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本と音楽とねこと

鉛の塊 ジョーカーから奈良の暗殺者へ

平井玄,2023,鉛の塊 ジョーカーから奈良の暗殺者へ──怨みが義になる,現代書館.(8.7.23)

 安倍の暗殺を「民主主義への挑戦」と称する言説が笑止千万であることは言うまでもないとして、どいつもこいつも日和りやがって、「暴力は許されるものではない」という煙幕を張らないとものが言えない輩ばかりであったのが、なんとも情けないことであった。
 山上氏の行為が、抵抗権、すなわち「専制的な政府や権力が市民の基本的な権利を侵害する場合に市民がその政府に対して暴力的な手段で抵抗する権利」として容認できるか否かは別途議論すべきことであるが、平井さんが指摘するとおり、山上氏は、安倍を見事に仕留め、民間人になんの被害ももたらさなかった点で、やはり「義の人」と呼べるであろう。
 だからといって、山上氏の行為を全面的に賞賛するだけでは片手落ちである。映画、「ジョーカー」を嚆矢として、次々に起こった、怨恨を溜めこんだ破滅願望者によるテロの流れのうえに安倍暗殺を位置づける本書のスタンスは、まこと適切と言うほかない。

自らのがんサバイバーとして、身体の変容と延命を媒介に資本主義の延命を見つめる中で、さらに市井の人々たちが持つ、人として残るものとして「義」を問う。「義」の不全と渇望、その暴走としての2021年京王線での「ジョーカー」刺傷事件から、2022年7/8の安倍元首相殺害事件とは何かまでも問う一冊。
「私怨有理」。この憎悪の底まで潜り、どこへ突き抜けるか」。私鉄での事案から元首相暗殺-「死」への恍惚から標的を貫く弾丸へ、「ジョーカー」たちはなにに到達したのか?

目次
魂の夏
ジョーカーたちはいつも行き先を間違える
海辺の岩
国家を引き寄せる者たち
逃散のかすかな地鳴り
悪い人と義の人
オウムとジョーカー
忘れられた民
風に吹き飛ばされる人びと
森崎和江『闘いとエロス』この恋愛小説からなにをつかみ出すか?
両手になにを握るのか
紙と錘 晶篇1 夏の散弾/晶篇2 鉛の魂

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