レッスルエンジェルス三昧な絵日記

ユタカは死なぬ。何度でもよみがえるさ。

ドキドキベースボールエンジェルス 第02話 「チーム結成への道」

2007-04-30 | ドキドキベースボールエンジェルス

 

「祐希子さぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

日本の玄関口”成田空港”に着いた祐希子を待っていたのは、
小柄な少女による強烈なヘッドスライディングだった。

「理宇!」

祐希子はいきなりの事に驚きながらも、
その少女・・・菊地理宇が怪我をしないようにしっかりと受け止めた。

久しぶりに会った尊敬する先輩の姿に感激したのか、
うっすらと瞳を潤ませる理宇の頭を祐希子が”よしよし”と撫でてやる。

その光景を暖かい目で見つめる少女達がいた。

「相変わらず理宇ちゃんは祐希子にラブラブねぇ~」

「いつもながらボクにはわからない世界だよ」

祐希子達のチームメイトでもあった小沢佳代と山田遥は
久しぶりに見る光景に懐かしさを感じながらもそう呟いた。

「ちょ・・・ちょっと山田さん別に私はそんなんじゃ・・・」

「リウ、セットクリョクナイヨ」

そう言って理宇に声を掛けたのは、
メキシコでの祐希子のチームメイトであったデスピナであった。

彼女ともう一人、羽田和子は東京レディースに勝つ為にと、
祐希子と来島から熱心にチームに誘われて日本に来たのである。

!?デスピナじゃない、何時日本に来たの?」

実はデスピナはまだハイスクール生の時代に、
日本の学校へ野球特待生として留学していたことがあるのだ。
その時にルームメイトであり野球のライバルであったのが理宇なのである

ちなみにデスピナが若干発音に難は有るが日本語が堪能なのは
この時に理宇が熱心に教えたおかげでもある。

「ズーットユキコトイッショニイタノニキヅイテナカッタノカ?」

「「「「(・・・祐希子(ちゃん)しか目に入ってなかったな(わね))」」」」

来島、山田、小沢、そして羽田の4人は全員揃って同じ事を思っていた。

 

空港で話し込むのもアレなので、7人は場所を喫茶店に代えて
再会を祝ったり新たな仲間との親交を深めていたりした。

だが、来島がメキシコに言ってる間に起こった事件を聞き、
来島とそして祐希子は驚きに包まれた

「「上原さんが辞めた!!??」」

上原 今日子、”東京レディース”内野陣の要であり、
打率、本塁打、そして盗塁において高い数字を残す大型内野手である。
・・・そしてエースピッチャー佐久間理沙子の親友でもあった。

確かにレディースは離脱者が多数出ているが
それはほとんどベンチや2軍で燻っていた選手達であり、
レギュラーの中ででも特に有力な選手である彼女までもが
東京レディースを退団したと言うのだから驚くのもおかしくないだろう。

「あぁ、しかも上原さんが他の何処のチームに入ったとも聞いてないよ」

「つまり・・・失踪したって事か?」

来島は野球人として尊敬する先輩の現状を聞いて心配していた
上原ほどの選手であれば何処の球団でも欲しいはずなので
”まさかレディースが裏から手を回して何処にも入れないようにしてるのでは?”
失踪という言葉を聞きそこまで考えてしまうのであった。

「そうなの。居場所がわかれば今日子さんも誘ったんだけどね」

確かに上原が来てくれてれば大きな戦力になっただろうと思いつつも、
祐希子はもっとも気になっている事を山田達に聞いた

「で、今ここにいるメンバーじゃまだ7人だけど・・・他に当てはあるの?」

レディースに勝つためとなると生半可な選手ではお話にならない。
しかも今ここにいる選手達のポジションを考えると、

投手 新咲 祐希子、捕手 来島 恵理
一塁 小沢 佳代、三塁 菊池 理宇
外野 山田 遥、羽田 和子、デスピナ・リブレとなる。

これを見ると空いているポジションは内野守備の要であるセカンドとショート。
下手な選手が入ってしまえば崩壊しかねないポジションである。

・・・それだけに上原がいてくれれば良かったと祐希子は思っていた

「あぁ、それなら心当たりが居るんだが・・・」

来島はそう答えるが、その表情も口調も何やら優れない物であった

「・・・言い辛そうって事はあんまり戦力になりそうに無いって事?」

「いや腕前はボクが保証するよ、何せ元チームメイトだし」

祐希子の問に今度は山田が答え、
そしてその答えに祐希子は何故言い辛そうなのかを察した

「ヤマちゃんの元チームメイトって言ったらソフトボールか・・・」

「正解、だけどやっぱりソフトから野球への転向に抵抗が有るみたいでね・・・」

 

 

―少し昔の話になるが、かつて女子プロ野球が出来たとき、
その多くの選手がソフトボールから野球に転向した。

それは”元々野球が好きだったからソフトボールを始めた”
と言う選手が意外にも多かった事と、
当時オリンピックにすら競技が無くなった、露出が少ないソフトボールよりも、
TV放送が決まっていた野球のほうを選ぶ選手等もいた事による。

この時、日本ソフトボール界は一時的に弱体化したが、
残った選手達=本当にソフトボールが好きな選手達が奮起し
現在は復活したオリンピックでも金メダルを取るほどの強豪国となっているのだ。

そんな背景もあって、ソフトから野球への転向に抵抗を覚える選手も多いのだ。

 

 

「まぁとりあえずメンバーが揃ったら練習を見に来てくれるって言ってるから・・・」

「そっか、じゃあその練習でしっかりとアピールしないとね・・・
って練習場所は確保できてるの?」

練習場所はチームとして重要な問題の筈であるが、
祐希子はこの話に至るまでその事を気にしていないし、
問い詰める様も穏やかなものである。

まぁ祐希子の事なので練習なんて土手とかで出来ると思っているのだろう。

「あぁ、横浜の方に以前社会人のチームが使っていたグラウンドがあって、
そこをとりあえず安く借りられることになったから。」

安いと言ってもそれなりの額ではあるのだが、
彼女達もプロの選手としてそれなりの給料を貰っていたので
皆で出し合えばしばらくは何とかなるのだった。

「よし、じゃあ早速今から練習できる?」 

「あぁ出来るぜ・・・って帰国したばかりでもう動く気かよ祐希子!」

来島はそれを聞いて軽く驚くのだが

「だって時差ぼけとか直すのには睡眠時間を合わせるのが一番だし、しっかり日が落ちるまで練習してグッスリ寝るのが一番じゃない?」

「それもそうだな、よし練習するか!」

元より練習好きな為にすぐにやる気が出てきたようだった。

 

もっとも・・・

 

「この二人のタフさには本当に驚きだね・・・」

「ヒコウキデツカレテナイノカ・・・」

メキシコ組みの残り二人はさすがに疲れているのかちょっぴり引いていた

 

 

 

7人は件の練習グラウンドに到着して、
軽くアップをしながら歓談をしていた。

特に話題に上ったのは残り二人のメンバー候補に付いてであった。

「さぁて、どんな娘がくるんだろうなー、理宇は聞いてる?」

「いえ、実は私も知らされてないんですけど」

「まぁ、本当に入ってくれるかわからないから皆をがっかりさせたくなかったしね」

「でも私にも言わないなんて遥ちゃんの薄情者~」

どうやら誰が来るのか知ってるのは来島と山田だけのようである。

そして身体も十分に温まり、軽くキャッチボールなどをしていると、
二人の”茶髪のショートカット”と”黒髪のおかっぱ”の髪型をした少女達が
グラウンドに現れて皆に声を掛けてきたのだ

「こんにちは~皆さん」

「思ったよりしっかりした設備で練習してるのね」 

その場に居るもの達、
中でも理宇は現れた二人組みの姿をみて物凄く驚いていた。
それはまさに思っても居なかった人と出会ったかの用である

「み・・南さんと桂木さん!?」

と驚きのあまり思わず声をあげてしまう菊池理宇だった

「あれ、何で驚いてるの?」

茶髪にショートカットの少女”桂木 ユキ”は
何で驚いてるのかわからないといった感じで理宇に問いかけた

「別に驚かせるようなことは何もしてないんだけど?」

黒髪におかっぱの少女”南 利美”もまた、
驚かれた理由がわからなく頭に?マークを浮かべていた

「そりゃ驚きますよ!だって南さんと桂木さんと言ったら
日本ソフトボール史至上最高の二遊間と呼ばれてる2人じゃないですか!?」

そう、この二人はソフト界の中でもかなりの実力の持ち主で、
オリンピックにも出場した紛れも無い有名人なのであった。

もっとも二人ともそんな事はまったく気にしてないので知らなかったが・・・

 

―南利美 守備とバントの名手であり、派手さは少ないが
完璧を自称する決してミスをしないプレイは玄人を唸らせ、
監督がもっとも使いやすい 選手とも呼ばれている。
通称”バントの女神”

―桂木ユキ バッティングどころか守備まで独自なプレイスタイルで、
特に”震電”と呼ばれる独特のバッティングフォームは
誰に批判されても変える事が無く、実際にその成績で周囲を黙らせてきた。
通称”ブリザード・ユキ”
(あだ名の由来は、フォームを変えようとする監督に真っ向から反論して
周囲の人間を冷や冷やさせたためだと言われている)

この2人は一見するとあまり気が合わなそうであるが、
実際はそれぞれ譲れないこだわりがある所など、
芯の部分で似ている所があり実は仲が良かったりするのだ。

 

「それで、二人とも野球をやってくれる気にはなった?」

山田は二人の意思を聞いていた。
もし二人が入ってくれなければまた他の選手探さないといけないのだ。

周囲が固唾を呑んで見守る中、ユキが少し申し訳なさそうに答えた

「私は別に良いんですけど利美さんがまだ・・・」

「あら、私も嫌な訳じゃないのよ。ただちょっとその前にね・・・」

山田はその言葉に首を傾げるが、二人の元には祐希子が近づいていった。

「えっと、南ちゃんとユキちゃんて呼んで良い?」

「良いわよ、私は祐希子って呼ぶわね」

「それじゃ私は祐希子さんって呼びます」

祐希子は初対面の為まずは軽い挨拶から入り

「それで、それだけソフトで実績を残してる2人が
なんでまたこんな話にちょっとでも乗る気になったの?」

そして率直に自分の疑問だったことを二人に聞いた。

「・・・すみません、私の方はプライベートな事なので言えません」

と言うユキの答えには皆が不思議な顔をした。
ソフトを辞めて野球をやるのにどんなプライベートがあるのかと・・・

だが次の南のセリフでは周囲には電撃が走った

「私は貴女に興味があったのよ、祐希子」

 

ピキッ

 

その答えに一瞬時間が止まったかのように静寂が走り

「な・・・ナ・・・NA・・・」

祐希子への思いと言うか愛情がもっとも高い少女がまず再起動を果たした

 

「何を言うんですかぁ!!

祐希子さんに興味があるだなんて!!!

そんな事・・・そんな事許せません!!!!

まずは祐希子さんに手を出そうってのなら

まず私を倒してからにしてください!!!!」

 

「「「「「(・・・・・・ヤッパリホンモノだったのね)」」」」」

何故か周囲の皆が冷や汗をかきながらその様なことを思っていた。

 

「(汗)・・・貴女何か勘違いしてない?」

良く理宇の事を知らない南までもその剣幕に冷や汗をかきつつ話しかけた

「え?」

そして話しかけられた理宇も少し冷静になって頭に?マークを浮かべていた

「私は投手としての祐希子に興味があると言ったのよ」

「あ///」

それを聞いて理宇は今更ながらに自分の恥ずかしい告白に顔を赤らめた。

 

・・・そんな理宇を半ば無視して南は話を続けた

「遥は私達が知る中でもバットに当てる事にかけてだけは一番の選手・・・」

「・・・何かその言い方だと馬鹿にされてるような気もするんだよね」

山田は南の”バットに当てることだけ”と言う言葉に少し寂しくなった。

「だからその遥が紅白戦で3連続三振を食らったと聞いたときは驚いたわ」

「あぁ、アレはたまたまだってば」

祐希子は山田の実力も認めているので謙遜してその様に言ったが、

「・・・ボクはたまたまで3つも三振取らたのか」

どうやら山田の方はそうは受け取らなかったようだ。

ちょっぴり涙も出てきたのであった。

「いや、ヤマちゃんそんなに落ち込まないで・・・
んで結局南ちゃんは何が言いたいの?」

何だかグラウンドの隅のほうで座り込んでいた山田を励ましながらも、
祐希子は南の方を向き直りそう問いただした

「率直に言うわ。祐希子、私と勝負をしてちょうだい」

そう冷静そうに言い放った南だがその瞳は熱く燃えているようだった

「ふーん、それで私が勝ったらチームの一員になってくれるのかな?」

そしてそれを見て祐希子もまた身体の芯から熱くなっていくのが解った
―お互い一流のプレイヤーだけに相手の力量が感じ取れたのだろう

「そうね、本気で投げて貰えるようにそうした方が良いかしらね・・・」

 

こうして期せずして祐希子と南の1打席勝負が始まったのだ
野球とソフトと言う枠の差はあるが、お互いに超一流と言って良い選手同士。
果たして勝つのはどちらなのだろうか?

つづく

 

あとがき

今回の内容は南さんの道場破りイベントです。
本編から考えると時間軸がおかしいですが、
このストーリー上ではここでやった方が自然だと思い組み入れました。
いや、だってメンバー9人集めるのに1ヶ所から9人抜けたりするのもどうかと思ったので・・・

ちなみに本当はこの話でチーム結成までやりたかったのですが、
話が伸びて伸びてブログの文字制限を超えてしまいまして急遽分割しました。

あとちょっぴり理宇が怪しい感じがして、ヤマちゃんが不幸な目にあってる気がしますが
これもキャラの個性化&話を面白くする為だと思ってください(ぇ

>>当時オリンピックにすら競技が無くなった
>>復活したオリンピックで

前半は実際に北京オリンピックを最後に野球とソフトボールが
オリンピック競技から外れるのでこの様に書きました。
後半は自分の希望も込めてと言う事で


DBA第2話を書きながら

2007-04-29 | レッスルラクガキ

現在ドキドキベースボールエンジェルス第2話は7割がた出来ておりますが、
絵を描かないで文だけ書いてるのに耐えられなかったりして、
今現在は落書きタイムだったりします(死)

それなら挿絵を描けば良いじゃないかと言われそうですがな

まぁ早ければ本日中、遅くても明日の早い時間にのっけられそうです。

とりあえずDBA本編はGW中に試合まで持っていって、
後は週一くらいで少しずつ進めていこうかと思ってます。

それと出来れば選手紹介にも色を付けたいのですが、
そうすると塗るのが遅い自分は1人辺りに5・6時間掛かりそうなので・・・

とりあえずユニホームのデザインの確認に描いた南さんのっけときます


ドキドキベースボールエンジェルス 選手紹介その3

2007-04-28 | ドキドキベースボールエンジェルス

世間一般はGW連休開始~。
ここ数年、自分には関係ないと思ってたら、
今の仕事は土日祝日がしっかり休みの為かなり時間が出来ました。

とりあえず絵の練習とDBAの続きを描くことに集中。
特に野球のプレイを表現するのに野球漫画や
雑誌やネットで探した実際のプロ野球写真を参考に練習しております。

連休が明けるまでにもう少し納得がいく物が描きたいものだなぁ・・・

 

選手紹介その3

 

羽田 和子
所属:横浜エンジェルス
ポジション:レフト
背番号:30

走・攻・守の全てが高いレベルにある選手。
魅せるプレイを信条とする生粋のパフォーマーであり、
試合中に背面キャッチやジャンピングキャッチを見せることもしばしば
打撃は高不調の波が激しいが、好調時の固め打ちは手が付けられない

イメージ選手:新庄 剛志

デスピナ・リブレ
所属:横浜エンジェルス
ポジション:センター
背番号:66

スピードに絶対の自信を持つメキシコ球界の若手ホープ
バッティング等のプレイにはまだまだ荒々しさが残るが、
その足の速さを生かした守備範囲の広い外野守備と
塁に出れば確実に得点圏に進む盗塁・走塁技術はもはや一流の域

イメージ選手:村松 有人


ドキドキベースボールエンジェルス 第01話 「白球を追う少女達」

2007-04-27 | ドキドキベースボールエンジェルス

 

ブンッ

バシンッ

 

「ストライーク!」

 

審判の声が高らかと響く、ここメキシコのとある野球場。
熱きラテンの国の空の下、観客達の視線は
マウンドに居る一人の日本人の少女に視線が注がれていた

 

 

少女の名前は新咲祐希子。

アメリカ女子メジャーリーグ入りを夢見て日本を飛び出し、
ここ、メキシコのリーグに参加している選手であった。

 

現在この球場で行われている試合は現在9回2死
バッターボックスの打者はあっさりと2ストライクと追い込まれていた。

スコアボードに目を移せばそこに並ぶのは0の文字、

 

そう、少女はここまで相手に1点も許してないのだ。

 

だがそれは決して対戦した打者達が情けないのではない。

 

ここメキシコではカリブ海の野球大国ドミニカやキューバ、
プエルトリコ等からも多くの選手がプレイをしていて、
選手の平均レベルはけっして低くなど無いのである。

 

マウンド上では祐希子がキャッチャーからのサインに頷き、
周囲が固唾を呑んで見守る中、ゆっくりと投球モーションに入る。

足を大きく振り上げ、全身のバネをフルに使ったモーションはとても美しく、
そして放たれたボールは一直線にキャッチャーミットに向かい・・・

 

 

ブンッ

バシンッ

 

・・・そのままキャッチャーミットに収まった

 

「ストライーク!ゲームセット!!」

 

「よっしゃぁ!!!」

 

ワアアアアアァァァァァー!!!!

 

祐希子が咆哮を上げると共に、大きな歓声が球場を包み、
そして電光掲示板に写った球速は
この日最速となる98マイル(約157km)を記録していた。

 

 

「完封おめでと!祐希子!!」

このチームにいるもう一人の日本人。
羽田 和子はすごい勢いで走ってきて、
そのままマウンドの祐希子に真っ先に飛びついた

「ユキコ、キョウハスゴイピッチングダッタネ!」

チームのムードメーカーであるデスピナ・リブレも笑顔で腕に組み付いていた。 

「えへへ、羽田ちゃんやデスピナがしっかり守ってくれたおかげだよ」

「なに言ってるんだい、外野にきたボールなんて数えるほどじゃない」

 

この二人はそれぞれレフトとセンターだが、
今日の試合での守備機会は二人とも2回か3回なのだ。

スコアブックを見ると外野に飛んだ打球はフライが3つと
内野を抜けて安打になったゴロが2つだけで、
その一方で三振は16個にもなっていたのだった。

「あれ、そうだったっけ?」

祐希子は本当に知らないと言った感じでそうつぶやき

「・・・ユキコハシアイノコトナーンニモオボエテナイノカ?」

「まぁそれが祐希子だしね」

2人はその様子を呆れながらも笑って見ていた。

 

さて、笑いながらもベンチに引き上げようとする3人だったが、
不意にベンチの真上のスタンドの方から声がかけられた。

「お~い!祐希子~!!」

声をかけたのもまた日本人の少女だったが、
その少女を見た祐希子は驚き叫んだ

「!?恵理!なんでメキシコにいるの!?」

それはまだ祐希子が日本にいた頃にバッテリーを組んでいた
キャッチャーの来島恵理、その人であったからだ。

・ 

 

場所は変わってここは祐希子が住むアパートの一室である。

あの後久々の再会を祝った彼女達であったが、
来島が大事な話があるからと言って場所をここに移したのだ。

「それにしてもよくメキシコまで来たわね~。そっちのリーグ戦はもう終わったの?」 

祐希子はメキシコに来てからあまり日にちを気にしてなかったので、
もう日本での秋季リーグが終わったのかと思い、そう聞いたのだが

「いや、今終盤戦に入ったってところだ」

来島から返された言葉はそれを否定するものであり、
その言葉を不思議に思った祐希子はさらに聞き返すのだった

「そんな大事な時期にメキシコまで来て良かったの?」

来島は祐希子と同じ球団でバッテリーを組んでいた
正真正銘の女子プロ野球選手である。
そのプロである筈の来島ががリーグ戦を放ってここメキシコにいるのだ。
それも祐希子の知る来島は誰よりも野球に直向であり、
けして試合を二の次にするなど考えられなかった。

 

・・・だが、次に来島が言った言葉はそんな考えなど吹っ飛ばすようなものだった

 

「あぁ、別に構わないさ、退団してきたから」

「へぇ~・・・って退団したぁ!?

まるで何でも無いかのように言う来島の言葉に、
祐希子は驚き思わず叫び声をあげた。

「おう!きっぱり辞めてやったぜ!」

そう言った来島は笑顔でポーズを決めていた。

「もったいないわよ、恵理だったらいずれはレギュラーになれると思ってたのに」

祐希子は来島の実力を認めている。
だからその内スタメンのマスクを被る事になるだろうとずっと思っていたのだ。

 

「そりゃアレだ・・・お前ならわかるだろ?祐希子」

 

その一言に祐希子は顔を明らかに歪めて、

「・・・って事はあの球団の体質は未だ変わってないっての?」

そう不機嫌そうにそう言い放ったのだった

「あぁ、お前が辞めたぐらいで簡単に変わるような”東京レディース”じゃないさ」

 

 

祐希子と来島が所属していた球団は”東京レディース”と言って、
日本の女子野球の先駆けであり、間違いなく日本で最強のチームであった。

その中で祐希子は未来のエース候補と呼ばれていたが、
当時のチームの絶対的なエースである左の龍崎藤子と
右の佐久間理沙子の2人を1軍で使い続けて、
祐希子には2軍から上がるチャンスすら与えられなかった。

注:ここでの女子野球のリーグはプロ野球やMLBと違い
週に2~3試合のペースで行われているので、
先発投手2人でも回りきってしまうのだ

 

・・・東京レディースは球団創立の際に3つの大目標をたてていた。

東京レディースは強くあれ

東京レディースは淑女たれ

東京レディースはアメリカメジャーリーグに追いつき追い越せ

 

確かに東京レディースは強かった。
優秀な選手が他に行かない様、その時の祐希子の様に
他の球団なら・・・いやレディースの中でも十分1軍で通用する選手が
2軍にもたくさんいるのだから。

では何故この祐希子のようにチャンスすら与えられない選手が出てくるのか?

それは大して実力が変わらないのならば、未知数の選手を使うより
人気と実績の有る選手を使った方が良いと言う球団の方針にあった。

 

それに反発した祐希子はこの年の初めにレディースを退団して、
一人海を渡りここメキシコでプレイしているのだった。

 

だが、その後もレディースの強さに変わりは無く
その球団の方針も変わることは無いかに見えた。
だがその矢先に東京レディースが激震する事件が起こるのだった。

 

絶対的なエースである龍崎藤子が肩を壊したのだ。
それは人気の有る良い投手をとにかくたくさん使うと言う
球団の方針を皮肉っているようでもあった。

 


だが、東京レディースはここでさらに信じられない事をするのであった。

 

・・・レディースは故障した藤子の復帰を期待することなく解雇して、
その一方で日本ソフトボール界のエース、
オリンピックで金メダルを獲得する原動力となった吉原泉を獲得したのだ

 

この球団の行為には当然ながら選手達からも不満がでた。

”どんなに球団の為に頑張っても怪我一つで見捨てられる”

”せっかく出来たチャンスを2軍の選手に与えることも無く、
実績と人気の有る選手を他から取ってくることで埋める”

当たり前だが選手達はそう思ったのだ。

 

「そんな事があったのか・・・藤子さん・・・」

祐希子にとって藤子はただの先輩ではなかった。
高校時代荒んでいた祐希子に野球の面白さを教え、
常に上で超えるべき存在としていたのが他ならぬ藤子だったのだ。

「それが理由で恵理もレディースを辞めたの?」

そんなことが起こったのじゃ不満を覚えた選手達が
退団してもしょうがないかと祐希子は思ったのだが

「いや、俺が辞めた理由は実はちょっと違う」

来島はそれを否定してさらに言葉を続けた。

「東京レディースは確かに強い、
確かに球団のお偉いさんはそれで良いかも知れない。」

 

球団のフロントの仕事は勝てるチームを作ってなんぼだ。
強引な手腕だろうとレディースを最強のチームにした事自体は
むしろ褒める事であるかも知れない。

 

だけど本来競い合う相手がいてこその野球だ!
・・・このままじゃいずれは日本の女子野球の火は消えちまうぜ」

そう言った来島の顔は悔しさで一杯だった。
その悔しさはレディース自身よりもそれに勝てない、
勝とうとしてると感じられない他球団にこそむしろ向けられていた。

・・・来島は誰よりも野球を愛していると言っても良い。
そんな彼女からすれば圧倒的な1チームが常に勝つ野球は
退屈極まりないものであり、何よりも許せないのであった。

 

そして来島の危惧しているように現在の日本女子野球界において、
東京レディースが競い合う相手はまったくいないのだ。



現在終盤戦に入ろうかとゆうリーグ戦でも、
首位レディースと2位の名古屋ワールズとの差は7ゲーム差。
しかも2位以下が団子状になってるのではなく、
2位と3位の間にも5ゲーム差がついているのだ。

そんなレディースのあまりの強さの違いを表すエピソードが
天王山と言われた件の名古屋ワールズとの直接対決においてあった。

レディースは絶対的エースである佐久間理沙子を先発させ、
一方のワールズもエースの宮城をこの直接対決にぶつけたのだ。
お互いのチームのエース同士の対決となるこの試合だが、
試合前には投手戦で1点を争う試合になるだろうと予想されていた。

 

だが終わってみれば12-0でのレディースの勝利。

 

・・・誰もが予想しなかったワールズの大敗であった。

 

この試合でエース佐久間は12奪三振、無四球の完封勝利をあげ、
一方打線では4番市ヶ谷が宮城を相手に2HRを放っていたのだった。

敗戦のショックからか、ワールズのエース宮城は調子を崩し、
その後5連敗でシーズンを終えて先発の座を失うことになるのだった。

この後、名古屋ワールズの人気・成績ともに低迷の一途をたどるが、
それ故に任された新人監督の手による大幅な改革によって
後に日本一のスラッガーの座を競う選手や、
ID野球の申し子と呼ばれる選手達が頭角を表す事になるのだが、
それはまだもう少し未来の話である。

話を戻そう

来島の叫びの後、静寂に包まれる室内の中、
祐希子がさらに驚くような事を来島は言った。

「祐希子、俺はレディースに勝てるチームを作ろうと思う」

「!?」

祐希子はその言葉に愕然として、

「その為にはお前の力が必要なんだ!」

そしてここで初めて祐希子は来島が何故メキシコに来たのかを理解した。

そう、祐希子を自分の作ろうとするチームに誘う。
ただその為だけに来島ははるばる日本から来たのだ。

「・・・俺が受けてきた投手の中で祐希子以上の投手はいなかった。
だからお前抜きじゃレディースを倒せるチームなんて俺には想像できない!

「・・・」

その言葉を聞き、新咲祐希子は本人でも信じられないくらいに深く悩んでいた。

彼女は野球が大好きだ。
だからこそ未だ見ぬ強打者達との対決を夢見て、
悪習が根付く日本に見切りをつけて海を渡ったのだから。

だがそれと同時に彼女は日本と言う国、
そして今この目の前にいる親友も大好きだったのだ。

その日本でせっかく根付こうとしている女子野球が早くも衰退しようと言うのだ。
自分にどれだけの事が出来るかはわからないが、
わざわざ親友がはるばるメキシコまで自分を誘いに来て、
その衰退を自分達の手で止めようと言うのだから心躍る物がある。

それに何より遠くない未来に自分達の下の世代にも
今のトップ選手を超える素晴らしい選手達が登場するかもしれない。
だがそれも今女子野球が衰退してしまったら、
その才能の芽を咲かす場がまったく無くなるかもしれないのだ・・・

「恵理・・・わかった」

そう言った祐希子の瞳は決意に燃え、
その手は来島の手を掴んで力強く握るのだった。

「!?それじゃあ」

その姿から決意を感じた来島は表情を明るくして聞き返し、

「うん、恵理と一緒に日本に帰るわ!」

祐希子はそれにはっきりと答えるのであった。

遥かメキシコの空の下での少女たちの誓い。
この瞬間、翼を持った少女達の伝説が始まったのだ・・・

つづく

 

 

あとがき

このSSはレッスルVシリーズや美少女レスラー列伝にしか出てこない選手も出てくるので、
サバイバーしかやってない人からすればわかりにくい部分も多いかもしれません。
もそうでもしないと1チーム最低9人の野球チームを組むのが難しくなるのよね・・・

いや、まぁサバイバーの選手達を使えば良いかも知れないけど、
最初からそれだとストーリーの流れに乗せるのが難しくなるし(爆)

あ、ちなみにサバイバー組に3人娘やメグチグはしばらく出てきません。(死)

それと後書きでは主に野球ネタの補足を少し書いて置こうかと

>>東京レディースは強く~

はい、某読売さんのを丸々使わせていただきました。

後”東京レディース”の名前はヤンキースをもじっております。
男の不良=ヤンキー、女の不良(暴走族)=レディースってな感じで。

次の話では祐希子達のチームが結成しますが・・・
きっと名前は皆さんが予想している通りになるかと(笑)


ドキドキベースボールエンジェルス 選手紹介その2

2007-04-27 | ドキドキベースボールエンジェルス

ゴールデンウィークを目の前にして仕事の疲れが一杯
そして絵の調子までいっぱいいっぱい(死)

今日はもうこれ書いてすぐに寝ます・・・

選手紹介その2

菊池 理宇
所属:横浜エンジェルス
ポジション:サード・ファースト
背番号:8

白ハチマキがトレードマークで、玉砕覚悟のヘッドスライディングと
小柄な体格ながらパンチ力の有るバッティングが持ち味
また足も速くリードオフマンとしても一級品
新咲祐希子の事を尊敬と言うかもはや崇拝している

イメージ選手:仁志 敏久

南 利美
所属:横浜エンジェルス
ポジション:(本職は)セカンド
背番号:6

どんな状況でもきっちりと自分の仕事をする仕事人
特にその変幻自在のバントは玄人をうならせ、
”バントの女神”の異名を持つ
また内野なら何処でも守ることが出来る守備職人でもある

イメージ選手:川合 昌弘