山田太一氏の『終わりに見た街』を読んだ
岸辺のアルバム、不揃いの林檎たち等の
有名な脚本家だが小説は初読み
感想を一言で表すと「救いのない話」
タイムワープ系の話が好きなので読み始めたけど
私の苦手なバッドエンド
1981年、多摩川を見下ろす高台に住むテレビドラマライター太一と
その妻、中学生の娘、小学生の息子と柴犬1匹
ある朝、起きたら家ごと昭和19年の戦争中にタイムワープしていた
近所の家も道もなく自宅は森の中
いつもは遠目に見える新宿の高層ビル群や二子玉川の高島屋もない
家や家電があっても電気や水道などのインフラは当然通っていない
妻の実家などに電話をしてみるがもちろん繋がらない
しかし突然電話のベルが鳴る、、主人公太一の幼馴染からだった
なぜか太一一家と幼馴染の敏夫さん父子だけが時空を超えてしまった
敏夫さんは結婚式場で宴会係をしていただけあってなかなか気働きがある人で
口八丁でその時々に必要な食料や品物をうまく手に入れてくる
現実を受け入れられなかった太一一家も
敏夫さんとその息子と一緒に終戦までなんとか生き延びようとする
なにより未来を知っているのが強み
どこに空襲があったかを知っているので
そのエリアを避けて転々と住居を変える、、つもりでいた
途中までは紆余曲折がありながらも比較的うまくいっていた
昭和20年3月10日の東京大空襲を前になんとか少しだけでも助けられないかと
下町でビラを撒いたり、軍人や警官に目をつけながら大空襲の日時を知らせる演説をした
やれるだけやって自分たちは安全な都下に戻ったら
なんとそこに空襲警報
そんなこと年表にも歴史の本にも書いてなかった
でも書いてあることがすべてではない
まさに「聞いてないよー」である
まともに爆撃を受けてしまった太一
気が付いた時、左腕をなくし出血が止まらない
近くには黒焦げの家族の遺体
痛みと絶望の中で見た崩れた新宿の高層ビル群
もしかしてまた時空を超えた?
近くに倒れていた虫の息の人に今は昭和何年か聞く
答えは切れ切れに「ヘイ、、」
西暦で何年か聞くと答えは「ニセン、、」ここでその人は息絶え
話は終わる
このラストの絶望感は「猿の惑星」に似ている
戦時中を何とか生き延び、元の時代に家族で戻れるのを期待していたが
再度時空を超えた未来も戦争で皆亡くなってしまった
これは第三次世界大戦なのか
戦争中の食糧難や物資不足だけでなく
子どもまで軍国教育をされ自由に発言できない
隣組だの婦人会だの相互監視もウザイ
せめて未来から連れてきた自分の子ども達には
いずれ戦争には負けて、終戦後に大人たちがころりと言うことが変わるんだよと
戦争の愚かさをこっそり教えてきたが
当の子ども達は純粋なのか、すっかり軍国少年・少女になってしまい親を批判する
これもがっかりだが、その時になったらみんな世論に飲み込まれて絡めとられてしまうのだろうか
私が最後まで気になったのは太一の飼い犬レオである
多摩川の家は軍人に見つかってしまい逃げる際に
庭につながれていたレオを自由にしてやる
軍人たちは家に火をつけるがレオはそこからは逃げおおせた
しかし昭和50年代の中流家庭の飼い犬だったレオが
野良犬として生き延びられるとは思えない
人が食べ物に苦労している時代に残飯もないだろうし
なんか何もかもが気に入らなかった
でもきっと戦争ってそういうものなのだろう
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