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本と音楽とねこと

ヨーロッパ・コーリング・リターンズ

ブレイディみかこ,2021,ヨーロッパ・コーリング・リターンズ──社会・政治時評クロニクル 2014‐2021,岩波書店.(10.18.2022)

 「緊縮財政」のもと、想像を絶するほど貧困問題が深刻化したイギリス。医療、社会福祉、教育の予算が削減され、ホームレスは急増、餓死する人まで現れた経緯が、オーウェン・ジョーンズ等のエッセイや新聞記事をふんだんに参照しながら、描きつくされている。
 イギリスの相対的貧困率は、日本のそれと同程度であるが、地域間、人種・エスニシティ間の経済格差がすさまじく、ホームレスの数も日本よりはるかに多い。「緊縮財政」に慣らされた国民は、社会保障の大盤振る舞いを約束する労働党にもそっぽを向いた。
 そして到来したコロナ禍。貧困層がさらに窮乏化するなかで、保育士、小中学校の教員等の「キーワーカー」(デビッド・グレーバーのいう「ケア階級」)は言葉での称賛を受けるだけで、肝心の賃金等労働条件の改善はなされなかった。日本と同じである。

「愛に対価を求めるなというねじれた理論で「子どもを育てる」という大切な仕事が過小評価されている。だが、本来、愛とセットにされるべき言葉は、犠牲ではなく幸福だろう。幸福な人に育てられた子どもは幸福な社会を志向するようになる。本当に子どものことや国の未来を考えるのなら、愛を値切ってはいけないのだ。」(p.383)

 進むべき道ははっきりとしているのに、問題状況は改善されず、堂々巡りの閉塞状況が続いているのは、イギリスも日本も同じだ。

人か資本か。優先順位を間違えた政治は、希望を奪い、貧困と分断を拡大させる。英国の暮らしと政治を独自の視点で描き、ブレイディみかこの筆力を世に知らしめた『ヨーロッパ・コーリング―地べたからのポリティカル・レポート』(二〇一六年刊)から五年。同書を改編増補し、パンデミックの影響の推移を捉えた記事を含む、七年半にわたる論考を収録した、文庫オリジナル版時評集!荒むブロークン・ブリテンから、惑う日本へ―

目次
子どもの貧困とスーパープア
ハラール肉と排外ヒステリア
アンチ・ホームレス建築の非人道性
アンチ・ホームレスの鋲が続々と撤去へ
貧者用ドアとエコノミック・アパルトヘイト
餓死する人が出た社会、英国編
英国式『マネーの虎』で失業率を下げる方法
海辺のジハーディスト
地べたから見たグローバリズム―英国人がサンドウィッチを作らなくなる日
風刺とデモクラシー―今こそ「スピッティング・イメージ・ジャパン」の復活を
ほか

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