『金魚屋古書店』 芳崎せいむ 著
月刊IKKI連載中 小学館(2004~)
◆あらすじ
伝説の漫画専門古本屋「金魚屋」の店主と孫娘、それを取り巻く人々(謎の店員やマンガキング、セドリなど)の、漫画にまつわる物語。
前身として『金魚屋古書店出納帳』上・下があり少年画報社から出ていたが、2004年12月に小学館から新装再発行された。『金魚屋古書店』も2004年12月に発行され、現在2巻まで出ている。
こんな古書店が近所にあったらとっても幸せ。なにしろお店の地下に倉庫があって、店員さんでも遭難するくらい広くて漫画本がいっぱいあるんだもの。漫画好きなら思わずニヤニヤ、時にほろりとして読める。
漫画なんて大人の読むものじゃない、と昔の漫画を処分しようとしたが、同窓会でみんなの思い出の中にある漫画のパワーを知った“思い出の成分”(「古書店」1巻第1話)、「藤臣くん」「豪法寺くん」と聞いてニッとしてしまう“藤臣くん”(「古書店」1巻第6話)、などいろんな漫画が登場する。
中でもじんときたのが「古書店」2巻第1話の“彼の風景”。
優等生で生徒会副会長の高校生関口は、いつも自己主張ができない自分がいやで「自分には他になりたいものがあるんだ」と思い続けていた。ある日教室の机に、自分のものでない漫画を見つけた。手塚治虫の『アドルフに告ぐ』。それは第二次世界大戦当時、同じアドルフという名を持つ3人の男の数奇な生涯を綴った漫画だった。どうやら夜に関口と同じ机を共有している定時制の生徒の忘れ物らしい。それも偶然同じ関口という生徒とわかった。そこからふたりの漫画を通してのやりとりが始まる。定時制の関口は2巻・3巻・・と続巻を机に入れてくれていて、「よかったら感想を聞かせてください」という手紙がはさんであった。とまどいながらも関口は感想を書き始めた。「戦争もファシズムもくだらない。始めた奴も続けた奴も愚行の極み」
次の日、定時制の関口からの返事が机に入っていた。「人間の愚行をくだらないと言えるあなたは幸せです」
知った風な口を聞く奴、と思いながら、もしも「俺」が「こいつ」だったら、この世はいったいどんな風景に見えるだろうか、と考える関口。そしてある日、「こいつ」の正体を知る。・・・・・・
中盤で、漫画本をめぐっていろいろなやりとりがあり、そこに金魚屋も登場する。短編であるが、関口が「俺は俺以外の何者にもなれない」と気づくまでの心境の変化が、おそらく『アドルフに告ぐ』を知っていればもっとおもしろいんじゃないかと思われる。残念ながらわたしは読んだことがない。
タイトルの「ただの紙の束なんだから」は、金魚屋の謎の店員・斯波尚顕(しばなおあき)のセリフ。漫画をこよなく愛する彼の口から、このセリフは次のように続く。「でも、ただの紙の束が、こんなに大勢の人を動かして、その心を強く動かして・・・やっぱりすごいパワーだと思うよ・・・」
斯波くんと同じように漫画を愛する人は、必読の漫画だ。
月刊IKKI連載中 小学館(2004~)
◆あらすじ
伝説の漫画専門古本屋「金魚屋」の店主と孫娘、それを取り巻く人々(謎の店員やマンガキング、セドリなど)の、漫画にまつわる物語。
前身として『金魚屋古書店出納帳』上・下があり少年画報社から出ていたが、2004年12月に小学館から新装再発行された。『金魚屋古書店』も2004年12月に発行され、現在2巻まで出ている。
こんな古書店が近所にあったらとっても幸せ。なにしろお店の地下に倉庫があって、店員さんでも遭難するくらい広くて漫画本がいっぱいあるんだもの。漫画好きなら思わずニヤニヤ、時にほろりとして読める。
漫画なんて大人の読むものじゃない、と昔の漫画を処分しようとしたが、同窓会でみんなの思い出の中にある漫画のパワーを知った“思い出の成分”(「古書店」1巻第1話)、「藤臣くん」「豪法寺くん」と聞いてニッとしてしまう“藤臣くん”(「古書店」1巻第6話)、などいろんな漫画が登場する。
中でもじんときたのが「古書店」2巻第1話の“彼の風景”。
優等生で生徒会副会長の高校生関口は、いつも自己主張ができない自分がいやで「自分には他になりたいものがあるんだ」と思い続けていた。ある日教室の机に、自分のものでない漫画を見つけた。手塚治虫の『アドルフに告ぐ』。それは第二次世界大戦当時、同じアドルフという名を持つ3人の男の数奇な生涯を綴った漫画だった。どうやら夜に関口と同じ机を共有している定時制の生徒の忘れ物らしい。それも偶然同じ関口という生徒とわかった。そこからふたりの漫画を通してのやりとりが始まる。定時制の関口は2巻・3巻・・と続巻を机に入れてくれていて、「よかったら感想を聞かせてください」という手紙がはさんであった。とまどいながらも関口は感想を書き始めた。「戦争もファシズムもくだらない。始めた奴も続けた奴も愚行の極み」
次の日、定時制の関口からの返事が机に入っていた。「人間の愚行をくだらないと言えるあなたは幸せです」
知った風な口を聞く奴、と思いながら、もしも「俺」が「こいつ」だったら、この世はいったいどんな風景に見えるだろうか、と考える関口。そしてある日、「こいつ」の正体を知る。・・・・・・
中盤で、漫画本をめぐっていろいろなやりとりがあり、そこに金魚屋も登場する。短編であるが、関口が「俺は俺以外の何者にもなれない」と気づくまでの心境の変化が、おそらく『アドルフに告ぐ』を知っていればもっとおもしろいんじゃないかと思われる。残念ながらわたしは読んだことがない。
タイトルの「ただの紙の束なんだから」は、金魚屋の謎の店員・斯波尚顕(しばなおあき)のセリフ。漫画をこよなく愛する彼の口から、このセリフは次のように続く。「でも、ただの紙の束が、こんなに大勢の人を動かして、その心を強く動かして・・・やっぱりすごいパワーだと思うよ・・・」
斯波くんと同じように漫画を愛する人は、必読の漫画だ。