【ロンドン町田幸彦】英政府の直轄機関「ヒト受精・胚(はい)機構(HFEA)」は5日、核を除いた動物の卵子に、 ヒトの細胞核を注入する「ヒト性融合胚」の作成を原則承認したと発表した。さまざまな細胞や臓器になる胚性幹細胞(ES細胞)を、 ヒトの卵子を使わずにつくれるため、パーキンソン病、アルツハイマー病などの治療に役立つ可能性があるという。 英ロンドン大とニューカッスル大の二つの研究チームが11月にも着手する予定だが、「人間の尊厳を冒す」との批判も出ている。
ロイター通信などによると、チームは細胞の核を取り除いたウシかウサギの卵子に、 ヒトの皮膚などの体細胞の核を注入する研究計画をHFEAに申請した。作成される細胞は99・9%がヒトで、0・1%が動物になる。 入手が難しいヒトの卵子の代わりに動物の卵子を使うことで、研究の進展が期待される。
HFEA報道官は「個々の申請について検討し、認可する」と述べた。
HFEAは承認申請の検討で約2000人の意見を聴取した結果、回答者の61%が「病気の原因解明や治療に役立つ」 として支持したという。
今回の決定に、英国内のパーキンソン病患者らに支持する声がある一方、生命倫理を重視する研究者や市民団体は強く反対している。 リナカー健康倫理センターのヘレン・ワット博士は英BBC放送に「胚をつくり出すことは人間性を否定する暴挙だ」と非難した。
◇日本では禁止
英国政府が認めたヒト性融合胚の作成は、日本では禁止されている。英国の承認は政府レベルとして世界初とみられ、 日本でも議論再燃の可能性がある。文部科学省は「現行の指針を見直す計画はない。ただ、英国の方針を受け、 日本でも改めて議論が進むかもしれない」としている。【田中泰義】