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「戦後日本経済史」

2013-08-25 13:13:33 | Weblog
戦後日本経済史 (新潮選書)
クリエーター情報なし
新潮社


野口悠紀雄氏の「戦後日本経済史」を読んだ。

普段は、音楽・映画のことばかり書いているが、
この本は興味深いので、この本について書いてみる。


「はじめに」で筆者はこう書く。

「標準的な見解によれば、
戦後の日本は、占領軍によって導入された経済民主化改革―
農地改革、財閥解体、労働立法―によって出発した。
軍事国家から平和国家に転換した日本は、
生産能力を軍備の増強ではなく経済成長に集中した。
さらに、追放によって戦時中の指導者が一掃されたため、
若い世代の人々が指導的な立場についた。
こうして、日本は世界でも稀に見る高度経済成長を実現した。
 これに対して本書は、
まったく異なる歴史館を提示する。
それは、「戦後の日本経済は、戦時期に確立された
経済制度の上に築かれた」とする考えである。
 とくに重要なのは、
戦時経済の要請から確立された間接金融体制(企業が
資本市場からではなく、銀行からの借入れによって
投資資金を調達する仕組み)だ。
これによって、企業は資本の影響や市場の圧力から解放された。
内部昇進者が経営者になる慣行が確立され、
企業は従業員の共同体となった。
この体制は、高度成長を実現しただけでなく、
石油ショックの克服にも本質的な役割を果たした。」

まず、「指導者の一掃」であるが、
20Pにこう書いてある。

「『霞が関において戦時と戦後は切れ目なくつながっている』
1964年(昭和39年)に大蔵省に入省した私(著者)にとって、
これはごく自然な実感である。
私が入省したときの大蔵事務次官は『昭和12年入省組』だった。
(他の官庁と同じく、大蔵省においても入省年次が人間を識別する
第一基準である。)以下、13年組の局長、
18年組の課長、などと続き、
直属上司である34年組の係長まで、まったく切れ目なしの人事スペクトルが
続いていた。つまり、大蔵省にとって、『終戦』は外の世界の出来事に過ぎず、
省内の人事構成にわずかなりとも影響を及ぼす事件ではなかったのである。
 中央官庁だけではない。実際の経済活動を担う主要産業の企業や銀行などは、
すべて戦時中の組織が生き残った。
それだけではない。マスメディア、教育制度、土地制度なども、
戦時体制が戦後に残った。」

当然軍関係者などは、公職追放になった。
ただ、それ以外官僚などは戦時中の組織が生き残ったのである。


何が変わったかと言えば、
P24
「戦後の日本は、旧上流階層の政治的影響力が、
ほとんど無視しうる社会となった。
このことこそ重要である。」


ここで注意すべきは、戦前ではなく「戦時中」ということである。

P253「戦時経済体制(1940年体制)とは何か」

「1.財政金融制度
(1)間接金融方式
(2)金融統制
(3)直接税中心の税体系
(4)公的年金制度

2.日本型企業
(1)資本と経営の分離
(2)企業と経済団体
戦時中に成長した企業(電力、製鉄、自動車、電機)
が戦後日本経済の中核になった。
統制会の上部機構が経団連になった。
(3)労働組合

3.土地制度
(1)農村の土地制度
(2)都市の土地制度」

この戦時中の体制によって、高度経済成長を実現し、
石油ショックにも対応できたことが、詳しく書いてある。

この本は、2006年8月から07年7月まで
週刊新潮で連載したものをまとめたものらしい。

また、「はじめに」の記述に戻ろう。

「高度成長の実現や石油ショックへの対応において優れたパフォーマンス
を示した経済体制が、1990年代以降機能不全に陥ってしまったのは、
なぜであろうか?

その問題を解く鍵は、技術の変化にある。
1980年代頃までの先進国の経済活動は、
大量生産の製造業を中心とするものであった。
生産活動の大規模化に伴って組織が巨大化し、
その構成員は与えられた業務を忠実かつ効率的に遂行する『組織人』
となることを求められる。
こうした状況下では、軍隊型の組織が優位性を持つ。
戦時体制を基本とする日本経済が世界経済のなかで優位性を
発揮したのは、このためだ。

しかし、1990年代以降、技術体系に本質的な変化が生じた。
大量生産の製造業ではなく、ソフトウェアや知識が中心的な
役割を果たす経済活動が重要になったのである。
新しい環境下では、規律よりも創造性が、
巨大さよりはスピードが、そして安定性よりはリスク挑戦
が求められる。この要請に適合する経済システムは、
市場を中心とするものにならざるをえない。(製造業でさえ、
組織内分業から市場を通じる分業に移行する)。
したがって、統制色の強い戦時経済体制の優位性は、
必然的に失われる。
日本経済が長期的な機能不全に陥ったのは、このためだ。」

これは、2007年7月までの日本経済を書いたものである。

これからは、自分の仮説なのだが、
今は、戦後のような状況があると思われる。
つまりは、2006年初頭あたりから戦争が始まり、
2012年末あたりが終戦と思われるような状況が、
今あるような気がする。詳しくは書けないが。

その6年間の中で、
1.間接金融→直接金融への流れ(市場的な価値観の共有など)
2.テレビなどの放送事業の力関係が、通信(インターネット)と放送と融合に。
(IIJ社長に、元財務省事務次官の勝氏がなったことを見ると
大きな波が過ぎ去った気がする。)
3.直接税中心→間接税中心へ
4.資本と経営の分離→資本と経営の合体(ストックオプションなど)
5.労働組合の構成の変化
などが垣間見られる。この6年間の戦時体制が、
次へとつながる試金石になっていたのではないかという仮説を
考えてもいいような気がする。

これは、非常に感覚的なものだけれども、この本から、
今後を占うヒントのようなものを得ようと思って、
読んで書いてみた。

歴史は繰り返す。

慎重に修正を繰り返して見て行かなければならないと思うが、
今回は時間がなく、これでおしまいにする。

来週からは、いつもどおり音楽について書いて行こうと思う。



コメント (2)
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