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買い出し前の冷凍庫

内容や更新頻度も気まぐれにフラッと更新します。
気持ヒンヤリしてますが、気にせずゆっくりしていってください

ある山道で。(怪談風……と言えるのか……?)

2019-09-16 23:10:58 | 霊ポケ妄想(お話風)
 ある山道で、不思議な形をした木が生えているのを見つけた。
 とあるスジから俺が事前に仕入れた情報に寄ると、珍しいポケモンと、珍しい木の実がある森がこの近くにあるらしい。それも、今まで誰一人として見付けたことのないモノ。正真正銘"幻のお宝"だ。
 そしてその森の入り口には、二本と無いような、世にも不気味な木が生えているという。
 なんとも胸が高鳴る話じゃあないか。何せ、その幻への道標を、俺は初めて見付けたのだから。

 「やったぞ……間違いない……!俺が初めてだ……俺の手柄だ!コレがあれば、幹部昇進も夢じゃない……いや!それ以上の栄誉が、この俺に!」

 クフ……ハハハハ!……おっと。いかん、いかん。先走るのは失敗のもとだ。クールに、謙虚に、だ。


 さて、ここからどう進むか、だが……それにしても、何だ、あの木は。どういう育ち方をすれば『ああ』なるのか……中程の球体といい、二股の幹といい、人の形に見え……無くもない。不気味な木だ……

 ……ん?何だ、何か挟まっている。
 これは……メモ……?四枚あるな。辛うじてだが、読めそうだ。はて。

 

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─ガサッ……ザクッ……ガサッ……─

 太陽が沈みゆく中、落ち葉を踏み締める音に、思いを馳せる。

 結局、そうか、もう夏も終わりか……。



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─ガサッ……ガサッ……ザクッ……─

 静かな春の木漏れ日に包まれながら、草木を掻き分け道を作る。今年は良い木の実が成りそうだ。

 みんな、どうか元気に育ってほしい。



────────────────────

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─サクッ……サクッ……ズモッ……─

 息すら凍る、白銀の世界。見る分には悪くないのだが、やはり私には、厳しい季節だ。

 溜めるんだ、力と体力を、この冬に。



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─ザクッ……パキッ……ザクッ……─

 二の足を踏んでいる暇はない。何せ今年は、絶好の気候なのだから。

 遂に来た、大好きな、暑い暑いこの季節が。



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 ……何だ?コレは。日記……なのか?
 ……フム。どうやらこのメモの主は、農家か何かを生業としているようだな。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

前半

中半

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 ……待てよ?この『冬』のメモ……
 ……なるほど。確かに、農家にとって冬は力を溜める時期、とも言えるのかもしれない。
 だが……もしかして、これは……俺は、俺はもしかして、とんでもないモノを見付けたのかもしれない。コイツは、このメモの主は、農家じゃない!
 なるほど、『厳しい季節』と言っているのは、確かに『農家』だろう。
 だが……『溜める』と言っているのだ。このメモの主は。しかし……普通、『力と体力』を『溜める』のは、『農家』ではなく『植物』だろう。

 もしや……私の脳に、一筋の衝撃が走った。このメモは、幻のお宝への道筋……つまり、珍しいポケモンの残したメモなのではないだろうか?
 誰だったか……永い年月を経たポケモンは人の言語を操ることがある……そんな論文を読んだことがある。コレは、まさしく『ソレ』ではないだろうか?
 そしてこの『メモ』は、ヤツが残した『痕跡』……すなわち『宝の地図』だ!

 フハハ……フハハハハ!手にしたぞ!この俺が!幻の宝を!フハハハハ!
 四枚の『地図』を解き明かせば!全てがこの俺のものだ!俺の栄光だ!

 よし、落ち着け……焦るな……手の震えが止まらんが、『メモ』を見返すのだ……



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─ガサッ……ザクッ……ガサッ……─

 太陽が沈みゆく中、落ち葉を踏み締める音に、思いを馳せる。

 結局、そうか、もう夏も終わりか……。



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─ガサッ……ガサッ……ザクッ……─

 静かな春の木漏れ日に包まれながら、草木を掻き分け道を作る。今年は良い木の実が成りそうだ。

 みんな、どうか元気に育ってほしい。



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─サクッ……サクッ……ズモッ……─

 息すら凍る、白銀の世界。見る分には悪くないのだが、やはり私には、厳しい季節だ。

 溜めるんだ、力と体力を、この冬に。



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─ザクッ……パキッ……ザクッ……─

 二の足を踏んでいる暇はない。何せ今年は、絶好の気候なのだから。

 遂に来た、大好きな、暑い暑いこの季節が。



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 ……やはり、間違いない……『夏』は……『植物』の好む季節だ……『春』も『秋』も、『植物』自身のことを言っている……俺の考えは間違いない……
 しかし、何だ……この『地図』の答えは……どうすれば……



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中盤

後半

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 足音……だよな?初めの擬音は……
 ……待てよ?足音……全てのメモが、『足音』から始まっている……最初の『足音』……初めの『足音』……『初め』の『一音』目!

 そうかわかったぞ!この『初めの足音』は、『初めの一音』!つまり、それぞれの『最初の文字』を読め、ということだ!

 それに加えてこの『季節』!バラバラだが、『春夏秋冬』に沿って並び替える!その上で、『最初の文字』を読み解くのだッ!




(ガサッ)




 ……なんだ、今の音は……何か、聞こえた気がしたが……
 ん?おや?これは……何が起こっている……?『メモ』が……『五枚』……『増えた』……?


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あしきこころのもちぬしよ。


といたね?
みたね?
といちゃったね?
みちゃったね?

よんまいだけならまだせーふ。
でもといたらおわり。
もりののろい。
みえたらおわり。
もりののろい。
もうおそい。




















つかまえた

















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 ……えっ………………あ……………………




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【とある文献に曰く】
──ポケモンの中には、木々やそこに住む者を愛し、森を荒らす者を捕らえ呪う種が居るという。森を荒らす気の無いもの、またやむにやまれず木を切るものに対しては、非常に友好的な姿勢で接する。しかし、悪しき心の持ち主に対しては容赦をしないという。捕らえられた者がその後どうなるのか。それは未だ謎に包まれており、学者達の研究の課題となっている──

小話:冷たい炎

2019-06-30 21:34:04 | 霊ポケ妄想(お話風)
 ワタシの炎は魂を焼く。
 それは生命の本質を消失させることと同義。身体は残るけれど、それは最早中身が空の只の殻。そこに生命の痕跡は、欠片も残らない。それがワタシ。ワタシの炎。

 けれどね。マスター。別にワタシは、殻が好きな訳じゃないのよ。中身が憎くて、焼き付くしているわけではないの。
 むしろその逆。中身こそ、本当にワタシの好きなもの。綺麗な魂ほど、ワタシは牽かれる。貴方達ニンゲンも、素敵な物ほど自分のものにしたいでしょう?手元に残しておきたいでしょう?それとおんなじなのよ。ワタシのこれは。

 だからね。マスター。貴方には、そんな素敵な宝石のような灯りであってほしいのよ。いつか貴方が燃え尽きて、燻りになるその日まで。それがワタシの目的。大嫌いなハズのニンゲンの側に、それでも好いてしまった貴方の側に、居続ける目的。おかしなものね。本当に。

 ええ。だから。マスター。貴方が、貴方の中身が、醜く濁ることなんて、ワタシが許さない。貴方がワタシの大嫌いなモノに堕ちることなんて、許さない。
 濁りなんて。汚泥なんて。ワタシの炎の前では、何もかも無意味。あって無いようなモノ。その程度のモノ……。そんなモノに、貴方が沈むなんて、ワタシが許さない。跡形も無く、燃やし尽くしてあげましょう。

 だから。ね、マスター。貴方は心配しなくて良いのよ。貴方は貴方のやるべきことをやるだけ。醜いニンゲン共との交わりで浮かんできた泥なんて、貴方は気にしないで良いのよ。

 ほら、力を抜いて。ワタシの炎に身を任せて。大丈夫、貴方はまだ焼かないわ。ワタシが焼くのは、不要なモノ。貴方を焼くのは、貴方の炎が朽ちる時。それまでは、無様に生きて、足掻きなさい。マスター。
 それが、貴方達を嫌う、ワタシを従える貴方の責務。貴方に使えるワタシへの対価よ。



────────



 ゆらゆら揺れる、黒い影。青白い炎をその身に纏い、全てを見透かす黄色い瞳で、彼女は私を炎で包む。
 嗚呼。なんて。残酷で、暖かい。身体の芯から暖まる、背筋の凍る冷たい炎。
 けれど、不思議なことに。私の心は澄んでいく。迷いも不安も雑念も。恐れも嘆きも後悔も。どれも儚く灰になる。
 何も解決はしないけれど。少なくとも、私の恐怖は消え去った。他の何よりも恐ろしく、そして暖かい炎に包まれて。

除霊体質の霊遣い

2019-04-21 06:40:37 | 霊ポケ妄想(お話風)
 雪も大分溶け、神社の雰囲気も変わり初めている。側に建ち並ぶ木々にとってみれば、それはとても好ましいことなのだろう。心なしか、いつもより生き生きとしている気さえする。
 しかし、僕にとってみれば、それは憂鬱の始まりに他ならなかった。何故なら、春が来るということは、夏という季節も、すぐそこに迫っているということなのだから。

 「ああ……気が重い……」

 ポツリと、心に溜まったモヤを吐き出してみる。本当に、夏など来なければ良いのに。



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 突然だが、僕はポケモンが好きだ。とりわけ、ゴーストタイプと呼ばれるそれが、とても好きだ。幼少期から慣れ親しんだ生き物だから、というのも理由かもしれない。しかし、何より、僕には、彼らがとても愛らしく見えるからだ。
 勿論僕の相棒もゴーストタイプである。石に縛り付けられたモヤモヤが特徴的なこの子がそれだ。周りの友人達は、怖いだの、危ないだの、縁起がどうだのと喧しく言い立ててくるが、何てことはない。僕にとっては、大切な、そして特別な、一匹だけの相棒である。
 ……特別な。そう。この子は特別なのだ。何せ、この僕になついてくれる……近寄っても大丈夫な、唯一のゴーストタイプなのだから。



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 「それ」に気が付いたのは、もうずっと昔のことだった。神社に生まれたこともあって、ゴーストタイプのポケモンと接する機会は、普通の人よりも多かった。僕の親や親戚達も、皆総じてゴーストタイプ遣いであった。ゴーストタイプと心を通わせ、友人のように、家族のように。僕が生まれるずっと前から、彼らはそう在った。

 「新しく生まれた『命』だもの、やっぱりみんなまだ慣れないのね。大丈夫、お前の母さんも、お祖父さんも、みんなそうだったから。そのうち仲良く遊べるわ……」

 親たちのように、僕も彼らと触れ合いたい。その一心で彼らに近寄ると、いつも、誰も彼も姿を隠してしまった。そうさて悲しんでいる僕に、祖母はそう言ってくれたのだ。だから、僕もいつしか、彼らと仲良くなれると、一緒に遊べると、心待ちにしていた。
 しかし、違った。僕は、ゴーストタイプからは嫌われる体質を持ってしまった。除霊体質、というそうだ。その言葉の通り、僕に近寄られたゴーストタイプは、魂同士が磁石のように反発しあい、その場所から追い出される。非道い場合、そのゴーストを弱らせ、やがては瀕死の状態へ、追いやってしまう。その先は……考えたくない。
 物心が付く前から、僕はゴーストタイプに近寄らないよう、細心の注意を払い、生きてきた。そんな僕が10歳の誕生日を迎えた時、僕を不憫に思った祖母から、ある石を受け取った。

 「この石には、あるポケモンが住んでいる。けれど、私達やお前のお父さん、お母さんにはこの子を目覚めさせてあげられなかった。伝説の霊遣いと言われた、お前のお父さんでさえ。だから、あの子はもう、ここには居ないって、お祖父さんも言っていたわ。そんな物でごめんなさい。けれど、この石は、間違いなくゴーストタイプのポケモンだった、この家の宝物。せめて、これをお前に渡すわ。大切にしてあげてね……」

 それは、僕に唯一許された、ゴーストタイプとの触れあいであった。幼心に仲間外れにされていると思い、傷心していた僕にとって、これほど嬉しいことは無かった。
 だから、それを受け取った時に聞こえた声も、錯覚か何かだと思った。

 『……何百年ぶりだ。アイツのような魂に出逢うのは……』



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 「……はぁ」

 どうしようもなく気が滅入る。やはり春は苦手だ。というより、夏に来てもらいたくない。何故なら、夏は、ゴーストタイプの季節だから。

 『好きなものから忌避されるってのは、ツラいよなァ。お前はどうだ?そう思わねぇか?ヒヒヒ』キ

 「え、何、君今の前半部分は独り言だったの?怖っ」

 『ヒヒヒヒ……切り返しも上手くなったじゃねぇか。気にすんな、単なる嫌みだよ』

 「ああ、うん。わかってるよ。流石にこんだけ一緒に居れば、返し方もわかってくるっての」

 『あァ、お前からしたら、何だかんだ長ぇ付き合いってなるんだもんな?人間ってなぁ慣れるのが早ぇよな』

 「君からしたら刹那の時でも、こっちからしたら、もうすぐ人生の1割を君と過ごすことになるんだ。早いもんか」

 『へいへい。どうせ俺らは老いぼれだよ。ところで、そんな老いぼれと、呑気に話なんてしてていいのか?今日も何か頼まれてんだろ?』

 「自分で話振っといてそれだもんなぁ。大丈夫、丁度話を切り上げて、爺さんの力借りようと思ってたところだから」

 『力なんて貸さねぇよ。お前のソレで十分だろうが』

 「いやいや、わからないよ?この前だって……って、これ話長くなるヤツだね」

 『ケッ。一寸くらい長話しても良いじゃねぇか。何も、ゴーストに命喰われるって話じゃないんだろ?ソイツ』

 「うん。だけど、他の人からしたら、やっぱり怖いんだよ。行ってあげないと……その子らの説得、またお願いね」

 『……へいへい。まあ、同族が虐げられるのも、面白くねぇからな。ホレ、さっさと俺らを運んでくれや』

 「ヤだよ。浮けるでしょ、君」

 『ったく気に入らねぇなァ』キ

 「ほら、行くよ。……『みんな』を、助けにね」



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 今日も今日とて、除霊のアルバイト。でも、それはほんの建前。本当は、困っているゴースト達を助けに行くんだ。僕には『弾く』ことしか出来ないけれど、弾いた先で、この子が受け止めてくれる。誰より多い魂を持つから、誰よりゴーストタイプを受け止められる。本人はそう言っていたけれど、真相はわからない。
 その子達は、どんな遊びが好きなのだろう。どんなお菓子をあげようか。そんなことを考えながら、僕はコイツと、仕事へ向かう。

灯火の怪─その後─

2018-08-15 16:17:16 | 霊ポケ妄想(お話風)




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【後日談、というか、事の詳細】




 男の子はその後、長老の元へと呼ばれ、事の詳細を話し、また聞かされた。そして、自分の直感が正しかった、ということを思い知らされた。




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 長老は、多くの話をしてくれた。と言っても、それはあくまで、伝承を元とした推測であった。
 それでも、事の発端から、何故このようなことになってしまったのか。また、何故男の子だけが助かり、他のメンバーがあんな状態となってしまったのか。それらを納得するには、十分なものであった。
 以下、長老と男の子の会話をもとに、ことの詳細をまとめてみる。




─────────




 悪夢の肝試しが決行されたあの夜は、丁度お盆の時期であった。それに加え、運の悪いことに、その日はとあるポケモンが、塔へと降り立つ日であった。故に、塔に住む他のポケモンたちは、警戒を強めていたのである。
 あるポケモンは群れとなって突風を巻き起こし、また霧を発生させた。あるポケモンは幻覚を見せ、塔に近付くものに本来とは異なる認識をさせた。またあるポケモンは霊力を高め、そのポケモンの到来のための供物を呼び寄せた。

 男の子が感じた強風はポケモンが作り出していたものであったのだ。加えて、塔の扉を開けた際の気温の低下。あれもまた、そのポケモンたちの技のひとつである、霧の効果であった。

 そして、本来のタワーオブヘブンは4階建てである。しかしながら、その時のことを振り替えると……


 ──三、四、五階と、順調に歩を進めていく男の子。暗闇にも慣れてきたところで、ひとつの疑問を抱き始めた──


 タワーオブヘブンに『五階』が存在している訳がない。男の子はあの日、あるハズの無い『五階』を体験していたのである。
 更に、男の子は塔への道以外の道を認識出来なくなっていた。視界のほとんどが暗闇に包まれている中、何故塔に続く道だけが、ぼんやりとでも認識出来たのか。そう、男の子たちは、知らず知らずのうちに、『彼ら』に誘われていたのである。

 そして、もうひとつ。丁度その日に塔へと来訪したあるポケモンによって、肝試しメンバーは、総じてある要素を支配されてしまった。
 それは、『感情』である。あれほどまでに大人たちの忠告を退け、肝試しを強行したのにも、そのポケモンの影響があったのである。
 感情を司り、支配し、操るその存在。一説によれば、人々に感情を授けたと伝えられるポケモン。その名は『エムリット』。ピンク色の頭部を持つ、伝説のポケモンの一角である。『ピンク色』の……。
 そう、男の子が意識を失う直前に、視界の端で捉えたあの『何か』の正体である。いわば、エムリットの『試練』に合格した男の子の前に、何を思ったのか、その姿を現したのである。



 さて、ここからは彼らの身に起こった事柄について語ろう。
 それは概ね、男の子の直感が正しかった。この時期、またエムリットが来訪するこのタイミングでの蝋燭の火は、いわば自身の魂の鏡なのだという。
 男の子はその火を前に、『守る』選択をしたために、火は消えずに済んだ。むしろ、土壇場で心の中に燃え上がるような感情が芽生えたために、蝋燭の火は突如として燃え盛ったのである。三日にわたる高熱も、その影響であった。
 だが、他のメンバーは違った。ある者は火を『見捨て』て逃げ出し、ある者は自身で火を『消して』運ぼうとした。またある者は、この異常事態に飲み込まれ、蝋燭に相対する前からその心は『冷えきって』しまった。それが、男の子と他のメンバーを別った点あった。

 蝋燭の火、すなわち彼ら自身の魂の火を消してしまった他のメンバーは、仮死の状態にあるという。そして、誰かが彼らの蝋燭に火を灯さない限り、彼らが目覚めることも、体温が戻ることも無いという。
 そのためには、この期間が終わるまでに、もう一度塔へ赴く必要がある。そうしなかった場合は…………
 男の子の返事はひとつであった。



────────



 と、ここまでが、現在まで伝わっている、『灯火の怪』とその『後日談』である。如何だっただろうか。
 男の子のその後の行動は、残念ながら伝わっていない。が、研究者の間では、この物語は、まだ見付かっていないもう一冊、すなわち事の『解決編』が存在する、というのが通説となっている。その場合、所謂ハッピーエンドを支持する者と、バッドエンドを支持する者とで意見が別れている。
 現在でも、研究及び調査がなされており、その進展が望まれている。





 ところで。もしも貴方が「蝋燭」を見付けてしまったら、はたして消さずにいられるだろうか。
 「感情」を支配する存在の試練に、打ち勝つことが出来るだろうか。
 現在でも、件のタワーオブヘブンに、やはり肝試しに向かう若者達の姿が後を絶たない。もしかしたら、貴方も行ったことがあるのではないだろうか。

 あるとしたら、貴方は幸運であった。何故なら、その時は「エムリット」降臨の時期から外れていた可能性が高いからである。
 もしも、貴方が「エムリット」降臨の時期に、肝試しなど決行しようものなら……

 最後に、戒めと注意喚起の意味を込め、長老の言葉を繰り返して、筆を置くことにする。



 ──夜の蝋燭は、必ず灯っていなければならない。あの搭で、蝋燭の火は絶対に消してはいけない──


灯火の怪

2018-08-13 16:05:15 | 霊ポケ妄想(お話風)
 イッシュ地方の北西部。
 フキヨセシティより北東へ少し移動したところに、古びた搭が聳え立っている。
 この搭は、全階が墓石で埋め尽くされており、イッシュの全域から集められたポケモン達の魂を、一手に引き受け、鎮めるための巨大な墓地群となっている。

 その名を「タワーオブヘブン」と言う。

 この荘厳な搭にもポケモン達が住み着いて居る。確認されているのは、蝙蝠ポケモンの「ゴルバット」、蝋燭のような「ヒトモシ」、それに謎のポケモン「リグレー」。
 彼らは、例えばお参りに来た人間達を、無闇に襲ったりはしない。彼らが牙を向くのは、搭の平穏を妨げる、無粋な輩のみと決まっている。


 さて。この「タワーオブヘブン」と、そこに住むポケモン達に纏わる、奇妙な話が、フキヨセシティを中心に伝わっている。
 多くの昔話の例に漏れず、この話にも多くのパターンが存在する。しかし、その題名は、誰に聞いても一貫しているから不思議である。

 その話の名は、『灯火の怪』という。



───────




 その日は、その年の夏のうち、特にムシムシとした熱帯夜だったそうである。
 町の若者達が、フキヨセシティの北の外れに寄せ集まっていた。
 彼らの目的は、タワーオブヘブンの屋上にある蝋燭を、一人一本ずつ取ってくること。

 要するに、肝試しである。

 若者達は、皆一様に興奮していた。
 それは、肝試しというイベント自体に対する気持ちもあろう。しかし、その大半は、別のところに要因があった。

 肝試しの計画が持ち上がった際、町の大人達は非道く反対した。中には力ずくで計画を破綻させようとする者も居たくらいだった。
 あとで思い返すと、大人達の言葉に従っておけば良かったと、誰もが考えるに至っただろう。しかし、その時の彼らが、後に控える出来事を予知できる訳もない。彼らが抱く感情は、また大人達が五月蝿いよ、とその程度であった。
 彼らの興奮は、そういった大人達の抑止を降りきり実行する、その背徳感にあった。

 大人達の言い分は、「あの搭は遊び場では無い」だの、「呪われるぞ」だの、とても現実的なものでは無かった。
 無論、若者達も搭に住むポケモンのことは知っていた。しかし、我々は何も、ポケモンに危害を加えたりする気は微塵も無い。それに、もう子どもではないのだから、と、大人達の声を一蹴した。
 しかし、その中でも、若者達の中に引っ掛かっている文言が、ひとつだけあった。それは、町の長老が放ったこの言葉。

  「夜の蝋燭は、必ず灯っていなければならない。あの搭で、蝋燭の火は絶対に消してはいけない」

 若者達は不気味に感じたが、これも反抗心からか、その言葉のために、彼らは蝋燭を用いようと思い付いてしまったのだった。皮肉なことである。


 さて、そんな彼らの企みが、実行に移される時が来た。彼らは一人ずつ、搭を目指して意気揚々と出発していった。




────────




 その男の子の順番は最後であった。ひとり、またひとりと搭へと姿を消していく仲間の姿に、既に燃え上がっていた興奮は、更に激しい業火となっていた。
 ただ一つ、先に搭へ向かった仲間達が、一向に帰ってこないことが不安であった。
 しかし、彼らは仲間内でも悪戯好きな者たちである。そのため、どうせ搭の中で驚かす側に回ったのだろうと考え、彼らならどう驚かしてくるか、ということで頭は一杯だった。
 長老の言葉など、とうの昔に忘れ去っていた。

 遂にその男の子の番が来た。
 目前に搭は見えるものの、そこへ至る道のりはぼんやりと見えるくらいで、その他は全てが暗闇の限りである。搭の根元が木々で隠れているため、視覚で捉えている以上に距離があるように思えた。
 男の子は、妙な緊張感と高揚感を感じながら、その一歩を踏み出した。
 男の子は暗い闇の中を歩き続け、数分後には搭の入口に辿り着いていた。
 足元の土に幾多の靴跡が刻まれていることを確認し、少し安堵した男の子は、大きな扉に手を掛けた。

 ズッシリと重い扉を開くと、そこは静寂の世界であった。まるで外界から遮断された別世界に足を踏み入れたような感じであった。
 急激に気温が下がったように感じ、ブルッと震えた男の子。誰かから隠れるように、抜き足差し足で階段まで辿り着くと、その冷たい石段を慎重に踏み締めていく。
 上階には、いくつもの墓石が立ち並んでいた。覚悟はしていたものの、いざ相対してみると、どうしても身体の震えを抑えることが出来なかった。
 それでも男の子は引き返しはしなかった。自分の目的は、更に上階にある蝋燭を取ってくることである。ここで引き返して仲間の笑い者になるのはまっぴら御免だった。

 意を決して歩き出した男の子。墓石の合間を縫うようにして、次の階へ続く階段へと辿り着いた。
 辺りは相変わらずの真っ暗闇であった。




 三、四、五階と、順調に歩を進めていく男の子。暗闇にも慣れてきたところで、ひとつの疑問を抱き始めた。
 自分の前に搭へ来たハズの仲間達の姿が見えないが、いったい何処に居るのだろう。そろそろ出てきても良い頃合いだと思うのだが……

 いや、わかった。アイツら、屋上で待ち構えていやがるな。

 仲間達の目論見を看破してやったという気持ちから、その足にも軽快さが増し、遂には搭の屋上へと辿り着いた。
 そこには、この搭の象徴とも言われる大きな鐘が、専用に築かれた祭壇の中に鎮座していた。その鐘の下に、一本の蝋燭が、男の子の到着を待ち構えていたかのように静かに立ち尽くしている。

 はて、仲間達の姿が見えないが……?

 自信の思惑が外れたことがわかり、再び不安に駆られる男の子。しかし、今はそれどころではない。目前に見えている、一本の蝋燭を持って帰らなければ、自身の目的は達成しない上、この搭からも降りられない。
 男の子は、恐る恐る鐘の下へと歩み始めた。
 鐘の下に突っ立っている蝋燭の灯りは、とても弱々しく思えた。しかし、鐘に守られているのだろうか、強い風の吹くこの屋上でも、吹き消えることなく灯っていた。

 近付くにつれ、男の子はある違和感を覚えた。その蝋燭が、出発前に確認したものよりも、ずっと太く、また大きなものに見えたためである。
 蝋燭に手の届く距離まで近付くと、その違和感は明確な恐怖となって男の子の全身を震わせた。明らかに先程確認した蝋燭ではない。
 仲間達の悪戯であろうか。いいや、彼らは誰一人としてこんな蝋燭は持っていなかった。それどころか、こんなに大きな蝋燭を扱っている店すら、この辺りでは無い筈である。

 その時、忘れていた筈の長老の言葉が、男の子の脳内に響き渡った。



  『あの搭で、蝋燭の火は絶対に消してはいけない……』



 急に背中に冷水を浴びせられたような感覚が男の子を襲った。全身が凍りつき、目線も蝋燭の灯りから離すことが出来なくなっていた。
 蝋燭の灯りは、恐ろしい強風の中で、未だに弱々しく揺れていた。








 どのくらい経ったのだろう。
 実際には数分と経っていないのだろうが、とてつもなく長い時間、蝋燭とにらめっこをしているように思える。延々と終わらないにらめっこを……。

 しかし、不意に頬に落ちてきた水滴によって、その不毛なにらめっこは終わりを告げた。どうやら雨が降ってきたらしい。
 金縛りから解かれた男の子は大慌てである。
 蝋燭の火を消してはいけない。その言葉が楔のように突き刺さっている男の子にとって、雨は最大の敵であった。
 否、敵は雨ばかりではない。屋上を駆け回る風もまた、大敵の一つであった。あのようにか細い火など、この風にかかればひとたまりもないだろう。

 最早男の子は、肝試しどころでは無くなっていた。しかし、焦りながらも、不思議と彼は冷静さを取り戻していた。
 彼の胸中には、どのようにしてこの蝋燭の灯を守り抜こうかという、使命感のような感情のみが燃え上がっていた。先程まで彼を支配していた恐怖や不安は、もう何処かへ消えてしまっていた。

 兎に角、早く蝋燭を屋内へと避難させなければならない。

 男の子がそう心に決めた、その瞬間だった。今の今まで、ごく弱々しいものであった灯が、突然勢いよく燃え上がり出したのである。
 その勢いたるや、彼の手元はおろか、搭の屋上全体を、まるで昼間のように照らし出す程であった。
 彼にとって、それは目の前で大規模な爆発が生じたのと同義である。既に消耗していた彼の意識では、それに耐えることは出来なかった。
 男の子は、糸がプッツリ切れたように崩れ落ち、夢の世界へと旅立って行った。

 ただその時、視界の端で、天へと飛び去るピンク色の『何か』が見えたような気がした…………。




────────





 男の子が目覚めたのは、肝試しから三日経った夜であった。

 大人達の話によると、男の子を含む全員が、町の北側のゲート、すなわち、彼らが肝試しへと向かうために集まったあの場所に倒れていたらしい。

 しかも、その男の子に限っては、その時非道い高熱を出していたそうである。

 ……いや……

 今回の場合、「男の子は、むしろ高熱程度で済んだ」と言うべきだろう。何故なら……

 他の肝試しメンバーは、全員が未だに眠っていると聞かされた。外傷や高熱などの症状も、苦しんでいる様子もないという。
 ただ一点。息をしているのが不思議なほどに、彼らの身体は冷たくなっていた、と知らされた。
 男の子自身も、実際に見舞いに行った。横たわる彼らの冷たい身体に触れたその時、咄嗟に彼はこう感じたそうである。


  彼らはきっと、蝋燭の火を消してしまったのだろう。あの蝋燭は、きっと自分たちのことだったんだ。自分たちの火を……『熱』を、消してしまったから……


 男の子は、友人たちが眠る部屋の隅で踞ってしまった。
 彼の胸中では、2つの強い感情が渦巻いていた。
 ひとつは、肝試しなんてしなければ良かった。大人達の言葉を無下にしなければ良かった。そういった後悔の念である。
 もうひとつは、何故自分だけ助かったのか。何故自分は火を守ったのか。何故みんなは火を守れなかったのか。そういった、孤独の念であった。


 日が傾き、親や他の大人達が慰めに来ようと、彼の心は冷えきったままであった。彼はぼんやりと、こう考える。

  『今、自分の蝋燭の火は、あのときあの塔の屋上で見た以上に、弱々しく、微弱なものなのだろう。いつ消えてしまっても、おかしくはない程に……』



 いつの間にか、窓の外は夜に包まれていた。しかしそれは、不思議なことに、あの夜とはうってかわって、どことなく暖かく、優しいものに感じられた。
 まるで、冷たくなった男の子の心を、慰めるかのように。