あれから18年の月日が経った。
あの長かった18年間の結婚生活を振り返る。
僕は悔しかった。
僕は、世界一カッコ悪い男だった。
その醜い男がもがく。
カッコ悪くもがく。
必死で。
僕だって、自分の思うがままに、カッコよく生きたかったさ。
でも、自分には、家庭を経済的に支えなければならないという現実があった。
もがくしかなかったのだ。
なりふり構わず。
それがカッコ悪さだ。
悔しい。
自分を肯定したい。
僕だって、自分を肯定したいよ。
自分を好きでい続けたい。
僕だって、みんなと同じ状況で、みんなと同じように生活できていたら、もう少し自分らしく生きられたよ。
でも、
過去は消すことはできない。
僕の生き方は、明らかにカッコ悪かった。
悔しい。
これから、どう生きれば良い?
今朝も夢に息子たちが出てきた。
僕は、何もかも失った。
あの時と同じだ。
今から20年前。
全てに絶望した。
全てが信じられなかった。
そして、それは自分の弱さが生んだ、自分自身の選択だったのだ。
あの頃はまだ若かった。
誰にも守られていないところで、大切なことを判断する力がなかった。
でも、選択しなければならなかった。
その事実を胸に、経験を積んできた。
勉強を重ねた。
しかし、失敗したということにおいては、あの時も今も同じだ。
結局、同じなのだ。
失敗は成功の母。
それは、後に成功した人だけが言えることなのだ。
失敗して、死んでしまった人は、どうすれば良い?
失敗して、心が死んでしまった人は、どうすれば良い?
自分を貫けない、自分を貫けなかった男の、醜い、醜い後悔。
23歳の年、あそこで明らかに僕の人生が大きく変わったのだろう。
それは、自分が求めたことだった。
4年間の大学で得たものが、そして得られなかったものが、僕の背中を後押しした。
それで旅立ったのだ。
海外へ。
ヨーロッパでの生活は2年間に渡った。
それは、20代の前半という僕にとっては貴重な青春の中で、やはり孤独と寂しさが一層助長されたものとなった。
大学時代の日本国内での一人暮らしでも、周りとのコミュニケーションの壁により孤独をふくらませたのに、言葉の壁がある海外ではなおさら孤独を感じることになった。
そこでの出会いと別れ。
僕は紆余曲折を経て、一人の女性に行き着いた。
それが正しいことだったのかどうなのかは、僕には分からない。
でも、出会って、一緒になったということは、間違いなく縁はあり、繋がりがあったのだろう。
僕は結婚した。
現地の女性だった。
彼女の中に、まだ自分の経験していない可能性を見たのだ。
そこからまた、新しい人生は始まった。
運命の抗えないうなりに巻き込まれ、流されるように。
だから、彼女に言ったのだ。
一緒に日本へ行こうと。
とうとう、大学の4年間で運命の人には出会えなかった。
気ままな一人暮らし。
アルバイトをして、授業に顔を出してみたり、ちょっとキャンパスを肩で風切りながら歩いてみたり、ビックリするくらい高いビンテージデニムを履いてみたり、プレミアの付いて定価より遥かに高くなったハイテクシューズを集めてみたり。
自分のスタイルは崩したくなかった。
妥協というものが、世の中をうまく回したり、もっと狭い意味で、自分と誰かを結び付けて小さな幸せを掴むのに役立つなんてことを全く知らなかった。
突き詰めることが魅力なのだと勘違いしていた。
いや、勘違いではないな。
それはまさに、今、自分が学び直すべきことだ。
妥協の産物が、今、自分をここタイでこんな気持ちにさせているのだ。
たくさん妥協し、譲るべきでないものをたくさん譲ってきた結果が、今の僕自身なのだ。
結局、弱かったのだろう。
怖かったのだ。
だから、妥協して来た。
それが最善の道だと、自分に言い聞かせて。
あの頃。
あの時。
確かに、僕は妥協しなかった。
そして、4年越しに、夢を掴んだのだ。
僕のもう一つの持病は、鬱病だ。
思い起こせば、かなり昔の、自分が少年だった時からの付き合いだと思う。
僕は、酷く情緒不安定な少年だった。
割と恵まれた家庭環境だったと思うけど、ある時ふと世界は自分を中心に回っているかのような気分になってみたり、突然些細なことで世界一の不幸を背負った少年になったりした。
中学校や高校の時から孤独を感じることがたびたびあり、大学生になり、一人暮らしを始めると、もっと深刻になった。
1人は辛かった。
僕は、大学一年生の頃に、当時1年前から付き合っていた彼女と別れた。
要はフラれたわけだが、自分が勝手に遠い大学を選び、年下だった彼女を地元に置いて出て行ってしまったのだから、しょうがない。
でも、僕はその子のことが本当に好きだった。
住みなれた街を出たのも、彼女を守る強い力を手に入れるためだった。
自分勝手な話。
僕はまた不安定になった。
秋口にひとりぼっちになったので、その冬は辛かった。
知らない夜の街を、1人歩いた。
知らない路地を行き来し、居酒屋から漏れる明るい笑い声を尻目に、僕はどうしてあの住みなれた街を捨てたのだろうかと考えた。
あの空気を捨てた。
当たり前の、少し煩わしいくらいに温かいあの空気を捨てて、どうしてこんな冷たい空気の街にやってきたのだろうか、と。
あの子の面影を、その遠く離れた街で探した。
後ろ姿がよく似た女の子を何度か見かけた。
彼女の代わりを必死に探していた。
でも、見つけることができなかった。
優しくしてくれた女性にも、僕は冷たかった。
そうじゃない、と思った。
そして、僕は1人だった。