イタリアの泉

今は日本にいますが、在イタリア10年の経験を生かして、イタリア美術を中心に更新中。

オリーブの冠と月桂冠

2018年02月07日 17時07分19秒 | 美術

寒い日が続き、インフルエンザも猛威を振るっておりますが皆さん元気にお過ごしでしょうか?
2月に入って週休7日だった私がいきなり週休1日になり、久々に真面目な社会人をしております。
イタリア関連でも美術関連でもない仕事なんですけど、やっぱり仕事するのは良いですね。(当たり前だろ!)

さて、金曜日からオリンピックが始まりますが、丁度ある本を読んでいたら、古代ギリシャ時代のオリンピックの話が出ていました。
それを読んだら1つ「あれ?」と思うことが。
ということでその疑問を晴らし、忘れないようにここに書いておくことにしました。

古代ギリシャのオリンピックでは競技に優勝した人には、金メダルではなく「赤いリボン」や「オリーブの冠」が贈られていました、とその本には書いて有ったんです。
「赤いリボン」という話は聞いたことなかったのですが、オリーブの枝で出来た冠、というのは聞いたことが有りました。
そして賞品(?)として、当時は神しか許されなかった彫像を優勝者は作ってもらえたそうです。
と、この辺りから頭がもやもや。
あれ?大英博物館の所蔵されてた小さな運動していた人たちは???
あれは何だったんだ?オリンピックとは関係なかったんだっけ???
というのが1つ。
もう1つは
あれ?ダンテがかぶっているこれ。

これはオリーブではないよね?月桂樹?月桂冠か。
あれ、あれ、あれ???

ということで整理してみましょう。
オリンピックの優勝者に与えられたのはオリーブの冠。
なぜオリーブかと言いますと、ヘラクレスが樹木の生えないオリンピアの庭に楽園の地から持ってきたオリーブの木を持ってきて植えたことから神聖な木と考えられていました。
そのオリーブで作った冠を優勝者を称えて贈られました。
2004年アテネでオリンピックが開催された時は、金メダルと共にオリーブの冠も贈られたそうです。


これはアントニオ・ポライオロ(Antonio Pollaiolo)が描いたヘラクレス。

では月桂樹の葉で作られた、月桂冠はと言いますと、こちらは文化芸術の神アポロンの聖樹とされ、月桂冠は詩人や文人の頭上を飾ってきました。
アポロンと月桂樹と言えば真っ先に思い出すのは、ボルゲーゼ美術館所蔵のベルニーニ(Gian Lorenzo Bernini)のこの作品。

いやもう、これはベルニーニの最高傑作でしょう。
アポロンが嫌がるダフネをわが物にしようと手をかけた瞬間にダフネの体はオリーブの木に代わってしまいます。
この作品はまさにダフネがオリーブに変わる瞬間をとらえています。
オリーブの木に姿を変えてないダフネを諦めきれなかったアポロンは、オリーブの枝を手折って常に身についていたことから月桂樹がアポロンのシンボルとなったようです。
ちょっと考えると執念深くていやだわ~

ということでダンテがかぶっているのもこちらの月桂冠。
月桂樹はラテン語でLaurus、ここからイタリア語の(大学)卒業を意味するLaureaが派生したと言われています。
だからイタリアでは大学を卒業するとこの月桂冠をかぶる風習が今でも残っています。
私はかぶりませんでしたけど。

そしてこのLaurusつながりで頭に浮かんだのはLauraという女性の名前。
有名なのはペトラルカの思い人のラウラ。
そういえばペトラルカの友人だった画家のSimone Martiniがラウラの肖像画を描いてたよなぁ、と探してみたのですが…
あれ?勘違いだったのかな、探せない。
アビニョンで描いたけど、なくなったんだっけ?
そのうち全然別の絵が浮かんで来ました。
はてどなた?
絵はこちら

こちらもLaura。
ジョルジョーネ(Giorgione)でした。
ジョルジョーネの作品はほとんど真贋がはっきりしていないのですが、この作品は数少ないジョルジョーネ作と認められている作品です。
妖艶な雰囲気が何とも言えませんねぇ。
この背景に描かれたのが月桂樹
実は月桂樹は純潔のシンボル。
でも実は彼女娼婦だとも言われているんですよね。
だってこんなに胸はだけちゃってますからねぇ。
ということで、一体何が言いたかったんだっけな?
そうそう、オリーブの冠はスポーツ選手に、月桂冠は詩人や文人に。
ちなみにノーベル賞の受賞者もこれにあやかってNobel Laureates(ノーベルのローリエを冠された者)と呼ばれているそうですね。
やっぱり私もかぶっときゃ良かったか

1200年あまり続いた古代ギリシャのオリンピックは394年に終了してしまいます。
それはギリシャを支配したローマ帝国がキリスト教を国教と定めたから。
異教の神を称える祭典は許されなかったというわけ。
それから1500年経った1896年、アテネで近代のオリンピックが再開しました。
冬季オリンピックは1924年から開催されています。
私は2006年、トリノのオリンピックから今までじっくりオリンピックを見ていなかったので(イタリアでニュースになるのはイタリア人が活躍した時だけなので)久々のオリンピック。
日本選手の活躍を期待しましょう。



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4 コメント

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整理 (山科)
2018-02-09 11:08:11
整理:
 古代ギリシャ:
  オリンピア競技:: オリーブの冠
  デルフォイのピュテア競技::月桂樹の冠

  オリンピア競技は体育系のみ、デルフォイは、音楽・劇など+体育系(戦車競技なども)

まあ、こういうのはローマ時代までは伝統になってたかもしれません。
  あと、どうも死者の飾りとして黄金の木の葉の冠をつけるという例が古代ギリシャ・マケドニア・エジプトのギリシャ人などにかなりあるようです。

 ただ、この伝統がルネサンス時代以降再発掘され、どうなったかは、また別で、よく知りません。デルフォイの月桂冠が、文人詩人の冠になったのは、その遺風かな??

REf.. Olympiaと
DELFIの美術館解説書、英文、ギリシャ刊行

ありがとございます (fontana)
2018-02-11 14:34:08
山科様
いつもありがとうございます。
デルフォイの方は知りませんでした。
補正・補足 (山科)
2018-02-11 19:25:46
アポロンの神託ところは、
デルフォイとかデルファイとかデルポイとか色々な発音があるようです。

また、デルファイが月桂冠だということは、
パウサニアス ギリシャ案内記(下)、第10巻第7章、馬場恵二訳、岩波文庫、岩波書店、東京、2000

オリンピアは野生のオリーブの冠であることは、
Ismini Trianti, Olympia, Art and Civilization, Athen, 1978

で読みました。

死者の黄金の葉冠については、
墓の棺の肖像画に金の葉冠を加筆する例が多数ある(ファイユーム)ことから推察しています。また王侯の墓の場合は実物の黄金の葉冠が発掘されているようです。

ありがとうございます。 (fontana)
2018-02-12 13:39:20
山科様、
詳細ありがとうございます。

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