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イタリアの泉

今は日本にいますが、在イタリア10年の経験を生かして、イタリア美術を中心に更新中。

Botticelliが描いたInferno(地獄)

2016年12月05日 23時20分33秒 | イタリア・美術

国民投票で「No!」という結果が出たため、現首相は退陣、ということで朝から国は大騒ぎ。
ちらっと見たら日本の新聞でも一面を賑わしていたような…
イタリアの首相が替わることは、日本にはそれほど影響ないのにね。
でもこれ、結果がわかってから言ってもねぇ、と思われるかもしれませんが、外国人で政治にはからっきし疎い私が見てもRenziに勝ち目はなかったと思うのですよ
私個人は彼が良いとか悪いとか言うよりも、若い首相がこの国を少しでもいい方向に変えてくれるかと思っていたんだけど…やっぱり無理でしたね。

さてさて、前回のAntoniazzo Romanoのフレスコ画の話は実は途中まで書いてあるのですが、先にこちらのお話を。

今日だけ上演のBotticelliの描いたInferno(地獄)に関するドキュメンタリー映画を観に行ったんです。 
勿論ダン・ブラウンの「インフェルノ」絡みの映画なんだと思うんですけど。
日本では「インフェルノ」まだ上演してるんですかね?
私は本は読んだんだけど、結局タイミングが合わなくて(こっちは映画の上演期間がすごく短いんです)、映画は見に行けませんでした。
ちなみにフィレンツェのシーンでエキストラで出ていた日本人はほとんど知り合いです。

さて、ダン。ブラウンの「インフェルノ」にも登場するボッティチェリが描いたインフェルノ、地獄絵ですが、現在実物はヴァチカン図書館に所蔵されています。
これ実物を見ることはできないのですが、なんとNTTデータのサポートでデジタルアーカイブ化が進み、お家に居ながら、多分日本からでもその作品を見ることができます。
図書館のサインは入るもののダウンロードもできるし、拡大や縮小して見ることもできるんですよ、素晴らしい。
NTTがサポートしているおかげでしょう、なんと日本語表示もあります。
ということで早速試してみました。

これこれ。
これねぇ、びっくりするくらい細かいです。興味が有る方はこちらからご覧ください。

この作品実は1冊の本の形式に綴られていたと考えられ、102枚の羊皮紙に裏表に描かれていたそうです。
現在は85枚がベルリンのKupferstichkabinett del Kulturforumに、7枚の作品がヴァチカン図書館に保管されています。
ヴァチカンの7枚はベルリンのものから引き抜かれた7枚であるという見方が有力で、10枚は行方不明です。

この本、何で今ベルリンに有るのか?という話を映画の中では結構重要視していました。
実はこれ、イタリア国外に出たいきさつがいまいちわかっていないのですが、1800年代には遠いスコットランドの地、ハミルトン公爵のコレクションとなっていました。
ここまでこの本の存在が世に出なかった理由として挙げられるのは、ボッティチェリの評価が低かったから。
彼の評価が上がるのはなんと19世紀末になってから。
なんと本の表紙に刻まれた名前ですら間違ってる…

映画の中では、彼が活躍していた1400年代末期は、ボッティチェリの名は有名画家10人には入っていたが、その中で特出していたわけではなかったと。
それでも年下のLeonardo da Vinciが彼の女性の描き方から影響を受けたとも言われていて

レオナルドの素描ですが、この髪の流れがボッティチェリの「ビーナス誕生」のビーナスの髪の流れの影響だと。
まぁそれにしてもサヴォナローラにはまり、自分の腐敗した作品を自ら焼き去ったという狂信的は部分も持っていたボッティチェリの晩年は悲惨で、
貧乏が原因で死んだ(貧乏は事実ではないそうですが)とか、男色の罪を犯したなど、決して幸せではなかったようです。
ちなみに現在彼はOgnissnti教会に葬られています。

彼の臨んだ質素なお墓が、かなり立派なお墓になったのはのちの話。
ここには彼の本名 Alessandro di Mariano di Vanni Filipepiと刻まれています。
また同じ教会の中に彼が誰よりも愛し、若い時に亡くなってしまったSimonetta Vespucciのお墓もあるそうです。
家柄は断然シモネッタの方が上なのに、こちらはとても質素です。(シモネッタの墓の写真はサイトでは見つかりませんでした。) 

ボッティチェリの描いたこの「神曲」は一度はフランスへ渡り、そこからスコットランドへと流れて行ったようです。
ところが1882年経済的な理由でこれがオークションにかけられるわけですが、カタログに載ったこの作品を見たKupferstichkabinett del Kulturforumの館長が、これを先回り手に入れることに成功。
映画の中では、「オークションにかけた方が高い値で売れたかもしれないが、Kupferstichkabinett del Kulturforumが即お金を払ってくれたので、公爵はこちらに売ることに決めた」と言っていました。
余程金銭に困っていたのでしょうね。
どうやら第12代ハミルトン公爵ウィリアム・ダグラス=ハミルトンは乗馬などの趣味に金を掛け過ぎて経済的に破産寸前だったそうです。 
でも良かった。
これがもしオークションにかかっていたとしたら、私たちの目に触れることは2度となかったかもしれない、と思うと怖いです。

そしてこの映画を観ながら1つ気になっていたことが有ったんです。
それが映画の中で解決!
実は2月にロンドンに行った時に、THE COURTAULD GALLERYでボッティチェリの素描を見たんです。
ただこの日私は2016年で最悪に体調が悪く、ここにいた時ぐらいから段々具合が悪くなり…という感じだったのもあり、記憶が定かではなかったんです。
ロンドン旅行の最終日、私はどこからかお腹に来る風邪菌をもらったようで、この日を境に2週間くらいはまともな食事ができませんでした。

でも映画を観て思い出しましたよ~
ベルリンとの協力で数枚の素描がロンドンに来ていました。
あ~ああの時、これくらいのこと知ってたらもっと丁寧にみたのに、
「素描だし、時間もないからサラッと見ればいいや」とかなりあっさ流した気がします。
映画とは違って、かなり照明が落ちてて、暗かったのは記憶に有るし、大きな虫眼鏡が置いて有ったのははっきり覚えています。
それくらい絵が細かかったということでしょう。
あ~自分の無知さと英語を読むのが面倒、と思ってしまった自分にちょっと後悔。

この特別展の一番の売りはこれでしょう。
ダンテとベアトリーチェが天国へ向かうところ。
これ映画ではベアトリーチェの顔の向きをボッティチェリが描きなおしていると説明がありました。
羊皮紙は非常に貴重だったので、失敗したから捨てる、なんてことはできず、書き直しの後を残したまま描いていたそうです。

これは3つの頭を持つ犬、地獄の番犬ケロべロス。貪食者の地獄において罪人を引き裂いている。

これ、裏に神曲の詩が書かれているのが良く分かりますね。

これは何だろう???
幻想的な球体を通って詩人を導くベアトリーチェだそうです。
これらの他全部で10枚の素描を私は見ているはずなんですけどねぇ…
ここに展示されていたのは全部白黒でしたが、色が付いているのもあります。
映画の中で紹介されていた一枚

小さくて分かりにくいかな?
この絵、基本的には全て色がついています。
ただ左上の隅にいるGerioneと呼ばれる怪物だけ色がついてないの。
Gerioneは人間の顔、ライオンの爪、体は蛇でサソリの尻尾をもつ怪物。
これボッティチェリがこの怪物の姿になかなか納得いかなくて、色を塗らなかった(塗れなかった)と解釈されていて、
そんなことからこのボッティチェリの「神曲」未完成の作品と考えられているらしい。
この作品を仕上げるのに15年もかかったとする研究者もいて、中断を挟んだとはいえ、ボッティチェリのとてつもない努力が感じられます。

わぉ、更にショックなことに、この特別展にはHamilton Bible(ハミルトン聖書)と呼ばれる14世紀の貴重な手書きの聖書が出展されていたそうです。
覚えてない…
これもボッティチェリの「神曲」と共にベルリンに渡っていた。
これがなぜそんなに貴重かというと

Raffaelloが描いたLeone X(教皇レオ10世)の肖像画の中に描かれているから。

う~ん思い出せない。

でもまぁこの映画のお陰で色々なことを思い出し、また学ぶことが出来ました。
明日早速2008年に出た復刻版(?)を探しに行ってきます。

このドキュメンタリー映画の出来は非常に良くて、Boticcelliあまり好きではないのですが、見方がかなり変わりましたね。
日本公開有るかな?
多分オリジナル言語は英語。イギリスかアメリカ作だと思います。 



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3 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (山科)
2016-12-06 09:51:40
>彼の評価が上がるのはなんと19世紀末になってから。

 そうなんですね、
 ウォルター=ペイターのルネサンス(1873年)には、
 「ボッティチェリのような画家、この手の2流の画家は、一般的な批評の然るべき対象となるのであろうか?」とまで書いてあってびっくりしたことがあります。
 それも「ボッティチェリを評価し賞賛した」エッセイの中でですよ。
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Botticelli (Leslie)
2016-12-06 16:41:15
2年ほど前でしたか、イタリア文化会館で日伊文化財保存のセミナーでNTTの方からバチカン図書館での映像保存のことを説明を受け、後日サイトなど送っていただき、infernoの映像も見ました。botticelli dante,s infernoのサイトからもたくさん見られますが、2008復刻版だとどの歌の挿し絵か判るのでしょうね。その復刻版ぜひ見ながらもう一度読み直ししたいです。いつ帰国なさるのかしら。
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ホントに (fontana)
2016-12-06 22:18:19
山科様
言われちゃってますね。苦笑
時代を先取りし過ぎた感もありますね。映画の中でも「(ボッティチェリのように)女性を描いた画家はかつていなかった。」と言われていました。

Leslieさん
そういうセミナーもやっているんですね。
今日本屋に行ったら2008年版は、出版社が倒産して絶版と言われ、帰り道偶然寄った古本屋で見つけました。古本屋なのに新品ということで、少ししかまけてもらえなかったのですが、おまけにDanteの生涯に関する本をもらいました。これでまた荷物が2キロも増えてしまいました。(^▽^;)
桜の時期には帰国しますので、お楽しみに。
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