漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

排膿散及湯(122)は小児中耳炎に効くのか?

2017年11月08日 14時02分35秒 | 漢方
 前項では、ツムラのHP「漢方スクエア」において「排膿散及湯」をキーワードに検索してヒットした記事を中心にみてきました。
 しかし私が目的とする「中耳炎」「副鼻腔炎」への適用について詳しく言及しているものはほとんどありません。
 ・・・これでは使いこなせる自信が全然ありません。

 情報不十分につき、一般のGoogle検索で中耳炎・副鼻腔炎という視点から検索してみました。
 すると、排膿散及湯の「病期にかかわらず排膿を目的として使う」という位置づけが明瞭化してきました。
 とともに、やはり中耳炎・副鼻腔炎の大元である「鼻汁」対策に目が向かざるを得ませんでした。
 排膿散及湯が必要な事態・病態になる前に、いろいろできることがありそう。
 結果的にこの項目は排膿散及湯から離れて広く鼻汁・鼻閉対策の内容になってしまいました。

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<排膿散及湯&中耳炎のポイント>
・「膿がなかなか排出されない場合に排膿散及湯を用いる」(花輪壽彦先生)
・浸出性中耳炎は水毒と関連していると考え利水剤が用いられ、又、慢性期に入ると柴胡剤が用いられる(みくに薬局)。
・2歳未満の反復性中耳炎には十全大補湯が有効(急性中耳炎の罹患頻度,鼻風邪罹患頻度,抗菌薬使用量が減少)、急性中耳炎の発症直後で、とくに耳漏がある場合には排膿散及湯が有用(橋本尚士Dr.)。
・慢性化膿性中耳炎の急性増悪期は抗菌薬治療の適応、しかし頻繁に繰り返す場合や抗菌薬では有効性が乏しいときには,葛根湯加川芎辛夷,十味敗毒湯,排膿散及湯が用いられる(伊藤真人Dr.)。
・(慢性鼻炎・副鼻腔炎の項目)膿性鼻汁で鼻閉症状が強い場合は葛根湯加川芎辛夷と辛夷清肺湯を併用し、また排膿散及湯が比較的多く用いられます(池上文雄Dr.)。
・葛根湯加川芎辛夷は、かぜに伴う鼻づまりとやや粘稠性の鼻汁、頭重感を伴うに慢性鼻炎や急性期の副鼻腔炎に頻用され、鼻汁の粘稠度が増し症状が長引けば十味敗毒湯など柴胡を含む方剤や、排膿を強化するために排膿散及湯など各種の方剤が併用される(漢方薬のきぐすり.com)。
・鼻汁が水様性であれば麻黄のような温める生薬、膿粘性であれば石膏のような冷やす生薬を用いる。初期の水様性鼻汁には小青竜湯、慢性期の粘稠性の鼻汁には辛夷清肺湯を基本にして、経過や鼻汁が中間の病態に葛根湯加川芎辛夷を用いる(漢方薬のきぐすり.com「鼻汁・鼻閉」)。

<漢方&中耳炎のポイント>
・五行説では、耳は鼻やノドとはバラバラに取り扱われ、耳は腎(泌尿生殖器と脳)のグループに所属すると考える(古村和子)。
・中耳炎は外部からの"邪"の侵入で引き起こされる疾患。急性であれば"風熱邪"の影響であると捉える。"風邪"は急性的に症状を引き起こし、"熱邪"によって炎症を生じさせる。これらの"邪気"を追い出す漢方薬として「天津感冒片(てんしんかんぼうへん)」「荊芥連翹湯」「柴胡清肝湯」などを使い分ける。中耳炎は外部からの"邪"の侵入で引き起こされる疾患であり、これはバリア力(免疫力=漢方では"衛気")の低下によると考え衛気を強化する漢方薬「衛益顆粒(えいえきかりゅう)」「黄耆建中湯」などの服用を検討する(よろず漢方薬局)。

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 まずは小児の滲出性中耳炎症例。

■ 漢方道場「中耳炎に効く漢方薬は?」
(北里大学東洋医学総合研究所所長 花輪壽彦)
2011/1/10:日本経済新聞
Q 8歳の男の子を持つ母親です。息子が3年前に滲出性中耳炎と診断され、治療を受けてきました。でも、はかばかしくありません。漢方治療によいものがあれば教えてください。今の耳鼻科からもらっている薬との併用は可能ですか。

A 母親の手紙によれば、この男の子は水泳を始めたころから、夜になると耳の痛みを訴え、かぜのような症状をくりかえすようになったそうです。また、患部の左耳よりジクジクした滲出液が出るとのこと。
 このような中耳炎にまず試みられる漢方薬が柴苓湯です。耳鳴りを伴う場合は小柴胡湯と香蘇散の併用もよく試みられます。うみがなかなか排出されない場合は排膿散及湯を用います。
 症状がこじれて、このような漢方薬ではよくならず、体力が低下し化膿しやすくうみが排出しにくい場合には十全大補湯や千金内托散がよく効くことがあります。
 また、中耳炎を起こしやすい体質の小児向の体質改善薬として柴胡清肝湯もよく使います。
 発症からすでに3年たっているので、ある程度根気よく服用する必要があるでしょう。半年から1年ぐらいを改善のめどと考えて服用してみてください。耳鼻科でもらう消炎剤や抗生物質とは時間をずらして服用すれば併用はさしつかえありません。


 花輪先生は「膿がなかなか排出されない場合に排膿散及湯を用いる」と書いています。

■ 身近な漢方 ー浸出性中耳炎(反復性中耳炎)ー
漢方専門 みくに薬局
 漢方では、浸出性中耳炎は水毒と関連していると考えられ、利水剤が用いられ、又、慢性期に入ると柴胡剤が用いられます。浸出液は早期に減少し、また再発を防ぐ効果や、体質的に感冒にかかりにくくなるなど、体力もついてきます。


 こちらの漢方専門薬局では「中耳炎は水毒」とハッキリ書いています。
 排膿散及湯は虚証用方剤の扱いで登場します。
 以前から柴苓湯(小柴胡湯+五苓散)が滲出性中耳炎によい、と云われてきましたが、「あまり効かない」「炎症が治まった後、貯留液が残ったタイミングで使うと有効」と聞いたことがあります。

 次は小児科医のHPから。
 「急性期には排膿散及湯、亜急性期〜慢性期には十全大補湯」という使い方は、乳幼児の肛門周囲膿瘍と共通していることがまことに興味深い。
 やはりこの年齢特有の免疫不完全状態を反映する病態なのでしょうか。

■ 「十全大補湯」はしもと小児科)より。
 反復性中耳炎は,「過去6カ月に3回以上または過去12カ月に4回以上急性中耳炎を繰り返すもの」と定義されています.反復性中耳炎の危険因子としては,
(1)宿主側の因子として2歳未満,アデノイド増殖,6カ月未満の急性中耳炎の初発,胃食道逆流,両側の中耳炎,秋の出生,
(2)社会環境因子として保育園児,受動喫煙,おしゃぶりの使用,人工栄養,
(3)病原菌側の因子として薬剤耐性菌,
(4)その他の因子として口蓋裂,ダウン症,同胞の反復性中耳炎,
ーーーが挙げられています.
 小児用肺炎球菌ワクチンの普及,適切な抗菌薬使用,新規抗菌薬(オラペネム,オゼックス)の導入により,急性中耳炎の難治例や遷延例は減少しましたが,急性中耳炎の発生頻度には大きな変化はありません.また,小児用肺炎球菌ワクチンの普及は肺炎球菌の血清型の置換を引き起こし,薬剤耐性菌の問題は解決されることはありません.
 反復性中耳炎は,2歳未満の乳幼児に高頻度に認められます.この年齢層の乳幼児は免疫能が十分に発達していないために,急性中耳炎を繰り返しやすいです.このような乳幼児には十全大補湯が有効です.基礎的研究において,十全大補湯には、
・食細胞の貪食活性の亢進,
・サイトカイン産生の調整,
・NK細胞活性の増強作用
ーーーがあることが知られており,各種免疫賦活作用や栄養状態改善などの効果があります.
 反復性中耳炎に対して十全大補湯を投与した場合には,急性中耳炎の罹患頻度,鼻風邪罹患頻度,抗菌薬使用量が減少します.反復性中耳炎に対する十全大補湯の有用性は多施設共同研究で証明されており,「小児急性中耳炎診療ガイドライン」にもその旨が記載されています.
 なお,急性中耳炎の発症直後で,とくに耳漏(=耳だれ)がある場合には,「排膿散及湯」が有用です.


 最後にオマケ的に「急性中耳炎の発症直後で、とくに耳漏がある場合には排膿散及湯が有用」とあります。排膿目的に特化した方剤というイメージですね。
 次は耳鼻科系医学雑誌の漢方特集より「中耳炎」の項目のポイントを。

■ 特集:漢方薬を使いこなす「中耳炎
(「耳鼻咽喉科・頭頸部外科」87巻 13号 pp. 1074-1079)
 伊藤真人(自治医科大学とちぎ子ども医療センター小児耳鼻咽喉科)
<POINT>
・中耳炎には,急性中耳炎,滲出性中耳炎,慢性中耳炎があり,それぞれ異なる病態であることから,治療の考え方も異なる。
・急性中耳炎における漢方薬治療は,併用薬としての位置づけである。急性中耳炎の誘因である上気道炎をターゲットとして,初期には葛根湯または葛根湯加川芎辛夷が処方される。
・抗菌化学療法の限界ともいえる反復性中耳炎においては,抗菌薬治療を補完する治療として,十全大補湯などの補剤が有用である。合併する鼻副鼻腔炎の治療をターゲットとして,葛根湯加川芎辛夷や辛夷清肺湯,越婢加朮湯が用いられる場合もある。
滲出性中耳炎に対する漢方薬治療では,病態を水毒と考えて利水作用のある処方を基本とする。鼓膜換気チューブ留置術というきわめて有効な治療法があることから,いたずらに漢方薬を含む保存的加療で病変を長引かせることは控えるべきである。
・小児滲出性中耳炎では繰り返す鼻副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎の関与がある場合には,慢性炎症の治療目的に柴胡剤が用いられることがある。鼻副鼻腔炎に対して,葛根湯加川芎辛夷や辛夷清肺湯,荊芥連翹湯が用いられ,アレルギー性鼻炎に対しては小青竜湯などが用いられる。
・慢性化膿性中耳炎の急性増悪期は抗菌薬治療の適応である。しかし,頻繁に繰り返す場合や抗菌薬では有効性が乏しいときには,葛根湯加川芎辛夷,十味敗毒湯,排膿散及湯が用いられる。
・慢性中耳炎に対する保存的加療の原則は,あくまで手術加療を前提とした消炎治療であり,特に真珠腫性中耳炎では手術治療が第一選択である。いったん炎症が治まり中耳,鼓膜の乾燥化が得られれば,速やかに手術治療にて根治をめざすべきである。


上の内容をさらに整理すると・・・
急性中耳炎)葛根湯あるいは葛根湯加川芎辛夷
反復性中耳炎)十全大補湯+葛根湯加川芎辛夷/辛夷清肺湯/越婢加朮湯
滲出性中耳炎)利水作用のある方剤を基本
小児滲出性中耳炎+鼻副鼻腔炎・アレルギー性鼻炎)柴胡剤+葛根湯加川芎辛夷/辛夷清肺湯/荊芥連翹湯・小青竜湯など。
慢性化膿性中耳炎の急性増悪を反復)葛根湯加川芎辛夷/十味敗毒湯/排膿散及湯

 排膿散及湯の出番は「慢性化膿性中耳炎の急性増悪を反復し抗菌薬ではコントロールできないとき」しか記載がありません。

■ 漢方事始め「耳鼻咽喉科領域の漢方より
(千葉大学 環境健康フィールド科学センター 教授 池上文雄)
2.慢性鼻炎・副鼻腔炎
 膿性鼻汁の場合は、主に副鼻腔炎が考えられます。症状としては、鼻閉、膿性鼻汁のみでなく、頭痛や項背部痛症状を訴える場合が多く、急性期や増悪時は麻黄剤とくに葛根湯加川芎辛夷を使用することが多々あります。その後に辛夷清肺湯や荊芥連翹湯に移行することもありますが、鼻閉症状が強い場合は葛根湯加川芎辛夷と辛夷清肺湯を併用し、また排膿散及湯が比較的多く用いられます。 再発を繰り返す頑固な慢性副鼻腔炎(蓄膿症) では、他薬が無効であるにもかかわらず最終的に辛夷清肺湯が有効である症例が多々あります。
4.中耳炎
 急性中耳炎は現代医学では抗生物質での治療が主ですが、軽い中耳炎は漢方で治すことができます。とりわけ胃腸の弱い人や子供では、抗生物質を長く使わないほうがよいので、比較的軽症の場合は葛根湯が有効です。しかし、症状が激しい場合は危険なこともあるので耳鼻科の医師の診断が必要です。慢性中耳炎で、耳垂れなどの排膿がなかなか止まらないときは柴胡剤がよく効きます。小柴胡湯と香蘇散を併用すると著効しますが、無効の場合は柴苓湯や十全大補湯、当帰芍薬散を考慮し、さらには加味逍遙散や防風通聖散などを用いることがあります。外耳道に湿疹ができた場合は消風散が著効します。桂枝加葛根湯、 柴胡桂枝湯、柴胡桂枝乾姜湯、清上防風湯、 荊芥連翹湯、黄耆建中湯なども中耳炎に用いられます。


 あれ、こちらには慢性鼻炎・副鼻腔炎の項目で鼻閉症状が強いときに排膿散及湯が使われるとありますが、中耳炎の項目にはその名前が見当たりません。

 以上、「排膿散及湯&中耳炎」でヒットしたのはこのくらいしかありません。
 次に、「排膿散及湯&副鼻腔炎(=蓄膿症)」でGoogle検索してみました。
 まず、薬剤師が書いたと思われるHPが目にとまりました。とてもわかりやすいので抜粋・引用させていただきます。

■ 急性期副鼻腔炎(蓄膿症)の漢方より
漢方薬のきぐすり.com
1.副鼻腔炎(蓄膿症)の概要(省略)
2.副鼻腔炎(蓄膿症)に用いられる主な生薬
 漢方医療では化膿性副鼻腔炎も好酸球性副鼻腔炎もほぼ同様の方剤が用いられます。
 副鼻腔炎の主な症状は粘稠性鼻汁、鼻づまり、鼻汁がのどに落ちる後鼻漏とそれに伴う咳です。これらの症状に用いられる主な生薬は、
・膿の排出を促進する排膿薬の桔梗
・鼻づまりを軽減する辛夷
・鼻周辺の熱感や粘稠性黄色鼻汁に対する清熱薬の山梔子や連翹
ーーーなどです。

3.副鼻腔炎(蓄膿症)の経過(病期)に応じた治療
 副鼻腔炎の治療において、2の生薬類に鼻汁の性状や随伴症状の経過(病期) に応じて、麻黄や柴胡などと組み合わせて使用されます。
 

4.急性期の副鼻腔炎に用いられる麻黄配合剤
 急性期の副鼻腔炎には、麻黄を含む葛根湯に、
・鼻づまり用の辛夷と頭痛を軽減する川芎を加味した方剤や、
桔梗石膏エキス
ーーーを加味して対応されます。
 

5.急性期の副鼻腔炎に用いられる麻黄配合剤の展開
 麻黄を含む葛根湯加川キュウ辛夷は、かぜに伴う鼻づまりとやや粘稠性の鼻汁、頭重感を伴うに慢性鼻炎や急性期の副鼻腔炎に頻用されます。
 本方は、鼻汁の粘稠度が増し症状が長引けば、
・十味敗毒湯など柴胡を含む方剤や、
・膿の排泄(排膿)を強化するために排膿散及湯
ーーーなど各種の方剤が併用されます。
 


 「急性期副鼻腔炎」に引き続き「慢性期副鼻腔炎」の記事も役立ちます(知りたいことが書いてある!)。

■ 慢性期副鼻腔炎(蓄膿症)の漢方
漢方薬のきぐすり.com
1.副鼻腔炎の経過(病期)に応じた漢方方剤の選択
 急性期から慢性期に対応して図1のの3方剤が使い分けられます。
 この基本3方剤は慢性鼻炎に用いられる方剤群と同じです。
 図1の最下段の黄色の枠内で囲んだ方剤は、感染に対する患者の虚弱状態を改善して結果的に副鼻腔炎の予防や症状悪化を軽減するための漢方特有の方策です。
 

2.副鼻腔炎(蓄膿症)に用いられる基本3方剤の配合生薬
 慢性期に用いられる辛夷清肺湯と荊芥連翹湯は赤字で表記した清熱薬が主体となる方剤です。
 

3.慢性副鼻腔炎に用いられる辛夷清肺湯と荊芥連翹湯
1)使用時期:まず辛夷清肺湯を用いて鼻汁の軽減を図り、その後に荊芥連翹湯を用いることが多いようです。
2)後鼻漏:粘稠性の鼻汁がのどに落ちる後鼻漏に伴う咳嗽がある場合は辛夷清肺湯が適します。
3)併発疾患:扁桃腺炎、中耳炎、にきび、皮膚が乾燥傾向で湿疹皮膚炎を併発する場合は荊芥連翹湯が適します。
 

4.辛夷清肺湯と荊芥連翹湯の応用展開
・膿の排泄(排膿)を強化するための方剤
・慢性炎症に伴う患部の血行障害(オ血 オケツ)を改善する方剤
ーーーが併用されます。
 

5.便秘を伴う副鼻腔炎に用いられる防風通聖散
 慢性の副鼻腔炎は血流の停滞(瘀血)を伴います。特に便秘を伴う場合は、瘀血を軽減する大黄剤の適応になります。
 防風通聖散は、副鼻腔炎に用いられる基本3方剤の葛根湯加川キュウ辛夷、辛夷清肺湯、荊芥連翹湯の主要な生薬を含む大黄剤です。
 

6.好酸球性副鼻腔炎に用いられる漢方方剤
 副鼻腔炎(蓄膿症)の多くは化膿性副鼻腔炎です。かぜに伴う鼻炎が長引いて副鼻腔に細菌が感染した疾患です。好酸球性副鼻腔炎に用いられる漢方方剤は、化膿性副鼻腔炎と同様です。
1) 辛夷清肺湯には鼻茸を伴う副鼻腔炎に有効だという報告がありますので、好酸球性副鼻腔炎に対する効果も期待できます。
2) 荊芥連翹湯には抗アレルギー炎症作用のある黄連解毒湯が含まれていますので、好酸球性副鼻腔炎にも適するでしょう。
3) 清上防風湯は、にきびに用いられる方剤ですが、アスピリン喘息に伴う慢性副鼻腔炎に有効だという報告があります。本方も黄連解毒湯の関連方剤ですから好酸球性副鼻腔炎にも適するでしょう。


 慢性期に使用する辛夷清肺湯と荊芥連翹湯は清熱剤を多く含み、一方、急性期に使用する葛根湯加川芎辛夷は生薬構成としては寒熱中間なのが興味深い。
 それから、鼻閉対策&排膿でも解決しない慢性炎症を患部の血行障害(瘀血)と捉え、桂枝茯苓丸や防風通聖散が登場するとは、意外な展開です。「防風通聖散は、副鼻腔炎に用いられる基本3方剤の葛根湯加川キュウ辛夷、辛夷清肺湯、荊芥連翹湯の主要な生薬を含む大黄剤」という認識は、私にはありませんでした。

 やはり中耳炎・副鼻腔炎の大元は「鼻汁」。
 鼻汁が原因になり引き起こす合併症が中耳炎であり副鼻腔炎です。
 元を絶たなきゃ・・・このHPの鼻炎の項も役に立ちます。

■ 鼻炎の漢方(1)急性鼻炎
漢方薬のきぐすり.com
1.鼻炎の基礎知識・・・感染性鼻炎と過敏性非感染性鼻炎(省略)
2.急性鼻炎治療の概要(省略)
3.小青竜湯・・・急性鼻炎(水様性無色鼻水)の基本方剤
 小青竜湯は、水様性無色鼻水とくしゃみを伴う急性鼻炎に用いられる基本方剤で、抗アレルギー薬と抗ヒスタミン薬に相当します。
 また、交感神経を刺激する麻黄を含むので血管収縮薬の作用(鼻閉改善作用)も期待できる方剤です。
4.小青竜湯の関連方剤と応用展開
 急性鼻炎にはまず小青竜湯が用いられますが、効果が十分でない場合にはいろいろな工夫がなされます。
1)初期の鼻漏型(鼻水・くしゃみ型)から鼻水の粘稠性が高まり鼻づまりを伴う(鼻閉型)に変化しつつある場合は、
・石膏を含む麻黄剤の越婢加朮湯に変更したり、
・小青竜湯に五虎湯や麻杏甘石湯を加えます。
2)初期の鼻水・くしゃみに加えて「全身の冷えや倦怠感」を伴う場合には麻黄附子細辛湯に変更します(小青竜湯を併用する場合もあります)。
3)初期の鼻水・くしゃみに小青竜湯を服用したところ胃もたれを生じる場合には、苓甘姜味辛夏仁湯 に変更されます。

 

 もひとつ、ついでに鼻汁・鼻閉の項目も参照。

■ 「鼻水と鼻づまり」
漢方薬のきぐすり.com
1.鼻水と鼻づまりの漢方医療
 鼻水と鼻づまりは、感冒に伴う鼻炎、アレルギー性鼻炎・花粉症、副鼻腔炎(蓄膿症)に共通する症状です。漢方医療では、
 ・発症後の経過:急性期か亜急性か慢性期か、
 ・鼻水(鼻汁)は、水様性か粘稠性か、
を確認して治療薬を決めます。とくに鼻汁は、
 ・水様性であれば麻黄のような温める生薬
 ・膿粘性であれば石膏のような冷やす生薬
を用いる指標になるので確認が重要です。

2.水様性鼻水を伴う初期の鼻炎に、小青竜湯
 小青竜湯は、初期の鼻炎の頻用処方です。透明な鼻水、くしゃみ、涙目、鼻づまりが本方を用いる指標です。
 小青竜湯の主な配合生薬は、麻黄と桂皮です。処方名の「青竜」は麻黄を意味しています。さらに水様性鼻汁は体が冷えているためだと漢方医学では考えます。そのため本方には、体を温める細辛と乾姜という散寒薬が含まれています。
 麻黄は、鼻粘膜の血管を収縮させ鼻づまりを軽減します。桂皮と細辛は、抗アレルギー作用のあることが明らかにされた生薬です。
 なお、体の冷えが顕著な人の初期の鼻水には散寒薬の附子を含む麻黄附子細辛湯が適します。
 

3.感冒の亜急性期の鼻閉に、葛根湯加川芎辛夷
 葛根湯加川芎辛夷は、感冒に続く鼻汁・鼻づまりに用いられる処方です。鼻汁は小青竜湯より、粘りのある鼻汁に適します。
 本方は、感冒初期に用いる葛根湯に頭痛を軽快する川芎と鼻づまりに用いる辛夷を加えた処方です。

4.慢性期の鼻閉と粘る鼻汁に、辛夷清肺湯
 辛夷清肺湯は、膿粘性の鼻汁や鼻づまりを伴う亜急性・慢性期の鼻炎や副鼻腔炎(蓄膿症)に用いられる処方です。さらに、粘稠の痰が「からむ」咳や咽の痛みにも用いられます。
 本方の適応病態は、鼻腔の炎症で熱感を伴う熱証傾向であり、これを冷やす目的で、石膏、知母、黄ゴン、山梔子のような清熱薬が含まれています。この点で、小青竜湯や葛根湯加川芎辛夷と適応病態が異なります。

5.鼻水・鼻閉に用いる3処方の使いわけ
 鼻汁と鼻づまりの治療では、
・初期の水様性鼻汁には、小青竜湯
・慢性期の粘稠性の鼻汁には、辛夷清肺湯
ーを基本にして、経過や鼻汁が中間の病態に葛根湯加川芎辛夷が用いられます。

 


 最後の小青竜湯・葛根湯加川芎辛夷・辛夷清肺湯の使い分けシェーマは大変参考になりました。
 小太郎製薬の方剤解説も役立ちます。

■ 漢方処方解説「辛夷清肺湯
(小太郎製薬)



 この表を眺めると、小青竜湯と葛根湯加川芎辛夷は解表薬、辛夷清肺湯は清熱薬、荊芥連翹湯は清熱&解表薬という性質が浮かび上がってきます。
 さらに辛夷清肺湯と荊芥連翹湯の違いは、後者が理気・駆瘀血作用をも有することですね。

 次は中医学的捉え方の説明で参考になったHP。
 耳は五行説では「腎」グループに属するという解説です。

■ 中耳炎・耳だれ・耳の痛み
古村和子流漢方 中耳炎
A 漢方のとらえ方
 西洋医学的には耳は耳鼻咽喉科に分類されます。解剖学的な耳と鼻とノドのつながりに着目した分け方です。
 漢方では古代中国の人が観察して経験的に法則性を発見していますが、その五行説では、耳は鼻やノドとはバラバラに取り扱われ、耳は腎(泌尿生殖器と脳)のグループに所属すると考えます。又、耳は単独に存在する訳ではないので、耳だけでなく全身の状態も精神状態も全て考慮に入れてとらえます。(下の五行色体表のグレーの所が全部耳に関係がある腎のグループです。)

 又、漢方では急性・慢性という分け方だけでなく、症状をきめ細かく分析します。
 痛みの有無・炎症・浸出液(内耳にたまった水及び耳だれ)・耳鳴り・難聴の程度の他、風邪や喘息・鼻づまり・足の冷え・のぼせ(口渇・口唇の乾きなど)・肩コリ・首すじのコリ・胃の調子(胃の症状や食欲の有無など)もきめ細かくチェックして、一人一人の中耳炎の漢方的原因を探し治療作戦を立てます。

耳だれ
 中耳炎などで耳の中に炎症が起きていると、[炎=火+火=火事(?)]を消そうと生体防衛機能として体内から水分が分泌されます。
 漢方薬や針灸で治療すると、その恒常性が発揮されて、耳の中から水(浸出液)やウミが排出して来ます。
 現代医学では、水だれ等が出てくる事は悪い事ととらえ、抗生物質や手術(鼓膜を破る手術や常時外へ排出する為の管をつける手術・耳の外へ耳だれが出ない様に封じ込める手術など)という方法が行われます。それにより、難聴や中耳炎の繰り返し等の問題が起きて来ます。
 漢方では、漢方薬や針灸によって耳だれが速やかに排出する事がありますが、これを『効あり』と考えます。『悪い物が排出されてやがて出てこなくなってしまう事が完治』ととらえますから。

B 治療作戦
①漢方薬=私は、急性期で痛い時・耳だれが出ている時・慢性中耳炎を繰り返す等、ケースによって処方を使い分けています。勿論、胃の調子や体力を考慮に入れ、更に消炎効果のあるものや耳が所属している腎のグループの力をつけるものを併用します。西洋医学では抗生物質の治療が柱となる様ですが、耐性菌(たいせいきん)の問題があります。漢方には抗生物質の代りになってしかも長期間安全に続けられる生薬もあり、とてもよく効きます。

C 早く治す為の工夫
①耳が所属する腎のグループは、[寒=冷え]に弱いので、衣・食・住で冷やさぬ工夫が必要です。くつ下は必ずはく事。腰の保温も大切なので、寝る時は腹巻きをしましょう。
 体温より温度が低い飲食物は内蔵を冷やし、身体全体を冷やしてしまいます。
 シャワー入浴は身体の芯まであたたまりません。夏でもクーラーで身体は冷えているので、必ず湯舟につかりましょう。
②腎のグループの中心は泌尿器(腎臓と膀胱)ですから、水分を沢山摂ると腎臓・膀胱の仕事が増えて疲れてしまい、『腎虚』(じんきょ=腎のグループ全体の機能低下)になってしまいます。すると、更に耳が病気になり易くなってしまいますから、水分(水・飲み物・果物・生野菜など)は出来るだけ控え目に。
 更に、水分が欲しくなってしまう「塩分の摂り過ぎ」も要注意ですね。
③ 足の「腎経のツボ」を刺激する事・肩首背中のコリをほぐす事も、中耳炎を早く治したり再発を予防するコツです。


 次に、中耳炎を外因の「風熱邪」と捉えた解説を。

■ 子供の中耳炎と漢方
よろず漢方薬局
 中耳炎も子供が比較的なりやすい病気の一つです。急性の重症時(高熱、激しい痛み)には抗生物質などによる適切な対処が優先ですが、中耳炎を繰り返す場合や、慢性中耳炎には漢方薬での対処を検討しても良いのではないでしょうか。中耳炎になりやすい体質から、なりにくい体質に変えることは漢方であれば可能です。
 なお外耳炎や内耳炎であっても大きく方針には変わりはありません。
 さて中耳炎の症状自体を漢方的に見てみますと、急性であれば"風熱邪"の影響であると捉えます。"風"の"邪"は急性的に症状を引き起こし、"熱"の"邪"によって炎症を生じさせます。
 よって、これらの"邪気"を追い出す漢方薬を原則として使うことになります。具体的には「天津感冒片(てんしんかんぼうへん)」や「荊芥連翹湯」、「柴胡清肝湯」などが挙げられ、その症状の程度や状態によって使い分けます。
 また、滲出性である場合には上記のお薬に加え、「五行草」など"湿"を取り除く作用を持つ漢方薬の併用を考えます。プールに通っている子や、2歳ぐらいまでの子はこのタイプであることが多く、比較的飲みやすい「五行草」単独での服用で様子をみるケースも多いでしょう。
 以上は中耳炎が実際に起こっている時に使用されるお薬です。
 一方で、中耳炎になりにくい体づくりにはどのような漢方が良いのでしょう。基本的に中耳炎は外部からの"邪"の侵入で引き起こされる疾患です。医学的には細菌が感染することが原因ですが、これはバリア力(免疫力)の低下によると考えます。よってバリア力(漢方では"衛気"と呼びます)を強化する漢方薬を服用すればよいのです。「衛益顆粒(えいえきかりゅう)」がその代表的な薬であり、その他「黄耆建中湯」などの服用を検討します。


 次は小児反復性中耳炎に対する十全大補湯(48)の検討、2011年の学術論文です。
 「中耳炎」「漢方」でググるとヒットするのは十全大補湯関連ばかり・・・。
 ただ、対象は急性中耳炎ではなく、抗菌薬治療でコントロールできない反復性中耳炎です。

■ 十全大補湯を用いた小児反復性中耳炎の治療経験
坂井田麻祐子、莊司 邦夫 (三重耳鼻咽喉科)
小児耳 2011; 32(3): 323-328
<要約>
 小児反復性中耳炎の治療法は、鼓膜換気チューブ挿入術、外来抗菌薬静注療法が一般的だが、近年、免疫力向上効果をもつ漢方薬、十全大補湯の有効性が報告されている。
 今回、小児反復性中耳炎例25例(平均月齢12.5カ月)に約 3 カ月間の十全大補湯内服を指示(0.15 g/ kgBW/day)し,投与前後における急性中耳炎罹患頻度、重症度、鼻咽腔細菌検査結果について検討した。
 投与前の急性中耳炎罹患頻度(平均1.8回/月)と比較し、投与中、投与終了後は平均0.39回/月(p<0.0001)と有意に減少した。重症度は、投与前後で改善する例や不変例など、症例により異なる傾向を示した。鼻咽腔細菌検査結果は特に変化を認めなかった。PRSP の保有率は約75%であった。投与終了後再燃した 3 症例に再投与を行った。うち 2 例は再投与後の経過は良好であったが,1 例は再発を繰り返し、最終的に外来抗菌薬静注療法を選択した。
<考察>
 急性中耳炎発症に強く関与するリスクファクターとして、集団保育、母乳栄養期間が短いなどの外的因子と、低年齢、急性中耳炎の履歴、急性鼻副鼻腔炎の合併などの内的因子があると言われている8)。外的因子は、起炎菌が感染する機会を増加させる要因と考えられ、対応する治療法は、抗菌薬投与、鼓膜切開など、細菌感染をターゲットとした治療である。反復性中耳炎に対する治療法においては、一般的に、鼓膜換気チューブ留置術や外来抗菌薬静注療法(OPAT)が有効であると言われており2)、同様に、主に外的因子に対する治療法である。一 方、内的因子は、感染した起炎菌を抑える力、つまり宿主の抵抗力、免疫力に関与しており、これに対応する治療が今回使用した漢方薬、十全大補湯ではないかと考えられる。十全大補湯は、人参、黄耆など、滋養強壮、免疫賦活作用をもつ生薬を含有する代表的な補剤である9)。病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、寝汗、手足の冷え、貧血などに適応があり、臨床的には、自己血貯血前の Hb 上昇効果、癌の外科手術後・抗癌剤併用時の免疫能改善、抗癌剤投与時の血球減少抑制、乳児肛門周囲膿瘍の治療期間短縮・再発率低下などの報告がある10)。十全大補湯の内服加療が小児反復性中耳炎に有効であるという報告が近年散見され3-7)、当院でも平成21年3月より、小児反復性中耳炎例に対して使用開始した。
 十全大補湯の処方量に関しては明確な記載はなく、著者により0.1~0.6 g/kgBW/day と幅がある。漢方薬の小児処方量の一般的な基準である von Harnack の方式では、1 歳で成人の 1 /5 量9)とある。対象となる小児は 1 歳前後が多く、体重は概ね10 kg 前後であり、今回の投与量は0.15 g/kgBW/day とした。中耳炎罹患頻度について、丸山らは、約 3 カ月間の投与により、投与前の平均3.58回/月から平均0.52回/月に減少したと報告している5)が、我々も同等の結果が得られたと思われる。尚、投与期間が短い症例でも、投与中、投与終了後ともに罹患回数の有意な減少が認められ、今後、必要最小限の投与日数設定が課題となると思われる。
 急性中耳炎の重症度に関しては、臨床上、十全大補湯内服後から改善する印象がある。実際にスコア化してみると、改善傾向を示すものが若干多かったが、投与中も変化のない症例や、 投与後に悪化する症例も見られ、個人差があることが分かった。
 十全大補湯投与終了後の罹患頻度について、丸山らは、2.90回/月と上昇すると報告してい る6)。我々の検討では、投薬終了後も投与中と同レベルに維持できていたが、症例によっては、投与終了後間もなく急性中耳炎を繰り返す症例が見られた。こうした再燃例のうち、保護者の希望や、必要と判断される場合、再投与を行った。丸山らは、十全大補湯再投与を36例中21例で実施し、いずれも中耳炎罹患頻度の改善を確認している7)。再投与の時期や期間に関して詳細な報告はないが、我々は、25例中 3 例に概ね 3 カ月間再投与を行った。再投与後、2 例の中耳炎罹患率は著名に減少したが、1 例は再投与後も重症中耳炎を繰り返し、OPAT を選択した。しかし,いずれの症例も鼓膜チューブ挿入には至らず、最終的に良好な経過を辿っている。
 鼻咽腔細菌検査結果は、データの得られた 16例で検討した。いずれも急性中耳炎発症時に採取した検体からのデータであるが、投与前、投与終了後で特に変化は認められなかった。急性中耳炎は、感冒などのウイルス性上気道炎に伴い鼻咽腔内の常在菌が増殖、同時に耳管線毛機能などが障害されることにより、経耳管的に生じるとされている8)。また、急性中耳炎発症時の除菌が不十分であると、残存した起炎菌により再発する確率が有意に高くなる8)。
 今回、十全大補湯の内服により免疫力が向上したとすると、ウイルス性上気道炎に罹患する頻 度が減少し、それに付随して急性中耳炎罹患頻度も減少したと推測される。
 一方、十全大補湯投与終了後、起炎菌の種類及び各菌種を保有した症例数が大きく変わっておらず、鼻咽腔の起炎菌が必ずしも除菌されていたというわけではない。十全大補湯内服中は、免疫力の向上に伴い、鼻咽腔の細菌増殖を抑えられていたか、宿主と細菌が共存状態にあったと考えられ、興味深い。
 急性中耳炎の治療は、急性中耳炎診療ガイド ラインによりペニシリン系を中心とした抗菌薬 の適正使用が普及し、コントロールが比較的容易となった。一方、薬剤耐性菌に対し抗菌薬のみで対処し続ける場合、結局はさらに強力な耐性菌を生み出しかねず、こうした治療にはある種の限界を感じる11)。免疫力の未熟な乳幼児が、極力急性中耳炎に罹患せず、耐性菌に侵されず、かつ薬物や外科的処置による身体負担をできるだけ受けずに成長できるよう、我々耳鼻科医は努力を惜しんではならないと思う。十全大補湯という漢方薬がその一助となることを期待しつつ,日々の診療に役立てたいと考えている。


 ここで耳鼻科系3学会共同作成の「小児急性中耳炎診療ガイドライン」を紹介しておきます。2013年版には上記の十全大補湯のみが取り上げられています。

■ 「小児急性中耳炎診療ガイドライン
2006年11月10日 第1版 2009年1月10日 第2版 2013年7月10日 第3版
編集:日本耳科学会・日本小児耳鼻咽喉科学会・日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会

CQ21-8: 反復性中耳炎に対して漢方補剤は有効か
A. 推奨:推奨度B
 漢方補剤のなかでも十全大補湯は免疫賦活・栄養状態改善などの効果があるため推奨する。
 推奨度の判定に用いた報告:
・Maruyama et al. 2008(レベルIIb)
・吉崎ら 2012(レベルIIa)
【背景】
 反復性中耳炎は 2 歳未満の免疫能の低い乳幼児に高頻度に認められ、このような乳幼児に免疫賦活・栄養状態改善作用のある漢方の一種である十全大補湯の有効性が報告されている。
【解説】
 基本的な生命機能を維持する体力が低下して起こる種々の状態に対し、漢方では足りないものを補う治療法、すなわち補剤の投与が行われる。これにより身体の恒常性を回復させる。代表的な補剤としては、十全大補湯と補中益気湯がある。補剤に関する基礎的・臨床的研究が多く報告されており、宿主の免疫賦活作用と生体防御機能の向上、感染症に対する有効性が証明されつつある。臨床的にはライノウイルス感染抑制効果、COPD患者における感冒罹患回数の減少と体重増加、MRSA感染防御効果、カンジダ感染症に対する有用性が報告されている。さらに乳幼児の肛門周囲膿瘍・痔瘻に有効であり、標準的治療法の一つとなりつつある。基礎的研究においては、食細胞の貪食活性の亢進、サイトカイン産生の調整、NK 細胞活性の増強作用が知られており、各種免疫賦活作用や、栄養状態改善などの効果がある。
 Maruyama らは、反復性中耳炎の乳幼児に十全大補湯を 3 カ月間投与し、急性中耳炎罹患頻度の減少、発熱期間および抗菌薬投与期間の減少、救急外来受診の減少が得られ、その有効率を 95.2%と報告した(Maruyama et al. 2008)。この報告を受けて多施設共同非盲検ランダム化比較試験が施行された結果、十全大補湯の投与により急性中耳炎の罹患頻度の減少、鼻風邪罹患頻度の減少、抗菌薬使用量の減少がみられた(吉崎 2012)。また、反復性中耳炎のなかでも、特に
1.頻回に急性中耳炎を繰り返す重症例
2.2 歳未満児
3.集団保育通園児
4.家庭内受動喫煙曝露児などのハイリスク群
ーにおいて、有効性がより高いという結果であった。
 ただし、十全大補湯の保険診療上の適応症は「病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血」となっており、現段階(2013 年5月時点)では中耳炎は適応症に含まれていない。

【参考文献】
1)Maruyama Y, Hoshida S, Furukawa M, Ito M. Effects of Japanese herbal medicine, Juzen-taiho-to, in otitis-prone children-a preliminary study. Acta Otolaryngol. 2009;129:14-8.
2)吉崎智一. 小児反復性中耳炎に対する十全大補湯の有用性に関する多施設共同非盲検ランダム化比較試験(H21-臨床研究-一般-007)に関する研究.厚生労働科学研究費補助金・医療技術実用化総合研究事業. 平成 21 年度〜23 年度総合研究報告書. 2012.
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4 コメント

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とても助かりました (シノヅカ)
2018-02-21 11:05:40
はじめまして
主人の鼻炎に悩んでいるものです。
検査で常に好酸球が高く、粘膜で塞がれて鼻で息ができない状態です。
手術を受けても再発が多いとのことで、他の方法を調べていた所、こちらにたどり着きました。

先生の書かれているまとめはとてもわかりやすく、助かりました。辛夷清肺湯を試してみようかなと考えています。
返信する
辛夷清肺湯と鼻茸 (管理人です。)
2018-02-22 12:04:06
辛夷清肺湯の原著の記載を読んだとき、「これって鼻茸のことだ」と直感しました。
試す価値はあるかと存じます。

鼻茸がある患者さんは「アスピリン喘息」の合併例が多いとされていますので解熱鎮痛薬にはご注意ください。

私は「蓄膿症」という診断で耳鼻科に長期通院している子どもが通いきれずに流れてくると、辛夷清肺湯を処方しています。
2〜4週間内服していただくと、5割以上の患者さんで改善する手応えを感じています(決して10割ではありませんが)。
返信する
継続服用しています (シノヅカ)
2018-08-24 15:10:40
先日はアドバイスありがとうございました。
あれから辛夷清肺湯の服用をはじめ、今でも続けています。

飲み始めてすぐに鼻水が少なくなり、鼻の通りも良くなったので驚いています。
返信する
辛夷清肺湯の長期使用時の注意点 (管理人)
2018-08-25 12:59:07
管理人です。
辛夷清肺湯の長期使用時の注意点として、以下を記しておきます;
・黄岑による間質性肺炎
・山梔子による腸間膜静脈硬化症

かぜでは説明できない咳やお腹の症状が気になるときは、副作用を疑う必要があります。
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