家内と二人で、深田久弥先生の「日本百名山」を完登したのは、
2005年7月5日、幌尻岳である。登山開始十年が経過していた。
登山経験のない私にきっかけを与えたのは単純な発想だ。
退職が接近し、第二の人生を迎えるに当たり何より大切にしたかったのは、
第一に健康維持、第二は苦楽を共にしてきた家内と円満に支えあって
楽しく生きる事の二点である。この共通項が登山となった。
登山では健康管理が大切で他人に頼れない、ましてや夫婦喧嘩など有りえない。
最初の登山をおこがましくも日本第二の高峰、南アルプスの北岳に置いた。
絶滅危惧種、きただけそうをカメラに収めたかったからである。
まず箱根、丹沢の山を半年足し慣らし、この間体重は5キロ減。
高かった血圧、中性脂肪、コレステロール、尿酸値は正常に復帰。
まさに「継続は力」を知る。よく登山は人生観を変えると聞くが、
確かに山には電気もテレビも新聞もなく、下界での競争もない。
あるのは大自然の澄み切った空気と山を愛する隣人愛の精神だ。
余談になるが、日本の名山はほとんどが神と通ずる信仰の山であり、
山頂には祠が置かれている。聖書では今から三千数百年前、出エジプトの
モーセはシナイ山で神から十戒を授かった。またキリストが十二弟子を選び
神の国を説いた「山上の垂訓」はアルベール山と言われている。
山は天の御国に近く神との交わりに適した神聖な場所なのかも知れないと思う。
さて北岳(3192m.)登山は神を知る最高の山であった。最初は清流を
鶯の鳴き声を聞きながらの森林浴。アイゼンをつけて歩く雪渓は真夏でも
心地よい天然のクーラーだ。十キロオーバーの荷を背負って歩く事五時間。
疲労がたまり、だんだん休憩時間が頻繁に長くなる。そこに救いが現れる。
高山植物の群落だ。しなのきんばい、みやまはなしのぶ、はくさんいちげ、
国の指定保護花五つに入るお目当ての「きただけそう」(写真)との出会いで、
疲れはどこかに飛んでしまう。
歩き始めて七時間半、山頂に到着。百名山最初の一座。家内と握手。
360度の展望は富士山、仙丈岳、甲斐駒、鳳凰三山、塩見岳、荒川岳、
遠くは中央アルプス、北アルプスの名山が連なる。
神秘的現象に出会う、珍しいブロッケン現象だ。
太陽を背に自分の影が霧に反射し虹が取り巻く。
神から永遠の命を貰った気持ちになる。
雲海から昇る朝日。氷河期の落し子と言われる雷鳥の親子の出迎え。
これが私共夫婦の最初の山旅であった。
そこでは天地創造の神に接し、試練と救いと恵みを体感し、以後十年以上に
渡り夫婦愛、隣人愛、神の愛を知る山旅が続き、聖書と親しむきっかけと
なりました事に感謝しつつ、今は田中澄江さんの花の百名山を
二人で歩いています。
文・写真 山田武彦(S34経)
唐松岳山頂の日の出
五竜岳山頂
北岳草