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本と音楽とねこと

かっこいい福祉

村木厚子・今中博之,2019,かっこいい福祉,左右社.(9.29.24)

低賃金、重労働、人手不足…「福祉」は何故、低く見られるのか?「制度」と「現場」を知り尽くした二人が、福祉をかっこいい業界にするにはどうするべきかを縦横無尽に語り合う。社会福祉に携わるすべての人へ、エールを送る一冊。

 障がい者は、市場社会の競争原理から守られる存在でなければいけない。

 こうした考えが、障がい当事者の資質、潜在能力の開花を著しく制約してきた。

 アトリエインカーブを主宰する今中さんは、美術市場で高く評価される、障がいをもったアーティストを育てる。

村木  彼らが軸になって、非常に収益も多く、法人全体の収益が上がるならやりますか?
今中  やります。インカーブの場合、それは国内外のアートフェアへの出展です。ニューヨークやシンガポールのアートフェアにも出展経験があります。国内最大級の規模とクオリティを誇る「アートフェア東京」には七回連続で出展し、アーティストの作品を市場につなげています。社会福祉法人は、このようなハイクオリティな市場にもっとアクセスするべきだと思います。知り合いの法人や講演会などで「市場は恐がるものではなく、とてもフラットな場所ですよ」というのですが、まだまだ尻込みする人が多いですね。はじめから自分たちにはできないと思っている。現状では、障がい者とスタッフがつくる、いわゆる「授産製品」が「二足三文」の価格で「共感的消費者」に販売されています。共感的消費者とは障がい者のご家族、親戚、学校の先生、研究者、地域の人など限られた消費者です。その先の消費者を開拓することに積極的ではありません。開拓の必要性は感じていても、できない。その原因は、社会福祉の経営者、スタッフが市場に不慣れだということ。そして、市場は「弱肉強食」だと勘違いをしていることです。二宮尊徳は、「経済なき道徳は戯言であり、道徳なき経済は犯罪である」という言葉を残しています。市場が必要としているのは狡猾な弱肉強食だけではない道徳原理であり、福祉が必要としているのはお涙ちょうだいの経済原理ではない、ということです。
(pp.166-167)

 村木さんの、社会福祉をこころざす若者に宛てたメッセージも熱い。

 そういう意味で、福祉に携わる人に目指してほしいことが二つあります。一つは、制度にないサービスを生みだしてほしいということです。本人に寄り添って、ニーズを満たそうと思えば、それを満たす制度はないということがよくあります。今当たり前のようにある公的な福祉サービスの中には、スタートの時は制度がなく、「制度外のサービス」とか、「ルール違反のサービス」などと位置づけられていたものがたくさんあります。必要なサービスは「現場」でしか生まれないのです。だから「制度にないからやらない」と現場が言ってしまったとたんに、福祉の進歩は止まります。制度にないサービスを生みだしてほしいのです。そしてそれを制度にすべく、声を上げてほしいのです。私は、こんな風に教わりました。0を1にするのは現場の仕事、必要に気づいて最初に対応するサービスを生みだす。1を10にするのは学者の仕事。新しく生まれたサービスの理論武装をする。10を50にするのは企業の仕事。ニーズに応えて、ペイする範囲でサービスを供給する。50を100にするのは行政の仕事。もし、本当に必要なサービスならばペイしなくても、誰もが使えるよう制度化する。0を1にする人がいなければ、何も生まれません。
 二つ目は、つながってほしいということです。本人のニーズに寄り添ったとき、必要なことはありとあらゆる分野、例えば、就労、教育、医療、文化、科学技術などにも及ぶでしょう。ここで「そこは自分の専門じゃないから」と言わないでほしいのです。全部のプロになれとは言いませんし、それは不可能です。しかし、「寄り添う」人がニーズを把握し、それを必要な分野の専門家に「つなぐ」人になれば、ご本人の人生は格段に豊かになるに違いありません。「つなぐ」人になるために、福祉の人には日ごろから広い分野の人とつながっていてほしいと思います。
(村木、pp.190-191)

 小規模多機能型居宅介護事業も、ファミリーサポート事業も、民間有志の実践にはじまったものだ。

 実践や運動が制度化され、さまざまな当事者のニーズが充足されていく。
 社会福祉は、そんな可能性を秘めたクールな実践なのだ。

目次
第1章 社会には「かっこいい福祉」が必要だ
行政はJKビジネスのスカウトに負けている(村木厚子)
福祉をめぐるふたつのバリア(今中博之)
対談 制度のバリアフリー
第2章 困難を抱えた私たちが自立するまで
生きていくにはデザインしかない(今中博之)
対談 与えられた環境と努力
目標は「自分で食べていく」こと(村木厚子)
第3章 福祉の世界で働くあなたへ
対談 これからの福祉を考える
「制度にない」を「制度にする」に(村木厚子)
「わかりあえない」から始まる福祉(今中博之)


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