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FIELD MUSEUM REVIEW

SS182 シーボルト・ゼミナール 2024年5月例会報告 2024年05月20日

OAGドイツ東洋文化研究協会主催シーボルト・ゼミナール第182回は、いわゆるシーボルト事件につらなり獄死した高橋景保(たかはし かげやす 1785-1829)に焦点をあてた研究報告であった。

2024年5月20日の月例会は、橋本真吾北里大学講師が最近公刊された博士論文(東京工業大学、2021年)の一部をかみくだいて紹介するかたちで講演がおこなわれた。(*1)
 「天文方高橋景保とシーボルト -〈シーボルト街道〉構想への寄与-」
  橋本真吾 北里大学講師
 会場:ドイツ文化会館 東京都港区赤坂七丁目
https://oag.jp/tags/siebold-seminar/

【註】 〈シーボルト街道〉構想
ヨーロッパと日本においてそれぞれフィリップ・フランツ・フォン・シーボルトの旅の足跡をたどり、観光資源の開発と地域文化の振興を目的とする各地の連帯をめざす事業構想。「日独シーボルト・シンポジウム2023」において提唱され、ドイツ日本両国において発足した。
(本欄項目 ⇒「《 日独シーボルト・シンポジウム2023 -シーボルト来日200年記念- 》11月13日・14日開催」[掲出日:2023-11-15] )
https://blog.goo.ne.jp/feldmuseum2010/e/32d5f45d30419dcd8e7e042b89f67428

橋本氏論著の目的は、江戸時代のすえ十九世紀前半の日本人がアメリカ合衆国の存在をどのように認識するようになったかにある。このたびの講演では、高橋景保の海外情報収集活動とその後継者となる青地林宗(1775-1833)の業績にしぼって話をすすめた。

日本の北辺、蝦夷地などへのロシア人の南下にたいして、幕府は海外情報を緊急に収集することをこころみた。書物奉行兼天文方筆頭であった高橋景保は、日本滞在中のシーボルトとの面会と、それにもまして頻度の高いオランダ商館長ストゥルレルとの接触を通じて、ナポレオンの動向やロシア人が北米大陸方面に活動域をひろげている情報をつかんでいたようである。

高橋景保の生涯はくわしく伝わらないが、幕臣として重要なやくわりをはたした。その内外の人脈を分析することから、当時の国際情勢における日本の位置がみえてくるのではないかと期待される。

次回、6月の会はおなじ講師による第二部として、話題をさらに展開するとともに多くの参会者から感想や意見をあつめたい。
(大井 剛)

(*1) 『近世後期日本における対米観の形成と展開 -ペリー来航以前の蘭学と海外情報-』橋本真吾著、静岡学術出版(浜松:株式会社ITSC)、株式会社PUBFUN [発行]、2024年。293p.

著者は第142回シーボルト・ゼミナール2018年11月例会において「幕末知識人の世界認識 -箕作省吾(1821-1846)の対米観の形成-」報告の実績がある。

【見出し画像】 「新鐫總界全圖」高橋景保作、銅版、永田善吉鐫、文化六年(1809年)序。文化四年幕命により高橋景保が作成。
国立国会図書館蔵、NDLデジタルコレクション(info:ndljp/pid/2540716)。

(更新記録: 2023年5月20日起稿、6月1日公開)

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