えんたんと読書

2015年開設。メーカー営業女子の日頃読んだ本や読書に関係したコラムなど日々綴っています。

睡眠の科学・改訂新版 なぜ眠るのか なぜ目覚めるのか (ブルーバックス) 櫻井武

2018-04-20 23:27:22 | 自然科学
「オレキシンから見た睡眠活動」

人はなぜ睡眠をとるのか。
長い間多くの科学者がこの疑問に立ち向かい、それでも今日まで説かれることはなかった。
そんななか、『オレキシン』という物質が発見されたところから睡眠科学は急速な発展を遂げる。
本書は、オレキシン発見者である櫻井武先生(筑波大学 国際睡眠統合医科学研究機構)の著書である。

ところで、「オレキシン」を知っていることで我々になんの利があるのか?というところから話を進めたい。
まず、著書の櫻井武先生および、共同研究者の柳沢正史先生は何度もノーベル賞候補に挙がっている。
そんなわけで、「日本人ノーベル生理学賞受賞!」という日に、オレキシンを知っていると周囲に自慢できる。
オレキシンを知っていくことで、『生き物はなぜ眠るのか』という答えを導き出すことができる。
医療の分野でもナルコレプシーの治療につながり、副作用のない安全な睡眠薬の開発に繋がっている。


それでは、オレキシンとはいったいどんな物質なのだろうか。
人間の脳は”覚醒モード”と”睡眠モード”がシーソーのように、またスイッチのように切り替わる仕組みになっている。
その詳細な仕組みは本書を読んでもらえると良い。
一度”覚醒モード”にシーソーが傾いたとき、そこに重りのやくわりを果たす物質が『オレキシン』。つまり覚醒を維持する脳内ペプチドが『オレキシン』なのである。


オレキシンの発見の経緯もなかなか興味深い。
オレキシンの語源は”オレキシャス”、ギリシア語で【食欲】を示す言葉だ。
そう、櫻井先生はもともとは食欲研究の先生であったのだ。
このオレキシン欠損マウスの食欲は正常マウスより5%食欲が低い。
それを観察しているうちに、オレキシン欠損マウスがナルコレプシーの症状を示すことに気づいた。
これが、オレキシンと睡眠研究の始まりだったのだ。
櫻井先生自身も、まさか食欲研究が睡眠研究に変わってしまうなんで夢にも思っていなかっただろう。


オレキシンの役割を追っていくうちに、我々の昨今の認識が、じつは間違いではなかったかと気づく。
【生き物は、活動の合間に休息のために睡眠を取っているのではないか?】をいう問いが一般的だろう。
しかし、本書を読み進めていくうちに
【生き物は、睡眠状態がデフォルトの状態だ。危険から身を守るために、または食べるために ”無理をして” 起きているのだ】
という考えにも行きつく。

植物は自分で動かなくても、エネルギーを生成し生殖をして生き延びることができる。
しかし動物は動かなければ生きていけない。
実は植物こそが高等生物で、動物は下等生物なのではないだろうか。
人間社会においても、あくせく動いて働いて稼いでいる人間より、ほとんど動かないでもお金を生み出せる人間の方が
なんだか偉いイメージがある。


眠るとは何か、起きるとは何か、
解明される日が待ち遠しくなる一冊だった。




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