一本のロッドに出会った。
それは、何気なく入った釣具店。 ちょっと、こじんまりした昔ながらのお店である。
実は、ダーデブルの情報探しに訪れたのであった。
お店に入ると、気さくそうな親父さんが一人店に居た。
店内は、海釣り・船釣りの道具がほとんどである。
ダーデブルの情報どころでは無いと思った次の瞬間、壁の上の方に飾られているアクリルケースの箱が目に止まった。
トビーをはじめ、歴代のABUルアーたちが並んだディスプレイボックスだった。
しばらく、眺めていると親父さんが声を掛けてきた。
懐かしいルアーの話が始まった。(昔は、ABUのルアー・リールを扱っていて沢山売ったとの事)
勿論、ダーデブルの話も・・・。昔は沢山あったけど、今じゃ見かけない!まだ有るのかい?
だって。
そうこう話していると、親父さんが奥のほうから何やら持ってきた。
話を聞くと、若い時(今から36~7年前)にカナダにサーモン釣りに行っていた時期があって、その釣行で持って行っていた竿を何十年ぶりに、引っ張り出して見せてくれた。
こんな話でも無いと、忘れ去られるところだったのか? いや、大切に仕舞い込んでいたのだと思う。(話す機会もないから)
持ってきたロッドを見てビックリ! ABU キャスターであった。
赤い純正のクロスバッグにまだ、真新しいグリップ・・・ 凄い状態が良い。
親父さんの、このロッドに対する思いが感じられるのであった。
その当時、わざわざカナダに渡って飛行機で川まで行き、サーモン釣りをしている人は、そう多くは無かったと思う。(今もかな?) 釣りが好きだったんだね。
親父さん自慢の話が暫く続き、そのあと「残念な事に、一部壊れてしまっているんだよな」と一言つぶやいた。 見ると一番手前のガイドスレッドが割れて切れてしまっている。 もう一箇所、金属フェルールに錆が出ていて差し込めない状態であった。
親父さんの思い出が沢山詰まっているロッドだから、これからも大切に保管して、このロッドを見せながら「昔は、こんな時代も有ったぞ」と後世に自慢話を残してもらいたいものだと思った。
いい逸品を見せて頂き 「まだこんな方が居て良かったな」 と、心の中で喜び店を出ようとした時、親父さんが声を掛けてきた。
「大切な竿だけど、この竿を解ってくれる人に引き継いでもらいたい」
始めて会って間もない小生に? 少々戸惑いお断りしたが 「その代わり、ちゃんと直して復活させてやって欲しい」 との事。
凄い気持ちが伝わってきて、譲り受けることにした。(もちろん、代金は気持ちながらお支払いさせて頂きましたよ)
何か責任を感じるというか、重いものを背負ってしまったような・・・。
しかし、譲り受けた以上意思を受け継ぎロッドを再生して、魂を入れて親父さんに報告をしに行きたいと思うのであった・・・。
その後、ロッドのレストアも手掛けている Curtis Creek の店主氏に相談したら、快く引受けてくれたのである。 ホンとにいつもありがたい存在である。
出張から戻った昨日、店主氏からロッドが届いていた。
早速、荷物を解きロッドを確認! すばらしく蘇ったロッドが完成していた。
そのロッドがこれである
一番手前のガイドラッピング・トップガイドの交換・フェルールはかろうじてすり合わせで済んだとの事・・・完璧である。(スレッドの巻きなおしも解らない、ほぼ、新古品だ)
仕上がりに嬉しくて、どうしても譲ってくれた釣具店の親父さんに見て貰いたい、本日早速見せに行った。
親父さん、ロッドを見た瞬間一言 「よくぞ直してくれた!しかも綺麗に!ありがとう」 と・・・
心の底から、喜んでいるようだった。
小生には、心なしか親父さんの目が潤んでいるように見えた。
次回は 「ABU キャスター 7f 」で魂が入った時の写真を持参して報告に来る事を約束して店を出た・・・。
今日の一言
こんなに物が溢れている時代に 「大切にしている物」 がありそれを守り受け継いでいく。
忘れ去られそうな気持ちを思い出させてくれた釣具店の親父さん ありがとう!
ロッドに命をふきこんでくれた店主氏にも ありがとう!
責任を持って、このロッドを引き継いで行きます。
追伸
帰って来たばかりですが、また明日から一週間出張でお休みいたします。
開店まで、あと17日