❁「本当ですか?アルバートさん。やったー!
こんなに嬉しいこと、他にないよ!」
アーチーは満面の笑顔で小躍りし、喜びを爆発させた。
そして、キャンディに向き直り心をこめて言った。
「良かったな、キャンディ。
アルバートさんと幸せになれよ」
「ありがとう、アーチー」
キャンディの目に薄っすらと涙が浮かぶ。
「キャンディ、やっと気持ちを伝えられたのね。本当に良かった…」
アニーはそう言うとキャンディの側に来て抱きつき、感極まり泣き出した。
「アニー…」
キャンディはアニーの背中に手を回し優しく抱きしめ返す。
その後、4人はシャンパンでささやかな祝杯をあげた。
「アルバートさんとキャンディが恋人になったことを祝して乾杯!」
アーチーの朗らかな掛け声の後、4人はそれぞれ細長いフルートグラスをカチリと合わせる。
海辺のしぶきのようにきらめく泡が、シュワシュワと魅力的な音を立て、フルーティな甘い香りを放つ琥珀色のシャンパンに皆は酔いしれた。
アーチーが真剣な顔で確認するようにアルバートに問いかけた。
「結婚を…お考えですよね?」
「ああ、もちろんだ」
アルバートはまだキャンディに正式にプロポーズをしていないが、迷いなく即答した。
ちらっとキャンディを見たが、アニーと話し込んでいて、今の会話を聞いていないようだ。
「アルバートさん…ありがとうございます…」
アーチーは静かにそう言うと、アルバートに深々と頭を下げ続けた。
「おいおい、アーチー、どうしたんだ?」
アルバートが訝しんで、アーチーの顔を窺おうとしたその時、アーチーはぱっと顔を上げて明るくこう切り出した。
「それにしても、アルバートさんがキャンディに恋してるのが丸わかりでしたよ。なかなか認めないんだもんな」
「うーん…おかしいな。隠していたんだがな…」
アルバートは首を傾げウィスキーボンボンを口にする。
「いつもキャンディを見てるし、考えてるみたいだし。
総長室にキャンディが描いた、全然似ていないアルバートさんの面白い似顔絵を飾ってますね。その絵を時々見てますよね」
アーチーはそう言ってナッツを口に放った。
「ハハハ、まいったな。
あれは僕がマグノリア荘を黙って出て行った時に、キャンディが描いてくれた「訪ね人」の似顔絵なんだ。だから僕の宝物なんだよ。
ジョルジュが『あの絵は値段のつけられない名作』と言ってたよ。 な!そうだろう?キャンディ」
アルバートはキャンディに話を振った。
「そうよ。名作なんだって!アハハ」
キャンディは自分が描いた幼稚な似顔絵を思い出し苦笑いを浮かべながら、甘いメープルキャンディを舌の上で転がした。
アーチーが言った。
「パーティーに出ると女性たちにつれないし、熱い視線を送られても眼中にない。ダンスもこの場から逃げ出したい顔して義務で踊ってるのバレバレですよ。
本当、キャンディに一途ですよね!図星ですか?」
「図星だ。昔も今もこれからもキャンディ以外の女性は目に入らないよ」
アルバートはさわやかに答えた。
アーチーは、「ヒュ〜」と口笛を吹いた。
アニーは、笑顔で目を輝かせた。
キャンディは社交の場でのアルバートの様子を初めて知った。
自分と踊った時には、あんなに楽しそうだったのにと安堵した。
そして、自分へ向けるアルバートの愛が嬉しかった。
「私にもわかりましたよ」
ミルクチョコレートを食べていたアニーが会話に加わった。
「アルバートさんは、やり過ぎなくらいキャンディに色々してあげて甘かったですね。
好きでたまらないって感じ。
キャンディもおしゃべりすると、アルバートさんの話をしょっちゅうしてたわね。
それに、二人が抱き合っている姿を見たら…ね……」
キャンディとアルバートは目を合わせ、照れくさくなり下を向いた。
しばらくしてアーチーはその輪から離れ、静かに窓辺に立った。
窓ガラスには、楽しそうに3人の談笑している姿が鮮明に映っている。
アーチーは窓ガラスに映る笑っているキャンディをじっと見つめ、思わずその姿の上に手を重ねた。
(アーチーの心の声)
『キャンディ、やっと…本当に幸せになれるんだな。
しかも相手はアルバートさんだ。最高じゃないか!
旅人のアルバートさんでも、ブルーリバー動物園の飼育員のアルバートさんでも、僕は祝福しただろう。
アルバートさんならキャンディを必ず笑顔にして一生大事にして、幸せにしてくれるはずだ。
アンソニーも兄貴もそう思うよな?
幸せに……僕の初恋の大切なキャンディ……』
アーチーは溢れてくる涙を押し込むように、目頭を右手でギュッとつまんだ。
アルバートだけがそんなアーチーの姿に気がつき、そのわずかに震える背中を、ただ静かに見守っていた。
続く