ユーラシアウァッチ:ロシアから見る世界情勢

ロシアは一帯一路の地政学的要所。米中対立や中東対立のキープレイヤー。マスコミのロシア情報は貧しい。その致命的穴を埋める。

色丹の水産加工場建設にはアメリカも参加 プーチンはコメントに窮していた?

2019-09-11 17:03:08 | 北方領土

 各紙が報じている通り9月5日当方経済フォーラムの枠内で、プーチン大統領は色丹島に建設された水産加工施設のオンラインプレゼンテーションに立ち会った。安倍晋三首相との会談直前であったため、北方領土への実効支配を強める立場を示す牽制として受け止められた。
 例えば9月5日付日経新聞の記事は、プーチンが北方領土でさらなるロシア企業設立を推進したかのように報じている。
「色丹島の水産加工場は、水産・建設などを手がける北方領土最大の企業ギドロストロイが色丹島穴澗(あなま)に建設した。稼働を祝福したプーチン氏は、こうした施設はこれが最後ではないとの期待を表明し、今後も北方領土のインフラ整備を進める姿勢を示した」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49431960V00C19A9000000/
 しかしロシア連邦大統領公式サイト(http://www.kremlin.ru/events/president/news/61445)でビデオカンファレンスの場面を確認してみると、プーチン大統領がこの色丹の「水産加工場」については歯切れの悪いコメントになっていることがわかる。まず「こうした施設はこれが最後ではないとの期待を表明し」の部分だが、プーチン氏は「我らの極東でこれが最後の新設企業ではないと期待している」といったに過ぎない。わざわざ「色丹」や「南クリル(ロシアは北方領土をこのように呼ぶ)」という新設企業立地地域への言及を避けている。
 そもそもこの色丹の水産加工場プレゼンテーションは、極東で行われている経済プロジェクト4つの紹介のうちの一つという位置づけである。そのほかにも、このオンラインプレゼンテーションでハバロフスク国際空港の新ターミナル、ヤクーチアにおける銀山の開発、アムール州におけるガス化学コンビナートが紹介されている。
 日本のプレスでは報じられていないが、プレゼンターは「この水産加施設の建設は国際プロジェクトとして実施され、アイスランドの技術が用いられるとともに、米国の専門家も参加した」と述べている。ちょうどその場面でプーチン氏が、気まずそうに頭をかくシーンがあり印象深い。
 現状ロシア市民が居住する地域でのインフラ整備は大統領として歓迎するが、このタイミングでアメリカも参加した国際プロジェクトとして色丹の水産加工場を見せられることは本意でなかったこともありうる。
 これまで実効支配を強調するための現地の訪問は大統領時代も含めてメドベジェフに一任してきたことからも、プーチン自身が北方領土とのコンタクトすることに慎重であることは明らかだ。
 ロシア極東の市民や地域発展にかかわるステークホルダーは概して、プーチン大統領による北方領土引き渡しの可能性を懸念している。6月の日ロ首脳会談の前にも「新設の小学校のロシア国旗を降ろす気か」と記者に詰め寄られ「そんな計画はない」と答えに窮した場面があった。それが日本では「プーチンが北方領土を引き渡す気はないと強気の発言」と報じられた。
 https://blog.goo.ne.jp/eurasiawatch/e/f8060ac8729b5110549320c57ce32d5e
 交渉相手国の要人発言については、言葉を正確に訳し、発言した際の表情まで分析するようなモニタリングが必要である。 
 そうでないと引き出しうる妥協さえも失うことになりかねない。
 

モスクワデモ監視に銀行個人情報データベースを活用

2019-09-02 08:46:34 | AI ブロックチェーンなど

 モスクワでは9月8日の市議会議員選挙を前に、独立候補への妨害に反対する大規模デモが頻発し、緊張が高まっている。
これに先立つ8月3日、「モスクワ警察が町中の監視カメラ網を始動させる」と報じられた。AI(人工知能)による個体識別機能が搭載された監視カメラを使い、「対象者の移動ルートを完全に追跡し、自宅まで突き止める。これで扇動者たちが監視の目をかいくぐるのは不可能になる」(インターネットジャーナル「スローヴォ・イ・ジェラ」)。
 監視カメラ網は国営銀行ズベルバンクが開発サポートしたもの。
 同行は国民の70%が利用し、顔人称、送金入金、問い合わせ履歴など膨大な個人情報をため込んでいる。
 この個人情報と監視カメラデータを突き合わせて、無名のデモ組織者を割り出すことが可能だ。
 ハイテク監視網が張り巡らされたモスクワデモ弾圧の裏側を探る。


 詳しくは東洋経済オンライン掲載の拙稿
 カネも通信も丸裸、ロシア「監視社会化」の恐怖ー「ハイテク捜査網」がデモを心理的に圧迫ー
 (ちょっとタイトルがステレオタイプすぎるが)
 https://toyokeizai.net/articles/-/300097