「深い感動」を憶えるほどのものではない。しかし、やはり被災当事者たちの語る言葉を記録することは、たいへん価値のあることだ。
震災に限らず、わたしたちは、つねに、死と隣り合わせの生を享受している。「震災死」が注目されるのは、予期せぬ自然災害によりほぼ同時に大量の人たちの生が絶たれるからである。
過酷な被災経験を乗り越えて、人々が、身近な者たちの死をどう受容し記憶のなかに位置づけてきたのか、それは本書で語られる被災者の言葉以上のものでも以下のものでもない。
目次
第1章 死者たちが通う街―タクシードライバーの幽霊現象‐宮城県石巻・気仙沼
第2章 生ける死者の記憶を抱く―追悼/教訓を侵犯する慰霊碑‐名取市閖上・震災慰霊碑
第3章 震災遺構の「当事者性」を越えて―20年間の県有化の意義‐南三陸町・防災対策庁舎
第4章 埋め墓/詣り墓を架橋する―「両墓制」が導く墓守りたちの追慕‐山元町坂元地区中浜
第5章 共感の反作用―被災者の社会的孤立と平等の死‐塩竃市・石巻市南浜町
第6章 672ご遺体の掘り起こし―葬儀業者の感情管理と関係性‐石巻市・葬儀社「清月記」
第7章 津波のデッドラインに飛び込む―消防団の合理的選択‐岩手県山田町・宮古市田老地区
第8章 原発避難区域で殺生し続ける―猟友会のマイナー・サブシステンス‐福島県浪江町
タクシードライバーが邂逅した“幽霊現象”。わが子のように慰霊碑を抱きしめる遺族たち。霊性という高次の精神性にもとづく死生観が、震災復興に求められている。亡くした家族が「生きていた」記憶を刻む慰霊と鎮魂、未曾有の悲しみを越えて死者とともに生きる人びとの強さを描く。若者たちの真摯な筆致が深い感動を呼ぶ。
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