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“性”と“生”を巡る探検

“性”と“生”に関するあらゆる情報・オモテウラの知識を備忘録としてここに残しています。

60歳代男性は週4回の自慰行為をすべし

2025-02-23 09:42:15 | 性の知識

以前、「EDを治療する意義」というブログを書きました。

同じく高齢者の性の問題を扱った記事を紹介します。

自慰(最近は“セルフプレジャー”?)は制限すべきものではなく、リアル性行為の練習としてどんどんしてください、というのが専門家医師の意見です。

若者はそれでよいとして、では高齢者はどうなのでしょう?

前立腺肥大のリスクにならないのか、というのが私の素朴な疑問ですが・・・

記事の中には「自慰行為は前立腺癌のリスクを低下させる」という文章がありました。

 

<ポイント>

・EDは動脈硬化の初期症状。

・性器の劣化を防ぐためにも、60代以降の患者さんに『週4回のオナニー』を推奨。

・セックスおよびマスターベーション、またはビガーなどを使って定期的に勃起する“クセ”をつけておくことは、ペニスの血管や海綿体組織を若々しく保つために重要。

・かつて「オナニーをしすぎたら、頭が悪くなる」という言説がまことしやかにかれていた時代があったが、そのような言説はなんら根拠がない。心身ともに悪影響どころか、機能維持の側面では好影響を及ぼすので安心してオナニーすべし。

・月に21回以上射精する人は、月に4~7回の人に比べて前立腺がんになるリスクが約2割低下する。

<結論>

オナニーは、すればするほど健康になる!

・・・でいいのかな?

 

▢ 放置すると動脈硬化になりかねない…女性医師が「60代こそ週4で自慰行為すべし」と大まじめに説くワケ使わないと性器は劣化していく

2023.7.15:PRESIDENT Online)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 
 中高年男性で勃起不全(ED)に悩む人は多い。富永ペインクリニック院長の富永喜代さんは「EDは動脈硬化の初期症状ともいわれる。性器の劣化を防ぐためにも、私は60代以降の患者さんに『週4回のオナニー』を勧めている」という――。

▶ EDは「動脈硬化の初期症状」

 「勃起」と聞くと、一般的にはペニスに血液が流れ込むことをイメージする人も多いでしょう。「ペニスが脈打つ」という表現もあります。男性の場合、性的な刺激を受けると、まず脳の中枢神経が興奮し、その情報が脊髄神経を通ってペニスに伝わります。すると、これが勃起のGOサインとなり、一酸化窒素(NO)が放出され、血管が拡張し、陰茎海綿体に血液が流れ込んで勃起が起こります。

 しかし、そうやってペニスの海綿体に流れ込んだ血液がすぐに心臓に戻ってしまえば、また元通りになってしまいます。大量に流れ込んだ血液をペニスにとどめておくことによって初めて、勃起状態が維持できるわけです。簡単にいえば、勃起には、

①血液が滞りなく流れ込むこと、

②流れ込んだ血液をペニスにとどめておくこと、

の2つの機能が必要になります。

 それでは、まず血液の流れについて考えてみましょう。血液は心臓から全身を巡り、再び心臓に戻るわけですが、心臓から血液を運ぶ「往きの道路」が動脈です(「帰りの道路」が静脈となります)。

 動脈は体に必要な酸素や栄養分を運んでいますが、この動脈の壁にコレステロールが溜まってしまうと、血管は硬くなり柔軟性を失い、血液の流れが悪くなってしまいます。この症状が「動脈硬化」です。

▶ 動脈が非常に細く、影響を受けやすい

 動脈硬化による血液の詰まりは、全身で進みます。動脈硬化が脳で起これば脳梗塞に、心臓で起これば狭心症や心筋梗塞に、ペニスの動脈(陰茎背動脈)が詰まるとEDに陥ってしまいます。

 しかも、心臓の冠状動脈の太さは3~4mm、心臓から脳へ血液を送る内頸動脈の太さは5~7mmであるのに対して、陰茎背動脈の太さはわずか1~2mm。つまり、非常に細い陰茎背動脈は、動脈硬化の影響を真っ先に受けやすい血管であるといえます。そのため、「EDは動脈硬化の初期症状」ともいわれます。

 心臓から送り出された血液がペニスにたどりつくまでには、長い道のりを経ています。心臓からスタートし、背骨に沿って動脈を下降し、骨盤の後ろ、さらに骨盤の底(骨盤底筋)を通って、ようやくペニスにたどりつきます。

 心臓からペニスまで、体内の長い旅を経た血液が行きつく先は、わずか1~2mmの陰茎背動脈。そのとても細い血管が、動脈硬化によって硬くなってしまったとしたら……血液の流れが悪くなるのは、イメージしやすいかと思います。

▶ 使わないと性器は劣化する

 常日頃、私が主宰するオンラインコミュニティ「秘密の部屋」で口にする言葉に、「使わないと性器は劣化する」というものがあります。定期的なセックスやマスターベーション、適切なケアをしないと、男性ならペニスが小さく縮み、女性なら腟が萎縮して挿入を伴うセックスが難しくなってしまいます。

 そもそも性器に限らず、耳たぶに開いたピアスの穴でも、長年放置していれば閉じてしまいます。寝たきりの状態が長く続くと、足の筋肉が衰えて歩けなくなります。つまり、使わない機能は、体が「もうこの臓器は必要ないのだな」と判断して、使えなくなってしまうのです。

 ご存じのように血液は、酸素やタンパク質、ミネラルなど人体を構成する細胞に必要な栄養素を運んでいます。しかし、セックスやマスターベーションをせず、男性なら陰茎海綿体に血液が流れ込まない状態が長く続くと、陰茎海綿体は栄養不足に陥ってどんどん縮こまっていきます。これを線維化といいます。

▶ いくら刺激を受けても反応しなくなってしまう…

 長い間、放置されて硬くなってしまった台所スポンジをイメージするとわかりやすいかもしれません。ひとたび線維化が起こってしまうと、再び柔軟性を取り戻すのは至難の業です。萎縮し、線維化したペニスには、血液が送られにくくなり、ますます機能の低下が進んでしまいます。

 最終的には、ペニスをヒヤッと冷たく感じる「コールドペニス」と呼ばれる状態になり、こうなるといくら刺激を受けてもピクリとも反応しなくなってしまいます。

 ですから、セックスおよびマスターベーション、またはビガーなどを使って定期的に勃起する“クセ”をつけておくことは、ペニスの血管や海綿体組織を若々しく保つために重要です。いわば、ペニスのアンチエイジングトレーニングです。

 ビガーを試した70代の患者さんは、「ビガーで勃起をした自分のペニスを目にすると『まだまだ自分はいける』と思えるようになった」と語っていました。勃起には、機能面の効果だけでなく、勃起した自分のペニスを目にすることで失われていた自信を取り戻す心理的な効果もあります。「性」は、生きる自信を取り戻す、まさに「生」なのです。

▶ 熟年こそ「週4オナニー」を勧める理由

 体の機能は、使わなければ「不要」とみなされて、やがて衰えてしまいます。しかし、だからといって毎日セックスするのは、現実的ではありません。そもそも「パートナー不在」という状況もあります。ですから、セックスができないときは、マスターベーション、つまりオナニーでも構いません。

 中高年にとって、オナニーは性的快楽だけではなく、性機能維持のためのトレーニングです。私もよく患者さんに「何もせずにペニスを放置しておいたら、陰茎海綿体は線維化してしまうのだから、オナニーは機能訓練、リハビリよ! 今日からガンガンやってください」とお話しします。すると患者さんは目を丸くしたり、噴き出す人もいます。もちろん私は、大真面目にお話ししています。

 先ほどの「使わないと性器は劣化する」という言葉のとおり、セックスでもオナニーでも、定期的に勃起によってペニスに血流を促し、射精で前立腺を刺激していかなければ、ペニスは萎縮し、線維化してしまいます。目安は週に4回、もちろん毎日しても構いません。

 かつて「オナニーをしすぎたら、頭が悪くなる」という言説がまことしやかにかれていた時代がありました。しかしそのような言説は、なんら根拠がありません。心身ともに悪影響どころか、機能維持の側面では好影響を及ぼすので安心してオナニーしてください

▶ 前立腺がんになるリスクが低減する研究も

また、「勃起のトレーニングで、射精までしてもいいのですか?」とよく質問されます。もちろん射精までしてください。射精をすれば、前立腺の血流が良くなり、精巣の働きも活発になります。

オナニーは、すればするほど健康になる」のです。

 また自律神経の観点からいえば、勃起を司るのは副交感神経ですが、射精を司るのは交感神経です。簡単にいえば、副交感神経は体を休め、リラックスモードにする神経。片や交感神経は、体を活動モードにする神経です。

 通常、セックスの際は「勃起→射精」という一連の流れを踏み、その際、副交感神経と交感神経の2つの神経がうまく切り替わっています。この「交感神経→副交感神経」の切り替えのトレーニングとして、定期的なオナニーによる射精は有効です。

 ただし、あまりに強い力でペニスを握ったり、床に下半身を押し付けるような体勢でのオナニーは、遅漏や腟内射精障害のリスクがあるので避けたほうがいいでしょう。

・・・

 

<参考>

・富永喜代『女医が導く60歳からのセックス』(扶桑社新書)

 


PMS(月経前症候群)の薬物療法 〜低用量ピル?漢方薬?

2025-02-19 15:44:47 | 月経関連

月経のある性活動期の女性の中に生理痛・月経痛がつらい人が多くいますが、月経前にカラダのみでなくメンタルもつらいヒトが一定数存在します。イライラ・ウツウツして自分も周囲も困ってしまうのです。そして月経が始まると楽になっていきます。

これを医学用語で月経前症候群(The Premenstrual Syndrome, PMS)と呼びます。

西洋医学では女性ホルモン系をうまく使うことにより、この症状を軽減することが可能です。

しかし一定の比率で発生する副作用に注意する必要があります。

それを扱った記事を紹介します。

 

<ポイント>

・PMSの代表的な症状;

  • 情緒的症状:いらだち、不安感、気持ちが沈む、引きこもり など
  • 身体的症状:胸や腹部の張り、むくみ、頭痛、体重増加 など

・治療として、OC(経口避妊薬)やLEP製剤といったいわゆる低用量ピル、抗うつ薬、漢方薬の3つが主な選択肢になる。

 ✓ 低用量ピルは、胸の張りやむくみといった身体的症状が強い場合に選択されることが多い

 ✓ 抗うつ薬は情緒的症状が強い場合

 ✓ 漢方薬はPMSに対しては全般的に対応できる

・LEP製剤を含む低用量ピルは、月経痛などの「月経に不随して現れる症状(月経困難症)」に対する治療薬であり、PMSだけでは保険適用はない。そのため、全額自己負担になる可能性がある。

・LEP製剤は副作用として血栓症のリスクが高まる。

 

読んでみて「現代の女性は、昔と比べて出産回数が減ったことによって生涯における月経回数が多くなっています。このことにより、子宮内膜症になるリスクが上昇し、不妊症などにつながることが明らかになっています。」という文章が強く印象に残りました。

 

▢ 月経前に心身を苦しめるPMSは婦人科で治療を―LEP製剤連続投与法は月経回数減でQOL向上も

 月経前のイライラや憂鬱(ゆううつ)感、むくみといった症状は、PMS(月経前症候群)の症状かもしれません。PMSは自分の体や心だけでなく、家族や周囲の人たちにも影響を及ぼすことがあり、つらい思いをしている女性も少なくありません。PMSは治療によって症状を和らげることができます。医療機関で行う治療のうち、いわゆる低用量ピルのLEP製剤(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤)の連続投与法は月経回数を減らすことができるため、QOL(生活の質)の向上につながる治療法といわれています。東京歯科大学 市川総合病院 産婦人科の小川真里子准教授への取材を基に、PMSに対するLEP製剤の連続投与法について詳しく解説します。

▶ 体と心 両方に現れる症状

 PMSを疑って婦人科を受診される方に多くみられる症状は、情緒面では「イライラする」「気持ちが沈む」など、身体面では「お腹や胸の張り」「体のむくみ」などです。なかには「怒りっぽくなって家族に当たってしまう」「子どもを叱り過ぎてしまう」「理由もなく涙が出てくる」といった症状を訴える方もいらっしゃいます。

 PMSの代表的な症状としては以下の2種類があります。

  • 情緒的症状:いらだち、不安感、気持ちが沈む、引きこもり など
  • 身体的症状:胸や腹部の張り、むくみ、頭痛、体重増加 など

 ただし、どれか1つだけが生じることは少なく、複数の症状があるという場合がほとんどで、現れ方には個人差があるといえます。また、PMSの中でも著しい精神障害・精神症状を認める場合には、PMDD(月経前不快気分障害)と診断されます。

 月経開始の1~2週間ほど前から心身にさまざまな症状が現れ、月経が始まるとともに症状が徐々になくなっていくというのが繰り返し起こっている場合、PMSの可能性があります。PMSの原因ははっきりとは分かっていませんが、排卵も月経もきちんと起こっている、つまりホルモンが正常にはたらいているからこそ現れる症状といえます。

▶ 月経回数減に加え月経前の不調軽減も

 婦人科で行う治療としては、OC(経口避妊薬)やLEP製剤といったいわゆる低用量ピル、抗うつ薬、漢方薬の3つが主な選択肢になるでしょう。低用量ピルは、胸の張りやむくみといった身体的症状が強い場合に選択されることが多い治療法です。抗うつ薬は情緒的症状が強い場合に処方し、漢方薬はPMSに対しては全般的に対応できると考えられます。

 これらの治療法の中でドロスピレノン含有のLEP製剤は、胸の痛みやむくみといった身体的症状の改善が期待できるとともに、連続投与法という服用方法によって月経回数を減らす方法が選択できるという特徴があります。

 LEP製剤の服用方法には周期投与法と連続投与法の2つがあります。周期投与法とは、21日または24日ごとに内服した後に休薬もしくは偽薬を内服し、28日ごとに月経の出血が起こるように調整する内服方法です。一方、連続投与法ではさらに長い期間LEP製剤を休薬することなく服用し続けます。連続投与法では月経回数を最長で4カ月に1回に減らせるため、PMSの頻度を少なくするとともに月経前に生じる体の不調をも軽減することが可能なのです。

 治療によって月経の回数が減ることに問題はないのでしょうか。現代の女性は、昔と比べて出産回数が減ったことによって生涯における月経回数が多くなっています。このことにより、子宮内膜症になるリスクが上昇し、不妊症などにつながることが明らかになっています。現時点で妊娠を希望されていない方であれば、これらの婦人科疾患のリスクを取り除くという意味でもLEP製剤の連続投与法で月経回数をコントロールすることを検討いただくとよいでしょう。

 事情が変わって妊娠を希望するようになった場合は、LEP製剤の使用を中止すれば排卵は回復することも確認されています。

▶ PMS単独では保険適用外、副作用の理解も必要

 LEP製剤の連続投与による治療を受けるにあたり、いくつか注意点があります。

1.PMSに対する保険適用はない

 LEP製剤を含む低用量ピルは、月経痛などの「月経に不随して現れる症状(月経困難症)」に対する治療薬であり、PMSだけでは保険適用はありません。そのため、全額自己負担になる可能性があります(2022年12月時点)。

 ただし、PMSの症状がある方は月経困難症もあることが多いといわれています。PMSで婦人科を受診される方は、月経困難症の診断の参考にできるよう月経前や月経中に現れた心身の変化を記録していただき、その症状を診察時に伝えてください。

2.血栓症のリスクがある

 LEP製剤は副作用として血栓症のリスクが高まることが明らかになっています。処方を受けたい場合は医師とよく相談するとともに、以下のような症状が現れた場合には血栓症の前兆の可能性があるため、速やかにかかりつけの婦人科にご相談ください。

  • 足の痛み、むくみ
  • 腹痛
  • 胸痛
  • 強い頭痛、突発的な息切れ
  • 急激な視野欠損や視力低下(急性視力障害)
  • うまく発音できなくなる(構語障害)

3.連続投与法で内服できるLEP製剤の種類は限られる

 LEP製剤には複数の種類がありますが、連続投与法で内服できるものは限られています。また、さまざまな理由から連続投与法で内服できるLEP製剤を処方しない方針の病院もあります。連続投与法での治療を希望される方は、これらのLEP製剤を処方しているか確認してから受診されることをおすすめします。

▶ 月経前の症状で悩んでいる方は婦人科へ

 1953年にイギリスの医師が月経前に現れる種々の症状を“The Premenstrual Syndrome(PMS)”と名付けた背景には、「女性は月経前症状をひたすら我慢しなくてよい、治療を受けることができる」というメッセージが込められていたそうです。

 「現代女性は非常に多忙ですから、月経前の不調で悩まれていたとしても、誰にも打ち明けることもできずに1人で耐えてしまっている方がたくさんいらっしゃると思います。月経前の諸症状で職場や学校生活などに支障をきたしたり、困っていたりする方は、一度婦人科でご相談ください」と小川先生は呼びかけられました。

 

 

・・・私は小児科医ですので「生理痛がつらい」という相談で受診される患者さんはほとんどいません。

しかし、思春期女子がニキビの相談に来ていろいろ話を聞くと、月経痛やこのPMSで悩んでいることが。

実はニキビと月経痛の両方に効く漢方薬があります。

PMSに有効な漢方薬もあります。

上記記事を読むと、西洋医学の低用量ピルは費用と副作用の面で敷居が高い印象があります。

それらを使用する前に、漢方薬を試すことはよい選択だと思いました。

 

 

 

 


EDを治療する意義

2025-02-19 15:19:03 | 性の知識

50歳を過ぎると気になってくるED。

加齢現象・老化だからしかたない・・・と済ませてはいけないようです。

男性ホルモン低下による症状ではありますが、動脈硬化の影響も受けるため、

治療により全身血管への好影響もあるという内容の記事を紹介します。

 

▢ 実は「セックスの再開」が目的ではない…すべての男性が勃起障害(ED)をいますぐ治療するべき恐ろしい理由「男としての自信を取り戻す」という話だけではない

笹井 恵里子ジャーナリスト (プレジデント 2025年1月3日号

▶ ペニスに動脈硬化の兆候が出やすい理由

・・・EDとは勃起しないだけでなく、十分な硬さに至らなかったり、持続できないために満足な性交渉ができない状態で、40代の約35%、50代の約半数、60代の約7割が該当すると考えられている。

 これを放っておけないのは、EDの根本原因が「動脈硬化」である可能性が高く、やがては心筋梗塞や脳卒中などの発症につながる恐れがあるからだ。海外で40~59歳を対象に、冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症など)とEDの関連を調査した研究報告では、疾患の重症グレードが上がるほどEDの発症率も、18%(グレード1)、57%(グレード2)、66%(グレード3)と明らかに高くなっている。

 日本抗加齢医学会専門医・評議員で日本泌尿器科学会専門医の平野敦之医師(美健会理事長、ルネスクリニック日本橋院院長)は「国内でもEDのおよそ7割が血管系の問題から起きているといわれる」と説明する。

 「男性が興奮すると、テストステロン(男性ホルモン)の作用によって、神経を介してペニスの海綿体の血管に一酸化窒素が出ます。これは血管をしなやかに保つため、そして血管を拡張させるために欠かせない成分です。しかし加齢などの要因でテストステロンの分泌が低下すると、一酸化窒素の出が悪くなり、ペニスの海綿体に十分に血液がいきわたらなくなってしまいます。この場合、いくらやる気があっても、勃起力が足りずにことを果たせないという結果に……。長引くほど、男としての自信も失いがちになります」

 そういった性交渉の問題だけでなく、テストステロンが減って血管のしなやかさを保つ一酸化窒素の量が落ちてくると、全身の血管が硬くなり、動脈硬化につながって高血圧症に、さらには冠動脈疾患のリスクを高めてしまうのだ。

 平野医師によると「ペニスの海綿体の血管は最も細いため、一番最初に動脈硬化の兆候が出やすい」という。つまりEDを自覚したら、「年だし、仕方ないか……」ではなく、心臓病や脳卒中の早期発見につながる重要なサインとして受け止めたい。そして血管の状態をチェックできる検診をお勧めする。

 それでは、EDそのものは治療したほうがいいのかどうか。

▶ 治療は2パターン

 結論からいうと、早めに治療をしたほうが局部だけでなく全身の血管にも良い効果があるという。治療としては2パターンあり、一つは服薬だ。

 「国内で使用可能な薬剤は主に3種類――世界で一番最初に開発されたED治療薬『バイアグラ錠』(最近はフィルムタイプも発売)『シルデナフィル錠』、即効性があり硬さも出やすい『バルデナフィル錠』、マイルドな効き目で長時間作用する『シアリス錠』『タダラフィル錠』です。タダラフィル錠を1年以上服用すると、局所への血流を増やすことはもちろん、動脈硬化の進行を抑えることが学会でも報告されています。費用は1錠あたり安いもので1000円弱から1500円くらいです。それを1週間に1~2回程度服用するパターンが主流ですね」(平野医師)

 それぞれの薬の副作用を下の表にまとめた。また虚血性心疾患の既往歴があるなど、服用している薬との相互作用によって血管を広げすぎるリスクを伴う人は使用できない。

【図表】自分に合うED治療薬はどれか

 EDのもう一つの治療は、「衝撃波治療」だ。

 「人工的に発生させた衝撃波をペニスの皮膚表面から陰茎海綿体に照射することで細胞内外で反応が起こり、新しい血管の形成が促され、血管が若返ります。すると血流が良くなって勃起機能が改善するうえ、動脈硬化を予防する因子が全身に運ばれて体全体の血管に良い影響があります。副作用などの体に悪い作用もなく、安心の治療といえますね。ただし最新型の衝撃波装置は高価なため、日本には数台しかないことと、治療費用も1回5万~7万円と高額です。そして1回受けて終わりというよりは、4~6回くらい繰り返し衝撃波治療を受けたほうがいいと思います」(同)

 とはいっても1回の治療で効果があれば、1年以上の維持ができるという。ずっと服薬を続けることと比較すれば、衝撃波治療を一度受けて薬は服用しないという選択も、費用対効果としては悪くない。平野医師のもとでも衝撃波治療を行っているため、多くの男性患者が訪れるという。

 「みなさん恥ずかしがるのですが、加齢に伴っていずれは誰もが起きるのがEDともいえます。ですから、気後れする必要はありません」(同)

▶ 男性ホルモンを保てば仕事にも好影響

 さてEDは、動脈硬化が主要な原因であると述べてきたが、そのほかには不妊治療などプレッシャーを感じるような性交渉の場面や、服用中の薬によっても引き起こされる。

 「例えば糖尿病や脂質異常症の方は、病気自体も、またスタチン系やフィブラート系の薬そのものも男性ホルモンの生成や分泌を抑制し、EDになりやすくなります。胃酸を抑える市販薬も同様です。ほかにも精神科で処方される睡眠薬や睡眠導入剤に含まれるフェノバルビタール、抗うつ剤に含まれるイミプラミン、パロキセチンなどが男性ホルモンの分泌を抑えます」(同)

【図表】服用中の薬でEDが引き起こされることもある(一例)

 何らかの理由で男性ホルモンの分泌が抑えられると、EDのリスクが上がってしまう。逆から見るとEDがあれば男性ホルモンの分泌も低下している人がほとんどのため、できればED治療とともに血液検査で男性ホルモンのチェックを行いたい。テストステロン分泌低下のサインは勃起障害のほか、頻尿、内臓脂肪の増加、性欲喪失、倦怠感、筋力低下、集中力や気力の低下など。もし一定の数値以上にホルモンが低下していれば、保険適用となり月1000円程度で治療ができる。

 一方で現在症状がない人は、男性ホルモンのテストステロンを維持できるような生活習慣(規則正しい睡眠、有酸素運動、筋トレなど)を心がけると、生活習慣病やEDの予防になるだけでなく、仕事の出来にも好影響が。

 「テストステロンの分泌を高く保ち続けている人は、いくつになっても記憶力、判断力が衰えません」と平野医師が強調する。

 「何よりやる気に満ちているため、仕事でも第一線で活躍を続けます。積極性もあるので新しい仕事に果敢に挑戦したり、時間を惜しまずに人に会いに行ったり、旅に出かけたりと、行動力も落ちません。テストステロンが男性の体と心におよぼしている影響は想像以上に大きいのです」

 ホルモンの量が低下するタイミングは個人差がある。80代になってもそこそこのホルモン値を保つ人もいれば、40代で低下してしまう人もいるのだとか。ホルモンの急激な低下を防ぎ、公私共に良いコンディションを。


江戸時代の出産事情

2025-02-17 19:16:21 | “性”文化情報

子どもを産むこと〜出産〜は今でこそ「母子とも健康が当たり前」になっていますが、明治時代までは生死をかけた一生一代のかけでもありました。

妊婦死亡率は「出産10万件当たり400〜150人」、乳児死亡率は「出生数1,000に対して250」。

生まれてから1歳になるまでに、赤ちゃんは100人に25人、つまり4人に1人は誕生日を迎える前になくなっていたのです。明治時代の平均寿命は40歳弱と現在では考えられないくらい短かったのですが、これは高い乳児死亡率の影響です。

日本には古来、子どもの成長を記念する行事がたくさんありましたが、それらは「よくぞここまで生き延びた、めでたい、めでたい!」と喜びがひとしおだったから。

さて、江戸時代の出産事情はどんな物だったのでしょう。それを扱った記事が目に留まりましたので紹介します。

読んでみて感じたこと・・・

著者は江戸時代の医療を、西洋医学が導入する前の“非科学的”医療とさげすんでいる視点が伺えます。

薬は使う(といっても漢方薬だが……)という文章がそれを示しています。

まあ、非科学的な点は否めませんが、当時の医師は患者を救おうと必死だったはず。

それから当時、漢方という呼び名はまだなかったのでは・・・

江戸後期に西洋医学(オランダが中心だったので“蘭方”)が入ってきて、

では日本の伝統医学はなんと呼ぼう・・・そこで登場したのが“漢方”という名称です。

 

 

▢ 無痛分娩も帝王切開もできず、産後も苦行が続く…「多くの妊婦が死に至る」江戸時代の過酷な出産風景それでも既婚女性は一生に5人程度出産していた

河合敦:歴史作家
2024.11.13:PRESIDENT Online)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 
 江戸時代、女性たちはどのように出産していたのか。歴史作家の河合敦さんは「非科学的なお産術が信じられていて、妊婦は出産中も出産後も横になれず座り続けなくてはならなかった。この苦行は数週間続いたこともあり、妊婦の死亡率は高かった」という――。
 
▶ 今よりずっと多産だった江戸時代

 令和6年(2024)8月1日現在、日本の人口は1億2385万人(総務省統計局概算値)。1年前よりなんと59万人も減ってしまっているのだ。原因はいうまでもなく少子高齢化。高齢者が死ぬのは人間の定めなので仕方ないけれど、問題は子どもが増えないことである。

 政府は子育て支援に取り組み、いろいろと旗を振っているのに、令和元年に生まれた子どもはたったの86万4千人。わずか50年前には200万人を超えていたのだから、その減り方のすさまじさには驚かざるを得ない。

 将来への不安、子育てより楽しい娯楽の増加など、さまざまな要因が重なって、いまの日本は女性が子どもを産みたいという気持ちの持てない社会になってきているのだろう。

 では、江戸時代の女性は、一生のあいだに何人ぐらいの子どもを産んだのだろうか。

 残念ながら、正確な統計は存在しない。ただ、当時の諸記録から類推すると、独身で一生を送る女性は少なく、結婚すると生涯に5人程度は子を産んでいたと思われる。

▶ 避妊技術が不完全で、堕胎も多かった

 しかし疱瘡や腸炎、結核といった病気により、生まれた子の多くは幼くして死んでしまい、成人できるのは半分程度だったと考えられる。衛生状態も悪い当時のことだから、出産時の死産も多く、妊婦が亡くなってしまうケースも多々あった。

 また、堕胎や間引き(生まれてすぐ殺害)も多かった。避妊の技術が極めて不完全だったこともあり、夫婦生活を続けていれば、女性は何度も妊娠を繰り返すことになる。とはいえ、多くの子どもを育てる経済力がない夫婦もいるだろうから、彼らは堕胎薬や産婆の力を借りて生まれてくる子を葬ってしまったのだ。

 ちなみに、堕胎薬の中の「朔日丸」は、避妊薬としての効果も信じられていた。女性が生理の1日目に飲むと妊娠しないとされた。ただ、かなりの劇薬が使われていたようで、これを飲み続けると一生妊娠しない体になってしまうともいわれていた。

 幕末になると「茎袋」と呼ばれる動物の皮でつくったコンドームも西洋から伝わってきたが、使用例はほとんどなかったと思われる。遊女などは紙を丸めて膣に入れ妊娠を防いでいたというが、効果ははなはだ疑問であろう。

▶ 「妊娠5カ月目に腹帯」は伝統ある風習

 さて、いまでも出産は大変な一大事だが、当時は麻酔による無痛分娩や帝王切開などないので、難産になると、その痛みや苦しみは想像を絶するものがあったろう。

 そこで今回は、現代とは大きく異なる、江戸時代の出産について紹介しよう思う。

 いまでも妊婦の多くは妊娠5カ月目に入ると、最初の戌の日に腹帯(岩田帯とも呼ばれる晒し木綿)を巻く。じつはこれ、江戸時代どころか、奈良時代に成立した『古事記』にも登場する伝統的な儀式なのだ。しかも、ほかのアジア諸国にもない日本独自の風習なのだそうだ。

 では、なぜ妊娠5カ月目に腹帯を巻くようになったのかということだが、「体が冷えないように保温のためとか、妊婦を外の衝撃から守るためとか、戌の日に巻くのは犬が安産だから、それにあやかるため。さらには、帯を巻くことで妊婦としての自覚を持たせる。人びとが妊婦だとわかるように」など、諸説があるものの、残念ながら確実な由来や理由はわかっていない。

▶ 安産祈願の水天宮はもともと久留米にあった

 ちなみに東京近郊では、安産を祈願するため、戌の日に日本橋蛎殻町にある水天宮にお参りし、神社で祈願してもらったり腹帯を購入する人が多い。地下鉄半蔵門線の駅名にもなっているので、水天宮の名を知っている方も多いだろう。

 もともと水天宮は、安徳天皇ら平家一門をお祀りする神社として久留米(現・福岡県久留米市)にあった。江戸時代になって、この地を支配するようになったのは有馬氏だが、第九代久留米藩主・頼徳のとき(文政元年・1818)、水難除災の神として藩の上屋敷(現・港区赤羽橋)内に水天宮を勧請した。

 これを知った江戸っ子が参詣を願い、塀越しに賽銭を投げ込む庶民も続出したため、久留米藩では毎月5日に人びとの参拝を認めるようになったのだ。

 その後、ある妊婦が社殿に使われた鈴の緒をもらって腹帯としたところ、非常に安産だったことから、戌の日に水天宮から腹帯を授かり、妊娠5カ月目の戌の日に帯として巻けば必ず安産となるという信仰が広まったといわれる。

 なお水天宮は明治5年、新政府が大名の藩邸を没収したので現在の地に移された。

 じつは、同じように大名屋敷に勧請された神社を一般開放する藩は少なくなかった。たとえば丸亀藩の金刀羅宮、西大平(現・愛知県岡崎市大平町)藩の豊川稲荷、仙台藩の鹽竈神社、柳川藩の太郎稲荷などがそうだ。開放することで賽銭の収入がかなり入ったからだろう。

▶ 妊婦が失神するのは胎児が喉へ手を入れるから?

 さて、妊娠しているあいだ、体調を崩したり問題が発生したときは現在と同様、薬を服用した(といっても漢方薬だが……)。とくに多くの人びとが信じていた薬の処方箋は『中条流産科全書』に記されたものだった。

 仙台藩士の中条帯刀が創始した産科術をその子孫や門弟が広めたのが中条流産科術である。そんな中条流のお産術を大坂の医者・戸田旭山が体系的にまとめたのが『中条流産科全書』(宝暦元年・1751)だ。

 ただ、その内容の多くは理にかなっておらず、かえって症状を悪化させる可能性があるものだった。

 たとえば、「母、外の事なく、度々気をとり失う時は、子、母の喉へ手をつき入るゝと知るへし。此の時、煎湯の中へ藍の実、末して入るべし」とある。「妊婦がたびたび気を失うのは、胎児が母親の喉へ手を突き入れているからで、藍の実を粉にして煮詰めたお湯を飲みなさい」という意味だ。

 確かに藍の実は漢方薬にもなり、それを煎じて飲むと、解毒や止血、喉頭炎などに効果があるとされているが、とても失神に効果があるとは思えないし、そもそも胎児が母の喉に手を入れることはあり得ない。

▶ 非科学的なお産術がまかり通っていた

 また、『中条流産科全書』には「難産で苦しいときは、八升(1.8リットル×8倍)の水を熱く沸かし、鍬を焼いてその湯に入れ、ぐつぐつと煮え立ったとき、鍬を引き上げ、その湯で『足の曲がり』(足首や膝裏のことか?)の下を洗うとよい」と記されている。

 もちろん何の科学的根拠もない。この程度の処方箋なら笑って済ませられるが、「お産のときに下痢をしたら烏の卵を黒焼きにして酒に入れて飲め」とか「お産のとき、藍の実を子宮に塗ると難産にならない」ということが書かれており、そんなことを本当に実践したら、死なないまでも逆に症状が悪化してしまうだろう。

 さて、いよいよ出産である。

 それなりの資産を持つ家柄の妊婦は、陣痛がはじまると、産室と呼ばれる狭い部屋や小屋へ移され、産婆の助けを借りて出産するのが一般的であった。出産は穢れという考え方が強く、日常の生活空間から遠ざけたのである。

▶ 座位出産は日本古来のスタイルだが…

 驚くべきは、当時の出産体位であろう。座位なのだ。妊婦が用いる椅子を「椅褥」というが、そうした椅子や布団を重ねたものを敷いて壁に寄りかかるなどして、座ったままで子どもを産み落としたのである。

 ただ、座位というのはすでに縄文時代の土偶や平安時代の絵巻物にも登場し、日本古来のスタイルだったことがわかっている。いきむときには天井から吊るした縄(泰産縄)にしがみついた。これも理にかなっている。

 ただ、むごいのは、いくら辛くても横臥できないことであった。たとえば先の『中条流産科全書』には、「産に向ひ身持様の、側へよりかかる事なかれ。胸腹痛むとて仰くなかれ、子返りせんとて痛むものなり」と書かれているのだ。

 こうして、ようやく大変な出産を終えた。妊婦もようやく横になってゆっくり眠ることができる。そう思うのは、大きな間違いだ。

▶ 出産後も座り続け、大便入りの薬を飲まされた

 『中条流産科全書』には、「物によりかからせ、足を少し屈め、少しつゝ睡らせ、多くねむらせず。酢をはなにぬり、振薬(泡立てた薬)に童便(赤子の大便)少しつゝ加へて用ゆる也」

 とある。なんと子どもを産んだそのあとも、妊婦は寄りかかりながらも座り続けなくてはならない。足を伸ばして寝てしまうと、頭に血がのぼって病気になると固く信じられていたからだ。しかも、あまり眠らないように、鼻に酢を塗りつけられ、赤ん坊の大便入りの薬を飲まされる。これでは、たまったものではない。

 そんなわけで親族の女性たちが代わるがわる出産した母親のもとに付き添い、大きな声でおしゃべりするなどして彼女を寝かせないように見張っていたという。まさに拷問以外の何ものでもない。

 その後、睡眠がゆるされるようになっても、産後数週間は座る生活をいられたのである。江戸時代、妊婦の死亡率が高かった理由がよくわかるだろう。

 

<参考>

・河合敦『禁断の江戸史 教科書に載らない江戸の事件簿』(扶桑社文庫)


昔の日本女性は上半身裸が当たり前だった?

2025-02-16 13:17:27 | “性”文化情報

私は民俗学(日本の伝統的な庶民生活の調査と研究)に興味があるのですが、

以前から不思議に感じてきたことがあります。

それは、古い写真や絵を見ると、

・海女さんは上半身裸がふつうだった。

・江戸時代まで銭湯・温泉は混浴だった。

こと。

「もしかしたら、昔の裸に対する意識は現在とちがったのかもしれない」

となんとなく思ってきました。

その後いろいろ情報を集めた結果、

・海女さんは上半身裸で働くのが当たり前、男性も漁民はほとんど裸で働いていた。海女さんに服を着るよう指導すると抵抗された。

・開国した明治維新の際に外国人から「男女混浴?なんてハレンチな!」とはげしく非難されたので、禁止令を出した。

ことが判明しました。

やはり、裸に対する意識が昔と今では異なっていたのですね。

このことを扱った記事を紹介します(学問的です、あしからず)。

 

▢ 江戸時代の女性は銭湯から裸で歩いて帰った…かつての日本で女性たちが上半身裸でうろついていた理由何を"恥ずかしい"と感じるかは文化の中で形成される

(2023/12/18:PRESIDENT Online)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 なぜ日本人男性の多くは「乳房」に性的欲望を覚えるのか。明治大学文学部非常勤講師の三橋順子さんは「かつての日本では乳房に性的な意味はなく、女性が上半身裸で過ごしているのも当たり前だった。人が何に性的欲望を感じるかは文化の中で形成される」という――。
 
▶ 「性的欲望」とはいったい何か

 セクシュアリティ(Sexuality)の学問的な定義とはなんでしょうか。セクシュアリティとは「性欲、性的欲望」のことです。いちばん短い定義、置き換え(翻訳)ですが、ちょっと露骨ですね。もう少し穏やかな言い方を好む人は「性愛」の言葉で置き換えます。ただこれは「『愛』とは何か?」というそれなりに厄介な問題をはらみます。もっと即物的には「性現象」と置き換えられます。

 上野千鶴子さんは、日本におけるフェミニズムの大家ですが、日本のフェミニズム研究者には珍しく、若い頃からセクシュアリティへの関心をはっきりと持っていた方です(その点では尊敬しています)。その上野さんが、セクシュアリティとは「性をめぐる観念と欲望の集合」と定義しています(上野千鶴子「『セクシュアリティの近代』を超えて」)。

 おおよそ良いと思うのですが「観念と欲望」だと「行為」が抜け落ちてしまいます。そこで私は、セクシュアリティとは、「性についての欲望と行為に関わる事象の総合」と定義しています。これだと「行為」も入りますし、かなり広い定義になります。

▶ ジェンダーとセクシュアリティを分けるのは「他者」の存在

 ジェンダーとの区分を意識して、もっと細かく言いますと、「『性』に関わる事象のうち、性的指向(Sexual Orientation)、性的嗜好(Sexual Preference)、性幻想(Sexual Fantasy)、性的技巧(Sexual Technique)などを中心とする概念」になります。ちなみに、普通のセクシュアリティ研究者は性的指向、性的嗜好、性幻想の3つで語ります。私は性的技巧を入れて4つなので、「性的技巧など学問ではない!」と叱られます。

 セクシュアリティで重要なことは、基本的に「性的他者」が存在することです。「性的自己」(自分)と「性的他者」の関係性がセクシュアリティなのです。この場合、「性的他者」は実在か非実在かは問いません。また、必ずしも一対一である必要もありません。「性的他者」が非実在だったり、複数であるセクシュアリティを否定する人もいますが、私はその立場はとりません。

 「ジェンダーとセクシュアリティの違いは何ですか?」という質問がときどきあります。なかなか良い質問ですが、簡潔に答えるのは難しいです。あえて答えれば、ジェンダーとは、私(性的自己)と社会との関係性です。それに対して、セクシュアリティとは、先ほど述べたように私(性的自己)とあなた(性的他者)の関係性になります。もちろんその背景(環境)として社会はあるのですが、それは第二義的です。

▶ 何が欲情装置になるかは歴史と文化によって異なる

 つぎに、セクシュアリティの構築性の話です。「ジェンダーが構築される話はまだわかるけど、セクシュアリティは本能でしょう?」と考える人は世の中にたくさんいます。たしかに人間も動物ですから、子孫を残す本能、そのための生殖行動をとる身体機能を持っています。ですから性的欲望の存在そのものは、生物学的な身体に由来する本能的なものと言えます。

 しかし、その性的欲望が何に向かうか、何に性的欲望を覚えるかになると、本能的とは言えない多様性を持っています。それは、社会・文化的に構築されたものと考えるのが妥当です。

 この点について上野千鶴子さんは、「欲望もまた社会的に構築されるものであるならば、セクシュアリティとはすぐれて文化的なものである」と言っています。私もほぼ同じ見解です。性的欲望、存在そのものは本能に由来するものであっても、その質は社会的・文化的に構築されたものになります。つまり何に対して性的欲望を抱くか、何が欲情装置(欲情の引き金)になるかは、歴史的・文化的に異なるのです。

▶ 「巨乳」も「貧乳」もわずか40年ほど前につくられた

 例をあげて解説しましょう。近代日本における女性の乳房への視線の変化について話をします。「乳」の漢字を目にしてニヤニヤする人、もしくは恥ずかしいと感じる人がいます。そういった反応は「乳」の文字から女性の乳房を連想してのことだと考えられます。でも、それは間違いです。

 「乳」という漢字の意味は、哺乳類の雌が子どもを養育するために分泌する栄養価の高い液体、つまりミルクです。女性の胸のふくらみといった意味は本来ありません。それを言うなら「乳房」であり、膨らんでいるとか、やや垂れ下がっているの意味は「乳」ではなく、「房」の字のほうにあります。大きな乳房を漢字で表現するなら「巨乳」ではなく「巨房」と言うべきです。

 歴史的に見ても「乳」の用例は、「母乳」「授乳」「牛乳」「脱脂粉乳」など、「ミルク」の意味が圧倒的でした。「乳房」もミルクを出すふくらみという意味です。それが、1980年代の後半になって、「巨乳」「爆乳」「美乳」「貧乳」といった言葉がメディアによってつくられ(新造語)、「乳」に「乳房」の意味がつけ加えられました

▶ 「女性の乳房は大きいほどエロい」という認識はいつ生まれたか

 本来の意味なら「爆乳」は爆発性のあるミルク、「貧乳」は栄養価の低いミルクでしょう。「巨乳」は1983年頃にアダルト系の男性雑誌が使い始めたとする説が有力です。それが1980年代後半に雑誌メディア、とくに写真週刊誌に転用されて広まります。

 そもそも日本には、「女性の乳房は大きいほどエロい(性欲刺激的である)」との認識はありません。大きい乳房が好きな男性はいたかもしれませんが、少ないです。女性たちも乳房が大きいことを悩みこそすれ、誇ることはありませんでした。ところが、現代では「女性の乳房は大きいほどエロい」は社会通念化しています。それは、どこかの時点で価値観が変化したことを示しています。

▶ わずか10年弱の間に「性的視線」が変化した

 私の友人に、若い頃、モデル・女優をしていた人がいます。一緒に温泉に入っているので知っているのですが、乳房は大きくありません。モデル時代はAカップでしょう。それでも当時、一流の男性週刊誌『週刊プレイボーイ』や『週刊平凡パンチ』のカラーグラビアを飾り、写真集も出せたのです。

 現在、そうしたグラビアアイドルは、D、E、Fカップは当たり前、G、Hカップの人もいます。グラビアアイドルは巨乳でないとできないのが社会通念になっています。その彼女に「グラビアモデルの巨乳化の転機はいつだと思う?」と尋ねました。すると「それ以前にも大きな(乳房の)モデルはいたけど、負ける気はしなかった。でも、フーミン(細川ふみえ、1990年デビュー)が出てきて、これはもう私の時代じゃないと思った」との返事でした。「現場」にいた人の証言だけに貴重です。転機は1980年代最末~90年代最初期、30数年前になります。性的視線、セクシュアリティの変化がごく短い間に起きたと言えるでしょう。

▶ 「乳房」の意味が変化して人前で授乳しなくなった

 さて、そうした「乳」の文字の意味が変化したのと時をほぼ同じくして、公共の場、たとえば、電車の中、公園のベンチ、食堂など、他人(男性を含む)の視線がある場所での授乳行為が急速に見られなくなりました。少なくとも1970年代までの日本では、母親が人前で乳房を出して赤ちゃんにお乳をあげることは珍しいことではありませんでした。

 私は1970年代の前半、高校時代に電車通学をしていましたが、車中で何度も目撃しています。隣の席でもありました。乳首こそ赤ちゃんが含んでいるので見えませんが、白く張った大きな乳房は丸見えです。ただ、お母さんの乳房は赤ちゃんのもので、性的な視線で見てはいけない、というマナーは男子高校生でもわかっていました。

 そうした授乳行為は性的なものではない、性的視線では見てはいけないものという社会的な認識が崩れていったのは、都会と地方で若干の時間差があると思いますが、だいたい1980年代です。新幹線に「授乳室」ができたのもその頃だと記憶しています。

 こうした変化は、男性の女性の乳房に対する欲情が、本能ではなく社会的に構築されたもので、「乳房はエロい」「大きいほどエロい」は一種の「共同幻想」であることを示しています

▶ 混浴を「恥ずかしい」と感じていなかった江戸時代の日本人

 その仕組みとして、「男性が性的欲望の視線で見る→女性が恥ずかしいから隠す→男性は隠されるから余計に見たくなる」といった「欲望の視線と羞恥心の往復回路」が存在すると思われます。

 男性からすると、「女性が恥ずかしがって隠す→男性は隠されるから見たくなる→女性はますます隠す」と思うかもしれませんが、「鶏が先か卵が先か」のような議論になるので止めておきましょう。つまり、性的欲望と同様に羞恥心もまた、歴史的・文化的に形成されるのです。何が「恥ずかしい」かは、時代・地域によって異なるということです。

 20世紀中頃に欧米人女性が恥ずかしいと感じたことを、それより100年前の日本人女性が同じく恥ずかしいと感じていたか? というと必ずしもそうとは言えません。この話については、中野明『裸はいつから恥ずかしくなったか 日本人の羞恥心』がとても参考になります。

 以下の図は、アメリカ海軍提督M.C.ペリーの『日本遠征記』(1853〜54年)に記録画家として随行したヴィルヘルム・ハイネが描いた「下田の公衆浴場図」(1854年)です。

ヴィルヘルム・ハイネ「下田の公衆浴場図」
ヴィルヘルム・ハイネ「下田の公衆浴場図」(画像=W. Heine/PD US/Wikimedia Commons

 そして、女性たちはまったく乳房を隠していません。つまり、男性は女性の乳房を日常的に見慣れていることになります。ちなみに湯舟は左奥の「屋形」がついているところ(入口で屈んでいる)の中にあり、男女一緒です。

▶ 「失われた習俗が残っている」と欧米に衝撃を与えた

 さらに言えば、見知らぬ外国人男性が入ってきてスケッチを始めたのに、女性たちはほとんど恥じらっている様子がありません。ひとりだけ中央手前の女性が画家に意識を向けているように見えます。つまり、江戸時代の伊豆下田の女性たちは、男性と混浴して全裸を見られても、ほぼ羞恥心を感じなかったのです。ただし注意しなければならないのは、羞恥心がないのではなく、羞恥心の在り方が現代の女性とは違っていたということです。

 将軍様のお膝元の江戸では、町奉行所が「男女入り込み湯」(男女混浴)を禁止するお触れを何度も出していて、それに応じて、男湯と女湯を仕切っていました。でも遮蔽はされていません。男湯と女湯を見えないように遮蔽する(しなければならない)発想は、完全に近代(明治時代以降)のものです。

 余談ですが、この「下田の公衆浴場図」は、ペリー提督『日本遠征記』の数ある挿絵の中で、最も欧米世界に衝撃を与えた絵でした。反応は大きく2つに分かれ、男女が裸で入浴するなんてなんと淫らで未開な民族だという批判。もうひとつは、すばらしい! 失われたギリシャ・ローマ的世界の習俗が、極東の島国に残っていたという賛美です。後者の人たちの中には、混浴を体験したくてはるばる海を渡って日本に来た人もいたようです。

 同時に、こうしたすばらしい習俗も、キリスト教徒の目に触れたら遅かれ早かれ消えるだろうといった予言もありました。その予言は約20年後に現実になります。

▶ 銭湯から上がったら素裸のまま家まで帰る

 さらに傍証になるのは、幕末に来日した外国人の観察です。1858年8月、真夏の長崎に上陸したローレンス・オリファントというイギリス使節の随員は、「女はほとんど胸を覆わず、男は簡単な腰布をまとっているだけである」と記しています(『エルギン卿遣日使節録』)。つまり、庶民の男性は褌一丁、女性は下半身に腰巻を巻いただけの上半身裸体です。

 また、1857~62年に日本に滞在し、日本近代医学の始祖になったオランダ人医師ポンペ・ファン・メールデルフォールトは「一風呂浴びたのち、男でも女でも素裸になったまま浴場から街路に出て、近いところならばそのまま自宅に帰ることもしばしばある」(『ポンペ日本滞在見聞記』)と記しています。おそらく夏の湯上りのあと、暑くて汗が引かないので、男性も女性も裸のまま家に帰ってしまうのです(実際には男性は褌、女性は腰巻をしていたと思いますが)。 

▶ 明治でも女性が上半身裸で働いているのは普通の光景だった

 ラグーザ・お玉(1861~1939年)という、明治初期に西洋絵画を学んだ女性が旅行先で描いた1880年頃の京都の旅館の光景では、旅館の上がり口で若い女性2人が、もろ肌脱ぎの上半身裸で石臼をまわしています。肉体労働、とくに汗をかく夏の時期に、女性が上半身裸体になるのは、明治期になっても珍しいことではなかったことがわかります。

 私も小学生の頃、夏の夕暮れ、往来の縁台で近所のおばさんが、乳房が見える状態で夕涼みをしていた記憶があります。たぶん1963年前後でしょう。「おばさん」と言っても実年齢はおそらく40歳前後、今風に言えばアラフォーの女性です。生活習慣的には、1960年代まで、江戸時代的な羞恥感覚が残っていたのかもしれません。

▶ パンツを履くようになったから「パンチラ」が恥ずかしくなる

 今まで述べたような性的視線と羞恥心の構築性、つまり歴史的に変化することを詳細に論じたのが、井上章一『パンツが見える。 羞恥心の現代史』です。書名や表紙からは怪しいエロ本に見えなくもないですが、掛け値なしに名著です。この本の内容を要約すれば、つぎのようになります。

 “60年ほど前まで、女性のパンツを見て興奮する「パンチラ」好きの男性はいなかった。なぜなら和装の女性はパンツを履いていなかったから。スカートの下のパンツに男性がときめくようになり、パンツを見られた女性が恥ずかしく思うようになったのは、日本の女性がパンツを履くようになってから。たかが半世紀ほどのこと。男性の性的視線と女性の羞恥心は、歴史の中で形成され、変化するものであることを論証する。”

▶ 人間は生殖とセクシュアリティが必ずしも結びつかない

 さて、長くなりましたがまとめになります。人間の場合、動物と違って生殖とセクシュアリティとは必ずしも結びつきません。そうした意味で、セクシュアリティは本能だけでは語れないのです。むしろ、生殖とは無縁な性行動、たとえば、同性間の性愛やオナニー(Onanie)などが、しばしば見られます。換言すれば、生殖と関わらない性行動の比重が高いところに、人間のセクシュアリティの特質があると言えるのです。

 と、まとめましたが、最新の研究で、人類以外のさまざまな動物にも同性のカップリングが観察されることがわかってきました。同性のカップリングは、生殖に直結しないものの、なんらかの形で生物進化のシステムに寄与している可能性が出てきました。今後の注目点です。

 
<参考>
・三橋順子『これからの時代を生き抜くためのジェンダー&セクシュアリティ論入門』(辰巳出版)

 

非常に興味深い論考です。

私のもう一つのおぼろげな疑問「女性の乳房は赤ちゃんのものか?男性を引きつけるためのものか?」にも答えてくれました。

男性が女性の乳房に性的魅力を感じるようになったのは、明治時代以降に女性が乳房を隠すようになり、メディアが「女性のバストはエロい」という文化を創って男性の頭脳を洗脳したから、ということなのでしょう。

ただ、小さな疑問が残ります。

ヒトの女性の乳房は、授乳期以外でも膨らんでいます。

実はこの状態、哺乳類でヒトだけ、霊長類でもヒトだけだそうです。

なので生物学的にはいろんな説があり、

「ヒトは四つ足歩行から二足歩行に進化する際、まあるいお尻が見えなくなったので、

 代わりに胸を大きくふくさませてオスを引き寄せるようになった」

なんてものもあります。

でも、霊長類のオスはメスのお尻を見て性的興奮をするのでしょうか?

チンパンジーでは繁殖期のメスのお尻が紅くなることが有名です。

「今、性行為をしたら妊娠できますよ〜」というサイン。

それを見たオス(たいていボス)はメスに近づき、

なんとメスの性器に指を入れます。

そして現在性行為をするべきベストタイミングかどうかを判断します。

「今はまだ早い」と判断すれば、性行為はスルー。

これって快感を求めるヒトの性行為とちょっと異なりますよね。

ちなみにメス側に快感があるのもヒトだけだそうです。

 

ではヒトはなぜ膨らんだ乳房を必要としたのでしょう?

もしかしたら、ヒトの男性の生殖力に不安のある神様が仕込んだことかもしれません。

昨今、「草食系男子」が話題になる時代が到来したのですから。