです。広域消防局によると焼け跡からは燃えた着衣のほか、金属製の蚊取り線香の入れ物と、その中からたばこ1箱、さらに約20本の吸い殻が見つかったそうです。
警察の事情聴取に対しては、ベンチ入りメンバー4人を含む8人の部員が喫煙の事実を認めた上で「部室で喫煙し、たばこの煙の臭いを消すために、蚊取り線香をたいたまま部屋を出た」と話しており、蚊取り線香の火の不始末が出火原因の可能性もあるとみて調べています。
今からちょうど30年前の1986年の選手権大会で優勝候補に一角に挙げられていたチームがありました。一回戦でエースが前評判どおり一回戦で1安打15奪三振で完封した後、ベンチ入りメンバー2人を含む部員5人が宿舎周辺で喫煙している現場を、写真週刊誌に撮られてしまいました。
大会本部で緊急会議を開かれ、当該チームの監督ら学校関係者は記者会見。即座に当該選手の出場登録抹消や野球部長の辞任などの処分を行っていたことで、監督と残りの13選手は大会出場を許されましたが、チームは二回戦は辛勝したものの、三回戦で敗れて甲子園を去りました。
この2つの事例は同じ大会中の部員による喫煙問題ですが、片や県大会準決勝で辞退、もう一方は全国大会で試合継続と差が出ました。この違いは何なのでしょうか。自分なりに考えますと、火事を起こしてしまったからもあるでしょうけど、喫煙場所が部室だったということはあると思います。場所が場所だけに。気になるのは、なぜ蚊取り線香だったのか。それも、アースなのか金長なのか。それよりも、においを消すのではなく、ファブリーズを使うとか、消臭力を使うとか。火事を起こしても良い、ましてや高校生がタバコを吸っていいと肯定するのではありませんが、今回のチームとしての辞退ということは、何もしていない他の部員にとっては残酷なことだとは思います。
昔から高校野球の世界では、不祥事を起こした学校は大会への出場を辞退したり、対外試合を禁じられるという連帯責任処分が一般的です。私にとっては、これは不思議でなりません。
1971年春。選抜大会出場校に選ばれ、3月のとある朝に甲子園に向けて出発。出発駅では壮行会が行われ、選手たちは列車に乗り込みました。しかし、学校では不祥事が発覚していました。一般の二年生生徒による三年生への暴行事件で、被害者の三年生が入院する事態となり、マスコミに知れることになってしまいました。その間、選手たちは連絡船に乗り込みました。
学校の会議では「野球部に関係のない事件だから出場させよう」という意見が大勢を占めたそうですが、その日の新聞の夕刊で事件が大きく報じられてしまい、出場辞退を決定。船中の選手たちにも知らされ「船を降りるな」という話でした。目的地に着いた連絡船から下船することなく、乗船したまま引き返し、再び出発した港について、バスで学校へ戻りました。到着すると選手たちは泣き崩れたそうです。
野球部長は当初の下船港に着くと、引き返す監督、選手と別れ、単身で大阪に向かい、当時の日本高野連会長の佐伯達夫さんに、この顛末を報告し謝罪したそうです。
当時の高野連は、野球部以外の不祥事でも“一蓮托生”として出場停止処分にしたほど厳格、絶対的な権力を誇っていたことから、この時、辞退しなくても出場停止処分を科していただろうと言われています。
その後、高野連会長が交替すると、不祥事に対する処罰は緩和され、野球部とは無関係な場合は問題なしとされるようになった。
いつまで、このような軍隊まがいの「連帯責任」がまかり通るのでしょうか。今回の騒ぎでも、どうして関与していない部員の出場機会まで奪われなければならないのか。「高校野球は教育の一環」であるとも言いますが、前時代的な連帯責任を負わせることが、教育の一環なのでしょうか。
さて、一昨日長野大会は決勝が行われ、閉会式がありました。閉会のあいさつの中で長野県高野連会長からこんなことが言われました。
「まず、講評の前にお詫びを申し上げなければならない問題がありました。それはあきらかに高校球児と思われる若者が球場近くの歩道を歩いていた、目がご不自由な方に対し心無い言葉を発したそうです。側にいた仲間の一人が『そんなこと言うな』と制したようですが、覆水盆に返らず、取り返しのつかないことになりました。長野県高野連の会長として改めてお詫びを申し上げるとともに、二度とこのようなことがないよう再度人間教育を各校にお願いしてまいります。たいへん申し訳ありませんでした」
せっかく、二週間の好勝負に水を差されたようで残念なことでした。