cnx ゑぶろぐ

著作権の切れた(笑)、やまとことば(またはカラフミ)で綴るゑぶろぐ。
ふみは、やまとことばで、あらまほしか。

ゑぶろぐ(曾根崎心中風)

2006-01-12 15:13:17 | ゑぶろぐ
道行血死期の霜

[語り] 此世の名殘夜も名殘、死に行く身を譬ふれば、仇しが原の道の霜、一足づつに消て行く、夢の夢こそ哀れなれ。
[徳] あれ數ふれば曉の、七ツの時が六ツ鳴りて、殘る一ツが今生の、鐘の響きの聞納め、
[初] 寂滅爲樂と響くなり。
[語り] 鐘ばかりかは草も木も、空も名殘と瞰上れば、雲心なき水の面、北斗は冴て影映る、星の妹脊の天の川、
[徳] 西伯利亜の橋を鵲の橋と契りて何時までも、我と和女は夫婦星、
[初] 必ず添ふ
[語り] と縋寄り、二人が中に降る涙、河の水嵩も増るべし。向ふの二階は何屋とも、覺束情最中にて、未だ寢ぬ火影聲高く、今茲の心中善惡の言の葉草や繁るらん。聞くに心も呉織、
[徳] 綾なや昨日今日までも、餘所に言ひしが明日よりは、我も噂の數に入り、世に謡はれん謠はれん。謠はば謠へ、
[語り] 謠ふを聞けば、「どうで女房にや持やさんすまい。いらぬものじやと思へども、實に思へども歎けども、身も世も思ふ儘ならず。何時を今日とて今日が日まで、心の舒し夜半もなく、思はぬ色に苦しみに、如何した事の縁じややら。忘るる暇はないわいな。それに振捨て行ふとは、遣やしませぬぞ手にかけて、殺して置て行んせな。放ちはやらじと泣ければ」
[初] 「唄も多きに彼の唄を、時こそあれ今宵しも、
[徳] 謠ふは誰そや聞くは我。
[二人] 過にし人も我々も、一ツ思ひ」
[語り] と縋付き 聲も惜まず泣居たり
平常は左もあれ此夜半は せめて暫は長からで 心も夏の夜のならひ 命追ゆる鶏の聲

註釈 七ツ 暁七ツ、午前4時頃。
   六ツ 明け六ツ、午前6時頃。
   西伯利亜 シベリアの漢字表記。