本と音楽とねこと

アナキズム・イン・ザ・UK、ヨーロッパ・コーリング、ブロークン・ブリテンに聞け

ブレイディみかこ,2013,アナキズム・イン・ザ・UK──壊れた英国とパンク保育士奮闘記,Pヴァイン.(2.13.2021)

 全作品を読みたくなる物書きなんて、そうそういない。故橋本治さんとこのブレイディみかこさんは、その数少ない物書きである。
 文句なしの傑作、『子どもたちの階級闘争』の前振りともいえる、「底辺託児所」の子どもたちのパンクぶりが笑える。

 ようやく立てるようになった赤ん坊の両足を思い切り踏んではぎゃあぎゃあ泣かせ、「なんでそんなことをするの?」と尋ねたら、「俺のすることに理由はない」「理由のないことをするのは楽しい」などとアナキーなことを答え、いきなりわたしの髪を引っ掴んで一〇本ほど根こそぎ抜いていきやがった四歳の狂暴児ジェイク。
 椅子の背中に紐をくくりつけて赤ん坊の人形を逆さに吊るし、それをめがけて玩具のナイフを連投しながら「醜い禿頭の小人は永遠に地獄で殺され続けるのだ」などと呟きつつ、完全にイッてる目つきでへらへら笑っている戦慄のゴシック・トドラー、レオ(五歳)。
 「Thank youと言ってごらん」「FUCK」「スナックの前は手を洗おう」「FUCK」「みんなとお絵かきしよっか」「FUCK」「オムツからうんこはみ出てるよ」「FUCK」と暗い目をして世のすべてのものを否定する一歳の反逆児デイジー。
(p.199)

 あっはっは。
 ドラッグ依存、アルコール依存のはてに、摂食障がい(拒食症)で死んだエイミー・ワインハウスを称えた一文も良かった。(「愛は負ける」)つまらぬ男のために、世界最高といってよい才能をもちながら早死にした彼女のことを、愚かと嗤いたくない、というのはよくわかる。彼女は、死の直前まで、ブーイングされながら歌手であろうとした。ドラッグまみれで、クソみたいな醜態をさらしながら、クソみたいな世界におさらばしたとしても。

Amy Winehouse - Back To Black, Belgrade 2011

 Life is a piece of shit after all.
けっきょく、(世界もクソなら)人生は一片のクソでしかない。いい言葉だなあ。


ブレイディみかこ,2016,ヨーロッパ・コーリング──地べたからのポリティカル・レポート,岩波書店.(2.13.2021)

 これは硬派のヨーロッパ、UK政治時評集。
 右か左ではなく、上か下か。
 すさまじい階級分断のはてに、緊縮と反緊縮財政、パトリオティズムとナショナリズム、ミーイズムとの間で人々が揺れ動き、それが、イングランド、スコットランド、そしてスペインにおけるダイナミックな政治、社会変動につながっていることがよくわかるレポートである。

社会保障の削減。貧困の拡大。緊縮政策によって未来を奪われる若者や労働者たち。日本と同様の問題に直面する欧州にあって、英国やスペインでは新たな求心力を持った左派が支持を集め、大きなうねりをまきおこしている。在英二〇年のライターが、いま欧州に吹く風を日本に届けるべく、熱い思いとクールな筆致で綴った注目の政治時評。


ブレイディみかこ,2020,ブロークン・ブリテンに聞け──Listen to Broken Britain,講談社.(2.13.2021)

 硬軟とりまぜた、軽妙なエッセイ集。
 みかこさんの著作には、ケン・ローチ、オーウェン・ジョーンズ、故デヴィッド・グレーバーといった人々からの引用がけっこう多いのだが、わたしも注目してきた人たちばかりである。音楽の趣味も似ている。共感するところが大きいのも当然だ。
 本書にもきらりとひかる一節がある。

 これが緊縮マインドというものである。美味なものや楽な生活、幸福な暮らしを人々が忌み嫌い、そんなものは贅沢だと憎悪し、ハピネスは入手可能と主張する者を詐欺師と非難し全力で潰したくなるマインド。夢や希望を語る人々を「カネがないときにチャラチャラすんな」と黙らせ、「真面目にこの世に出生した事実を呪え」と土下座させたくなるマインド。
(p.208)

 これを「自粛マインド」と読み替えて、世界を観察し、自己をふりかえるべし。しかし、こんなこと書けるの、かっこいい。伊藤野枝みたいだ。

EU離脱、広がる格差と分断、そしてコロナ禍―。政治、経済、思想、テレビ、映画、英語、パブなど英国社会のさまざまな断片から、激動と混沌の現在を描く傑作時事エッセイ集。

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