西洋医学では蕁麻疹のガイドラインができています。
◇「蕁麻疹診療ガイドライン」(日本皮膚科学会、2011年)
◇「蕁麻疹診療ガイドライン」の解説(猪又直子、アレルギー 62(7), 813―821, 2013)
◇「蕁麻疹診療ガイドライン」における漢方薬の位置づけ(日本東洋医学会)
しかしそれで解決というわけではありません。
上記ガイドラインでは「蕁麻疹の70%は原因不明」と開き直っています。西洋医学では、原因の有無にかかわらず、抗ヒスタミン薬とステロイド薬が基本です。それが効かない場合は・・・今でも蕁麻疹で悩んでいる患者さんはたくさんいます。
そこで漢方の出番です。
漢方薬でどこまでコントロールできるのか・・・私自身、蕁麻疹の既往があるので調べてみました。
「ツムラ・漢方スクエア」を「蕁麻疹」で検索して出てきた主な方剤を列挙すると・・・
葛根湯・越婢加朮湯・抑肝散・抑肝散加陳皮半夏・麻黄附子細辛湯・消風散・茵陳蒿湯・茵蔯五苓散・加味逍遥散・十味敗毒湯・十全大補湯・真武湯・人参湯・梔子柏皮湯・越婢加朮湯・香蘇散・黄連解毒湯・白虎加人参湯・当帰四逆加呉茱萸生姜湯・八味地黄丸・防巳黄耆湯/桂枝加黄耆湯・半夏厚朴湯・当帰飲子・・・
ーと23種類(+α)もありました。こ、これらを使いこなすんですか(^^;)。私にできるかなあ・・・気を取り直して、使い分けのポイントを考えてみました。
しかし、各先方の書き方は様々で、まとめにくいことこの上なし。
<まとめ>
1.急性か慢性か:持続が6週間未満を急性、6週間以上を慢性
2.熱証か寒証か:温熱刺激で出るタイプか、寒冷刺激で出るタイプか
3.その他の要因:ストレス、発汗、水滞、
4.原因不明
□ 急性か慢性か?
(荒浪Dr.)
・急性蕁麻疹:麻黄剤や茵蔯加剤が適応になる。
・慢性蕁麻疹:その原因に対する漢方治療を考える。
(津田Dr.)
・急性蕁麻疹:食物や薬剤に対するアレルギー、ウイルス性上気道炎や寄生虫などの感染症に起因するもの、温熱や圧迫刺激・光線過敏によるもの、心理的ストレスや疲労によるものなどがある。
・慢性蕁麻疹:これに加え、全身性エリテマトーデス(SLE)やシェーグレン症候群など膠原病に関連するものや、抗 IgE 受容体抗体や抗甲状腺抗体など自己免疫性の機序によるものもあるが、原因が特定できないケースが大半である。
(家庭の中医学)
・急性蕁麻疹の病因:「外風」「消化器の不調」
・慢性蕁麻疹の病因:「内風」「体質虚弱」ーが多い。
<急性蕁麻疹>
・葛根湯:「とりあえずビール」的、風寒型に(森原Dr.)。
・麻黄剤(麻黄湯・葛根湯):熱感が強く汗の出ない場合(荒浪Dr.)。
・越婢加朮湯/麻杏甘石湯:浮腫性の場合(荒浪Dr.)。
・茵陳蒿湯/茵蔯五苓散:清熱・利胆作用を期待して(荒浪Dr.)。
<慢性蕁麻疹>
・熱性:茵蔯五苓散を基本に黄連解毒湯・三黄瀉心湯・越婢加朮湯・竜胆瀉肝湯などを合方(織部Dr.)。
・寒性:真武湯や人参湯をベースに,ときに麻黄附子細辛湯を単独あるいは合方(織部Dr.)。
・十味敗毒湯:抗ヒスタミン薬を多剤併用してもよくならない慢性蕁麻疹(橋本Dr.)。
・茵蔯五苓散:紅斑、膨疹などの発疹が広範囲に及ぶ場合(橋本Dr.)。
・加味逍遥散:女性・瘀血・不定愁訴が揃ったら(橋本Dr.)。
・葛根湯:自己免疫性蕁麻疹に併用するとステロイドを減量しやすい(橋本Dr.)。
・消風散:温熱刺激 によるものには第一選択薬(荒浪Dr.)。
・黄連解毒湯:熱性で顔面、頸部から下方に拡大していく場合(荒浪Dr.)。
・白虎加人参湯:熱性で口渇、多汗を伴う場合(荒浪Dr.)。
・麻黄附子細辛湯:寒冷刺激によるもので、 全身に冷えがある場合(荒浪Dr.)。
・当帰四逆加呉茱萸生姜湯:寒冷刺激によるもので、手足の冷えが強い場合(荒浪Dr.)。
・八味地黄丸:寒冷刺激によるもので、腎虚の症状がある場合(荒浪Dr.)。
香蘇散、消風散、黄連解毒湯、白虎加人参湯、麻黄附子細辛湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、八味地黄丸、加味逍遙散、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、防已黄耆湯、桂枝加黄耆湯
□ 熱証か寒証か?
<熱証> 〜温熱蕁麻疹
・越婢加朮湯(今ひとつなら+白虎加人参湯)(森原Dr.)
・茵蔯五苓散:熱証+水滞(今ひとつなら+黄連解毒湯)、広範囲例に(森原Dr.)。
・茵蔯五苓散を基本に黄連解毒湯・三黄瀉心湯・越婢加朮湯・竜胆瀉肝湯などを合方(織部Dr.)。
・消風散:風熱型、温熱刺激による蕁麻疹の第一選択(栁原Dr.)。
・黄連解毒湯:熱性傾向が強く、舌候は厚い黄色の舌苔で覆われているといったタイプで、イライラして搔きむしり、夜も寝られないといった激しい痒みに(津田Dr.)。
・黄連解毒湯:顔面、頸部から下方に拡大していく場合、激しいかゆみに(荒浪Dr.)。
・白虎加人参湯:口渇、多汗を伴う場合(荒浪Dr.)。
<寒証> 〜寒冷蕁麻疹
・麻黄附子細辛湯:全身に冷えがある場合(森原Dr.)
・真武湯や人参湯をベースに,ときに麻黄附子細辛湯を単独あるいは合方(織部Dr.)。
・当帰四逆加呉茱萸生姜湯:手足の冷えが強い例(織部Dr.)。
・八味地黄丸:腎虚(荒浪Dr.)。
・当帰飲子:寒冷刺激による蕁麻疹(津田Dr.)
・真武湯/人参湯(織部Dr.)。
□ その他
・ストレスが関与→ 抑肝散/抑肝散加陳皮半夏(森原Dr.)。
・心因性蕁麻疹→ 加味逍遙散(合黄連解毒湯)、瘀血+不定愁訴のある女性に(栁原Dr.)。
・心因性蕁麻疹→ 加味逍遥散、やや難治の場合は四物湯や香蘇散を合方,それでも今ひとつの場合は,荊芥・撲樕・防風を加味する(織部Dr.)。
・心因性蕁麻疹→ 咽中炙臠を目標に半夏厚朴湯、イライラや不眠傾向が強い場合は抑肝散、さらに胃腸虚弱なら抑肝散加陳皮半夏、特に女性で冷え、のぼせ、不眠などを伴う場合は加味逍遙散(荒浪Dr.)。
・食餌性→ 茵蔯蒿湯(に小柴胡湯か大柴胡湯を合方)(栁原Dr.)。
・食餌性(魚/魚毒scombroid poisoning)→ 香蘇散(荒浪Dr./津田Dr.)。
・コリン型蕁麻疹→ 消風散合温清飲合加味逍遙散(栁原Dr.)。
・コリン性蕁麻疹→ ストレスに対して加味逍遥散/抑肝散、発汗に対して防已黄耆湯/桂枝加黄耆湯(荒浪Dr.)。
・梔子柏皮湯→ 体の一部、特に背中などが帯状に熱くなったり,ほてったりする場合(織部Dr.)。
・茵陳蒿湯/茵蔯五苓散:茵蔯蒿湯は大酒家や肝障害をともなう痒みに。大黄を含むため、便秘傾向が無い場合は茵蔯五苓散を用いる(津田Dr.)。
□ 原因不明
・胸脇苦満→ 十味敗毒湯ほか柴胡剤(織部Dr.)
・脾胃を立て直す→ 脾胃剤(四君子湯・六君子湯・補中益気湯など)(織部Dr.)
・万策尽きたか→ 気血両虚に十全大補湯、頑固な裏寒に四逆湯や四逆加人参湯・茯苓四逆湯など(織部Dr.)
・瘀血→ 駆於血剤
・・・う〜ん、整理を試みても、なかなかまとまりません。
「急性・慢性」と「熱性・寒性」はオーバーラップしています(悪くいえばごちゃ混ぜ)。
印象として皮膚症状にとらわれず、患者さんの証を見立てて方剤を考えなければ解決しない、そこが一つのハードルになっていると感じました。
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皮膚科医の森原先生は、葛根湯、越婢加朮湯、抑肝散をよく使うそうです。
<ポイント>
・とりあえず葛根湯
・熱証には越婢加朮湯(効果今ひとつなら白虎加人参湯併用)
・ストレス関連なら抑肝散
・寒冷蕁麻疹には麻黄附子細辛湯
・熱証+水滞には茵蔯五苓散
■ 漢方道場 皮膚科編「蕁麻疹の漢方」森原 潔 先生(もりはら皮ふ科クリニック)
(Kampo Square 2016 Vol.13 No.5)
Q1.葛根湯を処方すべき患者さんは?
A1.証という漢方特有の考えは無視して、とりあえず出してみたい処方と思われます。味も良く、 子どもでも飲みやすいと思います。実は葛根湯の保険適応疾患として蕁麻疹はしっかり掲載されています。
葛根湯にはヒスタミン 遊離抑制作用がある麻黄という生薬が含まれており、蕁麻疹への薬効を示すメカニズムとして注目されます。
Q2.越婢加朮湯を処方すべき症例は?
A2.熱証の蕁麻疹に用いるとよいと思います。温熱刺激がきっかけで起こってくる蕁麻疹は多いですが、そういう場合は第一選択と考えています。越婢加朮湯には前述の麻黄のほか、最強の清熱剤といわれる石膏を構成生薬に持ちます。入浴時や運動時、就寝時など身体が温かくなったときに出現する蕁麻疹に用いてみてください。葛根湯ほど味は良くはありませんが、個人的にはまずくはないと思います。温熱により悪化する蕁麻疹に本剤で効果がはっきりしない場合は、清熱作用を強くする目的で、白虎加人参湯を一緒に処方してみるとよい場合があります。
Q3.抑肝散を使うべき症例は?
A3.ストレスに関連する蕁麻疹に用いるとよいと思います。イライラしているときや、 逆にストレスから解放されリラックスしたときに出てくる蕁麻疹に使ってみてください。働き盛りの年代に多いタイプですが、なかなか抗ヒスタミン薬だけではコントロールがつきにくく手を焼きます。ストレスが原因になっているからといって、西洋薬の抗うつ薬や抗不安薬はかえって患者さんから拒否されることも多いですが、その点漢方薬は受け入れやすいようです。抑肝散はイライラを抑制する作用があり、ストレス性の蕁麻疹への効果を期待できます。味は悪くないと思いますが構成生薬の川芎がセロリに似 た風味を持っており、それが苦手な人は飲みにくいかもしれません。
Q4.蕁麻疹に対して他に使えそうな漢方はありませんか?
A4.寒冷刺激が原因となって起こってくる蕁麻疹があります。寒冷蕁麻疹には麻黄附子細辛湯を好んで使っています。抗ヒスタミン作用のある麻黄に加え、附子と細辛には身体を温める働きがあります。
これらの方剤で効果が乏しい場合は、茵蔯五苓散を使ってみても良いかもしれません。 漢方では水の流れが悪くなって起こる病態を水滞と呼びます。蕁麻疹というのはヒスタ ミンにより起こる皮膚の浮腫ですので、間質に水がたまっていることから水滞ととらえることできます。茵蔯五苓散は水滞を改善する五苓散というお薬と、熱をさばき痒みを抑える効果のある茵陳蒿という生薬で作られます。
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皮膚科医の栁原先生の講演記録より。
その中で紹介されている山本巌先生の「かゆみ(=風邪)を内風と外風に分け、それぞれ中枢性止痒薬、局所性止痒薬で使い分ける」という考えは納得させられます。
<ポイント>
(生薬)
・内風→ 中枢性止痒薬:蝉退、釣藤鈎、天麻などの熄風薬
・外風→ 局所性止痒薬:麻黄、防風、荊芥などの解表薬
(方剤)
・一般型(風熱型)に消風散ベース
・寒冷蕁麻疹(風寒型)には麻黄剤など
・食餌性蕁麻疹には茵蔯蒿湯に小柴胡湯か大柴胡湯を合方
・心因性蕁麻疹には加味逍遙散合黄連解毒湯
・コリン型蕁麻疹には消風散合温清飲合加味逍遙散
※ 茵蔯蒿湯と茵蔯五苓散の鑑別は、前者は消炎作用に長け、後者は利水作用に長けていること。
■ 「かゆみ」治療の最新事情/漢方処方の使い分け
栁原 茂人 先生(鳥取大学医学部附属病院皮膚科 助教)
(Kampo Square 2016 Vol.13 No.11)
皮膚科診療における漢方処方の使い分けを、
1)かゆみをとる
2)炎症をとる
3)乾かす
4)潤す
5)こじれをとる
6)こころを診る
ーの 6 つの視点からの対応について紹介する。
◇ かゆみをとる:祛風
かゆみをとるには病態に合った生薬選びが重要である。かゆみ=風邪を内風と外風に分け、それぞれ中枢性止痒薬、局所性止痒薬で使い分ける考えがある 1,2)。前者は蝉退、釣藤鈎、天麻などの熄風薬、後者は麻黄、防風、荊芥などの解表作用のあるものを挙げている。それら祛風薬を主役にそろえた「漢方かゆみ 3 兄弟」として、湿潤傾向の皮疹に用いる消風散、 乾燥傾向の皮疹に用いる当帰飲子、広域スペクトラムを有する十味敗毒湯の3つを覚えて おくとよい。
◇ 炎症をとる:清熱
熱をとるには、白か黄と覚えるとよい。皮疹に応じて、潤しながら熱をとる白虎(石膏) 主体の白虎加人参湯、五虎湯、越婢加朮湯などか、乾かしながら熱をとる黄(黄連、黄芩、 黄柏)の生薬主体の、黄連解毒湯、三黄瀉心湯、半夏瀉心湯などを選択する。
◇ 乾かす:利湿(浮腫・滲出液をとる)
利湿を要する疾患として蕁麻疹を挙げる。山本巌は一般型(風熱型)に消風散ベース、 寒冷蕁麻疹(風寒型)には麻黄剤など、食餌性蕁麻疹には茵蔯蒿湯に小柴胡湯か大柴胡湯 を合方、心因性蕁麻疹には加味逍遙散合黄連解毒湯、コリン型蕁麻疹には消風散合温清飲合加味逍遙散を記載している 6)。このように、蕁麻疹に対しては、誘因に応じて漢方を使い分ける必要がある。
茵蔯蒿湯と茵蔯五苓散の鑑別は、前者は消炎作用に長け、後者は利水作用に長けていることである。
蕁麻疹の心理社会的ストレスとの関連性を重視し、抑肝散の奏効例を集めた報告もある 9)。
◇ うるおす:滋潤
乾燥した皮膚のかゆみには滋潤性の処方がよい。補血潤燥+清熱薬として、温清飲、当帰飲子などの四物湯ベースの方剤や人参養栄湯など補血剤を多く配合した処方を選択する。炎症の慢性化をきたすと補腎剤として六味丸などを検討する。
◇ こじれをとる:駆瘀血(省略)
◇ こころを診る
AD や皮膚瘙痒症で心理−皮膚相関が提唱され、抗うつ剤や抗不安剤の併用をされることが増えてきた。不安や抑うつ傾向、心気的な患者の皮疹に対して「漢方のメンタル 3 兄弟」、抑肝散加陳皮半夏、加味帰脾湯、加味逍遙散を挙げる。抑肝散はもともと小児の癇の虫の処方だったが、肝陽上亢から肝風内動に対する処方として、内風つまり痒みにもよく効く。認知症の周辺症状を抑制したり、神経障害性疼痛、線維束攣縮に適応されたり、各種神経系統の異常興奮を抑制する可能性がある。
【文献】
1)牧野健司 . 中医臨床 2009, 30(2), p.218-223.
2)山本 巌 . 皮膚科臨床講座 1 −老人性皮膚癌痒症 . THE KAMPO 1984, 2(1), p.26-31.
3)小林衣子ほか . 皮膚科における漢方治療の現況 1994, 5, p.25-34.
4)夏秋 優 . 白虎加人参湯のアトピー性皮膚炎患者に対する臨床効果の検討 日本東洋学会雑誌 2008, 59(3), p.483-489. 5)大河原章ほか . 西日本皮膚 1991, 53(6), p.1234-1241.
6)坂東 正造著 山本巌の漢方医学と構造主義 病名漢方治療の実際 メディカルユ−コン , 京都 , 2002.
7)斎田俊明ほか . 皮膚科紀要 1985, 82(2), p.147-151.
8)堀口裕治ほか . 皮膚科紀要 1987, 82(3), p.365-368.
9)Kato, S. et al. J. Dermatol. 2010, 37(12), p.1066-1067.
10)石岡忠夫ほか . 新薬と臨床 1992, 41(11), p.2603-2608.
11)石岡忠夫ほか . 新薬と臨床 1995, 16(5), p.267-274.
12)田宮久詩ほか . J Tradition Med 2011, 28; S65.
13)Yanagihara, S. et al. J Dermatol. 2013, 40(3), p.201-206.
14)古市恵ほか . 漢方医学 2011, 35(4), p.364-369.
15)Murayama, C. et al. Molecules 2015, 20(8), p.14959-14969.
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理論派、織部先生の「皮膚科で治せなかった固定じんま疹に十味敗毒湯が効いた」という報告と解説を。
<ポイント>
・虚実中間で胸脇苦満を認め、正常な皮膚に散在性に丘疹や膿痂疹、痒疹が認められるタイプが適応
・皮膚疾患の難治化の背景に瘀血があることがあり、その場合は虚実や便秘の有無を考慮して、各種の駆瘀血剤を単独あるいは合方、兼用すると急に改善することがある。
・五臓六腑論では、皮膚は肺と関係が深く、また肺の母は脾であるのでそこから建て直す治療法として脾胃剤(四君子湯・六君子湯・補中益気湯など)を中心に使用する。
・万策尽きたかというときの奥の一手が2通りある。ひとつは気血両虚とみて十全大補湯を使ってみること。もうひとつは裏寒がひどくて治癒力が極端に落ちていると思われる場合に四逆湯(甘草・乾姜・附子)や四逆加人参湯・茯苓四逆湯などを候補に入れて鑑別していくこと。
■ 漢方診療ワザとコツー漢方の考え方ーその1 皮膚科疾患
(漢方と診療 Vol.6 No.1 2015.04)
十味敗毒湯は華岡青洲の経験方である (ただし原方の桜皮に対し、私の使用したA社のエキス剤は樸樕を使用)。使うポイントとして、浅田宗伯の『勿誤薬室「方函」「口訣」』には「癰瘡及び諸瘡腫、初起増寒、壮熱、疼痛を治す」とあり、丘疹・膿痂疹・痤瘡のあるパターン、毛虫皮膚炎等その適応は広い。ただし私は虚実中間で胸脇苦満を認め、正常な皮膚に散在性に丘疹や膿痂疹、痒疹が認められるタイプが適応と考えている。
構成生薬は、桔梗・柴胡・川芎・茯苓・防風・甘草・荊芥・生姜・独活・撲樕(原方は桜皮)の10 味である(A社)。煎じ薬にする場合は、連翹を加味したり、特に痒みの強いときは蟬退を、炎症の目立つときは黄連や牛蒡子を混ぜるとさらに効果が増す。
皮膚科の標準的治療で治らない例は漢方でもけっこう難治性であり、従来のエキス剤だけではなかなか難しいことがある。ただ、難治化の背景に瘀血があることがあり、その場合は虚実や便秘の有無を考慮して、各種の駆瘀血剤を単独あるいは合方、兼用すると急に改善することがある。尋常性乾癬などもそうである。頑固な蕁麻疹・ アトピー性皮膚炎などでも駆瘀血剤を合方することで皮疹がみるみるうちに治っていくことをしばしば経験している。
次の一手は根本的改善策である。五臓六腑論では、皮膚は肺と関係が深く、また肺の母は脾であるのでそこから建て直す治療法である。脾胃剤(四君子湯・六君子湯・補中益気湯など)を中心に使用する。
さらには万策尽きたかというときの奥の一手が2通りある。ひとつは気血両虚とみて十全大補湯を使ってみること。もうひとつは裏寒がひどくて治癒力が極端に落ちていると思われる場合に四逆湯(甘草・乾姜・附子)や四逆加人参湯・茯苓四逆湯などを候補に入れて鑑別していくことである。
異病同治・同病異治にこそ、漢方の本質があるということである。
もうひとつ、織部先生の記事を。
■ 漢方診療ワザとコツ:漢方の考え方-その4「難治性蕁麻疹」
(漢方と診療 Vol.6 No.4(2016.01))
漢方医学では,急性と慢性のタイプに分け,また寒・熱にもとづいて方剤を決定することが基本である。
熱性の場合は,茵蔯五苓散を基本に黄連解毒湯や三黄瀉心湯・越婢加朮湯や,ときに竜胆瀉肝湯などを合方することが多い。
寒性の場合は,真武湯や人参湯をベースに,ときに麻黄附子細辛湯を単独あるいは合方して使用している。
漢方薬は,西洋薬の抗アレルギー薬と違って,眠気やふらつき・口渇等の副作用がないので高齢者にも安心して使用できる。
熱性蕁麻疹には,水滞と熱を取ることを目的にした茵蔯五苓散が基本となるが,熱の要素が強ければ黄連解毒湯などの清熱剤を合方するとよい。
寒性蕁麻疹については,私が監修した『各科領域から見た「冷え」と漢方治療』(たにぐち書店、2013) の10「皮膚科領域の冷えと漢方治療」(四方田まり著)に詳説しているので参考にしていただきたい。
熱性蕁麻疹とは違うが、もう一言述べさせていただくと、体の一部、特に背中などが帯状に熱くなったり,ほてったりする場合には梔子柏皮湯がよく効いている。梔子柏皮湯は『傷寒論』 の陽明病篇で茵蔯蒿湯の条文の次に「傷寒身黄発熱,梔子蘗皮湯,主之」 として出てくる方剤であるが,その応用範囲は実に広い。異病同治の代表方剤のひとつである。
蕁麻疹の原因,増悪・遷延因子のひとつとして,心因性のことは常に頭の中に入れておく必要があり,その場合は疏肝解鬱の作用がある漢方薬(加味逍遥散など)を単独で用いて,あっさりよくなることをしばしば経験して いる。やや難治の場合は,四物湯や香蘇散を合方して,それでも今ひとつの場合は,荊芥・撲樕・防風を加味するとよい。
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難治性皮膚疾患に漢方を使う、北海道の橋本先生のインタビュー記事から、慢性じんま疹の箇所を抜粋します。
<ポイント>
・基本は十味敗毒湯
・広範囲例には茵蔯五苓散
・瘀血&不定愁訴のある女性には加味逍遥散
・自己免疫性蕁麻疹には葛根湯を併用するとステロイドを減量しやすい
■ 皮膚科診療における漢方治療 アプローチ
JA北海道厚生連旭川厚生病院 診療部長・臨床研修センター長・皮膚科主任部長 橋本 喜夫 先生
(漢方医薬学雑誌 ● 2017 Vol.25 No.1(18))
<慢性蕁麻疹>
慢性蕁麻疹は,私の患者さんにも多い難治性疾患です。 ほとんどの場合、他院で抗ヒスタミン薬を投与しても一向に改善せず、かなりこじれてしまった状態で来院されます。現在使われている第二世代II期の抗ヒスタミン薬は、第一世代、第二世代I期のものとは異なり、抗ヒスタミン薬特有の副作用があらわれにくく、効果もよい薬です。その第二世代II期を多剤併用しても症状が改善しない場合、漢方薬の出番といえます。
・一般的な慢性蕁麻疹の症状で、抗ヒスタミン薬を多剤併用している場合は、十味敗毒湯を使用します。
・紅斑、膨疹などの発疹が広範囲に及ぶ場合は、茵蔯五苓散が効果的です。茵蔯五苓散を加えたことによって蕁麻疹をコントロールできるようになり、抗ヒスタミン薬を徐々に減らし、最後は茵蔯五苓散だけでコントロールしている症例を数多く経験しています。特に尿量減少や浮腫に悩んでいた患者さんは,「茵蔯五苓散を飲むと体調がよい」と、そのまま数年間飲み続けています。
・女性で瘀血があり不定愁訴を訴える慢性蕁麻疹の場合は、加味逍遙散を処方します。
慢性蕁麻疹の中でも極めて難治なものに、血中のIgE またはIgE受容体への自己抗体が関係しているとされる自己免疫性蕁麻疹があります。治療は抗ヒスタミン薬だけでは不十分なため、経口ステロイド薬や、免疫抑制薬のシクロスポリンなどを併用します。落ち着いたらステロイド薬を漸減していくのが一般的ですが、再燃の可能性を考えると、なかなか踏み切れないものです。そうしたときに葛根湯を併用すると、数日で発疹が消失し、ステロイド薬の減量も問題なく行うことができます。現在、私は3例の自己免疫性蕁麻疹を診ており、いずれもステロイド薬を中止し、葛根湯のみでコントロールできています。
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荒浪先生の皮膚疾患総論・概論から蕁麻疹を抜粋。
蕁麻疹に使われる漢方薬のラインアップがそろったという感じです。
<ポイント>
【急性蕁麻疹】
・熱感が強く汗の出ない場合は発表作用のある麻黄湯や葛根湯、浮腫性の場合は清熱・利水作用のある麻黄、石膏の配合された越婢加朮湯や麻杏甘石湯。
・清熱・利胆作用のある茵蔯蒿を配合した茵陳蒿湯や茵蔯五苓散が有効な場合がある。
【慢性蕁麻疹】
・魚介類などによる食事性蕁麻疹には、 解毒作用のある蘇葉を配合した香蘇散など。
・温熱刺激 によるものには消風散が第一選択薬。
・清熱作用を有する黄連解毒湯は顔面、頸部から下方に拡大していく場合に、白虎加人参湯は口渇、多汗を伴う場合に使用。
・寒冷刺激によるもので、 全身に冷えがある場合には麻黄附子細辛湯、手足の冷えが強い場合には当帰四逆加呉茱萸生姜湯、 腎虚の症状がある場合には八味地黄丸。
・コリン性蕁麻疹はストレスに誘発されて発汗を伴うことから、ストレスに対しては加味逍遙散や抑肝散、発汗に対して防已黄耆湯や桂枝加黄耆湯。
・心因性蕁麻疹には、咽中炙臠を目標に半夏厚朴湯、イライラや不眠傾向が強い場合は抑肝散、さらに胃腸虚弱なら抑肝散加陳皮半夏、特に女性で冷え、のぼせ、不眠などを伴う場合は加味逍遙散。
・原因不明の場合、胸脇苦満があれば柴胡剤や十味敗毒湯を用いる。臍傍部に圧痛を認め、月経異常などの瘀血徴候がある場合は駆血剤。
■ 皮膚科漢方医学「蕁麻疹」 荒浪暁彦(あらなみクリニック)
(ツムラ・メディカル・トゥデイ:領域別入門漢方医学シリーズ)
蕁麻疹には、一時的な急性蕁麻疹と 1 カ月以上症状が継続する慢性蕁麻疹がある。
急性蕁麻疹には麻黄剤や茵蔯加剤が適応になる。 熱感が強く汗の出ない場合は発表作用のある麻黄湯や葛根湯を用い、浮腫性の場合は清熱・利水作用のある麻黄、石膏の配合された越婢加朮湯や麻杏甘石湯を用いる。また、清熱・利胆作用のある茵蔯蒿を配合した茵陳蒿湯や茵蔯五苓散が有効な場合がある。
慢性蕁麻疹の場合は、その原因に対する漢方治療を考える。魚介類などによる食事性蕁麻疹には、 解毒作用のある蘇葉を配合した香蘇散などを使用する。物理的原因による蕁麻疹のうち、温熱刺激 によるものには消風散が第一選択薬となる。また、 清熱作用を有する黄連解毒湯は顔面、頸部から下方に拡大していく場合に、白虎加人参湯は口渇、多汗を伴う場合に使用する。寒冷刺激によるもので、 全身に冷えがある場合には麻黄附子細辛湯、手足の冷えが強い場合には当帰四逆加呉茱萸生姜湯、 腎虚の症状がある場合には八味地黄丸などを用いる。 コリン性蕁麻疹はストレスに誘発されて発汗を伴うことから、ストレスに対しては加味逍遙散や抑肝散、発汗に対して防已黄耆湯や桂枝加黄耆湯などを使用する。心因性蕁麻疹には、咽中炙臠を目標に半夏厚朴湯、イライラや不眠傾向が強い場合は抑肝散、さらに胃腸虚弱なら抑肝散加陳皮半夏、特に女性で冷え、のぼせ、不眠などを伴う場合は加味逍遙散などを用いる。原因不明の場合、胸脇苦満があれば柴胡剤や十味敗毒湯を用いる。臍傍部に圧痛を認め、月経異常などの瘀血徴候がある場合は駆血剤を使用する。
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NHK「ドクターG」にも出演する津田徳太郎先生の書いた記事「“なんだか不調”に漢方を」より。
<ポイント>
・魚毒(≒ヒスタミン中毒)には香蘇散。
・黄連解毒湯は熱性傾向が強く、舌候は厚い黄色の舌苔で覆われているといったタイプで、イライラして搔きむしり、夜も寝られないといった激しい痒みに。
・茵蔯蒿湯は大酒家や肝障害をともなう痒みに使用を検討する。大黄を含むため、便秘傾向が無い場合は茵蔯五苓散を用いる。
・当帰飲子は寒冷刺激による蕁麻疹に効果的。
■ 「胸のつかえ感と蕁麻疹」
津田篤太郎 聖路加国際病院 リウマチ膠原病センター
(Kampo Square 2017 Vol.14 No.8)
◇蕁麻疹に漢方薬は相性がよい?
蕁麻疹は発症 6 週間以内の急性蕁麻疹と、6 週間以上症状を繰り返す慢性蕁麻疹がある。
急性蕁麻疹は食物や薬剤に対するアレルギー、ウイルス性上気道炎や寄生虫などの感染症に起因するもの、温熱や圧迫刺激・光線過敏によるもの、心理的ストレスや疲労によるものなどがある。
慢性蕁麻疹ではこれに加え、全身性エリテマトーデス(SLE)やシェーグレン症候群など膠原病に関連するものや、抗 IgE 受容体抗体や抗甲状腺抗体など自己免疫性の機序によるものもあるが、原因が特定できないケースが大半である。
西洋医学的には問診や RAST-IgE 検査で原因を特定し、原因を除去することで対応するが、除去困難な場合は抗ヒスタミン薬内服、ということになる。 しかし、眠気などの副作用で抗ヒスタミン薬が服用できない場合や、長期内服に対して心理的な抵抗感がある場合、漢方治療を希望して来院する場合がある。また、ストレスや疲労で増悪する蕁麻疹では、その他の不定愁訴をともなうことも多く、漢方治療が向くケースがある。
香蘇散の出典は『和剤局方』で、適応は「四時の温疫、傷寒を治す」と記載されており、もともとは季節性の感冒に対する処方であった。構成生薬は香附子・蘇葉・陳皮など香りの高いものを多く含み、芳香性の成分によって体のエネルギー(気)の巡りを改善させる作用がある。そこで、主に気鬱を改善させる処方として使われることが多いが、食中毒、 特に「魚毒」に対する効能もよく知られている。 古典文献に記載されている「魚毒」には、現代医学でいう「scombroid poisoning」の概念も含んでいると考えられる。サバ科の魚類にはアミノ酸の一種であるヒスチジンが多く含まれており、微生物の作用でヒスチジンがヒスタミンに変換される。魚の保存状態が悪いとヒスタミンが多く産生され、摂取した場合に蕁麻疹や喘鳴などの中毒症状が出現する。香蘇散に含まれる紫蘇(蘇葉)の成分であるルテオリンは、マスト細胞からのヒスタミン遊離抑制作用や、リポキシゲナーゼ阻害作用が知られており、scombroid poisoning に有効であると考えられる。刺身のツマに紫蘇が添えられているのは、「魚毒」を防ぐ古人の智恵であろう。
蕁麻疹に対する漢方処方としては黄連解毒湯、茵蔯蒿湯、当帰飲子などがある。黄連解毒湯は熱性傾向が強く、舌候は厚い黄色の舌苔で覆われているといったタイプで、イライラして搔きむしり、夜も寝られないといった激しい痒みに用いる。茵蔯蒿湯は大酒家や肝障害をともなう痒みに使用を検討する。大黄を含むため、便秘傾向が無い場合は茵蔯五苓散を用いる。当帰飲子は寒冷刺激による蕁麻疹に効果的である。
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中医学的な解説を「家庭の中医学」より引用・抜粋。
まとめようとしたけど、まとまりません・・・中医学の解説は、階層分類ではなく証の羅列・並列が多くイメージを捉えにくいのですよね。フローチャートにならないかな。
<ポイント>
・急性蕁麻疹の原因:外風、消化器の不調
・慢性蕁麻疹の原因:内風、体質虚弱
・虚弱体質のヒトが汗をかいた後に風に当たると蕁麻疹が出る→ 「営衛不和」「衛気不固」→ 参蘇飲、桂枝加黄耆湯、黄耆建中湯、桂枝湯、玉屏風散
・不規則な生活と過労のヒトが、体が冷えたり風に当たると蕁麻疹が出る→ 葛根湯、桂麻各半湯
・皮疹は赤くて痒みが激しく、口渇、黄色舌苔、熱を受けると痒みが激しくなる→ 風熱→ 銀翹散
・胃腸の未熟・虚弱・不調→ 湿・飲が生まれる→ 湿性(浮腫状)蕁麻疹出現→ 寒湿・湿熱
①寒湿:発疹の色が青白く、からだが冷えると症状がひどくなる→ 五積散、五苓散、胃苓湯、真武湯
②湿熱:発疹の色が紅くなったり、痒みが激しい→ 消風散、越婢加朮湯、白虎加人参湯、十味敗毒湯
・美食、エビ・カニ・魚・肉の食べ過ぎ→ 廃水→ 湿熟化風→ 防風通聖散、香蘇散
・血虚生燥化風:当帰飲子
・陰虚燥熱化風:六味丸
・血熱生風・血熟妄行:血熱による蕁麻疹の特徴は、露出部に多く発生し、掻いたあとが腫れて盛り上がる。血熱によって起こる蕁麻疹で、熱性の症状が強いとき→ 温清飲、黄連解毒湯
・湿熱傷陰生風:激しい痒みをともない、黄色い体液がにじみ、充血が強く→ 竜胆瀉肝湯
・生熱化風: 精神情緒が不安定になってイライラしたり、おこりつぼい、顔が紅潮する口が乾く→ 加味逍遥散
・陰虚火旺:舌が紅く、苔が少ない、イライラ、寝汗といった症状をともなう→ 六味丸、知柏地黄丸
・血瘀:舌が紫色になり、どす黒い瘀斑や、掻いたあとが出血する→ 桂枝茯苓丸
・体質虚弱のため慢性化→ 人参湯、六君子湯、人参養栄湯、黄耆建中湯、十全大補湯、防巳黄耆湯、補中益気湯、八味丸
■ 漢方医学(中医学)による蕁麻疹の治療と予防
1.蕁麻疹のタイプは急性と慢性に分けられる
急性の蕁麻疹の病因として多いのは「外風」と「消化器の不調」です。
一方、慢性の蕁麻疹の病因として多いのは「内風」や「体質虚弱」です。
急性の蕁麻疹は、治療を誤らなければ比較的肋間単に治りますが、治療が適切でないと、症状をくり返したり、慢性化して、非常に治りにくくなります。
まず、急性の蕁麻疹のタイプと治療について、考えてみましょう。
2.病気に対抗する力が弱いために風が寝人して起こる蕁麻疹の治療
もともと虚弱体質でかぜをひきやすく、治りにくい人が、汗をかいたあとに風に当たると、蕁麻疹が突然起こることがあります。これは、営衛の気が虚弱なために、風邪を完全に追い払うことができず、かぜはほとんど治っているにもかかわらず、蕁麻疹となって邪気が残っている状態です。
発疹の色は比較的淡く、多くの場合、地図状に盛り上がります。また、汗をかきやすいのは、衛気が不足して皮膚をひき締めることができないからで、この状態を「営衛不和」あるいは「衛気不固」といいます。このタイプの蕁麻疹は「参蘇飲」や「桂枝加黄耆湯」「黄耆建中湯」や「桂枝湯」「玉屏風散」などで、風を軽く発散するといいでしょう。
3.風と冷えによって起こる蕁麻疹の治療
不規則な生活や過労などによって、一時的に衛気と営気の調和が乱れた虚の状態につけこんで、風が冷え(「寒」)をともなって侵入し、蕁麻疹をひき起こすことがあります。このタイプの蕁麻疹は、からだが冷えたり風に当たると発症し、冷えが強くなると症状が激しくなるのが特徴です。
悪寒や発熱、無汗といった症状をともない、軽くふれると脈が緊張したり遅くなるときは、「葛根湯」や「桂麻各半場」などを使います。
4.風と熱によって起こる蕁麻疹の治療
発疹が紅くて痒みが激しく、口渇をともない、舌には薄く黄色い苔がつき、熱を受けると痒みが激しくなるのは、「風熱」が原因です。このようなタイプの蕁麻疹は、「銀翹散」などを使って治療します。
5.風と、よぶんな水分によって起こる、蕁麻疹の治療
胃腸がまだ成熟していない乳幼児や、胃腸の消化吸収力がもともと弱い人、乱れた食生活を送っている人は、体内によぶんな水分(湿や「飲」)が生まれやすくなります。このような状態では、衛気と営気の調和が失われやすく、風を受けると、よぶんな水分と結びついて、湿性の蕁麻疹が現れます。全身に丘疹が現れ、水疱あるいは浮腫状に盛り上がる発疹をともないます。
このタイプの蕁麻疹には、「寒湿」によって起こるものと、湿熱によって起こるものがあります。このうち、発疹の色が青白く、からだが冷えると症状がひどくなるのは寒湿が原因です。手足の冷えや下痢、むくみ、おなかの脹りなどをともなうときは「五積散」や「藿香正気散」「五苓散」「胃苓湯」あるいは「真武湯」などを選びます。
熱を受けると症状がひどくなるのは湿熱が原因です。発疹の色が紅くなったり、痒みが激しいときは「消風散」や「越婢加朮湯」を使います。熱が重いときは「白虎加人参湯」、熱が軽いときは「十味敗毒湯」がいいでしょう。
6.消化器の不調によって起こる、蕁麻疹の治療
おいしいものばかり食べたり、エビやカニ、魚、肉の食べすぎなどによって消化器に過剰な負担がかかると、消化されないものがたまります。これは「廃水」と呼ばれます。生ゴミをほうっておくと熱が発生し、悪臭を放つように、廃水は熟を生み、風を起こします(「湿熟化風」)。こうして生まれた風が皮膚の血流を乱すと、蕁麻疹を起こす原因となります。このタイプの蕁麻疹で、便秘や下痢、げっぷや吐きけ、腹痛をともない、舌に黄色くあぶらっこい苔があるときは、「防風通聖散」などを使うといでしょう。また、エビやカニ、魚や肉などの食べものが原因の場合は、「香蘇散」を合わせて使うとよく効きます。
7.慢性の尋麻疹はからだの中で生まれた風によって起こることが多い
慢性の蕁麻疹は、からだの中で生まれた風(内風)によって起こることが多く、さまざまなタイプがあります。精神情緒が不安定で、内臓の機能(陽)が必要以上に亢進すると、体内の細胞液のバランスがくずれて水分が不足します。血液が濃縮されて、乾燥に近い状態となるため、からだの中で風が生まれやすくなります(「血虚生燥化風」)。痒みは非常に強く、皮膚が乾燥して、掻くとパラパラとはがれ落ちるようになります。
この場合には、補う「当帰飲子」乾燥が進むと、血液の潤いと栄養をを使います。血液の乾燥(血燥)にとどまらず、からだの水分も不足した状態となって、風が強くなります(「陰虚燥熱化風」)。このタイプの蕁麻疹には、精(陰)を補う「六味丸」が合います。
また、陰虚燥熱化風のために血行が渋滞すると、さらに新しい風が生まれます(「血熱生風」)。こうして体内で生まれた風が皮膚の血液の流れを乱すと、皮膚の充血やうっ血、イライラ、午後の発熱、舌が濃い紅色になるといった症状をともない、紅い蕁麻疹が視れます(「血熟妄行」)。血熱による蕁麻疹の特徴は、露出部に多く発生し、掻いたあとが腫れて盛り上がるという点で、日光皮膚炎でよく見られます。血熱によって起こる蕁麻疹で、熱性の症状が強いときは、「温清飲」 や「黄連解毒湯」 が合います。ただし、長期の使用は避けましょう。
飲食が原因となる「湿熱傷陰生風」タイプの蕁麻疹では、激しい痒みをともない、黄色い体液がにじみ、充血が強くをります。この場合は 「竜胆潟肝湯」を使うといいでしょう。 精神情緒が不安定になってイライラしたり、おこりつぼい、顔が紅潮する口が乾くといった「生熱化風」 の症状をともなう場合は、「加味逍遥散」を使います。舌が紅く、苔が少ない、イライラ、寝汗といった症状をともなう「陰虚火旺」の蕁麻疹には、六味丸や「知柏地黄丸」がよく合います。舌が紫色になり、どす黒い瘀斑や、掻いたあとが出血する「血瘀」の症状をともなうときは「桂枝茂苓丸」を合わせて使います。血痕をともなうタイプは、慢性の治りにくい蕁麻疹でよく見られます。
8.体質虚弱のために蕁麻疹が慢性化する
衛気と営気の力が弱く、邪気を追い払う力がたりないと、蕁麻疹が慢性化しやすくなります。疲労によって悪化しやすく、倦怠感や食欲不振、疲れやすいといった症状をともないます。かゆみはあまり強くなく、発疹もそれほどひどくはなりませんが、出没をくり返して、数年も続くことも少なくありません。 この場合には「人参湯」や「六君子湯」のほか、「人参養栄湯」や「黄耆建中湯」、「十全大補湯」「防已黄耆湯」「補中益気湯」「八味丸」などを使って体力を補い、正気を充実させて治療します。
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帝国ホテル内の漢方薬局を経営し著作も多い幸井俊高氏の「漢方薬 de コンシェルジュ」より。
<ポイント>
蕁麻疹、とくに慢性蕁麻疹は、西洋薬と漢方薬を併用することで治療効果を高めやすい病気。膨疹やかゆみを抑える対症療法は抗ヒスタミン剤などの西洋薬を使い、根本的なアレルギー体質の改善には漢方薬を用いて、慢性蕁麻疹の根治を図るとよい。
・蕁麻疹という病変そのものは「風邪(ふうじゃ)」(急に生じたり変化したりする病変)。
・蕁麻疹でいちばん多いのが「湿熱」証(体内に熱や湿気が過剰に存在している体質)、アレルギー性蕁麻疹、機械性蕁麻疹、日光蕁麻疹、コリン性蕁麻疹、温熱蕁麻疹の人にこの体質の場合が多い。
→ 清上防風湯や小柴胡湯。
・湿熱証でも、熱邪のほうが湿邪よりも勢いが強いようなら黄連解毒湯、逆に湿邪のほうが熱邪よりも強いようなら、茵蔯五苓散が適している。
・最近増えているのが「気滞血瘀」証(気や血の流れがわるい体質)。ストレスや緊張、不安、イライラなど精神的な要因。→ 加味逍遙散や、理気処方と活血処方とを合わせて処方。
・「気血両虚」証は疲れたときに蕁麻疹が出やすい→ 補中益気湯、かゆみが強いようなら補血作用を強めるために四物湯などを併用。
・「寒湿」証(冷えと余分な湿気が体内に存在)で冷えが体調悪化に影響しやすい体質。寒冷蕁麻疹。
■ 蕁麻疹に効く漢方(1)蕁麻疹の考え方と湿熱型蕁麻疹に効く漢方
(2011.7.21)
蕁麻疹は、突然発生する皮膚の病変です。なんらかの刺激を受けて発生する場合が多く、赤くふくれる膨疹は、とにかくかゆいのが特徴です。ふつうは長くても数時間程度で消えてしまいます。この蕁麻疹、さまざまな原因で生じますが、最近、ストレスによる蕁麻疹が増えているように思います。心配ごとが募ったり、イライラが続いたりすると現れる蕁麻疹です。
一般に、蕁麻疹は、サバや猫の毛、アスピリンなどによるアレルギー性蕁麻疹、下着のあたるところなどに出る機械性蕁麻疹、紫外線の刺激による日光蕁麻疹、汗などの刺激によるコリン性蕁麻疹、こたつやストーブの刺激による温熱蕁麻疹、冷風や冷たい床との接触による寒冷蕁麻疹などが、よくみられます。
もうひとつ、このところ多いように思われるのが、心因性蕁麻疹です。ストレスや緊張が大きな負担となると、からだに蕁麻疹ができてしまいます。子どもでもストレスを抱えていることが少なくないようで、このタイプの蕁麻疹にかかる場合があります。
以上は、原因別にみた蕁麻疹の種類です。西洋医学では、どのタイプの蕁麻疹に対しても抗ヒスタミン剤や抗アレルギー薬を処方するのが一般的ですが、漢方では、蕁麻疹の根本原因である患者さんの体質、つまり「証」に合わせ、さまざまな漢方薬が処方されます。
いちばん多いのが、体内に熱や湿気が過剰に存在している体質です。証は、「湿熱」証です。熱も湿気も健康の維持には適量必要なものではありますが、それが多すぎると体調不良や病気の原因となります。
そして最近増えているのが、「気滞血瘀」証です。気や血の流れがわるい体質です。ストレスや緊張、不安、イライラなど精神的な要因の影響で、蕁麻疹が生じます。
「気血両虚」証の蕁麻疹もあります。疲れたときに、蕁麻疹が出やすいのが特徴です。
寒冷蕁麻疹の場合は、上のいちばん多いタイプとは逆に、冷えが体調悪化に影響しやすい体質です。冷えと余分な湿気が体内に存在する「寒湿」証です。
以上のような体質の人に、なんらかの刺激が引き金となって、蕁麻疹が発生します。
蕁麻疹という病変そのものは「風邪(ふうじゃ)」です。急に生じたり変化したりする病変を風邪といいます。蕁麻疹が出ているときは、この風邪に対処した処方も必要となります。
一回きりの蕁麻疹や、ごくまれに蕁麻疹が出る程度でしたら抗ヒスタミン剤で対処できますので、漢方薬のお世話になることは少ないでしょう。しかし、蕁麻疹の原因を特定できる場合はそれほど多くなく、実際には原因不明の蕁麻疹が全体の7割以上といわれています。再発を繰り返す場合は、漢方薬で体質改善するといいでしょう。
基本的には上記の証に合わせて漢方薬で体質改善をすすめつつ、蕁麻疹が発生したときには風邪(ふうじゃ)に対応した漢方処方を服用する、というやり方がいいのかもしれません。しかし現実的には、蕁麻疹発生時のかゆみや発赤の改善には西洋薬を使い、蕁麻疹が繰り返し生じるという事態を根本的に改善していくために漢方薬を飲む、という方法が効果的な薬の使い方だと思われます。
■症例1
「学生のころから、ときどき蕁麻疹が出ます。魚介類や紫外線など、とくに思い当たる特定の原因はないのですが、なんとなく鮮度のよくないものを食べたときや、疲れがたまっているとき、汗をかいたときなど、さまざまな要因が重なり合ったときに出るような気がします。赤い蕁麻疹が全身に発生して、かゆくてたまりません」
汗の刺激、着ている洋服の化学繊維の刺激、季節の変わり目などの要因も関係しているかもしれません。最初は、腕の内側や太ももの内側など、軟らかいところに赤いポツポツとしたものができます。そのうち、赤くふくらんだ部分がつながって地図状に広がることもあります。強いかゆみとともに、ほてるような熱感があります。口が苦く、ねばるような感覚があります。舌を見ると、濃い赤色をしていました。舌の表面には、黄色い苔がべっとりと付着していました。このところ頻繁に発生するので、なんとかしたい、とのことです。
膨疹が赤い、かゆみが強い、舌苔が黄色い、などの症状から、蕁麻疹の背後に「熱邪」の存在が考えられます。また、蕁麻疹のふくらんだ部分が地図状に広がる、舌苔がべっとりしている、などの点から、「湿邪」も関係しています。これら両方の病邪を合わせて「湿熱」といいます。
湿熱の場合、口がねばる、口が苦い、口が渇く、食欲不振、吐き気、便秘あるいは下痢、ねっとりとした便が出る、すっきりと排便しない、尿の色が濃い、イライラしやすい、などの症状がみられます。いずれも、湿っぽく、熱っぽい症状です。
湿熱タイプの蕁麻疹には、清上防風湯や小柴胡湯が使われます。これらの漢方薬で、過剰な熱や湿気を捨て去ります。この患者さんには清上防風湯を飲んでもらいました。
効果は、すぐにあらわれました。漢方薬の服用をはじめてから、ぴたっと蕁麻疹が出なくなりました。
一般に、アレルギー性蕁麻疹、機械性蕁麻疹、日光蕁麻疹、コリン性蕁麻疹、温熱蕁麻疹の人には、この体質の場合が多くみられます。
この証に用いられる処方はいくつかあり、もし熱邪のほうが湿邪よりも勢いが強いようなら、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)などの処方が効果的です。逆に湿邪のほうが熱邪よりも強いようなら、茵蔯五苓散(いんちんごれいさん)あたりの処方が適しています。蕁麻疹の状態や、それ以外の患者さんの自覚症状を細かく聞き取って判断してください。
■ 蕁麻疹に効く漢方(2)気血が関係する蕁麻疹への漢方
(2011/8/3)
■症例2
「就職活動をするようになってから、蕁麻疹が出るようになりました。ときどき急に全身がかゆくなり、掻いた部分にみみずばれができます。イライラしたり、将来のことが不安になったりすると、かゆくなるような気がします」
蕁麻疹は、イライラしたときや、心配ごとがあるときだけでなく、緊張が続いているときや、逆に緊張がとれて一安心したときにも発生します。一日のうちでは、夜間に出ることが多いように思います。蕁麻疹は、やや黒っぽい赤色をしており、下着で圧迫されるような場所にできやすいようです。繰り返し同じ場所がかゆくなり、同じ場所をかいているうちに、色素沈着が生じて肌が褐色になっているところもあります。舌は暗紅色をしています。
この女性は蕁麻疹以外にも、就職活動をするようになってから、生理痛もひどくなりました。頭痛や肩こり、便秘、不眠などの症状も出ています。希望する就職先からなかなか内定が出ないストレスが原因だと思っていたようですが、ストレスがこんなに体調に影響するものだとは知りませんでした。
この患者さんの証は、「気滞血瘀」証です。気の流れがよくない気滞症と、血の流れがわるい血瘀証の両方を兼ね備えた証です。ストレスや緊張、不安、イライラなど精神的な要因の影響で、蕁麻疹が発生しています。
気と血とは関係が深く、「気は血の帥(すい)、血は気の母」といわれています。気は血に滋養してもらって、初めてじゅうぶん機能し、また血は気の働きによって、初めて全身をめぐることができるからです。したがって、どちらかの流れがわるくなると、もう一方の流れもわるくなり、気滞血瘀証が生まれます。
この証の場合は、気血の流れをサラサラにすることにより、根本的な病気の治療を進めます。処方は、加味逍遙散や、理気処方と活血処方とを合わせて処方します。加味逍遙散は、理気処方としてよく使われますが、補血作用がある当帰や芍薬といった生薬が配合されており、血の流れを調整する働きもあります。
この患者さんの場合は、補血する必要がなかったので、加味逍遙散ではなく、理気作用の強い四逆散と、活血作用の強い桂枝茯苓丸を合わせて服用してもらいました。結果は良好でした。
■症例3
「蕁麻疹が、繰り返し発生します。病院では、慢性蕁麻疹と診断されました。薬を飲むと症状は治まりますが、しばらくすると再発します。食べ物のアレルギーかもしれないと思い、気にしていますが、とくに食べ物との関係はないようで、疲れたときに出やすいと思います」
もともと疲れやすく、元気のないタイプです。胃腸は丈夫ではなく、軟便ぎみで、食欲もあまりありません。生理の量も少なめです。肌は乾燥ぎみで、つやがありません。蕁麻疹の色は薄めの赤色です。舌をみると、赤みが薄く、白っぽい色をしていました。
元気がない、疲れやすい、などの症状から、この人の証は「気虚」です。同時に、肌につやがなく乾燥していることや、生理の量が少ないことなどから、「血虚」証でもあります。すなわち、この人の証は「気血両虚」証です。
先の症例2で、気と血とは関係が深いという話をしました。症例2は、それぞれの流れがわるくなって体調が悪化したケースですが、今回は、それぞれの量が不足して病気になった例です。
こういう場合は、漢方薬で気血を補って、慢性蕁麻疹を治していきます。代表的な処方は、補中益気湯です。
補中益気湯は、補気処方として多用される処方ですが、なかに補血薬の当帰が配合されています。この処方は、気血の相互関係にもとづいて組まれた処方といえます。したがって、今回の場合、補中益気湯だけを服用してもらいました。もし、乾燥がすすみ、かゆみが強いようなら、補血作用を強めるために、四物湯などを一緒に飲んでもらうといいでしょう。
* * *
蕁麻疹、とくに慢性蕁麻疹は、西洋薬と漢方薬を併用することで治療効果を高めやすい病気です。膨疹やかゆみを抑える対症療法は抗ヒスタミン剤などの西洋薬を使い、根本的なアレルギー体質の改善には漢方薬を用いて、慢性蕁麻疹の根治を図るといいでしょう。
なかには、長期間にわたり西洋薬の服用を続けており、早く西洋薬をやめたいという気持ちから、漢方の服用をはじめると同時に自己判断で西洋薬の服用をやめてしまい、症状を悪化させてしまう人もいます。対症治療の効果については、漢方薬は抗ヒスタミン剤などに大きく及びませんので、そのあたりはきちんと患者さんに説明をして、両方を併用してもらってください。
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<参考>
・「小児のじんましん」(馬場直子、ドクターサロン2017)
・「こどもの蕁麻疹」(2014年6月21日 神戸大学大学院医学研究科 内科系講座小児科学分野こども急性疾患学部門 忍頂寺 毅史)
◇「蕁麻疹診療ガイドライン」(日本皮膚科学会、2011年)
◇「蕁麻疹診療ガイドライン」の解説(猪又直子、アレルギー 62(7), 813―821, 2013)
◇「蕁麻疹診療ガイドライン」における漢方薬の位置づけ(日本東洋医学会)
しかしそれで解決というわけではありません。
上記ガイドラインでは「蕁麻疹の70%は原因不明」と開き直っています。西洋医学では、原因の有無にかかわらず、抗ヒスタミン薬とステロイド薬が基本です。それが効かない場合は・・・今でも蕁麻疹で悩んでいる患者さんはたくさんいます。
そこで漢方の出番です。
漢方薬でどこまでコントロールできるのか・・・私自身、蕁麻疹の既往があるので調べてみました。
「ツムラ・漢方スクエア」を「蕁麻疹」で検索して出てきた主な方剤を列挙すると・・・
葛根湯・越婢加朮湯・抑肝散・抑肝散加陳皮半夏・麻黄附子細辛湯・消風散・茵陳蒿湯・茵蔯五苓散・加味逍遥散・十味敗毒湯・十全大補湯・真武湯・人参湯・梔子柏皮湯・越婢加朮湯・香蘇散・黄連解毒湯・白虎加人参湯・当帰四逆加呉茱萸生姜湯・八味地黄丸・防巳黄耆湯/桂枝加黄耆湯・半夏厚朴湯・当帰飲子・・・
ーと23種類(+α)もありました。こ、これらを使いこなすんですか(^^;)。私にできるかなあ・・・気を取り直して、使い分けのポイントを考えてみました。
しかし、各先方の書き方は様々で、まとめにくいことこの上なし。
<まとめ>
1.急性か慢性か:持続が6週間未満を急性、6週間以上を慢性
2.熱証か寒証か:温熱刺激で出るタイプか、寒冷刺激で出るタイプか
3.その他の要因:ストレス、発汗、水滞、
4.原因不明
□ 急性か慢性か?
(荒浪Dr.)
・急性蕁麻疹:麻黄剤や茵蔯加剤が適応になる。
・慢性蕁麻疹:その原因に対する漢方治療を考える。
(津田Dr.)
・急性蕁麻疹:食物や薬剤に対するアレルギー、ウイルス性上気道炎や寄生虫などの感染症に起因するもの、温熱や圧迫刺激・光線過敏によるもの、心理的ストレスや疲労によるものなどがある。
・慢性蕁麻疹:これに加え、全身性エリテマトーデス(SLE)やシェーグレン症候群など膠原病に関連するものや、抗 IgE 受容体抗体や抗甲状腺抗体など自己免疫性の機序によるものもあるが、原因が特定できないケースが大半である。
(家庭の中医学)
・急性蕁麻疹の病因:「外風」「消化器の不調」
・慢性蕁麻疹の病因:「内風」「体質虚弱」ーが多い。
<急性蕁麻疹>
・葛根湯:「とりあえずビール」的、風寒型に(森原Dr.)。
・麻黄剤(麻黄湯・葛根湯):熱感が強く汗の出ない場合(荒浪Dr.)。
・越婢加朮湯/麻杏甘石湯:浮腫性の場合(荒浪Dr.)。
・茵陳蒿湯/茵蔯五苓散:清熱・利胆作用を期待して(荒浪Dr.)。
<慢性蕁麻疹>
・熱性:茵蔯五苓散を基本に黄連解毒湯・三黄瀉心湯・越婢加朮湯・竜胆瀉肝湯などを合方(織部Dr.)。
・寒性:真武湯や人参湯をベースに,ときに麻黄附子細辛湯を単独あるいは合方(織部Dr.)。
・十味敗毒湯:抗ヒスタミン薬を多剤併用してもよくならない慢性蕁麻疹(橋本Dr.)。
・茵蔯五苓散:紅斑、膨疹などの発疹が広範囲に及ぶ場合(橋本Dr.)。
・加味逍遥散:女性・瘀血・不定愁訴が揃ったら(橋本Dr.)。
・葛根湯:自己免疫性蕁麻疹に併用するとステロイドを減量しやすい(橋本Dr.)。
・消風散:温熱刺激 によるものには第一選択薬(荒浪Dr.)。
・黄連解毒湯:熱性で顔面、頸部から下方に拡大していく場合(荒浪Dr.)。
・白虎加人参湯:熱性で口渇、多汗を伴う場合(荒浪Dr.)。
・麻黄附子細辛湯:寒冷刺激によるもので、 全身に冷えがある場合(荒浪Dr.)。
・当帰四逆加呉茱萸生姜湯:寒冷刺激によるもので、手足の冷えが強い場合(荒浪Dr.)。
・八味地黄丸:寒冷刺激によるもので、腎虚の症状がある場合(荒浪Dr.)。
香蘇散、消風散、黄連解毒湯、白虎加人参湯、麻黄附子細辛湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、八味地黄丸、加味逍遙散、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、防已黄耆湯、桂枝加黄耆湯
□ 熱証か寒証か?
<熱証> 〜温熱蕁麻疹
・越婢加朮湯(今ひとつなら+白虎加人参湯)(森原Dr.)
・茵蔯五苓散:熱証+水滞(今ひとつなら+黄連解毒湯)、広範囲例に(森原Dr.)。
・茵蔯五苓散を基本に黄連解毒湯・三黄瀉心湯・越婢加朮湯・竜胆瀉肝湯などを合方(織部Dr.)。
・消風散:風熱型、温熱刺激による蕁麻疹の第一選択(栁原Dr.)。
・黄連解毒湯:熱性傾向が強く、舌候は厚い黄色の舌苔で覆われているといったタイプで、イライラして搔きむしり、夜も寝られないといった激しい痒みに(津田Dr.)。
・黄連解毒湯:顔面、頸部から下方に拡大していく場合、激しいかゆみに(荒浪Dr.)。
・白虎加人参湯:口渇、多汗を伴う場合(荒浪Dr.)。
<寒証> 〜寒冷蕁麻疹
・麻黄附子細辛湯:全身に冷えがある場合(森原Dr.)
・真武湯や人参湯をベースに,ときに麻黄附子細辛湯を単独あるいは合方(織部Dr.)。
・当帰四逆加呉茱萸生姜湯:手足の冷えが強い例(織部Dr.)。
・八味地黄丸:腎虚(荒浪Dr.)。
・当帰飲子:寒冷刺激による蕁麻疹(津田Dr.)
・真武湯/人参湯(織部Dr.)。
□ その他
・ストレスが関与→ 抑肝散/抑肝散加陳皮半夏(森原Dr.)。
・心因性蕁麻疹→ 加味逍遙散(合黄連解毒湯)、瘀血+不定愁訴のある女性に(栁原Dr.)。
・心因性蕁麻疹→ 加味逍遥散、やや難治の場合は四物湯や香蘇散を合方,それでも今ひとつの場合は,荊芥・撲樕・防風を加味する(織部Dr.)。
・心因性蕁麻疹→ 咽中炙臠を目標に半夏厚朴湯、イライラや不眠傾向が強い場合は抑肝散、さらに胃腸虚弱なら抑肝散加陳皮半夏、特に女性で冷え、のぼせ、不眠などを伴う場合は加味逍遙散(荒浪Dr.)。
・食餌性→ 茵蔯蒿湯(に小柴胡湯か大柴胡湯を合方)(栁原Dr.)。
・食餌性(魚/魚毒scombroid poisoning)→ 香蘇散(荒浪Dr./津田Dr.)。
・コリン型蕁麻疹→ 消風散合温清飲合加味逍遙散(栁原Dr.)。
・コリン性蕁麻疹→ ストレスに対して加味逍遥散/抑肝散、発汗に対して防已黄耆湯/桂枝加黄耆湯(荒浪Dr.)。
・梔子柏皮湯→ 体の一部、特に背中などが帯状に熱くなったり,ほてったりする場合(織部Dr.)。
・茵陳蒿湯/茵蔯五苓散:茵蔯蒿湯は大酒家や肝障害をともなう痒みに。大黄を含むため、便秘傾向が無い場合は茵蔯五苓散を用いる(津田Dr.)。
□ 原因不明
・胸脇苦満→ 十味敗毒湯ほか柴胡剤(織部Dr.)
・脾胃を立て直す→ 脾胃剤(四君子湯・六君子湯・補中益気湯など)(織部Dr.)
・万策尽きたか→ 気血両虚に十全大補湯、頑固な裏寒に四逆湯や四逆加人参湯・茯苓四逆湯など(織部Dr.)
・瘀血→ 駆於血剤
・・・う〜ん、整理を試みても、なかなかまとまりません。
「急性・慢性」と「熱性・寒性」はオーバーラップしています(悪くいえばごちゃ混ぜ)。
印象として皮膚症状にとらわれず、患者さんの証を見立てて方剤を考えなければ解決しない、そこが一つのハードルになっていると感じました。
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皮膚科医の森原先生は、葛根湯、越婢加朮湯、抑肝散をよく使うそうです。
<ポイント>
・とりあえず葛根湯
・熱証には越婢加朮湯(効果今ひとつなら白虎加人参湯併用)
・ストレス関連なら抑肝散
・寒冷蕁麻疹には麻黄附子細辛湯
・熱証+水滞には茵蔯五苓散
■ 漢方道場 皮膚科編「蕁麻疹の漢方」森原 潔 先生(もりはら皮ふ科クリニック)
(Kampo Square 2016 Vol.13 No.5)
Q1.葛根湯を処方すべき患者さんは?
A1.証という漢方特有の考えは無視して、とりあえず出してみたい処方と思われます。味も良く、 子どもでも飲みやすいと思います。実は葛根湯の保険適応疾患として蕁麻疹はしっかり掲載されています。
葛根湯にはヒスタミン 遊離抑制作用がある麻黄という生薬が含まれており、蕁麻疹への薬効を示すメカニズムとして注目されます。
Q2.越婢加朮湯を処方すべき症例は?
A2.熱証の蕁麻疹に用いるとよいと思います。温熱刺激がきっかけで起こってくる蕁麻疹は多いですが、そういう場合は第一選択と考えています。越婢加朮湯には前述の麻黄のほか、最強の清熱剤といわれる石膏を構成生薬に持ちます。入浴時や運動時、就寝時など身体が温かくなったときに出現する蕁麻疹に用いてみてください。葛根湯ほど味は良くはありませんが、個人的にはまずくはないと思います。温熱により悪化する蕁麻疹に本剤で効果がはっきりしない場合は、清熱作用を強くする目的で、白虎加人参湯を一緒に処方してみるとよい場合があります。
Q3.抑肝散を使うべき症例は?
A3.ストレスに関連する蕁麻疹に用いるとよいと思います。イライラしているときや、 逆にストレスから解放されリラックスしたときに出てくる蕁麻疹に使ってみてください。働き盛りの年代に多いタイプですが、なかなか抗ヒスタミン薬だけではコントロールがつきにくく手を焼きます。ストレスが原因になっているからといって、西洋薬の抗うつ薬や抗不安薬はかえって患者さんから拒否されることも多いですが、その点漢方薬は受け入れやすいようです。抑肝散はイライラを抑制する作用があり、ストレス性の蕁麻疹への効果を期待できます。味は悪くないと思いますが構成生薬の川芎がセロリに似 た風味を持っており、それが苦手な人は飲みにくいかもしれません。
Q4.蕁麻疹に対して他に使えそうな漢方はありませんか?
A4.寒冷刺激が原因となって起こってくる蕁麻疹があります。寒冷蕁麻疹には麻黄附子細辛湯を好んで使っています。抗ヒスタミン作用のある麻黄に加え、附子と細辛には身体を温める働きがあります。
これらの方剤で効果が乏しい場合は、茵蔯五苓散を使ってみても良いかもしれません。 漢方では水の流れが悪くなって起こる病態を水滞と呼びます。蕁麻疹というのはヒスタ ミンにより起こる皮膚の浮腫ですので、間質に水がたまっていることから水滞ととらえることできます。茵蔯五苓散は水滞を改善する五苓散というお薬と、熱をさばき痒みを抑える効果のある茵陳蒿という生薬で作られます。
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皮膚科医の栁原先生の講演記録より。
その中で紹介されている山本巌先生の「かゆみ(=風邪)を内風と外風に分け、それぞれ中枢性止痒薬、局所性止痒薬で使い分ける」という考えは納得させられます。
<ポイント>
(生薬)
・内風→ 中枢性止痒薬:蝉退、釣藤鈎、天麻などの熄風薬
・外風→ 局所性止痒薬:麻黄、防風、荊芥などの解表薬
(方剤)
・一般型(風熱型)に消風散ベース
・寒冷蕁麻疹(風寒型)には麻黄剤など
・食餌性蕁麻疹には茵蔯蒿湯に小柴胡湯か大柴胡湯を合方
・心因性蕁麻疹には加味逍遙散合黄連解毒湯
・コリン型蕁麻疹には消風散合温清飲合加味逍遙散
※ 茵蔯蒿湯と茵蔯五苓散の鑑別は、前者は消炎作用に長け、後者は利水作用に長けていること。
■ 「かゆみ」治療の最新事情/漢方処方の使い分け
栁原 茂人 先生(鳥取大学医学部附属病院皮膚科 助教)
(Kampo Square 2016 Vol.13 No.11)
皮膚科診療における漢方処方の使い分けを、
1)かゆみをとる
2)炎症をとる
3)乾かす
4)潤す
5)こじれをとる
6)こころを診る
ーの 6 つの視点からの対応について紹介する。
◇ かゆみをとる:祛風
かゆみをとるには病態に合った生薬選びが重要である。かゆみ=風邪を内風と外風に分け、それぞれ中枢性止痒薬、局所性止痒薬で使い分ける考えがある 1,2)。前者は蝉退、釣藤鈎、天麻などの熄風薬、後者は麻黄、防風、荊芥などの解表作用のあるものを挙げている。それら祛風薬を主役にそろえた「漢方かゆみ 3 兄弟」として、湿潤傾向の皮疹に用いる消風散、 乾燥傾向の皮疹に用いる当帰飲子、広域スペクトラムを有する十味敗毒湯の3つを覚えて おくとよい。
◇ 炎症をとる:清熱
熱をとるには、白か黄と覚えるとよい。皮疹に応じて、潤しながら熱をとる白虎(石膏) 主体の白虎加人参湯、五虎湯、越婢加朮湯などか、乾かしながら熱をとる黄(黄連、黄芩、 黄柏)の生薬主体の、黄連解毒湯、三黄瀉心湯、半夏瀉心湯などを選択する。
◇ 乾かす:利湿(浮腫・滲出液をとる)
利湿を要する疾患として蕁麻疹を挙げる。山本巌は一般型(風熱型)に消風散ベース、 寒冷蕁麻疹(風寒型)には麻黄剤など、食餌性蕁麻疹には茵蔯蒿湯に小柴胡湯か大柴胡湯 を合方、心因性蕁麻疹には加味逍遙散合黄連解毒湯、コリン型蕁麻疹には消風散合温清飲合加味逍遙散を記載している 6)。このように、蕁麻疹に対しては、誘因に応じて漢方を使い分ける必要がある。
茵蔯蒿湯と茵蔯五苓散の鑑別は、前者は消炎作用に長け、後者は利水作用に長けていることである。
蕁麻疹の心理社会的ストレスとの関連性を重視し、抑肝散の奏効例を集めた報告もある 9)。
◇ うるおす:滋潤
乾燥した皮膚のかゆみには滋潤性の処方がよい。補血潤燥+清熱薬として、温清飲、当帰飲子などの四物湯ベースの方剤や人参養栄湯など補血剤を多く配合した処方を選択する。炎症の慢性化をきたすと補腎剤として六味丸などを検討する。
◇ こじれをとる:駆瘀血(省略)
◇ こころを診る
AD や皮膚瘙痒症で心理−皮膚相関が提唱され、抗うつ剤や抗不安剤の併用をされることが増えてきた。不安や抑うつ傾向、心気的な患者の皮疹に対して「漢方のメンタル 3 兄弟」、抑肝散加陳皮半夏、加味帰脾湯、加味逍遙散を挙げる。抑肝散はもともと小児の癇の虫の処方だったが、肝陽上亢から肝風内動に対する処方として、内風つまり痒みにもよく効く。認知症の周辺症状を抑制したり、神経障害性疼痛、線維束攣縮に適応されたり、各種神経系統の異常興奮を抑制する可能性がある。
【文献】
1)牧野健司 . 中医臨床 2009, 30(2), p.218-223.
2)山本 巌 . 皮膚科臨床講座 1 −老人性皮膚癌痒症 . THE KAMPO 1984, 2(1), p.26-31.
3)小林衣子ほか . 皮膚科における漢方治療の現況 1994, 5, p.25-34.
4)夏秋 優 . 白虎加人参湯のアトピー性皮膚炎患者に対する臨床効果の検討 日本東洋学会雑誌 2008, 59(3), p.483-489. 5)大河原章ほか . 西日本皮膚 1991, 53(6), p.1234-1241.
6)坂東 正造著 山本巌の漢方医学と構造主義 病名漢方治療の実際 メディカルユ−コン , 京都 , 2002.
7)斎田俊明ほか . 皮膚科紀要 1985, 82(2), p.147-151.
8)堀口裕治ほか . 皮膚科紀要 1987, 82(3), p.365-368.
9)Kato, S. et al. J. Dermatol. 2010, 37(12), p.1066-1067.
10)石岡忠夫ほか . 新薬と臨床 1992, 41(11), p.2603-2608.
11)石岡忠夫ほか . 新薬と臨床 1995, 16(5), p.267-274.
12)田宮久詩ほか . J Tradition Med 2011, 28; S65.
13)Yanagihara, S. et al. J Dermatol. 2013, 40(3), p.201-206.
14)古市恵ほか . 漢方医学 2011, 35(4), p.364-369.
15)Murayama, C. et al. Molecules 2015, 20(8), p.14959-14969.
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理論派、織部先生の「皮膚科で治せなかった固定じんま疹に十味敗毒湯が効いた」という報告と解説を。
<ポイント>
・虚実中間で胸脇苦満を認め、正常な皮膚に散在性に丘疹や膿痂疹、痒疹が認められるタイプが適応
・皮膚疾患の難治化の背景に瘀血があることがあり、その場合は虚実や便秘の有無を考慮して、各種の駆瘀血剤を単独あるいは合方、兼用すると急に改善することがある。
・五臓六腑論では、皮膚は肺と関係が深く、また肺の母は脾であるのでそこから建て直す治療法として脾胃剤(四君子湯・六君子湯・補中益気湯など)を中心に使用する。
・万策尽きたかというときの奥の一手が2通りある。ひとつは気血両虚とみて十全大補湯を使ってみること。もうひとつは裏寒がひどくて治癒力が極端に落ちていると思われる場合に四逆湯(甘草・乾姜・附子)や四逆加人参湯・茯苓四逆湯などを候補に入れて鑑別していくこと。
■ 漢方診療ワザとコツー漢方の考え方ーその1 皮膚科疾患
(漢方と診療 Vol.6 No.1 2015.04)
十味敗毒湯は華岡青洲の経験方である (ただし原方の桜皮に対し、私の使用したA社のエキス剤は樸樕を使用)。使うポイントとして、浅田宗伯の『勿誤薬室「方函」「口訣」』には「癰瘡及び諸瘡腫、初起増寒、壮熱、疼痛を治す」とあり、丘疹・膿痂疹・痤瘡のあるパターン、毛虫皮膚炎等その適応は広い。ただし私は虚実中間で胸脇苦満を認め、正常な皮膚に散在性に丘疹や膿痂疹、痒疹が認められるタイプが適応と考えている。
構成生薬は、桔梗・柴胡・川芎・茯苓・防風・甘草・荊芥・生姜・独活・撲樕(原方は桜皮)の10 味である(A社)。煎じ薬にする場合は、連翹を加味したり、特に痒みの強いときは蟬退を、炎症の目立つときは黄連や牛蒡子を混ぜるとさらに効果が増す。
皮膚科の標準的治療で治らない例は漢方でもけっこう難治性であり、従来のエキス剤だけではなかなか難しいことがある。ただ、難治化の背景に瘀血があることがあり、その場合は虚実や便秘の有無を考慮して、各種の駆瘀血剤を単独あるいは合方、兼用すると急に改善することがある。尋常性乾癬などもそうである。頑固な蕁麻疹・ アトピー性皮膚炎などでも駆瘀血剤を合方することで皮疹がみるみるうちに治っていくことをしばしば経験している。
次の一手は根本的改善策である。五臓六腑論では、皮膚は肺と関係が深く、また肺の母は脾であるのでそこから建て直す治療法である。脾胃剤(四君子湯・六君子湯・補中益気湯など)を中心に使用する。
さらには万策尽きたかというときの奥の一手が2通りある。ひとつは気血両虚とみて十全大補湯を使ってみること。もうひとつは裏寒がひどくて治癒力が極端に落ちていると思われる場合に四逆湯(甘草・乾姜・附子)や四逆加人参湯・茯苓四逆湯などを候補に入れて鑑別していくことである。
異病同治・同病異治にこそ、漢方の本質があるということである。
もうひとつ、織部先生の記事を。
■ 漢方診療ワザとコツ:漢方の考え方-その4「難治性蕁麻疹」
(漢方と診療 Vol.6 No.4(2016.01))
漢方医学では,急性と慢性のタイプに分け,また寒・熱にもとづいて方剤を決定することが基本である。
熱性の場合は,茵蔯五苓散を基本に黄連解毒湯や三黄瀉心湯・越婢加朮湯や,ときに竜胆瀉肝湯などを合方することが多い。
寒性の場合は,真武湯や人参湯をベースに,ときに麻黄附子細辛湯を単独あるいは合方して使用している。
漢方薬は,西洋薬の抗アレルギー薬と違って,眠気やふらつき・口渇等の副作用がないので高齢者にも安心して使用できる。
熱性蕁麻疹には,水滞と熱を取ることを目的にした茵蔯五苓散が基本となるが,熱の要素が強ければ黄連解毒湯などの清熱剤を合方するとよい。
寒性蕁麻疹については,私が監修した『各科領域から見た「冷え」と漢方治療』(たにぐち書店、2013) の10「皮膚科領域の冷えと漢方治療」(四方田まり著)に詳説しているので参考にしていただきたい。
熱性蕁麻疹とは違うが、もう一言述べさせていただくと、体の一部、特に背中などが帯状に熱くなったり,ほてったりする場合には梔子柏皮湯がよく効いている。梔子柏皮湯は『傷寒論』 の陽明病篇で茵蔯蒿湯の条文の次に「傷寒身黄発熱,梔子蘗皮湯,主之」 として出てくる方剤であるが,その応用範囲は実に広い。異病同治の代表方剤のひとつである。
蕁麻疹の原因,増悪・遷延因子のひとつとして,心因性のことは常に頭の中に入れておく必要があり,その場合は疏肝解鬱の作用がある漢方薬(加味逍遥散など)を単独で用いて,あっさりよくなることをしばしば経験して いる。やや難治の場合は,四物湯や香蘇散を合方して,それでも今ひとつの場合は,荊芥・撲樕・防風を加味するとよい。
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難治性皮膚疾患に漢方を使う、北海道の橋本先生のインタビュー記事から、慢性じんま疹の箇所を抜粋します。
<ポイント>
・基本は十味敗毒湯
・広範囲例には茵蔯五苓散
・瘀血&不定愁訴のある女性には加味逍遥散
・自己免疫性蕁麻疹には葛根湯を併用するとステロイドを減量しやすい
■ 皮膚科診療における漢方治療 アプローチ
JA北海道厚生連旭川厚生病院 診療部長・臨床研修センター長・皮膚科主任部長 橋本 喜夫 先生
(漢方医薬学雑誌 ● 2017 Vol.25 No.1(18))
<慢性蕁麻疹>
慢性蕁麻疹は,私の患者さんにも多い難治性疾患です。 ほとんどの場合、他院で抗ヒスタミン薬を投与しても一向に改善せず、かなりこじれてしまった状態で来院されます。現在使われている第二世代II期の抗ヒスタミン薬は、第一世代、第二世代I期のものとは異なり、抗ヒスタミン薬特有の副作用があらわれにくく、効果もよい薬です。その第二世代II期を多剤併用しても症状が改善しない場合、漢方薬の出番といえます。
・一般的な慢性蕁麻疹の症状で、抗ヒスタミン薬を多剤併用している場合は、十味敗毒湯を使用します。
・紅斑、膨疹などの発疹が広範囲に及ぶ場合は、茵蔯五苓散が効果的です。茵蔯五苓散を加えたことによって蕁麻疹をコントロールできるようになり、抗ヒスタミン薬を徐々に減らし、最後は茵蔯五苓散だけでコントロールしている症例を数多く経験しています。特に尿量減少や浮腫に悩んでいた患者さんは,「茵蔯五苓散を飲むと体調がよい」と、そのまま数年間飲み続けています。
・女性で瘀血があり不定愁訴を訴える慢性蕁麻疹の場合は、加味逍遙散を処方します。
慢性蕁麻疹の中でも極めて難治なものに、血中のIgE またはIgE受容体への自己抗体が関係しているとされる自己免疫性蕁麻疹があります。治療は抗ヒスタミン薬だけでは不十分なため、経口ステロイド薬や、免疫抑制薬のシクロスポリンなどを併用します。落ち着いたらステロイド薬を漸減していくのが一般的ですが、再燃の可能性を考えると、なかなか踏み切れないものです。そうしたときに葛根湯を併用すると、数日で発疹が消失し、ステロイド薬の減量も問題なく行うことができます。現在、私は3例の自己免疫性蕁麻疹を診ており、いずれもステロイド薬を中止し、葛根湯のみでコントロールできています。
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荒浪先生の皮膚疾患総論・概論から蕁麻疹を抜粋。
蕁麻疹に使われる漢方薬のラインアップがそろったという感じです。
<ポイント>
【急性蕁麻疹】
・熱感が強く汗の出ない場合は発表作用のある麻黄湯や葛根湯、浮腫性の場合は清熱・利水作用のある麻黄、石膏の配合された越婢加朮湯や麻杏甘石湯。
・清熱・利胆作用のある茵蔯蒿を配合した茵陳蒿湯や茵蔯五苓散が有効な場合がある。
【慢性蕁麻疹】
・魚介類などによる食事性蕁麻疹には、 解毒作用のある蘇葉を配合した香蘇散など。
・温熱刺激 によるものには消風散が第一選択薬。
・清熱作用を有する黄連解毒湯は顔面、頸部から下方に拡大していく場合に、白虎加人参湯は口渇、多汗を伴う場合に使用。
・寒冷刺激によるもので、 全身に冷えがある場合には麻黄附子細辛湯、手足の冷えが強い場合には当帰四逆加呉茱萸生姜湯、 腎虚の症状がある場合には八味地黄丸。
・コリン性蕁麻疹はストレスに誘発されて発汗を伴うことから、ストレスに対しては加味逍遙散や抑肝散、発汗に対して防已黄耆湯や桂枝加黄耆湯。
・心因性蕁麻疹には、咽中炙臠を目標に半夏厚朴湯、イライラや不眠傾向が強い場合は抑肝散、さらに胃腸虚弱なら抑肝散加陳皮半夏、特に女性で冷え、のぼせ、不眠などを伴う場合は加味逍遙散。
・原因不明の場合、胸脇苦満があれば柴胡剤や十味敗毒湯を用いる。臍傍部に圧痛を認め、月経異常などの瘀血徴候がある場合は駆血剤。
■ 皮膚科漢方医学「蕁麻疹」 荒浪暁彦(あらなみクリニック)
(ツムラ・メディカル・トゥデイ:領域別入門漢方医学シリーズ)
蕁麻疹には、一時的な急性蕁麻疹と 1 カ月以上症状が継続する慢性蕁麻疹がある。
急性蕁麻疹には麻黄剤や茵蔯加剤が適応になる。 熱感が強く汗の出ない場合は発表作用のある麻黄湯や葛根湯を用い、浮腫性の場合は清熱・利水作用のある麻黄、石膏の配合された越婢加朮湯や麻杏甘石湯を用いる。また、清熱・利胆作用のある茵蔯蒿を配合した茵陳蒿湯や茵蔯五苓散が有効な場合がある。
慢性蕁麻疹の場合は、その原因に対する漢方治療を考える。魚介類などによる食事性蕁麻疹には、 解毒作用のある蘇葉を配合した香蘇散などを使用する。物理的原因による蕁麻疹のうち、温熱刺激 によるものには消風散が第一選択薬となる。また、 清熱作用を有する黄連解毒湯は顔面、頸部から下方に拡大していく場合に、白虎加人参湯は口渇、多汗を伴う場合に使用する。寒冷刺激によるもので、 全身に冷えがある場合には麻黄附子細辛湯、手足の冷えが強い場合には当帰四逆加呉茱萸生姜湯、 腎虚の症状がある場合には八味地黄丸などを用いる。 コリン性蕁麻疹はストレスに誘発されて発汗を伴うことから、ストレスに対しては加味逍遙散や抑肝散、発汗に対して防已黄耆湯や桂枝加黄耆湯などを使用する。心因性蕁麻疹には、咽中炙臠を目標に半夏厚朴湯、イライラや不眠傾向が強い場合は抑肝散、さらに胃腸虚弱なら抑肝散加陳皮半夏、特に女性で冷え、のぼせ、不眠などを伴う場合は加味逍遙散などを用いる。原因不明の場合、胸脇苦満があれば柴胡剤や十味敗毒湯を用いる。臍傍部に圧痛を認め、月経異常などの瘀血徴候がある場合は駆血剤を使用する。
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NHK「ドクターG」にも出演する津田徳太郎先生の書いた記事「“なんだか不調”に漢方を」より。
<ポイント>
・魚毒(≒ヒスタミン中毒)には香蘇散。
・黄連解毒湯は熱性傾向が強く、舌候は厚い黄色の舌苔で覆われているといったタイプで、イライラして搔きむしり、夜も寝られないといった激しい痒みに。
・茵蔯蒿湯は大酒家や肝障害をともなう痒みに使用を検討する。大黄を含むため、便秘傾向が無い場合は茵蔯五苓散を用いる。
・当帰飲子は寒冷刺激による蕁麻疹に効果的。
■ 「胸のつかえ感と蕁麻疹」
津田篤太郎 聖路加国際病院 リウマチ膠原病センター
(Kampo Square 2017 Vol.14 No.8)
◇蕁麻疹に漢方薬は相性がよい?
蕁麻疹は発症 6 週間以内の急性蕁麻疹と、6 週間以上症状を繰り返す慢性蕁麻疹がある。
急性蕁麻疹は食物や薬剤に対するアレルギー、ウイルス性上気道炎や寄生虫などの感染症に起因するもの、温熱や圧迫刺激・光線過敏によるもの、心理的ストレスや疲労によるものなどがある。
慢性蕁麻疹ではこれに加え、全身性エリテマトーデス(SLE)やシェーグレン症候群など膠原病に関連するものや、抗 IgE 受容体抗体や抗甲状腺抗体など自己免疫性の機序によるものもあるが、原因が特定できないケースが大半である。
西洋医学的には問診や RAST-IgE 検査で原因を特定し、原因を除去することで対応するが、除去困難な場合は抗ヒスタミン薬内服、ということになる。 しかし、眠気などの副作用で抗ヒスタミン薬が服用できない場合や、長期内服に対して心理的な抵抗感がある場合、漢方治療を希望して来院する場合がある。また、ストレスや疲労で増悪する蕁麻疹では、その他の不定愁訴をともなうことも多く、漢方治療が向くケースがある。
香蘇散の出典は『和剤局方』で、適応は「四時の温疫、傷寒を治す」と記載されており、もともとは季節性の感冒に対する処方であった。構成生薬は香附子・蘇葉・陳皮など香りの高いものを多く含み、芳香性の成分によって体のエネルギー(気)の巡りを改善させる作用がある。そこで、主に気鬱を改善させる処方として使われることが多いが、食中毒、 特に「魚毒」に対する効能もよく知られている。 古典文献に記載されている「魚毒」には、現代医学でいう「scombroid poisoning」の概念も含んでいると考えられる。サバ科の魚類にはアミノ酸の一種であるヒスチジンが多く含まれており、微生物の作用でヒスチジンがヒスタミンに変換される。魚の保存状態が悪いとヒスタミンが多く産生され、摂取した場合に蕁麻疹や喘鳴などの中毒症状が出現する。香蘇散に含まれる紫蘇(蘇葉)の成分であるルテオリンは、マスト細胞からのヒスタミン遊離抑制作用や、リポキシゲナーゼ阻害作用が知られており、scombroid poisoning に有効であると考えられる。刺身のツマに紫蘇が添えられているのは、「魚毒」を防ぐ古人の智恵であろう。
蕁麻疹に対する漢方処方としては黄連解毒湯、茵蔯蒿湯、当帰飲子などがある。黄連解毒湯は熱性傾向が強く、舌候は厚い黄色の舌苔で覆われているといったタイプで、イライラして搔きむしり、夜も寝られないといった激しい痒みに用いる。茵蔯蒿湯は大酒家や肝障害をともなう痒みに使用を検討する。大黄を含むため、便秘傾向が無い場合は茵蔯五苓散を用いる。当帰飲子は寒冷刺激による蕁麻疹に効果的である。
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中医学的な解説を「家庭の中医学」より引用・抜粋。
まとめようとしたけど、まとまりません・・・中医学の解説は、階層分類ではなく証の羅列・並列が多くイメージを捉えにくいのですよね。フローチャートにならないかな。
<ポイント>
・急性蕁麻疹の原因:外風、消化器の不調
・慢性蕁麻疹の原因:内風、体質虚弱
・虚弱体質のヒトが汗をかいた後に風に当たると蕁麻疹が出る→ 「営衛不和」「衛気不固」→ 参蘇飲、桂枝加黄耆湯、黄耆建中湯、桂枝湯、玉屏風散
・不規則な生活と過労のヒトが、体が冷えたり風に当たると蕁麻疹が出る→ 葛根湯、桂麻各半湯
・皮疹は赤くて痒みが激しく、口渇、黄色舌苔、熱を受けると痒みが激しくなる→ 風熱→ 銀翹散
・胃腸の未熟・虚弱・不調→ 湿・飲が生まれる→ 湿性(浮腫状)蕁麻疹出現→ 寒湿・湿熱
①寒湿:発疹の色が青白く、からだが冷えると症状がひどくなる→ 五積散、五苓散、胃苓湯、真武湯
②湿熱:発疹の色が紅くなったり、痒みが激しい→ 消風散、越婢加朮湯、白虎加人参湯、十味敗毒湯
・美食、エビ・カニ・魚・肉の食べ過ぎ→ 廃水→ 湿熟化風→ 防風通聖散、香蘇散
・血虚生燥化風:当帰飲子
・陰虚燥熱化風:六味丸
・血熱生風・血熟妄行:血熱による蕁麻疹の特徴は、露出部に多く発生し、掻いたあとが腫れて盛り上がる。血熱によって起こる蕁麻疹で、熱性の症状が強いとき→ 温清飲、黄連解毒湯
・湿熱傷陰生風:激しい痒みをともない、黄色い体液がにじみ、充血が強く→ 竜胆瀉肝湯
・生熱化風: 精神情緒が不安定になってイライラしたり、おこりつぼい、顔が紅潮する口が乾く→ 加味逍遥散
・陰虚火旺:舌が紅く、苔が少ない、イライラ、寝汗といった症状をともなう→ 六味丸、知柏地黄丸
・血瘀:舌が紫色になり、どす黒い瘀斑や、掻いたあとが出血する→ 桂枝茯苓丸
・体質虚弱のため慢性化→ 人参湯、六君子湯、人参養栄湯、黄耆建中湯、十全大補湯、防巳黄耆湯、補中益気湯、八味丸
■ 漢方医学(中医学)による蕁麻疹の治療と予防
1.蕁麻疹のタイプは急性と慢性に分けられる
急性の蕁麻疹の病因として多いのは「外風」と「消化器の不調」です。
一方、慢性の蕁麻疹の病因として多いのは「内風」や「体質虚弱」です。
急性の蕁麻疹は、治療を誤らなければ比較的肋間単に治りますが、治療が適切でないと、症状をくり返したり、慢性化して、非常に治りにくくなります。
まず、急性の蕁麻疹のタイプと治療について、考えてみましょう。
2.病気に対抗する力が弱いために風が寝人して起こる蕁麻疹の治療
もともと虚弱体質でかぜをひきやすく、治りにくい人が、汗をかいたあとに風に当たると、蕁麻疹が突然起こることがあります。これは、営衛の気が虚弱なために、風邪を完全に追い払うことができず、かぜはほとんど治っているにもかかわらず、蕁麻疹となって邪気が残っている状態です。
発疹の色は比較的淡く、多くの場合、地図状に盛り上がります。また、汗をかきやすいのは、衛気が不足して皮膚をひき締めることができないからで、この状態を「営衛不和」あるいは「衛気不固」といいます。このタイプの蕁麻疹は「参蘇飲」や「桂枝加黄耆湯」「黄耆建中湯」や「桂枝湯」「玉屏風散」などで、風を軽く発散するといいでしょう。
3.風と冷えによって起こる蕁麻疹の治療
不規則な生活や過労などによって、一時的に衛気と営気の調和が乱れた虚の状態につけこんで、風が冷え(「寒」)をともなって侵入し、蕁麻疹をひき起こすことがあります。このタイプの蕁麻疹は、からだが冷えたり風に当たると発症し、冷えが強くなると症状が激しくなるのが特徴です。
悪寒や発熱、無汗といった症状をともない、軽くふれると脈が緊張したり遅くなるときは、「葛根湯」や「桂麻各半場」などを使います。
4.風と熱によって起こる蕁麻疹の治療
発疹が紅くて痒みが激しく、口渇をともない、舌には薄く黄色い苔がつき、熱を受けると痒みが激しくなるのは、「風熱」が原因です。このようなタイプの蕁麻疹は、「銀翹散」などを使って治療します。
5.風と、よぶんな水分によって起こる、蕁麻疹の治療
胃腸がまだ成熟していない乳幼児や、胃腸の消化吸収力がもともと弱い人、乱れた食生活を送っている人は、体内によぶんな水分(湿や「飲」)が生まれやすくなります。このような状態では、衛気と営気の調和が失われやすく、風を受けると、よぶんな水分と結びついて、湿性の蕁麻疹が現れます。全身に丘疹が現れ、水疱あるいは浮腫状に盛り上がる発疹をともないます。
このタイプの蕁麻疹には、「寒湿」によって起こるものと、湿熱によって起こるものがあります。このうち、発疹の色が青白く、からだが冷えると症状がひどくなるのは寒湿が原因です。手足の冷えや下痢、むくみ、おなかの脹りなどをともなうときは「五積散」や「藿香正気散」「五苓散」「胃苓湯」あるいは「真武湯」などを選びます。
熱を受けると症状がひどくなるのは湿熱が原因です。発疹の色が紅くなったり、痒みが激しいときは「消風散」や「越婢加朮湯」を使います。熱が重いときは「白虎加人参湯」、熱が軽いときは「十味敗毒湯」がいいでしょう。
6.消化器の不調によって起こる、蕁麻疹の治療
おいしいものばかり食べたり、エビやカニ、魚、肉の食べすぎなどによって消化器に過剰な負担がかかると、消化されないものがたまります。これは「廃水」と呼ばれます。生ゴミをほうっておくと熱が発生し、悪臭を放つように、廃水は熟を生み、風を起こします(「湿熟化風」)。こうして生まれた風が皮膚の血流を乱すと、蕁麻疹を起こす原因となります。このタイプの蕁麻疹で、便秘や下痢、げっぷや吐きけ、腹痛をともない、舌に黄色くあぶらっこい苔があるときは、「防風通聖散」などを使うといでしょう。また、エビやカニ、魚や肉などの食べものが原因の場合は、「香蘇散」を合わせて使うとよく効きます。
7.慢性の尋麻疹はからだの中で生まれた風によって起こることが多い
慢性の蕁麻疹は、からだの中で生まれた風(内風)によって起こることが多く、さまざまなタイプがあります。精神情緒が不安定で、内臓の機能(陽)が必要以上に亢進すると、体内の細胞液のバランスがくずれて水分が不足します。血液が濃縮されて、乾燥に近い状態となるため、からだの中で風が生まれやすくなります(「血虚生燥化風」)。痒みは非常に強く、皮膚が乾燥して、掻くとパラパラとはがれ落ちるようになります。
この場合には、補う「当帰飲子」乾燥が進むと、血液の潤いと栄養をを使います。血液の乾燥(血燥)にとどまらず、からだの水分も不足した状態となって、風が強くなります(「陰虚燥熱化風」)。このタイプの蕁麻疹には、精(陰)を補う「六味丸」が合います。
また、陰虚燥熱化風のために血行が渋滞すると、さらに新しい風が生まれます(「血熱生風」)。こうして体内で生まれた風が皮膚の血液の流れを乱すと、皮膚の充血やうっ血、イライラ、午後の発熱、舌が濃い紅色になるといった症状をともない、紅い蕁麻疹が視れます(「血熟妄行」)。血熱による蕁麻疹の特徴は、露出部に多く発生し、掻いたあとが腫れて盛り上がるという点で、日光皮膚炎でよく見られます。血熱によって起こる蕁麻疹で、熱性の症状が強いときは、「温清飲」 や「黄連解毒湯」 が合います。ただし、長期の使用は避けましょう。
飲食が原因となる「湿熱傷陰生風」タイプの蕁麻疹では、激しい痒みをともない、黄色い体液がにじみ、充血が強くをります。この場合は 「竜胆潟肝湯」を使うといいでしょう。 精神情緒が不安定になってイライラしたり、おこりつぼい、顔が紅潮する口が乾くといった「生熱化風」 の症状をともなう場合は、「加味逍遥散」を使います。舌が紅く、苔が少ない、イライラ、寝汗といった症状をともなう「陰虚火旺」の蕁麻疹には、六味丸や「知柏地黄丸」がよく合います。舌が紫色になり、どす黒い瘀斑や、掻いたあとが出血する「血瘀」の症状をともなうときは「桂枝茂苓丸」を合わせて使います。血痕をともなうタイプは、慢性の治りにくい蕁麻疹でよく見られます。
8.体質虚弱のために蕁麻疹が慢性化する
衛気と営気の力が弱く、邪気を追い払う力がたりないと、蕁麻疹が慢性化しやすくなります。疲労によって悪化しやすく、倦怠感や食欲不振、疲れやすいといった症状をともないます。かゆみはあまり強くなく、発疹もそれほどひどくはなりませんが、出没をくり返して、数年も続くことも少なくありません。 この場合には「人参湯」や「六君子湯」のほか、「人参養栄湯」や「黄耆建中湯」、「十全大補湯」「防已黄耆湯」「補中益気湯」「八味丸」などを使って体力を補い、正気を充実させて治療します。
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帝国ホテル内の漢方薬局を経営し著作も多い幸井俊高氏の「漢方薬 de コンシェルジュ」より。
<ポイント>
蕁麻疹、とくに慢性蕁麻疹は、西洋薬と漢方薬を併用することで治療効果を高めやすい病気。膨疹やかゆみを抑える対症療法は抗ヒスタミン剤などの西洋薬を使い、根本的なアレルギー体質の改善には漢方薬を用いて、慢性蕁麻疹の根治を図るとよい。
・蕁麻疹という病変そのものは「風邪(ふうじゃ)」(急に生じたり変化したりする病変)。
・蕁麻疹でいちばん多いのが「湿熱」証(体内に熱や湿気が過剰に存在している体質)、アレルギー性蕁麻疹、機械性蕁麻疹、日光蕁麻疹、コリン性蕁麻疹、温熱蕁麻疹の人にこの体質の場合が多い。
→ 清上防風湯や小柴胡湯。
・湿熱証でも、熱邪のほうが湿邪よりも勢いが強いようなら黄連解毒湯、逆に湿邪のほうが熱邪よりも強いようなら、茵蔯五苓散が適している。
・最近増えているのが「気滞血瘀」証(気や血の流れがわるい体質)。ストレスや緊張、不安、イライラなど精神的な要因。→ 加味逍遙散や、理気処方と活血処方とを合わせて処方。
・「気血両虚」証は疲れたときに蕁麻疹が出やすい→ 補中益気湯、かゆみが強いようなら補血作用を強めるために四物湯などを併用。
・「寒湿」証(冷えと余分な湿気が体内に存在)で冷えが体調悪化に影響しやすい体質。寒冷蕁麻疹。
■ 蕁麻疹に効く漢方(1)蕁麻疹の考え方と湿熱型蕁麻疹に効く漢方
(2011.7.21)
蕁麻疹は、突然発生する皮膚の病変です。なんらかの刺激を受けて発生する場合が多く、赤くふくれる膨疹は、とにかくかゆいのが特徴です。ふつうは長くても数時間程度で消えてしまいます。この蕁麻疹、さまざまな原因で生じますが、最近、ストレスによる蕁麻疹が増えているように思います。心配ごとが募ったり、イライラが続いたりすると現れる蕁麻疹です。
一般に、蕁麻疹は、サバや猫の毛、アスピリンなどによるアレルギー性蕁麻疹、下着のあたるところなどに出る機械性蕁麻疹、紫外線の刺激による日光蕁麻疹、汗などの刺激によるコリン性蕁麻疹、こたつやストーブの刺激による温熱蕁麻疹、冷風や冷たい床との接触による寒冷蕁麻疹などが、よくみられます。
もうひとつ、このところ多いように思われるのが、心因性蕁麻疹です。ストレスや緊張が大きな負担となると、からだに蕁麻疹ができてしまいます。子どもでもストレスを抱えていることが少なくないようで、このタイプの蕁麻疹にかかる場合があります。
以上は、原因別にみた蕁麻疹の種類です。西洋医学では、どのタイプの蕁麻疹に対しても抗ヒスタミン剤や抗アレルギー薬を処方するのが一般的ですが、漢方では、蕁麻疹の根本原因である患者さんの体質、つまり「証」に合わせ、さまざまな漢方薬が処方されます。
いちばん多いのが、体内に熱や湿気が過剰に存在している体質です。証は、「湿熱」証です。熱も湿気も健康の維持には適量必要なものではありますが、それが多すぎると体調不良や病気の原因となります。
そして最近増えているのが、「気滞血瘀」証です。気や血の流れがわるい体質です。ストレスや緊張、不安、イライラなど精神的な要因の影響で、蕁麻疹が生じます。
「気血両虚」証の蕁麻疹もあります。疲れたときに、蕁麻疹が出やすいのが特徴です。
寒冷蕁麻疹の場合は、上のいちばん多いタイプとは逆に、冷えが体調悪化に影響しやすい体質です。冷えと余分な湿気が体内に存在する「寒湿」証です。
以上のような体質の人に、なんらかの刺激が引き金となって、蕁麻疹が発生します。
蕁麻疹という病変そのものは「風邪(ふうじゃ)」です。急に生じたり変化したりする病変を風邪といいます。蕁麻疹が出ているときは、この風邪に対処した処方も必要となります。
一回きりの蕁麻疹や、ごくまれに蕁麻疹が出る程度でしたら抗ヒスタミン剤で対処できますので、漢方薬のお世話になることは少ないでしょう。しかし、蕁麻疹の原因を特定できる場合はそれほど多くなく、実際には原因不明の蕁麻疹が全体の7割以上といわれています。再発を繰り返す場合は、漢方薬で体質改善するといいでしょう。
基本的には上記の証に合わせて漢方薬で体質改善をすすめつつ、蕁麻疹が発生したときには風邪(ふうじゃ)に対応した漢方処方を服用する、というやり方がいいのかもしれません。しかし現実的には、蕁麻疹発生時のかゆみや発赤の改善には西洋薬を使い、蕁麻疹が繰り返し生じるという事態を根本的に改善していくために漢方薬を飲む、という方法が効果的な薬の使い方だと思われます。
■症例1
「学生のころから、ときどき蕁麻疹が出ます。魚介類や紫外線など、とくに思い当たる特定の原因はないのですが、なんとなく鮮度のよくないものを食べたときや、疲れがたまっているとき、汗をかいたときなど、さまざまな要因が重なり合ったときに出るような気がします。赤い蕁麻疹が全身に発生して、かゆくてたまりません」
汗の刺激、着ている洋服の化学繊維の刺激、季節の変わり目などの要因も関係しているかもしれません。最初は、腕の内側や太ももの内側など、軟らかいところに赤いポツポツとしたものができます。そのうち、赤くふくらんだ部分がつながって地図状に広がることもあります。強いかゆみとともに、ほてるような熱感があります。口が苦く、ねばるような感覚があります。舌を見ると、濃い赤色をしていました。舌の表面には、黄色い苔がべっとりと付着していました。このところ頻繁に発生するので、なんとかしたい、とのことです。
膨疹が赤い、かゆみが強い、舌苔が黄色い、などの症状から、蕁麻疹の背後に「熱邪」の存在が考えられます。また、蕁麻疹のふくらんだ部分が地図状に広がる、舌苔がべっとりしている、などの点から、「湿邪」も関係しています。これら両方の病邪を合わせて「湿熱」といいます。
湿熱の場合、口がねばる、口が苦い、口が渇く、食欲不振、吐き気、便秘あるいは下痢、ねっとりとした便が出る、すっきりと排便しない、尿の色が濃い、イライラしやすい、などの症状がみられます。いずれも、湿っぽく、熱っぽい症状です。
湿熱タイプの蕁麻疹には、清上防風湯や小柴胡湯が使われます。これらの漢方薬で、過剰な熱や湿気を捨て去ります。この患者さんには清上防風湯を飲んでもらいました。
効果は、すぐにあらわれました。漢方薬の服用をはじめてから、ぴたっと蕁麻疹が出なくなりました。
一般に、アレルギー性蕁麻疹、機械性蕁麻疹、日光蕁麻疹、コリン性蕁麻疹、温熱蕁麻疹の人には、この体質の場合が多くみられます。
この証に用いられる処方はいくつかあり、もし熱邪のほうが湿邪よりも勢いが強いようなら、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)などの処方が効果的です。逆に湿邪のほうが熱邪よりも強いようなら、茵蔯五苓散(いんちんごれいさん)あたりの処方が適しています。蕁麻疹の状態や、それ以外の患者さんの自覚症状を細かく聞き取って判断してください。
■ 蕁麻疹に効く漢方(2)気血が関係する蕁麻疹への漢方
(2011/8/3)
■症例2
「就職活動をするようになってから、蕁麻疹が出るようになりました。ときどき急に全身がかゆくなり、掻いた部分にみみずばれができます。イライラしたり、将来のことが不安になったりすると、かゆくなるような気がします」
蕁麻疹は、イライラしたときや、心配ごとがあるときだけでなく、緊張が続いているときや、逆に緊張がとれて一安心したときにも発生します。一日のうちでは、夜間に出ることが多いように思います。蕁麻疹は、やや黒っぽい赤色をしており、下着で圧迫されるような場所にできやすいようです。繰り返し同じ場所がかゆくなり、同じ場所をかいているうちに、色素沈着が生じて肌が褐色になっているところもあります。舌は暗紅色をしています。
この女性は蕁麻疹以外にも、就職活動をするようになってから、生理痛もひどくなりました。頭痛や肩こり、便秘、不眠などの症状も出ています。希望する就職先からなかなか内定が出ないストレスが原因だと思っていたようですが、ストレスがこんなに体調に影響するものだとは知りませんでした。
この患者さんの証は、「気滞血瘀」証です。気の流れがよくない気滞症と、血の流れがわるい血瘀証の両方を兼ね備えた証です。ストレスや緊張、不安、イライラなど精神的な要因の影響で、蕁麻疹が発生しています。
気と血とは関係が深く、「気は血の帥(すい)、血は気の母」といわれています。気は血に滋養してもらって、初めてじゅうぶん機能し、また血は気の働きによって、初めて全身をめぐることができるからです。したがって、どちらかの流れがわるくなると、もう一方の流れもわるくなり、気滞血瘀証が生まれます。
この証の場合は、気血の流れをサラサラにすることにより、根本的な病気の治療を進めます。処方は、加味逍遙散や、理気処方と活血処方とを合わせて処方します。加味逍遙散は、理気処方としてよく使われますが、補血作用がある当帰や芍薬といった生薬が配合されており、血の流れを調整する働きもあります。
この患者さんの場合は、補血する必要がなかったので、加味逍遙散ではなく、理気作用の強い四逆散と、活血作用の強い桂枝茯苓丸を合わせて服用してもらいました。結果は良好でした。
■症例3
「蕁麻疹が、繰り返し発生します。病院では、慢性蕁麻疹と診断されました。薬を飲むと症状は治まりますが、しばらくすると再発します。食べ物のアレルギーかもしれないと思い、気にしていますが、とくに食べ物との関係はないようで、疲れたときに出やすいと思います」
もともと疲れやすく、元気のないタイプです。胃腸は丈夫ではなく、軟便ぎみで、食欲もあまりありません。生理の量も少なめです。肌は乾燥ぎみで、つやがありません。蕁麻疹の色は薄めの赤色です。舌をみると、赤みが薄く、白っぽい色をしていました。
元気がない、疲れやすい、などの症状から、この人の証は「気虚」です。同時に、肌につやがなく乾燥していることや、生理の量が少ないことなどから、「血虚」証でもあります。すなわち、この人の証は「気血両虚」証です。
先の症例2で、気と血とは関係が深いという話をしました。症例2は、それぞれの流れがわるくなって体調が悪化したケースですが、今回は、それぞれの量が不足して病気になった例です。
こういう場合は、漢方薬で気血を補って、慢性蕁麻疹を治していきます。代表的な処方は、補中益気湯です。
補中益気湯は、補気処方として多用される処方ですが、なかに補血薬の当帰が配合されています。この処方は、気血の相互関係にもとづいて組まれた処方といえます。したがって、今回の場合、補中益気湯だけを服用してもらいました。もし、乾燥がすすみ、かゆみが強いようなら、補血作用を強めるために、四物湯などを一緒に飲んでもらうといいでしょう。
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蕁麻疹、とくに慢性蕁麻疹は、西洋薬と漢方薬を併用することで治療効果を高めやすい病気です。膨疹やかゆみを抑える対症療法は抗ヒスタミン剤などの西洋薬を使い、根本的なアレルギー体質の改善には漢方薬を用いて、慢性蕁麻疹の根治を図るといいでしょう。
なかには、長期間にわたり西洋薬の服用を続けており、早く西洋薬をやめたいという気持ちから、漢方の服用をはじめると同時に自己判断で西洋薬の服用をやめてしまい、症状を悪化させてしまう人もいます。対症治療の効果については、漢方薬は抗ヒスタミン剤などに大きく及びませんので、そのあたりはきちんと患者さんに説明をして、両方を併用してもらってください。
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<参考>
・「小児のじんましん」(馬場直子、ドクターサロン2017)
・「こどもの蕁麻疹」(2014年6月21日 神戸大学大学院医学研究科 内科系講座小児科学分野こども急性疾患学部門 忍頂寺 毅史)