レッスルエンジェルス三昧な絵日記

ユタカは死なぬ。何度でもよみがえるさ。

ドキドキベースボールエンジェルス 第03話 「対決!?祐希子VS南」

2007-05-02 | ドキドキベースボールエンジェルス

女子野球界の若きエース”新咲祐希子”と
ソフトボール界の美しき職人”南 利美”の本気の勝負、 

絶対に見逃せないこの勝負、皆が食い入るように見つめる中
フィールドの内側には祐希子と来島のバッテリーと南だけが立っていた。

「勝敗の条件はどうしようか?」

ロージンバッグを手で玩びながらマウンドの上から祐希子が聞く

「任せるわ」

何でも無いように言い放つ南は、
投手から向かって右側のバッターボックスに入り、
そして早くも集中力を高めているようであった。

「じゃあ三振を取ったら私の勝ちってのでどう?」

その言葉に南は若干眉を顰めて言葉を紡いだ

「つまり前に打球が飛んだら私の勝ちで良いって事?
・・・祐希子、私のあだ名は知ってる?」

三振以外で自分の勝ちと言う事はぶっちゃけバントでも勝ちなのだ
そしてバッターボックスの南の異名は”バントの女神”・・・

「知ってるけどそれがどうしたの?やりたければしても良いんだよ、バント」

「そんな勿体無い事・・・するもんですか!」

常に冷静な南なのだが祐希子の軽い挑発に対して熱くなっていた

本来、南はスイッチヒッター(両打ち)であり、
右の祐希子に対してセオリーどおりなら左の打席に入るはず・・・

だが実は南には左右それぞれの打席に若干だが得手不得手があった。
右は元々の利き腕が右の為左よりしっかりとスイングが出来、
左は利き目が右の為右よりバットに合わたりバントすることが得意なのだ。

そして南の入ったバッターボックスは右。
・・・思い切り打つという意思表示に他ならない

無論相手がそんな事を知る訳が無いとは思ってはいるが、
らしくもなく少々熱くなってしまったのだ。

「なら別に良いじゃん。それに南ちゃんはソフトの選手でしょ?
ソフトを馬鹿にしてるわけじゃないけど私の方が有利だからそれくらいわね」

その言葉を聞き、別に馬鹿にされてるわけではないとわかると、
南は口元を緩ませてうっすらと笑みを浮かべた。

比較的似ている競技である野球とソフトボールだが、
マウンドからホームへの距離、ボールの大きさなどかなり違うのである。

どちらの方が優れてると言うことは無いが、
この勝負は祐希子の本職の野球での為祐希子が有利と言うことだ

その為、理宇等は祐希子が負けるとは思っていなかった。

・・・だがそんな中で南の事を良く知る山田とユキは
その内心で”まずい”と思っていた

 

 

マウンド上では祐希子が来島のサインを見て首を縦に振る。

 

ゆっくりと投球モーションに入り、全身のバネを使って投げた球は
渾身のストレートとなって相棒のミットへと一直線に走っていった。

 

ヒュンッ

 

・・・だが

 

 

カキンッ

 

その球はバックネットへのファールボールとなり、
来島のミットに収まることはなかった

「(一球目から祐希子のストレートにタイミングを合わせた!?)」

一番間近で祐希子の球を見ている来島は、
今日の祐希子のストレートは早々打たれる球じゃない、
・・・いや当てることすら難しい球だと思っていた。

 

だが南はそれに合わせてきた

 

ソフトと野球・初対決・初球

 

さまざまな不利な条件を物ともせずにだ

 

「まずいよコレは・・・」

「?どうしたの遥ちゃん」

何やらそわそわとしている山田に対して、
その様子を不思議に思った小沢が声を掛ける。

「この勝負祐希子の負けかも知れない」

「!?」

それは祐希子と南の両方のことを良く知っている
山田の言葉だっただけに妙に説得力があり小沢を動揺させた

「祐希子ちゃんのストレートはいつも通りに走ってるように見えるけど何でそう思うの?」

小沢は祐希子の球をよく知ってるだけに信じられないと言った風に聞き返した。

「利美さんはそのバントや守備の技術ばかりが凄いみたいに思われがちですけど、
実はそれらよりももっと凄いのは”動体視力”なんです。」

それに対して今度はユキが答える。

 

そう、職人と呼ばれる南の技術の下地となっているのは”動体視力”なのだ

打撃でも守備でもボールから目を離さない事が一番大事なことである。
勿論一流の選手であればそれは当然のことなのであるが、
南のそれは一流と言う表現では表しきれないものであるのだ。

「・・・恐ろしいことに利美は投げられたボールの回転を見て球種を判別できる」

さらに山田が補足したが、それに対して

「!?本当なんですか、それは!」

理宇が驚いて声をあげていた。
と言うよりも周囲を見れば驚いていないのは、
元から知っていた山田とユキの二人のみである。
まぁそれも彼女達が一流のプレイヤーなのだからそれも当然の事である。

―”ボールを良く見る”と言うl事
バッティングのもっとも基本的な事としてよく言われる事である。
だがそれはあくまでボールの軌道を追う為に最後まで目を離すなと言う事だ。
しかし投げた瞬間に回転を見て球種を判断することが出来ると言うのなら・・・
それはある意味ではバッティングの究極の理想の一つとも言えるだろう。

無論ここにいる者たちはそれを解っているからこそこれだけ驚いているのだ。

「あぁ、だから変化球で利美を三振に取るのは至難の業。
・・・しかもストレートはさっきのファールを見る限り早くもタイミングが合っている」

「大抵のピッチャーならこれで万事休すってわけなんです」

「「「「・・・・・・」」」」

その言葉は周囲を静寂に包む。
何故ならこの勝負は”三振”を取らなければ祐希子の負けなのだ

 

だが、それを破るように声を出したものがいた。

「・・・リウ、ヨクミトイタホウガイイヨ」

「?どうしたの、デスピナ?」

静寂を破ったデスピナの言葉に理宇は素直に聞き返した

「タブンユキコノウイニングショットガミラレルネ」

「え、祐希子さんの決め球ってストレートじゃ・・・」

理宇は日本にいる頃の祐希子の投球を思い出してそう言ったが、

「ストレートだけで通用するほどメキシコリーグは甘くないって事だよ。
現にメキシコに来たばかりの祐希子の防御率は4点台だった

その羽田の言葉を聞いてかつての祐希子の投球を知る者は
それが通じなかったと聞いて軽くショックを受けるのだった。

 

アメリカやカリブの野球大国で早いストレートを投げる投手は山ほどいる。
だからこそ逆にその国の打者達は早いストレートを打つことになれているのだ。

その為ストレート一本で押す投球スタイルだった当時の祐希子は
強打者達の洗礼を受けて苦い経験となったのであった。

 

「だけど帰国直前での防御率は2.48
・・・後半戦だけの数字なら1点台前半って所だわね」

「「「!?」」」

今度言葉に驚くのはメキシコ時代の祐希子を知らない3人だった。
1年を通じて防御率が2点台の先発ピッチャー等日本でもほとんどいない。
それも海の向こうは日本より打高投低なのだ。
そこで1年を通じて2点台、ここ最近の試合だけなら1点台の前半だと言うのだ
話に聞いただけでも十分驚くべき数字であろう。

 

さて、少女達がその様な事を話している一方、
マウンドでは祐希子が2球目のモーションへと入っていた。
そして放たれたその球はまたも一直線にキャッチャーミットに向かい

 

クイッ

 

そしてホームベースの直前で突然南の外側に逃げた。

 

カキンッ


 

・・・だが、それを南は読んでいたかのようにバットを合わせるのだが、


その球は一塁線を大きく右に出て、再びファールとなるのだった

 

「スライダー?」

小沢は自信がなさげに呟く。

「いや、打者の直前まで変化しない所を見ると
アレはカットファストボールと呼ばれる球じゃないか?」

その小沢の呟きに山田が冷静に分析して答えた。

「そう、祐希子得意のマッスラ・・・でもアレは決め球じゃないよ」
注 マッスラとはまっすぐとスライダーの中間と言う意味でそう呼ばれる球である

 

「「「「!!??」」」」

 

今のボールは間違いなくウイニングショットで通用する球である。
だからこそユキも含めた4人は驚くだけだった。

 

 

 

「今のも当てるなんて南ちゃんって凄いわね」

「ありがとう、でもこっちも当てるのが精一杯だったのよ」

とても勝負の途中とは思えないようにお互いを褒めあう二人。
そんな彼女達の口元には笑みすら浮かんでいた。

 

 

祐希子は3球目のサインに肯き投球モーションに入る。

 

 

これから起こる光景を目に焼き付けようと少女達は静寂の中マウンドを見つめる。

 

 

そしてボールは放たれる。

 

ヒュンッ

 

祐希子の手から放たれるボールを見て、南は頭脳をフル回転させる。

 

 

「(あの回転はストレート?球速も軌道も1球目と変わらない・・・いける!!)」

南は腕を折りたたんで、迫りくる球に向かって思いっきりスイングをする。

 

タイミングも軌道もドンピシャ

 

―だがその球を捕らえたかと思った瞬間

 

クイッ

 

ボールがほんのわずかだが南の身体の方にスライドした

 

ブンッ

バシンッ

 

そしてボールは来島のミットにしっかりと収まったのだ

 

 

 

・・・見ていた者達にも何が起こったのか理解できなかった。
遠めに見た限りではストレートに見えたが、
1球目からタイミングを合わせた南が見事に空振りをしたのだ。

「い・・・今の球は何なんですか?」

菊池は羽田かデスピナに解説を求めた。

「アレガユキコノウイニングショット、マイティーボールヨ」

「急速や球威を損なわずにボール一個分だけシュートするボールだ」

ピッチャーの中にはストレートがナチュラルにシュート回転する者も多い。
だが大抵の場合そう言った球は球威が抜けた棒球になりがちなのだが、
祐希子のそれはそんな球とは一味違った。
しかも通常のストレートとの投げ分けが完璧に出来るのだ。

―祐希子のストレートの球速は常時150Kmを超える、
それとほぼ変わらない球がボール一個分打者の直前で変化するのだ。

はっきり言ってストレートだと思って振りに行けば
ほとんどが今の南の二の舞、良くても凡打になり、
逆にシュートだと思ってストレートだったとしても同じ事である。
それだけでも恐ろしいがそれに・・・

「それにさっきのマッスラと併せて左右の変化のコンビネーション」

そう、そしてやはり直前まで変化しない”マッスラ”。
これはさすがに150kmは出ないが、それでも球速が早く
ほとんどの選手は変化するまで見分けることが困難なのだ。

「コレガユキコノイマノスタイルネ♪」

二人が言ったその言葉は、いまだに頭では冷静に受け止められなかったが、
皆の心の中では”打倒東京レディース”と言う目的が確かに近づいたように感じていた

 

「やっぱお前は最高のピッチャーだぜ!」

マウンドに駆け寄り、祐希子を力いっぱい抱きしめる来島の背中を
ポンポンと叩きながら南の方を向きなおして声を掛けた。

「どう、南ちゃん。これで納得した?」

「えぇ、はっきりと負けたわ。」

そんなセリフとは裏腹に南の顔は清々しいものであった

「このまま負けっぱなしってのもシャクだし、あなたに勝つまでやらせて貰うわよ」

「へへ、だったら南ちゃんは一生野球やることになるかもね」

祐希子は笑いながら南に軽口を叩いて、

「・・・そうかも知れないわね」

そう言った南の顔は楽しそうに笑みを浮かべていた

 

そして・・・

 

「よぉーっし、次は久しぶりにボクと勝負だ祐希子!」
始めに言い出したのは山田だった

「あぁーっ、わたしもやりたいわ」
そう言うのは一見のほほんとマイペースナ小沢

「祐希子さん、私とも勝負してください!!」
熱く言い放つ菊池に

「皆さんは以前に対戦したことがあるんですから私にやらせてください!」
ユキもまたその輪に加わり

「こりゃ時差ぼけなんて言ってられないな」
「ワタシモウゴキタクナッテキタヨ!」
羽田とデスピナは身体を動かし始め

「俺も・・・って言いたいけど他にキャッチャーがいないか」
と言って再びキャッチャーマスクをかぶる来島

 

 

強い投手と闘いたがるのはバッターの本能

今の投球を見たら見てるだけなんて我慢できない

何故なら彼女達は野球が大好きなのだから

 

 

 

結局祐希子は皆に対決をせがまれて、皆が二順するまで投げていた。

そして身体を包む心地よい疲れに身を任せ今はグラウンドに横になっていた。
それは残りの8人の少女達も同じだったようで、
座り込んだり横になったりしながらもお互いの健闘を称えて笑いあっていた。

「ところで9人揃ったことだしそろそろキャプテンとかチーム名を決めないか?」

不意に来島はその様な事を言い出した。
基本的にこのチームのことを取り仕切ってきた来島だったが、
この2点は重要なことであり皆で決めようと思っていたのだ。

「キャプテンはヤマちゃんで良いんじゃない?」

「え?ボク?」

祐希子が放った第一声は当人の予想だにしなかった物の様で、
山田は軽くパニックに陥っていた。

「いや、何かこのメンバー見たらヤマちゃんが一番常識的っぽいかな~と思って」

その祐希子の言葉に少し照れていた山田だが

「まぁ逆に言うと個性が弱いとも言うけどね」

小沢の放った一言により奈落に突き落とされ、
山田は膝を抱えて何かをブツブツ言ってるのであった

「あ、実は私ずっと考えてたんですけどチーム名は”エンジェルス”ってどうでしょう?」

理宇の提案した名前を聞き、各々が反応するが
どうやら皆悪い印象は持たなかったようである

「”エンジェルス”かぁ、可愛いいけど強そうな良い名前だね」

ユキがそう言うと皆は一斉に頷いてそれに賛同した。

「じゃあ頭に付けるのは今居るここから取って横浜でしょうか?」

小沢がのほほんとその様なことを言うが、

「”横浜エンジェルス”ね・・・悪くない響きだわ」

その意見にもまた反対はでなかった。

 

 

チーム名もキャプテンも決まり、
少女達はホームベースの周りに集まり円陣を組んでいた

そして山田に促されて祐希子が気合を入れる

「よぉーし、そんじゃ”横浜エンジェルス”の皆!絶対”東京レディース”に勝つわよ!!」

「「「「「「「「オォー!」」」」」」」」

 

こうして南とユキの2人を加えて、
たった9人の女子野球チーム”横浜エンジェルス”が誕生した
この時、彼女達が後に伝説のチームと呼ばれるなどとは
当人である9人の天使達以外誰も信じなかったであろう・・・

つづく

 

あとがき

えっとまず最初に祐希子さんと南さんを強くしすぎたかもしれません(死)

さて、ストーリーはようやくチームを組むところまで行きました。
次回は遂に最強の敵”東京レディース”が出てきます。

>>横浜エンジェルス

このSSをやる以上チーム名はエンジェルスしか無いと思ってました。
横浜にしたのは東京、中日、阪神と頭に付けてみたけど何かゴロが悪かったからです。

・・・べ、別に作者が横浜に住んでるからじゃないんだからね!(死)

ちなみに現時点では最終的に1リーグ6チームを出す予定だったりします。
本拠地はそれぞれ東京、横浜、名古屋、大阪、北海道、広島です。