大学生の限界blog

日々の物思いについて

MBOにいう利益相反とは

2008-12-25 19:22:19 | 企業価値関連
MBO取引が取り上げられる際につきまとうのは利益相反という言葉ですが、一体利益相反って何?って考えたときに答えにくいことに気づいたので、考えを自分なりにまとめてみることにしました。

MBO時の利益相反について論じた報道は少なく、しかも大半が「利益相反問題が生じている」や「本質的な利益相反構造が生じている」とされ利益相反構造そのものについて深く考察しようと試みるものはあまりないです。

そもそもMBO(Management Buy-out)とは経営者または取締役によって自社を買収することです。「利益相反」とはある取引や行為が一方の利益になり、他方の不利益になることです。自社を買収することがなぜ利益相反になるのかというと、「会社は誰のものか」という議論をする際に、会社法上は会社は株主のものであるとの考えに立っており、取締役は会社に委任を受けている関係(所有と経営の分離)になっているからです。この関係によって取締役(経営者)が株主から高く買い取る義務があるとされる。

よく論文等で、「MBO時には、取締役は株式の売り手として高い値段で売却する義務が株主に対してあり、同時に株式の買い手として株式を安く買うインセンティブを持つ」との定義がなされるが、実際にそうなのかと考えてみたところ、実はそうではないこともありうる。例としては、旧経営者が会社の株式を大量に保有しており、新経営者に暖簾分けしたあとは経営から退く構えをとる際に上記定義が当てはまらない場合が考えられる。この場合は旧経営者も株式を高く買い取ってもらうインセンティブが働くからだ。

経済産業省の出す指針(以下、指針)ではどのような定義付けなされているかというと、「必然的に利益相反状態が生じる」とし、それに対して「株主は構造的な利益相反状態によって不透明感を感じているのではないか」と考えている。その不透明感の内容については、①会社にとってMBOの「合理性」を疑うものと、②株式買取価格が不当で、株主が受け取るべき利益まで搾取されているのではないかという懸念である。

「不透明感」を除去するという観点は、MBOの利益相反について考える際に大切になってくるのではないかと思います。この2つからさらに掘り下げた利益相反の増幅要素は何かと以下に考えてみました。

なぜ、足らないと考えたかというと、この利益相反構造から生まれる「不透明感」の定義だけでは「利益相反構造」の答えになっていないからです。そこで、利益相反構造とは何かについて定義づけるとすると、①MBOが誰のために行われているのかわからない点と、②株式取得価格の形成過程に取締役が関与せざるを得ない点だと考えます。

①はMBOが取締役の保身目的であったり、投資ファンドの利益獲得のためであったりすることが懸念されることです。これは指針にいう①に近いのですが、より具体的にはこのような意味になると思います。また、②に関してはシャルレの第三者委員会も指摘されるように、第三者機関に価格算定を依頼しても結局は買収側(取締役・投資ファンド等)が提出する利益計画の限定がかかるため、関与は免れないとの一面があることです。これも指針に近いのですが、より具体的になったかと思います。

明確にその価格の内容を分離して考えることが難しいので、指針が示す株式買取価格の検討は少し無理があると個人的には思っています。

利益相反と一口に言ってもいろいろ考えさせられるなと感じました。

それでは、また。

デラウェア州衡平法裁判所

2008-12-19 01:11:59 | 企業価値関連
デラウェア衡平法裁判所での会社法の発展は有名ですし、デラウェア州で会社を作ると最低資本金の制度がないので、手数料のたった50ドルで優秀な会社法の下で機動的な経営が可能となるという点で注目されています。

日本の会社法もデラウェア州会社法を参考にしている点が多くあります。さらに、これからの制度設計上もデラウェア州会社法を参考にしていく傾向があります。 この点について少し振り返ってみようという記事が商事法務の田中先生の記事に上がっていたので、これを機につ今日は詳しく述べようと思います。 法の移植は日本では全く珍しいことではないです。日本では、ドイツやアメリカからの輸入によって主たる法律が形成されていることは確かな事実です。会社法制に関して有名なものを挙げれば、アメリカから日本へのduty of loyalty(取締役の忠実義務)の移植がなされています。1950年の商法改正当時は論争を呼びましたが、現在は忠実義務と善管注意義務は同様の意味で 解されるようになっています。その当時の模様について神田秀樹教授が論文を書いています。以下abstractの一部を抜粋します。

Japanese law, particularly the legal rules governing economic organization, is a prime example of the transplant phenomenon, both in its systemic and single-rule variations.Japan imported its original Commercial Code(including legal rules on business corporations) from Germany in 1898 as part of a fundamental reform of its legal system, and made large-scale amendments to the corporate law in the immediate post-war period by importing many specific legal rules from the United States. This article attempts to shed light on the role of legal transplants in corporate law by examining Japan's transplantation of a single corporate rule: the director's duty of loyalty,which was added to the Commercial Code in 1950 as a direct import from the United States.For almost forty years after it was transplanted, however, the duty of loyalty was never separately applied by the Japanese courts, and played little role in Japanese corporate law and governance. It finally began to be used in the late 1980s, long after had achieved high economic growth. Using a simple theory of legal transplants, we explain the initial non-use and subsequent use of the duty of loyalty transplant in Japanese corporate law.

デラウェアからの示唆は昔からなされていたことはうかがえます。 昨今デラウェア州裁判所が話題となる場面は、買収防衛策などの企業価値関連の制度論を構築する際です。そのような場面において日本の企業価値関連の裁判ではあまり起こらなかった裁判がデラウェア州裁判所で は潤沢な判例の形成が行われているとの考えからどんどん取り入れていこうとする考えから企業価値分野においてデラウェア州裁判所の考えを取り入れていこう という傾向があります。これは、日本経済新聞2008年7月30日の神田教授の経済教室や旬刊商事法務1851号での田中亘准教授の論文を見ていただくとわかります。

なかでも最近はデラウェアのRevelon基準(義務)やunocal基準(義務)の導入が有力に考察されています。Revlon基準は買収対象となった会社の経営陣は、会社を売却する際に、株主利益の最大化を図るための義務があるとの考えです。Unocal基準は取締役が経営判断原則の適用を受けるための基準についてのもので、①会社の政策および効果に対する脅威が存在すると合理的に信ずる理由があり、②当該防衛策が取締役会が合理的に認識した脅威との関係で合理的に関連する範囲にとどまることが条件となっています。Unocal 基準では買収防衛策を立てる際、自己保身に走る可能性があるので、それを避けるための基準です。Revlon基準は株主利益を重視した基準だといわれています。

木俣由美先生の唱える株式買取請求権の充実化ぐらいしかほかの手段として企業価値関連の制度論としてしっかりとした論理がないことからすると、やはり両基準またはどちらかの適用を考えることが大切になってくると考えています。その際に日本の状況と照らし合わせて、どのような問題が出てくるのかについ て検討した田中論文によると(買収防衛策のみ)、「補償なき希釈化型ライツプラン」の導入が問題視されています。高名な江頭憲治郎先生も著書の『株式会社法』のなかで単純に制度の輸入をなすだけではなく、その検討や日本独自の制度論構築が大切だとおっしゃっていましたしね。でも、個人的には導入を急いで、 次に出てくる問題点についてアメリカよりも先に検討することの方が建設的だと思います。

買収防衛策については田中先生が記述しておられるので、上記の基準やデラウェア州裁判所の考え方とMBOの関係について、日本への導入度合いや日本への導入手法・問題点について次のエントリーで詳しく書くこととします。

 企業価値研究会の買収防衛策指針についてはコチラを参照してください。 また、旬刊商事法務1851号に田中亘先生の論文が載っています。