もはや「第三の道」というコンセプトに新味があろうはずもないが、現代が脱工業社会から「低炭素産業社会」への転換期にあるとの時代診断にはとても興味をそそられた。著者たちの同時代を見る眼は的確だ。
目次
まえがき
第1章 二一世紀の新たな社会モデル
1-1 産業構造の転換と社会変動──低炭素産業社会の到来
1-2 市場経済・政府・市民社会のバランス
1-3 柔軟な市場主義改革
1-4 教育の新しい役割
第2章 グローバル・ガバナンスの構築に向かって
2-1 グローバル化はもはや「事実」である
2-2 一次元的な世界の形成
2-3 グローバル化がもたらすリスク
2-4 新しいグローバル・ガバナンスにおける企業と国家の役割
第3章 「第三の道」と日本の選択
3-1 日本の現状と「第三の道」議論
3-2 「第三の道」の基本理念
3-3 日本とヨーロッパの制度比較
3-4 市場主義改革と福祉改革の同時推進
第4章 「欧州社会モデル」からの教訓
4-1 「欧州社会モデル」とは
4-2 ヨーロッパに学ぶべき一〇の教訓
4-3 新しいモデルの課題と展望
第5章 新社会への価値観変革──環境とポジティブ・ウェルフェア
5-1 低炭素産業社会への価値観変革
5-2 環境とライフスタイル変革
ついに、本格的な政権交代が実現した日本。しかし、新政権の迷走ぶりを見ても、半世紀以上にわたって硬直化してきた政治や社会のシステムが簡単に改革できるとは思えません。
では、政治や社会に関して、いま日本に最も求められていることは何でしょう。著者のギデンズらは、「市場主義改革と福祉改革を同時に推進すること」だと本書において主張します。
日本はイギリスのようなレッセ・フェール(自由放任主義)的な市場経済も経験していないし、そうかといって完璧な福祉国家も経験していません。日本には自由競争を制限するさまざまなシステムが存在し、市場原理が機能していない領域が多いのです。さらに、欧米諸国に比べると公的な福祉制度の整備も遅れています。
すなわち日本では、市場主義改革の必要性も福祉改革の必要性も、欧米よりもずっと大きいといえます。
言い換えれば、自由市場主義と福祉国家主義の弊害を乗り越え、両者をより高い段階で統合するという「第三の道」が、欧米とはまったく異なる文脈において日本では重要な意味を持つことになります。
本書では、そうした「日本における第三の道」がどうあるべきかについて、欧米の成功や失敗に学びつつ、様々な角度から検証していきます。
今後、日本が経済再生を果たし、市場の繁栄と健全な福祉制度を両立させ、激しく変化する世界の中で自らの意見や立場を主張していくということはけっして容易ではないでしょう。
しかしそれは「可能である」と著者たちは主張します。本書は、こうした目標を実現するために今後日本がとるべき方向性と方法論を提示するものです。
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