おしゃれな街・代官山がオタクショップだらけだったら。「渡る世間は鬼ばかり」的なドラマをレゴで再現したら。焼酎のラベルに達筆で「2次元の女」と書いてあったら――
謎の6人集団「宙プロ」(ちゅうぷろ)は、そんな妄想を形にしては、Webサイト「妄想ドリンカーズ」にアップする。「世の中のかっこいいものに、アレルギーがあるんです」。メンバーの内山洋紀さんはてらいなくこう語る。
例えば「僕たちの代官山最新MAP」。かっこいい街・代官山の地図に、ディスカウントショップ「ドン・キホーテ」をたくさん並べたり、オノデンやまんだらけ、国際展示場といった“オタクの聖地”で満たしてみたりした。
「焼酎ブームってどうよ」となると、焼酎のラベルに「電車男」や「二次元の女」など、ありえない文字を筆で書き付けてサイトで発表。「レゴって対象年齢5歳~12歳って書いてあるけど30歳はダメなの?」と、レゴでホームドラマを作ってみた。
最近のヒットは、どんなキーワードも「1.0」と「2.0」に分ける「Web2.0ジェネレーター」だ。次世代のサン・マイクロシステムズ社員に求められる能力を表にした「社員1.0と社員2.0」を見て焦りを覚えたことがきっかけ。流行に付いていけない「置いてけぼり感」が、開発を駆り立てた。
「ぼくら自身は1.0以前。0.3とか0.5ぐらいだと思ってる。みんなが『2.0』と得意げに言うようになると置いてかれちゃって困るから、人々の歩みを止めようと思った」(内山さん)。「先に作ってしまえばみんな、2.0と言い出さないようになるかなと。けん制ですね」と、メンバーの加藤カオルさんも同意する。
飲み会で盛り上がっているうちに生まれる企画を、コンテンツにしてサイトにアップする。かっこいい物へのアレルギー、クールなものへのコンプレックスから、企画のネタが生まれるという。
宙プロメンバーは学生時代から「アンチかっこいい」を貫いてきた。早稲田大学を1999年前後に卒業した同窓生で、28~31歳の6人。原点は、かっこ悪いのに大人気だった掲示板サイト「掲示板的コトバ宇宙 -宙」だ。
●1人に1個、宇宙を配る
「今さら“クールなホームページ”を作るのは、今からスノボ始めるくらいキツい」――1998年当時、別々のサークルのWeb担当者として知り合った内山さん、加藤さん、伊奈敦紀さんの3人は、こんなやりとりをしていたという。学園祭の中止が決まり、エネルギーを持て余していたころ。翌年の卒業までにかっこ悪いネットサービスを作ろうと思い立った。
当時のコンプレックスの対象は、慶応義塾大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)。「SFCには、『時代の流れに乗ってるぜ』みたいな器用さがあるイメージを勝手に抱いていて、勝手に仮想敵にしてました」(加藤さん)。要はひがんでいただけ、という。
メールソフト「ポストペット」が流行し、ペットを飼う掲示板サイトや、バーチャルの島に住むコミュニティーサイトが現れていた。それらを見て「日常生活をネットに置き換えただけ。ちまちましてるなぁ」と感じた3人は、発想を一気に宇宙レベルに引き上げた。「1人に1個、宇宙を配ろうぜ!」
こうして生まれた「掲示板的コトバ宇宙 -宙」は、各掲示板を「宙」と呼び、コネタや迷惑な仕掛けを仕込んでユーザーをコミュニケーションに駆り立てる。掲示板には「防人」という、宇宙とは関係なさ過ぎる名の人工無脳が常駐。「ここの管理人、友達いないから仲良くしてくれよ」などと不愉快な発言をしたり、友人の「宙」に遊びに行っては勝手に発言し、人間関係を乱した。
特定の文字を指定した通りに変換してしまう「俺語」も設定可能。例えば「。」と入力した際に「にょ。」と変換されるよう設定すれば、書き込んだ文章が自動でデジキャラット化する、という具合だ。知らずに書き込んだ人はあ然とすると同時に、会話のきっかけにもなった。
10日に1度、自分の「宙」の画面が真っ暗になって利用不能になる「食」という迷惑なイベントもあった。他の「宙」にリンクする「ロケット」や「アンテナ」のアイコンも装備したが、ロケットはよく見たらメキシコ帽だったり、アンテナは傘だったりした。
ネーミングも“和物感”を徹底し、カタカナのかっこよさを排除した。「コミュニティーとかペット、カスタマイズじゃなくて、宇宙、防人、俺感、みたいな」(加藤さん)
掲示板で多くの人が発言すれば、防人が成長して機能が増えたり、画像が近代的に進化していく。ただ「なるべく数値化しない」が原則。進化のパラメータは見えないようにし、アナログなかっこ悪さを残した。
●かっこ悪いのに大人気
「1000人ぐらいが使ってくれればいい」――1999年4月。3人の卒業と同時にサービスを公開したところ、1カ月で5000人もが登録した。その後も1日300人ずつほど増え、サーバはすぐにパンクした。
知り合いのツテを頼るなどし、サーバを数回移転。そのたびにログが消えたが、ユーザーには「宇宙が引っ越しする」と説明し、「代わりに新しく快適な宇宙を用意します」と言って許してもらった。「今なら考えられないことですが」(加藤さん)
バナー広告なども貼っておらず、宙からの収入はゼロ。ネットバブル最盛期で、いくつかの会社から協業の誘いもあったが「お金を稼ぐ仕組みがない」と知ると去っていった。運営費用もメンテナンスもメンバーのボランティアだったが、限界に来ていた。
2000年秋。ユーザーは7~8万になり、宙プロメンバーも6人に増えていたが、メンバーだけで支えきれず、楽天への売却を決めた。楽天は宙をインフォシークのサービスとして展開。ピーク時のユーザーは17万を数えた。
2003年、楽天から「-宙」を作り直すアイデアが欲しいと声がかかり、ブログやSNSの機能も備えた新サービスを提案したが、実現せずに終わる。2006年2月、宙に障害が発生。復旧できず、サービス終了が決まった。
しかし、宙プロはまだ終わらない。かっこ悪いコミュニティサービスを、再び構築し始めた。
●無駄なもので何かしたい
「無駄なものを拾って何かしたい」――ブログやmixiなど便利なツールの流行を横目で見つつ、宙プロは、独自の視点でサービスの企画を練る。
新サービスの名は「空言」(そらごと)。相変わらず“和物”なネーミングで“アンチかっこいい”を体現した。
コンセプトは「コトバのプラネタリウム」。今日食べたものや今の脳内BGMなど、ふと気になったキーワードを自分の「空」にポンポン打ち上げ、夜空を埋めていく。ブログよりも気軽に、思いつきで発言できるサービスを目指した。
キーワードを打ち上げるたびに掲示板ができ、それについて他のユーザーと話し合える。他ユーザーのキーワード掲示板で発言すれば、自分の空にもそのキーワードが降ってくる。キーワードの文字は、掲示板の発言者が増えるほど大きくなり、誰も発言しないと小さくなる。人が中心になるブログやmixi日記と異なり、話題がコミュニケーションの中心になる。
掲示板に書き込むと、ときどき「コトダマ」と呼ばれるアイテムが手に入る。いくつか種類があり、好みのキーワードを一時的に巨大化させたり、他ユーザーのキーワードの語尾に「命★」と追加してしまったりできる機能を持つ。
友人マップ機能「系」も装備。同じ掲示板でよく発言する人が近くに表示される。mixiのように、一度の承認で誰とでも均等に結ばれるのではなく、コミュニケーションの濃淡を視覚的に確認できる。
数日に1回「昼」になり、画面が真っ白になって自分の空を見られなくなるという迷惑な機能も装備した。
今は試作版を限定メンバーで利用し、改善を進めている。近く一般公開する計画だが、「1000人ぐらい使ってくればいいかなぁ」(内山さん)と控えめだ。
●「どうでもいいこと」をやりとりしたい
「人がやりとりしてる情報の9割9分は、本人とその身の回りだけでしか通用しないし、通用させる必要のないようなもの」――内山さんはそんな風に言い、「多くの人から広く、使える情報を集める」という、CGM(コンシューマージェネレイティッドメディア)と呼ばれる最近の流行を疑問視する。
「空言は、日々のどうでもいいことを友達と楽しくやりとりしながら、バカバカしく遊べるサイトを目指している」(内山さん)
人間関係を宇宙の星という壮大なメタファーで表現したのも、「コミュニケーションに対する照れ」(内山さん)。人と人との距離感を、星と星の距離の遠さで表した。
内山さんは「Six Degrees of Separation」の理論に違和感があるという。Six Degrees of Separationは「6人を介せば世界中の人とつながる」という考え方で、「GREE」の名前の由来でもある。SNSで広がる人間関係をイメージさせる言葉だ。
「でもみんな、『自分が飲み会を主催しても6人も来てくれないだろうな』っていう世界で生きてるのが本質だと思う。ブログのトラックバックだって、『相手のブログに載ってしまうから』と、気が引けて打てない人が多い」(内山さん)
ネット人脈やネットコミュニケーションは、理論上は無限に広げられる。しかしリアルな人間――特に、コミュニケーションが苦手と自覚している人は、人脈の海にこぎ出し切れずにコンプレックスを強めているのかもしれない。
宙プロは、そんなコンプレックスに独自のサービスで向き合う。「空言」では、言葉を打ち上げて気軽なコミュニケーションを誘い、「宙」では防人が媒介となってコミュニケーションを助ける。かっこ悪くておせっかいなサービスが、人と人とをほんの少しだけ近づける。
●「独自の戦い」を展開
「独自の戦い」――加藤さんは宙プロの方向性をこう表現する。独自の戦いとは、選挙で勝ち目のない候補者に対して、マスメディアがよく使う言葉。例えば「空言」は、mixiのようなサービスに勝てるはずもなく、マスに訴求できるとも思わないが、世界のすみっこで面白おかしくやっていきたい、という。
サービスをビジネス化するつもりも当面はない。「お金をもらってしまうと、楽しいおしゃべりやプログラミングも“作業”になってしまう」(加藤さん)から。「宙」の時に苦労したサーバだけは、メンバーの協力で確保してある。
「何か他と違うことをやって、みんなの暮らしが愉快でヘンテコになれればいいな」(加藤さん)――宙プロはコンプレックスを全開にしながら、独自の戦いに突き進む。
(2006.5.16/ITmediaニュース)
謎の6人集団「宙プロ」(ちゅうぷろ)は、そんな妄想を形にしては、Webサイト「妄想ドリンカーズ」にアップする。「世の中のかっこいいものに、アレルギーがあるんです」。メンバーの内山洋紀さんはてらいなくこう語る。
例えば「僕たちの代官山最新MAP」。かっこいい街・代官山の地図に、ディスカウントショップ「ドン・キホーテ」をたくさん並べたり、オノデンやまんだらけ、国際展示場といった“オタクの聖地”で満たしてみたりした。
「焼酎ブームってどうよ」となると、焼酎のラベルに「電車男」や「二次元の女」など、ありえない文字を筆で書き付けてサイトで発表。「レゴって対象年齢5歳~12歳って書いてあるけど30歳はダメなの?」と、レゴでホームドラマを作ってみた。
最近のヒットは、どんなキーワードも「1.0」と「2.0」に分ける「Web2.0ジェネレーター」だ。次世代のサン・マイクロシステムズ社員に求められる能力を表にした「社員1.0と社員2.0」を見て焦りを覚えたことがきっかけ。流行に付いていけない「置いてけぼり感」が、開発を駆り立てた。
「ぼくら自身は1.0以前。0.3とか0.5ぐらいだと思ってる。みんなが『2.0』と得意げに言うようになると置いてかれちゃって困るから、人々の歩みを止めようと思った」(内山さん)。「先に作ってしまえばみんな、2.0と言い出さないようになるかなと。けん制ですね」と、メンバーの加藤カオルさんも同意する。
飲み会で盛り上がっているうちに生まれる企画を、コンテンツにしてサイトにアップする。かっこいい物へのアレルギー、クールなものへのコンプレックスから、企画のネタが生まれるという。
宙プロメンバーは学生時代から「アンチかっこいい」を貫いてきた。早稲田大学を1999年前後に卒業した同窓生で、28~31歳の6人。原点は、かっこ悪いのに大人気だった掲示板サイト「掲示板的コトバ宇宙 -宙」だ。
●1人に1個、宇宙を配る
「今さら“クールなホームページ”を作るのは、今からスノボ始めるくらいキツい」――1998年当時、別々のサークルのWeb担当者として知り合った内山さん、加藤さん、伊奈敦紀さんの3人は、こんなやりとりをしていたという。学園祭の中止が決まり、エネルギーを持て余していたころ。翌年の卒業までにかっこ悪いネットサービスを作ろうと思い立った。
当時のコンプレックスの対象は、慶応義塾大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)。「SFCには、『時代の流れに乗ってるぜ』みたいな器用さがあるイメージを勝手に抱いていて、勝手に仮想敵にしてました」(加藤さん)。要はひがんでいただけ、という。
メールソフト「ポストペット」が流行し、ペットを飼う掲示板サイトや、バーチャルの島に住むコミュニティーサイトが現れていた。それらを見て「日常生活をネットに置き換えただけ。ちまちましてるなぁ」と感じた3人は、発想を一気に宇宙レベルに引き上げた。「1人に1個、宇宙を配ろうぜ!」
こうして生まれた「掲示板的コトバ宇宙 -宙」は、各掲示板を「宙」と呼び、コネタや迷惑な仕掛けを仕込んでユーザーをコミュニケーションに駆り立てる。掲示板には「防人」という、宇宙とは関係なさ過ぎる名の人工無脳が常駐。「ここの管理人、友達いないから仲良くしてくれよ」などと不愉快な発言をしたり、友人の「宙」に遊びに行っては勝手に発言し、人間関係を乱した。
特定の文字を指定した通りに変換してしまう「俺語」も設定可能。例えば「。」と入力した際に「にょ。」と変換されるよう設定すれば、書き込んだ文章が自動でデジキャラット化する、という具合だ。知らずに書き込んだ人はあ然とすると同時に、会話のきっかけにもなった。
10日に1度、自分の「宙」の画面が真っ暗になって利用不能になる「食」という迷惑なイベントもあった。他の「宙」にリンクする「ロケット」や「アンテナ」のアイコンも装備したが、ロケットはよく見たらメキシコ帽だったり、アンテナは傘だったりした。
ネーミングも“和物感”を徹底し、カタカナのかっこよさを排除した。「コミュニティーとかペット、カスタマイズじゃなくて、宇宙、防人、俺感、みたいな」(加藤さん)
掲示板で多くの人が発言すれば、防人が成長して機能が増えたり、画像が近代的に進化していく。ただ「なるべく数値化しない」が原則。進化のパラメータは見えないようにし、アナログなかっこ悪さを残した。
●かっこ悪いのに大人気
「1000人ぐらいが使ってくれればいい」――1999年4月。3人の卒業と同時にサービスを公開したところ、1カ月で5000人もが登録した。その後も1日300人ずつほど増え、サーバはすぐにパンクした。
知り合いのツテを頼るなどし、サーバを数回移転。そのたびにログが消えたが、ユーザーには「宇宙が引っ越しする」と説明し、「代わりに新しく快適な宇宙を用意します」と言って許してもらった。「今なら考えられないことですが」(加藤さん)
バナー広告なども貼っておらず、宙からの収入はゼロ。ネットバブル最盛期で、いくつかの会社から協業の誘いもあったが「お金を稼ぐ仕組みがない」と知ると去っていった。運営費用もメンテナンスもメンバーのボランティアだったが、限界に来ていた。
2000年秋。ユーザーは7~8万になり、宙プロメンバーも6人に増えていたが、メンバーだけで支えきれず、楽天への売却を決めた。楽天は宙をインフォシークのサービスとして展開。ピーク時のユーザーは17万を数えた。
2003年、楽天から「-宙」を作り直すアイデアが欲しいと声がかかり、ブログやSNSの機能も備えた新サービスを提案したが、実現せずに終わる。2006年2月、宙に障害が発生。復旧できず、サービス終了が決まった。
しかし、宙プロはまだ終わらない。かっこ悪いコミュニティサービスを、再び構築し始めた。
●無駄なもので何かしたい
「無駄なものを拾って何かしたい」――ブログやmixiなど便利なツールの流行を横目で見つつ、宙プロは、独自の視点でサービスの企画を練る。
新サービスの名は「空言」(そらごと)。相変わらず“和物”なネーミングで“アンチかっこいい”を体現した。
コンセプトは「コトバのプラネタリウム」。今日食べたものや今の脳内BGMなど、ふと気になったキーワードを自分の「空」にポンポン打ち上げ、夜空を埋めていく。ブログよりも気軽に、思いつきで発言できるサービスを目指した。
キーワードを打ち上げるたびに掲示板ができ、それについて他のユーザーと話し合える。他ユーザーのキーワード掲示板で発言すれば、自分の空にもそのキーワードが降ってくる。キーワードの文字は、掲示板の発言者が増えるほど大きくなり、誰も発言しないと小さくなる。人が中心になるブログやmixi日記と異なり、話題がコミュニケーションの中心になる。
掲示板に書き込むと、ときどき「コトダマ」と呼ばれるアイテムが手に入る。いくつか種類があり、好みのキーワードを一時的に巨大化させたり、他ユーザーのキーワードの語尾に「命★」と追加してしまったりできる機能を持つ。
友人マップ機能「系」も装備。同じ掲示板でよく発言する人が近くに表示される。mixiのように、一度の承認で誰とでも均等に結ばれるのではなく、コミュニケーションの濃淡を視覚的に確認できる。
数日に1回「昼」になり、画面が真っ白になって自分の空を見られなくなるという迷惑な機能も装備した。
今は試作版を限定メンバーで利用し、改善を進めている。近く一般公開する計画だが、「1000人ぐらい使ってくればいいかなぁ」(内山さん)と控えめだ。
●「どうでもいいこと」をやりとりしたい
「人がやりとりしてる情報の9割9分は、本人とその身の回りだけでしか通用しないし、通用させる必要のないようなもの」――内山さんはそんな風に言い、「多くの人から広く、使える情報を集める」という、CGM(コンシューマージェネレイティッドメディア)と呼ばれる最近の流行を疑問視する。
「空言は、日々のどうでもいいことを友達と楽しくやりとりしながら、バカバカしく遊べるサイトを目指している」(内山さん)
人間関係を宇宙の星という壮大なメタファーで表現したのも、「コミュニケーションに対する照れ」(内山さん)。人と人との距離感を、星と星の距離の遠さで表した。
内山さんは「Six Degrees of Separation」の理論に違和感があるという。Six Degrees of Separationは「6人を介せば世界中の人とつながる」という考え方で、「GREE」の名前の由来でもある。SNSで広がる人間関係をイメージさせる言葉だ。
「でもみんな、『自分が飲み会を主催しても6人も来てくれないだろうな』っていう世界で生きてるのが本質だと思う。ブログのトラックバックだって、『相手のブログに載ってしまうから』と、気が引けて打てない人が多い」(内山さん)
ネット人脈やネットコミュニケーションは、理論上は無限に広げられる。しかしリアルな人間――特に、コミュニケーションが苦手と自覚している人は、人脈の海にこぎ出し切れずにコンプレックスを強めているのかもしれない。
宙プロは、そんなコンプレックスに独自のサービスで向き合う。「空言」では、言葉を打ち上げて気軽なコミュニケーションを誘い、「宙」では防人が媒介となってコミュニケーションを助ける。かっこ悪くておせっかいなサービスが、人と人とをほんの少しだけ近づける。
●「独自の戦い」を展開
「独自の戦い」――加藤さんは宙プロの方向性をこう表現する。独自の戦いとは、選挙で勝ち目のない候補者に対して、マスメディアがよく使う言葉。例えば「空言」は、mixiのようなサービスに勝てるはずもなく、マスに訴求できるとも思わないが、世界のすみっこで面白おかしくやっていきたい、という。
サービスをビジネス化するつもりも当面はない。「お金をもらってしまうと、楽しいおしゃべりやプログラミングも“作業”になってしまう」(加藤さん)から。「宙」の時に苦労したサーバだけは、メンバーの協力で確保してある。
「何か他と違うことをやって、みんなの暮らしが愉快でヘンテコになれればいいな」(加藤さん)――宙プロはコンプレックスを全開にしながら、独自の戦いに突き進む。
(2006.5.16/ITmediaニュース)