見出し画像

本と音楽とねこと

マッチング・アプリ症候群──婚活沼に棲む人々

速水由紀子,2023,マッチング・アプリ症候群──婚活沼に棲む人々,朝日新聞出版.(8.7.24)

結婚相手を見つけ、2人で退会するのがマッチングアプリのゴール。しかし本書では、このアブリ世界に彷徨い続け、婚活より自己肯定感の補完にハマり抜け出せなくなってしまった男女を扱う。アプリで次々に訪れる流動的な人間関係の刺激は、中毒性が強い。相手をどんどん乗り換え続けることで生きる糧を得ている人々、離婚や失恋でトラウマを抱え、婚活と名乗りつつセフレ的な付き合いしかできなくなった人々、等身大な自分を見失って500の「いいね!」をコレクションし、自己肯定感の上昇のみを求める人々。マッチングアプリの婚活沼に依存するディープな住人たちを、「マッチング症候群」と名付ける。*恋愛をメンタルを不安定にするリスク要因と捉える20代にとっては、言い争いや修羅場、負の感情の存在しないアプリは心地よい理想の場。*年代が上がるにつれて利用期間が長くなり抜けにくくなる→40代50代は婚活ではなく、孤独な老後の友人達を増やすだけ*特に数々の恋愛で目が肥え妥協できなくなっているアラフォー女性たちにとっては、イケメンな富裕層経営者やハイスペックなモテ男とマッチングし、会って食事できることほど自己肯定感を上げてくれることはない。その本命になるのはほぼ絶望的だが、高級店でディナーを奢ってもらい言葉上手に口説かれて舞い上がれる。「自分はまだまだイケてる」と信じられる…etc.

婚活アプリ、この恐ろしくも素晴らしく合理的なシステムよ!「何となくマッチング・アプリに興味がある」「入会したいがやり方が分からない」「マッチングできず心が折れそう」「依存症に陥って抜けられない」「婚活虚無に陥り悩んでいる」―そんなあなたに捧げる一冊。

 「婚活沼」に生息する人びとの生態がとても興味深い。

 マッチングには「・・・・・・までに交際するかどうか決めてください」という期限などない。だから無限大に引き延ばすことだって(相手が許容すれば)可能で、複数のマッチング相手と、だらだらLINEを続けるマッチング依存に陥りやすい。5、6人のマッチングした男性に日替わりで高級ディナーを奢らせる猛禽類型女子もいるし、結婚前提の交際を真剣に探していると言いながら、次々にセフレを増やしていく鬼畜な男性も、マッチング相手をランキング制にして毎日順位を変えていく女性もいる。
 彼らは単にモテ格差を利用して欲望を消費しているだけだ。
(p.196)

 マッチング・アプリでの自己紹介文には、次の五つのパターンがあると言う。

①テンプレ型。「職場ではまったく出会いがありません。FBでこのサイトのことを知って登録してみました」「婚活はまったくしていなかったのですが、友達から聞いて登録してみました」「周りには優しすぎる、誠実で裏表がないとよく言われます」というよくあるコピペの応用だ。大切な情報は何一つないので、このタイプは圏外。
②自信に満ちたオレオレ型。そこそこ成功者にありがちな仕事の実績を並べて俺ってこんなに凄い、こんなに業績をあげたと自慢したあげく、君の美味しい手作り料理が食べたい、俺の健康管理よろしくと宣言する昭和アンチフェミ。ぐったり疲れる。圏外。
③役所の書類型。必要最小限の情報しか書かず、人間性を判断するのに必要なデータは一つもない。写真も毛穴全開の恐ろしいドアップか、ボケていたりマスク顔だけが多い。圏外。
④ステマ広告型。「気になったら足跡をつけまくるかも!」「『いいね!』をくれた方全員に「いいね!」を返します」「とにかくマッチングしてみませんか?」。ステマ広告のキャンペーンかと思うぐらい毎日しつこく足跡をつけて、「いいね!」を稼ぐ自己承認欲求強めタイプ。疲れる。圏外。
⑤等身大型。彼女と別れた、離婚した、人付き合いが苦手、オタクなどネガティヴに捉えられるリスクも含めて率直に書く正直タイプ。地味だがそれなりに個性も伝えようとしている。「いいね!」数は少なめだが話してみると意外に居心地のいい良物件が多し。圏内。
(pp.185-187)

 速水さんの「圏内」は、⑤のみである。

 速水さんが推奨する自己紹介文は、以下のようなものだ。

 〈もしあなたが顔や年収でお相手を探しているなら、僕には無理です。でも何があってもあなたを守って笑顔にし、家事、子育てを平等に負担する働き者のパートナーを探しているなら、僕にもチャンスがあります。あなたがシングルマザーでも年上でもバツがいくつあっても、相方として誰よりも大切にできると保証します。
 僕にできることは、力仕事、電気修理、家具補修、配管掃除、水回りの修理点検、風呂掃除、家事の分担、お悩み相談(なんでも)、休日の食事作りや子供の世話、保育園・幼稚園の送迎、保護者参観、運動会、病気の時の看病、セクシャル・パートナー、老親介護の相談協力、犬猫の世話まで、強力なパートナーとして一家に1人、必要な人材です〉」
(p.266)

 次々と「より良い相手」が見つかるかもしれないという期待をいだかせるのが、マッチング・アプリの特性らしい。

 そこでは、複数の相手との婚活同時進行がデフォとなる、ということは、相手を切り捨てることもあれば、相手から切り捨てられることもあるということだ。

 複数の候補の一人として常時「比較検討」されることによる、自己の入れ替え可能化、「耐久消費財」化。

 では私は今、MMさんにその気持ちが持てるのか、となると考え込んでしまう。①相手に恋愛感情を持っているか、②何がなんでも結婚というファイナルステージにたどりつきたいか、③もしくは2人なら幸せな(または楽な)生活が見えるのか。
 この3つのどれかに当てはまればOKなのだが。
 残念ながら今回はどれにも当てはまらなかった。
 これは私が贅沢なのか。変人なのか。世間や人生を舐めくさっているのか。
 いや、そうではない。MMさんが他のマッチング相手と私を比較検討している時点で、もう①、②。③の可能性は全部消えた。比較検討される存在は、人生のパートナーではなく耐久消費財だ。だから私は単に、MMさんの所有する、取り替え可能な消費財になりたくなかっただけだ。さらに私自身もそういう消費財は欲しくない。
 となると、マッチング修業がまだ足りないということなのか。一体何人とマッチングすれば耐久消費財になることを受容できるのか。そして、そもそもパートナーを消費財と考えない男性(女性も)がアプリに存在するのか。
 私自身がすでにマッチング依存化している!そんなありがたくない気づきに、思わずため息が出てしまった。
(pp.227-228)

 まったく知らない世界のことなので、なかなかに興味深かった。

目次
第1章 アプリ婚活沼最強の捕食者、マッチング・アプリ症候群の人々
第2章 婚活沼という精神安定剤
第3章 究極の目標「2人で退会する」を叶えるポイント
第4章 マッチング依存で交際が性的、非性的に分岐する理由
第5章 アプリ婚活の奥義・「いいね!」10以下を狙え!
第6章 アプリからLINEへ お約束コースの罠
第7章 自分アバター化 マッチング・アプリの誰にも言えない副作用
第8章 マッチング依存だからこその最新婚活術
第9章 婚活に絶望した独身男性が選ぶべきたった一つの道


ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「本」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事