大学生の限界blog

日々の物思いについて

シャルレの第三者委員会 判批

2008-12-24 15:11:35 | シャルレのMBO
北浜法律事務所の弁護士方が構成する第三者委員会によって10月26日に提出された「当社に対する公開買付けに関する賛同意見表明に至るまでの手続経緯等」に関する報告書について考察してみたいと思います。本報告書はシャルレMBOに利益相反構造があったのかについて考察するものである。読み終わって思ったのは約1週間の努力は圧巻であるということでした。学生の身分からの発言で恐縮ですが、つらつらと書いていきます。間違いがあるかもしれませんので、お気を付けください。

日程等の流れについては簡単にまとめた上記表を参照ください。略称については、
ハヤテ・・・ハヤテ・インベストメント株式会社
ベイン・・・ベイン・アンド・カンパニー
MSC・・・モルガン・スタンレー・キャピタル株式会社
EYTAS・・・アーンストアンドヤング・トランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社
です。

構成としては、一般的な法律論文形式順序である事実認定、関連部分の法律論、本件へのあてはめ、として書かれています。

まずは、報告書について簡単に書くと、
①本件取引はMBOである。よって、「情報の非対称性」と「利益相反構造」は問題となる。

②「構造的利益相反構造」が存在し、払拭不可能であるから、株主が受ける不利益を防止する措置を講じなければならない。

③本件において、「買付者側と対象会社の双方において監査法人等の第三者算定機関に企業価値及び一株あたりの株価の算定を依頼し」、「それぞれが独自に作成し合理的と評価する対象会社の利益計画を元に当該第三者算定機関が株価算定を行い」、「それらの二種類の算定結果を元に買付者と対象会社取締役が独立性を確保されていると評価できる環境下で真摯に交渉した」というプロセスが採用された場合、②を満たしているとする。
 について
  買付者側はEYTASに算定依頼し、対象会社はKPMG FASに依頼している。よって成り立つ。
 とについて
  まず、第三者機関による株価算定のプロセスの存在意義から考えて、第三者算定機関に提出する利益計画の策定作業に買付者側の影響があってはならないとの原則をとる。これは利益計画が第三者機関の算定範囲を限定する効果(報告書中では「利益計画の拘束力」)があるからである。さらに、第三者機関の算定した価格の範囲が買付価格の範囲を限定する効果(報告書中では「算定レンジの拘束力」)を認めている。よって、対象会社が提出する利益計画が買収交渉可能性の範囲を拘束する効果を生む。
  本件では、交渉の自由の合理的範囲を超えるハヤテ(取締役アドバイザー)の関与があったことから、社外取締役の裁量の範囲を限定することにつながり、透明性・公正性に問題がある。

④「本件取引において本件社外取締役らの利益相反行為があったと断定することはできないが、他方、利益相反行為があったという合理的疑念を払拭することはできない」

ここからは私見を展開していきます。
まず、法的評価について書かれる内容の論理構造が分かりにくいことと、とで分ける必要があったのか疑問な点を除けば、MBO議論において新規に考察されたポイントが入っていて、すごく楽しかったです。

次に、思ったこととして「情報の非対称性」についての検討がなされていない様に感じました。「情報の非対称性」は利益相反を増幅させる要因であると捉えているのなら検討しなくても良いかもしれませんが、その旨が記述されていない気がします。

そして、価格算定プロセスに対する買付者側の影響力はどの程度あってよいのかについて「単に買付者としての希望を伝えるという限度を超えて、利益計画を構成する具体的な数字の作り方や事業戦略の分析評価にまで関与」までという判断を出している。これは、評価としては具体的なもので、これまでのMBOに関するルール策定関与した判例よりも優れていると思う。レックス判例等はことごとく曖昧な判例を出してきているので、検討対象としてはこの報告書は良いと思った。取締役の行為を細かく分析してその内容について評価を加えていてこれからのMBOルール形成において非常に有意義であると思う。特に、交渉自由の原則とその内容については斬新ですごく参考になった。

しかし、個人的には第三者委員会がこのように動いて取締役の行為を規制するのは反対です。取締役の行為範囲が今回の報告書を読んでいるとかなり狭められている気がしました。今回のように対象会社に不利なように意見が出るといいですが、出なかったときは結局疑念は払拭できませんし、利益相反性が残ってしまうように感じます。投資家へ向けてののコーポレート・ガバナンスに力入れてるアピールとしては使えるのかもしれませんが、今回は投資家対策という点では裏目に出てしまいましたしね。

それでは、また。


  


シャルレのMBO その2

2008-12-21 12:06:24 | シャルレのMBO
シャルレのMBOについて前回のエントリーから時間がたっているので、増えた情報について記述していきます。さっき書いたのに記事が一度消えてしまってモチベーションが少し下がっていますが、頑張っていきます。

新聞の要約的なアプローチでは①ブランドイメージの低下、②創業者の影響が今後も大株主の権利行使として続く傾向、についてフォーカスしたものになってしまいます。本ブログでは企業価値を扱うので、前回から比べて何が情報として新しいかなと考えてみると、①TOBが失敗確定したこと、②創業家2人の辞任決定、③社外有識者よるガバナンス監視委員会の発足が挙げられると思います。上記3点に絞って法的にはどのような検討課題があるかについて考えていきたいと考えています。

まず、①についてなのですが今回のTOBが内部告発によっておじゃんになったというのはかなり内部統制システムが上手く動いていることが考えられます。疑惑の種であった「税対策のMBO」との噂をもみ消せずに表沙汰になったというのはむしろシステムが働きすぎではないかと思います。確かに、噂の内容は決してほめられたものではありませんが、TOB価格自体には株主は不満だったのでしょうか。ぼくはその辺は分からないのですが、かなりいい価格が付いていたと思います。利益相反が価格形成に関与したのはある意味当然で、経営者が会社の買収を試みる取引なのですから一概に利益相反を批判することはできないと思います。その批判が現在の主流となっていて完全に取り除くべきだとの考えも発表されていますが、僕は利益相反構造を「最小化」するように努力した取締役の行為はとがめられるべきでないと考えています。

次に②について書きます。創業家の辞任は経営上の観点からは、必至であると思いますが、創業家への辞任要求について第三者委員会は適切なロジックを用いて要求していたのかに気になるところがあります。これは、次回に第三者委員会への判批としてエントリーします。

①で述べたように「最小化」できたと考えられる取締役は許してやってもいいんじゃないかとの私見から考えると、価格が合理的なのかを考えるのではなく、MBOの合理性を価格によって判断するべきです。価格に利益相反構造が関与していようが、情報の非対称性が問題となっていようが価格に株主が満足できるような価格ならばそれはOKだと考えています。

③についてなのですが、ガバナンスについて監視するのはどう考えても経営の邪魔にしかならないと思います。金もかかるし、内部統制も上記の通り上手くいっているので委員会の設置の必要はないと考えています。その点はシャルレの経営的な「内部統制頑張る」アピールなんですかね。

経営的な視点を無視した私見でした。シャルレは火消しに必死なんでしょうが、僕はこう考えます。上記グラフはNIKKEI NETから拝借しました。

皆様どうお思いでしょうか。特に株主の方がおられると意見が訊いてみたいです。

モルガン・スタンレーの買い付け

2008-12-17 23:55:12 | シャルレのMBO
TOB(公開買付け)の際には、価格の公正性が問題となります。この話をする際に公開買付け報告書や有価証券報告書等の情報開示や第三者機関(監査法人)によって公正性が保たれるとの指摘がありますが、疑問を持つ人もいます。また、MBO時に公開買付け後に少数株主として締め出される価格が不当であるとして株式買い取り価格決定請求が裁判所に提起されています。(レックス・ホールディングス判例参照)

この価格決定について語ると長くなるので、この点で有名な北川徹先生の論文を一つ挙げておきます。この論文からも分かる通り、取締役の利益相反行為はコーポレートガバナンス的解決(第三者委員会導入や有名投資銀行などによるフェアネス・オピニオン導入など)は難しく、北川論文ではオークションルールの検討が良いのではないかとの案が出されています。オークションルールとはMBOの公開買付け開始時点で取締役は経営者たる立場から会社売買のAuctioneerとしての立場に変わり、いくつかの会社からの公開買付けをofferさせ適正な公開買付け価格に落ち着けなけるようにしなければならない、あるいはそのための努力をしなければならないとのルールです。このルールは、デラウェア衡平法裁判所での判例の蓄積から徐々に完成されてます。

このオークションルール的観点は実はレックスホールディングス社におけるMBOの地裁判決においても採用されている。判決ではレックスホールディングスの株式買い取り価格算定の際、プレミアム(判例では期待権)の算定については「先行する別個の公開買付者が現れなかったこと」から価格は正当であったとしてプレミアム算定の根拠として挙げている。高裁判決ではその理論は却下されているのだが、今後の株式買取時の価格算定には重要な視点となりえる。(高裁判決はプレミアム算定について、近年のプレミアムの平均的な価格を参考にして付けている。)

やっと本題だが、シャルレの公開買付け者を2社(サザン・イーグルとオットー)用意したのはこのような理由からの裁判対策かと推測してしまった。でも、このような状態では全く本来のオークションルールが機能していないし、ただの倒産隔離なら、公開買付者を増やす必要もないだろう。なぜ、2社を準備したのだろう。公開買付けに際するプレスリリースを読んでもこの点については何か釈然としない。

また、倒産隔離や節税のビークルとしてはケイマン諸島のファンド組成が有名だが、今回はベルギーのファンドを組成していて、見たことがなかったので勉強になった。調べてみると日本とベルギーは二国間租税条約を結んでいて、配当課税の点で有利になるみたい。税法にはあまり強くないですが、ちょっと勉強してみようかな。

デラウェア州衡平法裁判所からの制度導入は盛んに行われていますが、最近はそれが本当によりことなのかということも考えてなされなければならないと警告を発する論者もいますし、実際に経済産業省の企業価値研究会の意見はデラウェア衡平法裁判所の意見に偏ってるとの指摘も受け入れざるをえない気がします。



シャルレのMBO

2008-12-11 23:11:05 | シャルレのMBO

報道関係をにぎわわせているシャルレ社の創業者らによるMBOですが、まとめと題していろいろ書いていきます。

シャルレのMBOについては、シャルレ社は今年922日までに創業者らによるMBOを決定し、モルガン・スタンレーとハヤテインベストメントとMBO契約を結び、1800円 で公開買い付けを開始しましたが、この価格に対し利益相反であるとの内部通報が出されました。そこでシャルレは第三者委員会を設置することとなったのです が、その第三者委員会によって検討されたのはDCF法によって公開買い付け価格を算定する際参考となる利益計画の策定手続きでした。そこで弁護士を中心と する第三者委員会は、「株式に対する公開買付けに関する賛同意見表明に至るまでの手続経過等の調査に関する第三者委員会調査結果の報告について」の結論中で


「本件は,916日および17日の買付者側との交渉に臨み,結果として,創業家に約20億円の利益吐き出しを認めさせた上で株価800円を承認した点において,構造的利益相反状況を除去するための努力が一応見られるものの,本件利益計画策定承認プロセスにおける創業家アドバイザーの関与形態は,交渉の自由として認められる合理的範囲を超える介入あり,かつ,本件社外取締役らもこれを受け入れたと見られる状況にあったと評価できるから,交渉時における社外取締役の裁量の範囲を限定することにつながる利益計画の承認に関する意思決定過程における透明性・公正性に問題があり,これらの事情を総合的に勘案すれば,本件取引において本件社外取締役らの利益相反行為があったと断定することはできないが,他方,利益相反行為があったという合理的疑念を払拭することもできない。」

とされました。(下線は筆者)そして、最終的には創業者である林さんが解任されP&G出身でマーケティングに自信ありの岡本さんが社長になり、モルガン・スタンレーはMBOを中止しました。

今回、内部通報を発端にMBOが中止されたというのがとても気になっ た。というのは、MBO時における取締役の利益相反性を避けるための方策として今まで主に日本に導入され議論されてきたものは、株式買取請求権の制度や社 外取締役の設置といった方策であったが、今回、内部通報によって第三者委員会の設置がなされ、MBO自体が頓挫してしまったのは面白い。しかも、公開買い 付け(二段階買収の一段階目)が始まったあとでなされています。コーポレート・ガバナンス的な解決が難しいMBOの事例では今回の事例は貴重な一例となる のではないかと思います。

モルガン・スタンレーと創業家らはシャルレが買収案に賛成しない場合、MBOの前提となるTOBに応募しない契約を結んでいたらしく、MBOを中止しましたが、市場の反応はすさまじかったの で、投資家の方々はかなり苦労なさったのではないでしょうか。TOB成立の行方は不明ですが、TOBが失敗したとなると投資家や社内のフラストレーション もたまるのみですね。今回の事例はプレスリリースによると非公開化による経営再建が目的だと考えられますが、MBOの目的自体が疑われますね。創業者とのMBOでなければやめるとしたモルガン・スタンレーの態度を見ると、社内の内部通報通り「今回のMBOは創業者の相続税対策」だったのかもしれないと考えてしまいますしね。


MBO取引自体がかなり複雑な取引ですのでその論点についてただ規制をかければいいってもんじゃあないですし…。創業家によるMBOは利益相反的要素が強く、経済産業省(神田先生)による指針が出されていますが、どのようにそのそれを防ぐのかは難しい論点であります。

今回はマクロなエントリーになってしまいましたが、次回から一つ一つ細かく取り上げていきたいです。今回のモルガン・スタンレーの公開買い付け手法はちょっと興味がわきましたしね。

それでは、また。