VIXX!暗闇を照らせ!

*性的表現を含む場合タイトル横にR18と表記します。
*実在の人物の名前を借りたフィクションです。

〈一部修正しました〉【trash番外編】プレゼント

2018-02-03 00:48:48 | trash (ウォンシク×ホンビン)

 

 

※12月にアップしたお話しなのですが、どうしても納得がいかなくて一部修正いたしました。
(申し訳ありません><)
 ラストシーンが変わっています。

 

 

 



 

 

 

 

 

【 プレゼント 】








「だってもう飲めるから」
ノートにボールペンを走らせながら、ホンビンは事も無げに言った。

勉強中にウォンシクがふと漏らした「お前、あの時酔っていたんだろ」という言葉が始
まりである。未成年のくせに酒を飲むのはよくない。法律に反しているし、そもそも酒は
脳を壊すんだからな、と父親の受け売りの説教した後に返ってきたのがこの言葉だった。

「僕もう成人したから」
「え」
思いがけないホンビンの言葉にウォンシクの顔は引き攣った。
「え、え、お前19になったの?誕生日来たの?」
「うん」
「いつ」
噛みつくように言ったウォンシクの顔を眠そうに見ながら、ホンビンは「先月かな」と言った。

「なんでなんで言わないんだよ」
「なんで言わなきゃいけないんだよ」
 向けられたホンビンのまん丸い目を見てウォンシクは絶句した。
誕生日なのに、わかめスープも食べなかったのかよ
「食べたよ」
「え」
 左手に持ったボールペンをくるくると器用に回しながら、ホンビンは遠い目をした。
「お手伝いのおばさんが作ってくれた。あの日朝出る時玄関先で呼び止められて台所
引っ張り込まれて無理やり食べさせられたんだ」
「……」
「すごく美味しかった」


「な」
しばらく絶句していたウォンシクがはっと我に返り声を発すると、ホンビンが横目で見た。
……なんでおばさんがお前の誕生日知ってるんだよ。なんで俺が知らなくておばさん
が知ってるんだよ」
「さあ。そう言えばなんか前に訊かれたような気もするなあ」

俺はわかめスープなんて食ってない。先月わかめスープがおかずに出たという記憶がないぞ」
「そう?まあ僕が食べ終わって家を出る時も、お前まだ寝てたみたいだったからな」
……

考えてみれば、ウォンシクの朝には朝食のおかずを味わって食べる余裕などないのだ
った
。毎朝バタバタと駆け降りてきて、完全に寝ぼけた状態で食卓の上に用意してあ
何かをかっ込んで、バス停に走りながら飲み下す日々

――考えてみれば、俺は今まで朝飯が甘いかしょっぱいかも意識したことがなかった……

「そうだ。そういえば、お前の妹にもプレゼントもらったな」
ホンビンの思いがけない言葉に、物思いに耽っていたウォンシクは弾かれたように顔を上げた。
「ジウォニが?お前に?」
ホンビンは頷いた。くるくると回していたノック式のボールペンを持ち上げて左右
振るとノックボタンに繋がれたバスケットボールのマスコットがホンビンの笑顔の
前で
カチャカチャと音を立てながら揺れた。


「僕がバスケが好きなこと知っててこれを。可愛いだろ」
「お前バスケが好きなのか」
「うん」

ウォンシクは全身から血の気が引くのを感じた。
 ――
俺は知らなかった。こいつの誕生日も、こいつがバスケットボールが好きだなん
ことも何ひとつ知らなかった。俺の知らないことを何故あいつらが知っているのだ。
ウォンシクの頭の中に、あの小肥りのチビおばさんとこまっしゃくれた妹の顔が浮か
んで消えた。

「ホンビナ!」
ウォンシクが急に立ち上がり大きな声を上げたので、ホンビンの身体がビクリと動い
た。見るといつ
もの人のいいキムウォンシクはどこかに消えてしまって、獣のように恐
ろしい顔をした
男が自分を見下ろしていたので、彼は身構えた。

なに」
明日は朝から出かけるからな」
「は、どこに?」

そんなの決まってるだろ、とウォンシクは目をぎらつかせた。





………………………………………………………




翌日、二人は地下鉄構内と直結しているホンビンの行きつけの巨大本屋にいた。

「前から俺、お前にやるなら写真集だなって思ってたんだ」
妙なしたり顔をしているウォンシクをホンビンは横目で見た。
「なんで」
「なんでって、お前がいつも立ち読みしてるからだろ。どれでも好きなの選べ」

ホンビンは、「悠久のアマゾン」だの「アンデスの遺跡」だの「オランダ花紀行」だの
といった背表紙にさっと目を走らせたが、

「別に欲しいのないな」
気の無い声を出すとさっさと芸術コーナーを出て行ったので、ウォンシクは慌てて彼の
背中を追った。
「何でだよ。だってお前外国のきれいな写真が好きなんだろ?」
「別に」
ホンビンは急に立ち止まるとくるりと後ろを振り返り、ウォンシクの顔を見据えた。

「行っとくけど、僕は別に写真集が好きというわけじゃないよ。なんていうか
「なんていうか?」
つまり僕は本が好きなんではなく、ただ本屋が好きなだけで、つまり」

目の前の「一体何を言っているのかわからない」といった態のウォンシクを見ているう
ち、ホンビンには「立ち読み」というささやかな自分の趣味がひどく浅ましいものであるよう
に思えてきて、そっと口を閉じた。

「いくらなんでも本屋は買えないよ。予算が
と言って肩を竦めたウォンシクの間抜け面を、ホンビンはじっと見た。

階上に昇るエスカレーターでホンビンの後ろ姿を見るともなく見ていたウォンシクは、
カットソーの七分袖の袖口から覗く白い手首に目を留めると、丸くて子供っぽい後頭部
に向かって声をかけた。


「腕時計とかどう。お前持ってないだろ」
いらない。僕、時計とか嵌めないから」
ホンビンはにべもなく言った。  
「もう成人なんだから時計くらい嵌めろよ。ちゃんとしたブランドのやつ
「自分が嵌めれば。もう成人なんだからいいかげん遅刻やめろよ」
 ホンビンは振り向くと、天使のような笑顔で嫌味を言った。

 鞄屋のウィンドウを通りすがりに見ると、ウォンシクは言った。
「なあ、カバン。カバンは?」
「いらない」
「なんでだよ」
「持ってるから」
 ウォンシクの頭に、いつもホンビンが右肩に引っ掛けている古びた合皮のリュックが思
い浮かんだ。

俺がもっとオシャレなの買ってやる。有名ブランドの、ロゴ入ってるみたいな
「いらない。あれが気に入ってるんだ」
もう一個持てば。よそ行きのヤツ。ブランドの」
 と声をかけた時すでにホンビンの姿がなかった。ウォンシクは人ごみの中にぴょこんと
出た丸い頭を慌てて追いかけた。

花の匂いを漂わせている女と擦れ違うと、ウォンシクは言った。
「香水とかは。よく有名人がしてるゲッケイジュのヤツとかどう。有名ブランドの」
「いらない。もらってもつけない」
「有名人がつけてるヤツでも?ブランドの
「興味ない」


………………………………………………………

 

 

「……お前って、本当につまんないヤツだな」
本屋やショッピングモールや路面店をさんざん歩き回って疲れ果てたウォンシクは苦虫
を嚙み潰したような顔をした。

「本当に何もいらないから。今別に欲しいものないんだ」
「そんな」
「気持ちだけ貰っとくから。ありがとな」
口端を上げて機械的にエクボを出したホンビンを見て、ウォンシクは眉を吊り上げた。
「そんなのダメだ。何かあるだろ、何か探せよ」
……
「なんでもいいから。なんかしたいんだよ。俺お前に何か買ってやりたいんだよ」
困ったなあ」

ウォンシクの気持ちはうれしい、と言えばうれしい。だが何か買わせろ何か買わせろ
という言葉の中に少し前からそこはかとない苛立ちが籠り始めているのが気になった。
自分は別に遠慮しているわけではない。欲しい物がないから要らないと言っているだけ
なのに、ウォンシクがまるで我儘な子供でも見るように辟易した表情(かお)で自分を
るのは何故なのか。何故こんなに執拗に詰め寄られなければならないのか。責められ
ければならないのか。

そうだ」
ふと輝いたホンビンの瞳を見て、ウォンシクの小さな目もまた輝いた。
「何だ何だ、欲しいもの見つかったか」
ホンビンはウォンシクの顔を見た。

「それじゃ、石鹸買ってもらおう」
「石鹸?」
「ちょうど切れそうだったところだ。もうこんなに小さくなっちゃってさ」
ホンビンは左手の親指と人差し指で端の切れた輪っかを作って、くしゃくしゃと笑った。

……
「あの赤い箱のやつがいいな。牛の絵が描いてあるやつ。僕いつもあれ使ってるんだよ」
……
「有名ブランドのヤツだ」
そう言うと、自分のセリフにウケたホンビンはひゃひゃひゃと笑った。

……ダメだ」
「え」
見るとウォンシクが両手を握り締めてワナワナ震えていたので、ホンビンは笑うのを止めた。

「ダメだ。ダメだダメだそんなもん。石鹸なんてダメに決まってるだろ」
なんだよ。何でもいいって言ったくせに」
「そういうんじゃないんだよ。石鹸とかタワシとか、そんな生活必需品じゃダメなんだよ!」
「なんなんだよもう。ああもう、面倒くさいなあ」
すっかり嫌気の差したホンビンは周りにも聞こえるほどの大きな溜息をついた。

「そういうんじゃなくてさ。そういうんじゃなくて、もっとワクワクするというか記念に
なるというか」
ウォンシクは両手を前にやってもどかしそうに指を動かした。

……

「思い出というか」

……

10年後にふと、ああこれ19の誕生日にウォンシギから貰ったやつだよなあとか、そう
いう感慨が湧いてくるような
ウォンシクの目の端に涙らしきものが浮かんでいるのを見つけてしまい、ホンビンは顔
を歪めた。彼は困惑して目を伏せた。

 

 


………………




道の角の地下鉄の入り口でホンビンがふいに立ち止まった。「この路線に乗りたい」と言った。
「あー?なんでだよ」
ウォンシクは面倒くさそうに言ったが、どうしてもというホンビンに引きずられて薄汚
い階段を下りた。


二人はほどなくして構内に滑り込んできた青い電車に乗り込んだ。随分な混み様で、彼
らは出入口の近くの手すりを握って向き合った。

「お前、この路線に乗ったことある?」
「ない」
「僕はよく乗るんだ」
「学校にも家にも関係ないのに、なんでこんな路線乗るんだよ」
 ホンビンは口の端を小さく上げて、それから路線図に目をやった。

「この路線に乗る度それ見て、終点てどんなとこなのかなって」
……
「僕はたぶんこれからもこの路線に乗るけど、たぶんこれからも途中から乗って途中で降
りるだけだ。たぶん一生終点に行くことはないなって」
 そう言うと、色々なことを諦めた老人のような微笑を浮かべた。

 乗換えの駅が近づいて、入口近くに移動を始めた乗客の波に入ろうとしたウォンシクの
ジャケットの袖が白い指先に掴まれた。

「ウォンシガ」
……
「あのさ、さっき急に思いついたんだけど、僕はこれから終点まで行ってみようかと思う」
……
「一緒に、行かない。もしよければ
……

「無理ならいいんだ」

 ホンビンから頼み事をされるのは初めてだった。プライドが高くて、多分他人に頼みご
となどしたことのない
彼の声は固く、ウォンシクの袖を掴んだ手が小さく震えていた。耳
が赤くなっていた。
ウォンシクは素っ気なく「いいよ」と言ったが、我知らず頬が赤くなった。




 






 二時間かかって着いた終点は垢抜けない海辺の町だった。防波堤から見える海は小さく
て、人口の湾の向こう側には立ち並ぶ高層ビル群が見えた。ホンビンはそんな海を見て
「おおー」と大袈裟に声を上げた。

「海を見たの初めてだ」
 ホンビンは少し冷たさの混じった潮風に吹かれながら、ウォンシクに打ち明けた。

「そうなのか」

「ソウルを出たのも初めてなんだ」
 と言って笑った。

「……」

「19の年に初めてソウルから外に出て、初めて海を見た。その時お前と一緒だった。たぶ
ん10年経っても忘れないよ」

「なんだそれ」

 なんだか不吉な言い方にウォンシクの心は少しだけざわめいたが、空を舞う無数のかも
めに手を伸ばして至極愉快そうなホンビンに釣られて笑顔になった。

「ソウルを出たなんて大袈裟だ。隣の市に来ただけじゃん」

「まあそうだな」

 ホンビンは照れくさそうに笑った。



 そのうちに落ちてきた夕陽をホンビンは黙って見ていた。西から吹く夕風にウォンシク
は身体を竦め、防波堤に座り込んだまま一向に動こうとしないホンビンに声をかけた。

「なあ、もう行かない? 寒いよ」
 ホンビンが振り向いた。
「……行くってどこに」

「どこでもいいよ。どっか暖かいとこ。ここよりマシなとこ」
 そう言うと、ホンビンはふいに怪訝な顔をしてウォンシクを凝視した。

 ホンビンの肩を抱き寄せると彼の身体は冷え切っていた。当たり前だ。10月も半ばを過
ぎたというのに、彼の着ているものといえは薄っぺらなカットソー1枚だけなのだから。

 ウォンシクは歩きながら皮ジャケットを脱ぐと、彼の肩に羽織らせた。

「いらない、お前が寒いだろ」

 ホンビンは慌てたが、ウォンシクがジャケットの上からあんまりきつく肩を抱くものだ
からそれを剥ぎ取ることができなかった。ジャケットの中に残るウォンシクの体温は、ホ
ンビンの身体の芯から冷気を誘い出した。ブルブルっと身震いした彼の二の腕をウォンシ
クは労わるようにさすった。

 先の赤くなった耳朶に唇の先をそっと当てると、それはまるで霜の降りた花びらのよう
に冷たく柔かく、儚げだった。

「やめろよ」
 ホンビンはウォンシクを睨んだが、その目は怒っていなかった。




 近づいてくる繁華街の黄色い光を見ながらウォンシクは思った。

 ――こいつ、こんなしょぼい海なんかで喜びやがって。こんなの本当の海じゃない。本
当の海はもっと…

 大学に入ったら金を貯める。頑張ってバイトしてできるだけ金を貯めて、こいつの来年
の誕生日にはソウルからもっと遠い場所に行こう。海に。こんなちっぽけな海じゃなくて、
来年は俺がもっと大きな海をこいつに見せる。

 もっともっと大きな海を。
 もっともっと美しい海を。

 揺れる波。9月の陽に差されて光る波。果ての無い海を見て驚き、そして弾けるように
笑うホンビンの顔が見える。多分まだ見たことのない顔だ。ホンビンの笑顔。心からの笑顔。

 もっともっとこいつを喜ばせたい。
 もっともっとこいつを笑わせたい。


 俺はただ、こいつに喜んで欲しいんだ。
 俺は、こいつの笑う顔が見たいんだ。






 

 

 

 

 

 

 

 

end

・・・・・・・・・・・・・

(注)韓国では数え年19歳で飲酒可能となっていると認識しておりまして、これはその
法律が前提の話となっているのですが、今一つ自信がありません。
 もし間違っていても、見逃してくださいませ~~ 

 

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