昨日の第2次戦力外通告期間終了(http://blog.goo.ne.jp/full-count/e/ae7bc6684aae2059f46f7a87a2591b5e)では、JR西日本の加賀美希昇選手(元横浜DeNAベイスターズ)のノーヒットノーランの話ではなく、元千葉ロッテマリーンズのイ・デウン選手の話が書きたかったからです。
イ・デウン(李大恩、이대은)選手は1989年3月23日に大韓民国(韓国)ソウル特別市に生まれの元千葉ロッテマリーンズに所属していたプロ野球選手です。ソウル特別市にある信一高校卒業後に渡米し、2007年8月にシカゴ・カブスと契約するものの、2008年に右ヒジのトミー・ジョン手術を受けています。メジャーでの登板は一度もなく、マイナーでの通算成績は135試合40勝37敗、防御率4.08でした。スリークォーターからの最速155km/hのストレートが評価され、2014年12月にマリーンズと契約しました。
2015年開幕第3戦の福岡ソフトバンクホークス戦で初登板初先発で初勝利を挙げると、6月までに6勝を挙げたものの、防御率4.57と安定性に欠けたため、6月9日の中日ドラゴンズ戦から中継ぎへ転向しました。7月には韓国国内での徴兵制のため、2016年シーズン終了後に2年間の兵役に就く予定であることが発表されました。10月に第1回WBSCプレミア12の韓国代表に選出され、対ベネズエラ戦で代表初先発し、5回6安打2失点と好投、準決勝の日本戦でも先発し、3回1/3で3失点でしたが、チームは9回に逆転勝ちしています。しかし、2016年は登板数が3試合に激減し、0勝、防御率7.20と精彩を欠いてしまいました。そして10月4日に兵役のため帰国しています。
まず、日本ではあまり耳にしない「徴兵制」とは、何でしょうか。一度、おさらいしますと、国民に対して一定期間の兵役を課す制度のことです。憲法や法律によって規定され、たいてい兵役は国民の義務であると定義される。対義語は国民が自らの意思をもって兵士となる「志願制」ですが、制度としては両立可能であり、徴兵制を施行している国でも志願兵(職業軍人)は存在します。徴兵制と言っても、内容はそれぞれの国によって異なっています。
まず、一般的には徴兵対象となる国民に対して、兵役に適するかの検査(身体能力や病気、障害の有無をみる)が行われ、最終的に兵役対象となるかならないかが決定されます。そして国の事情によって兵役対象者全員を軍隊にいれる(入営)のか、それともそこから更に一部のみを選抜し、残りは(服役)待機とするなどに分かれます。前者は特に国民皆兵と呼ばれ、韓国やスイスなどであり、後者は米国などです。ドイツなどの一部の国では軍隊に入ることを拒否する代わりに、ボランティア活動などの社会貢献活動を行う事で兵役を果たしたと認められるところもあります。入営すると数年間の軍隊生活を送ることになり、それが終了した後も一定期間は予備役として招集がかかれば兵士として軍隊に参加する義務を負います(予備役、あるいは後備役になる)。ほとんどの国では兵役終了後も自らの意思で軍隊に留まり続ける(つまり、志願兵になる)ことも可能となっています。
イ・デウン選手は韓国プロ野球のオ・ジファン選手とともに兵役対象年齢に差し掛かっていて、兵役の代替制度のひとつである義務警察に入隊して、野球特技兵としてソウル市警察庁野球団に入団すべく、ソウル市警察庁の義務警察選抜テストを受けました。警察庁野球団とはプロ野球選手や有能なアマチュア選手の兵役問題を解決しようとKBOが運営費を持つことを条件に、2005年に設立させて、選手たちは兵役の代替え制である義務警察の身分で野球を続けることになります。義務警察というのは、陸・海・空軍、海兵隊といった軍に入隊するのではなく、転換服務要員として、警察で働く組織のことです。警察業務の補助をする補助警察と機動隊業務をする戦闘警察があります。海洋警察や消防にも転換服務要員はあります。
ソウル市警察庁によると、2人は一次テストの書類審査は通過したものの、二次試験となる身体検査で不合格判定になってしまいました。現役のプロ野球選手として活躍する2人ではりますが、身体検査に引っかかったとということは、見つかっていなかった病気や故障個所が見つかったという訳ではないそうです。不合格の原因は身体に刻まれたタトゥーだったのです。
義務警察の選抜試験及び身体検査の基準には「(刺青を入れた)施術動機、意味、大きさと露出の程度が、義務警察の名誉を毀損する恐れがあると判断される者は入隊できない」となっています。また、大きさは「身体各部位に見える面で20%を超過してはいけない」となっているそうです。この基準に則って審査委員が受験者のタトゥーを総合的に判断して決定するそうですが、イ・デウン選手とオ・ジファン選手は基準よりもタトゥーが多いと判断されたとのことです。
イ・デウン選手は首に家族のイニシャルを刻み、オ・ジファン選手は左腕に“no pain,no gain”という言葉を刻んでおり、それが問題視されたようです。タトゥーが原因で義務警察野球団に入隊できなかった前例がないだけに、韓国では話題になっているそうです。
まだ26歳で兵役入隊リミッドまで猶予があるオ・ジファン選手は、タトゥーを消して来年の義務警察選抜テストをもう一度受け直す猶予があるものの、イ・デウン選手は27歳でも猶予がありません。このままでは一般人と同様に、現役兵として兵役を務めることになり、そうなると約2年間、野球から遠ざかることになってしまいます。韓国メディアの報道では、警察庁野球団は募集人員に満たなかった場合、追加人員を募集することもあり、それがある場合、イ・デウン選手はタトゥーを消して再度、志願申請する考えを示しているそうですが、警察庁野球団はまだ追加募集計画を明らかにしていません。
いくら国のためと言っても、バッドやボールの代わりに銃を持たなければならないなんて、惨すぎることだろうと思います。
改めて、日本が平和であることに感謝します。
なお、2015年時点で国連加盟193ヶ国のうちで軍隊およびそれに類する組織を持つ169ヶ国中、徴兵制を採用している国はCIA World Factbookによると64ヶ国とされています。