日程等の流れについては簡単にまとめた上記表を参照ください。略称については、
ハヤテ・・・ハヤテ・インベストメント株式会社
ベイン・・・ベイン・アンド・カンパニー
MSC・・・モルガン・スタンレー・キャピタル株式会社
EYTAS・・・アーンストアンドヤング・トランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社
です。
構成としては、一般的な法律論文形式順序である事実認定、関連部分の法律論、本件へのあてはめ、として書かれています。
まずは、報告書について簡単に書くと、
①本件取引はMBOである。よって、「情報の非対称性」と「利益相反構造」は問題となる。
②「構造的利益相反構造」が存在し、払拭不可能であるから、株主が受ける不利益を防止する措置を講じなければならない。
③本件において、「買付者側と対象会社の双方において監査法人等の第三者算定機関に企業価値及び一株あたりの株価の算定を依頼し」、「それぞれが独自に作成し合理的と評価する対象会社の利益計画を元に当該第三者算定機関が株価算定を行い」、「それらの二種類の算定結果を元に買付者と対象会社取締役が独立性を確保されていると評価できる環境下で真摯に交渉した」というプロセスが採用された場合、②を満たしているとする。
について
買付者側はEYTASに算定依頼し、対象会社はKPMG FASに依頼している。よって成り立つ。
とについて
まず、第三者機関による株価算定のプロセスの存在意義から考えて、第三者算定機関に提出する利益計画の策定作業に買付者側の影響があってはならないとの原則をとる。これは利益計画が第三者機関の算定範囲を限定する効果(報告書中では「利益計画の拘束力」)があるからである。さらに、第三者機関の算定した価格の範囲が買付価格の範囲を限定する効果(報告書中では「算定レンジの拘束力」)を認めている。よって、対象会社が提出する利益計画が買収交渉可能性の範囲を拘束する効果を生む。
本件では、交渉の自由の合理的範囲を超えるハヤテ(取締役アドバイザー)の関与があったことから、社外取締役の裁量の範囲を限定することにつながり、透明性・公正性に問題がある。
④「本件取引において本件社外取締役らの利益相反行為があったと断定することはできないが、他方、利益相反行為があったという合理的疑念を払拭することはできない」
ここからは私見を展開していきます。
まず、法的評価について書かれる内容の論理構造が分かりにくいことと、とで分ける必要があったのか疑問な点を除けば、MBO議論において新規に考察されたポイントが入っていて、すごく楽しかったです。
次に、思ったこととして「情報の非対称性」についての検討がなされていない様に感じました。「情報の非対称性」は利益相反を増幅させる要因であると捉えているのなら検討しなくても良いかもしれませんが、その旨が記述されていない気がします。
そして、価格算定プロセスに対する買付者側の影響力はどの程度あってよいのかについて「単に買付者としての希望を伝えるという限度を超えて、利益計画を構成する具体的な数字の作り方や事業戦略の分析評価にまで関与」までという判断を出している。これは、評価としては具体的なもので、これまでのMBOに関するルール策定関与した判例よりも優れていると思う。レックス判例等はことごとく曖昧な判例を出してきているので、検討対象としてはこの報告書は良いと思った。取締役の行為を細かく分析してその内容について評価を加えていてこれからのMBOルール形成において非常に有意義であると思う。特に、交渉自由の原則とその内容については斬新ですごく参考になった。
しかし、個人的には第三者委員会がこのように動いて取締役の行為を規制するのは反対です。取締役の行為範囲が今回の報告書を読んでいるとかなり狭められている気がしました。今回のように対象会社に不利なように意見が出るといいですが、出なかったときは結局疑念は払拭できませんし、利益相反性が残ってしまうように感じます。投資家へ向けてののコーポレート・ガバナンスに力入れてるアピールとしては使えるのかもしれませんが、今回は投資家対策という点では裏目に出てしまいましたしね。
それでは、また。