※ボツなので供養記事   墓場②

2021-08-12 00:39:39 | 創作
「そろそろお盆だろう。そっちに籠もりきりではなく、たまにはうちへ帰ってきたらどうだ。せめて、先祖の墓参りくらいはしなさい。」


いや、帰れない。仕事が忙しくて。帰るわけがない。あんたらの顔も見たくない。


この前のゴールデンウィーク、あんなに言い争って喧嘩別れしたばかりだろう。
俺と父と母、あまりのお互いの怒号に、その場に立ち尽くすしかなかった妹が俯向いて唇を噛み、少し肩を震わせていた。

怖がらせてしまって、妹には申し訳ないことをした。家族に対する実家へ帰らない罪悪感といえば、まあそれくらいか。

あのあと妹には謝ったっけ、謝らなかったっけ。
どっちだったかな。あのあと泣いてないといいんだが。


「ああ、わかったよ、母さんには一泊するって伝えて。」


いやいや違う。



口が勝手に思考と違う言葉を放った。


そうじゃないだろ。
今まで腹の底に溜めていた不平不満を大きな声ですべて解き放って、今度こそ親父を一蹴してやるんだ。

あの時すべて言い切れなかったけどな、こんな御家、腐敗した夏場の臭い溝を覗いてるみたいで反吐が出るんだよ。
血が繋がっているというだけで、あんたらと縁が切れない世の中の仕組みが憎くてたまらない。


「仕事は明日には片付きそうだから、明後日の夕方にはそっちに着くと思う。また連絡するよ。」


いやいやいや、違う。


明後日はまとめて撮り溜めていた録画アニメを鑑賞する貴重な休日なんだ。

特に今季は原作から応援していたアニメが先日snsでバズって覇権になっていて、主人公の過去を考察するのにファンたちは大盛り上がりなんだ。

アニメ版と原作版の細かい描写の違いと、主人公の伏線を拾い上げて考察するために最低でも三日は費やさないといけない。

だから俺はプライベートも忙しくて仕方ない。
時間がとにかく足りない。



「そうか。あまり仕事漬けの日々は送るものではない。では。明後日に。」


「うん、気をつけるよ、また明後日ね。」


いやアニメは?


いやそうじゃなくて。
アニメも大事だけれども。
それよりも一大事なことをしてしまったのだ。



実家に帰る約束をしてしまった。


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最近バイオリズム的にあれなので、書き溜めてたものが放置されてたので ボツ供養
続きもない

特にこれといって何か書きたかったわけでもない






終わり





墓場①

2021-08-09 19:30:16 | 創作

今日から俺の家は蚊の集団埋葬場になりそうだ。


いや、どう考えても蚊どもが俺の血を吸ったから、因果応報としてこういうことになっているわけだけだが。

俺の不健康な不味い血さえ吸わなければ今も生き延びていられたろうに。

4箇所目を刺されてから、面倒くさがりの俺が流石に我慢できんと用意した蚊取り線香の煙に窒息して苦しんで、


合計3匹が死んだ。ご愁傷様です。



生活習慣が乱れている自分の血は絶対に不味いはずという自信がありながらも、
何故かいつも人並み以上に刺されるから蚊の趣味はとてつもなく悪いのがよくわかる。


昨日の晩飯である冷凍チャーハンで出来た血はさぞ美味かったのだろう。


新鮮なチャーハンの血を吸われた場所が痒すぎて掻くことに忙しなく、さっきから両手が空かない。


嗚呼もう、仕事はまだ終わってないんだよ。


死してもなお後遺症のように邪魔をしてくる虫けらどもめ。


一体、何箇所刺された?


…ひいふうみい…合計7箇所。
ふむ、刺し過ぎとはいえ、数がラッキーセブンなのは許してやろうか。


なんせ今日の俺の星座はテレビのニュース占いで最下位だったからな。

だがこれ以上俺の邪魔をしてくるんじゃない。わかったな。家に入ってきたら、たちまち蚊取り線香の煙でお前らは死ぬことになる。

自分の命が惜しければ網戸越しから入ってくるな。

この煙は無敵バリアだ。お前らなんかよりも運が無い俺の方がまだ強い。

むしろ、この家に入ったら確実に死ぬことが決まってるお前らのほうが運がないはず。


この家は俺の無敵バリアで全て包囲されている。馬鹿め。馬鹿め。ばかばか、ああもう痒すぎなんだよ。

全く仕事に手が付かないので、これ以上掻かないという誓いを込めて、ラッキーセブン全てに爪でバッテンをつけた。
バッテンのせいで余計痒くなった気がするが気のせいだと思っておく。

あとはもう、気合と我慢だ。

これくらいの我慢、なんてことはない。

毎日網戸越しから数匹の蚊が入ってこようと、はたまた先日のようにトイレのドアノブにムカデが張り付いていようと、車が無いとどこにも行けない、名前も知らぬ雑草に塗れた田舎の中古の一軒家であろうと


俺はこの家で起こることなんて全部我慢できる。





自分で言うのもなんだけど、わりと我慢強い方だと思う。

トイレのムカデ事件なんて、もう、死ぬかと思った。ほんとに。


平和に用を足したあとにどこからともなく出てきたムカデがドアノブに絡みつくなんて、トイレの中で生涯をここで過ごし人生を終えるようにと、
ムカデに死刑宣告をされて閉じ込められたも同然だったが

それでも脂汗をかきながらムカデに一生懸命謝罪したおかげか、いかにも幸が薄そうな自分を見てムカデなりに哀れんだのか、シュルシュルと音を立てて静かに天井裏に向かって消えていってくれた。



そんなことがあってもめげずにこの田舎臭い家に住んでるんだ。俺は我慢強い。立派だ。



あれからムカデはまだ見つかってないけど。





死刑宣告をしてくるムカデが家にいても我慢できる俺が唯一我慢できなかった家が、

   





実家だ。