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ひまわりのちいさなつぶやき

日々思うこと、感じたことをつれづれなるままに綴っていきます。

みるく世がやゆら

2015-06-25 15:38:50 | 世の中のこと

 

みるく世(ゆ)がやゆら

                     与勝高校三年  知念 捷(まさる)さん

 

みるく世がやゆら

平和を願った 古の琉球人が詠んだ琉歌が わたしへ訴える

「戦世(いくさゆ)や済(し)しまち みるく世(ゆ)ややがて 嘆(なじ)くなよ臣下(しんか)

 命(ぬち)ど宝(たから)」

七〇年前のあの日と同じように

今年もまたせみの鳴き声が梅雨の終わりを告げる

七〇年目の慰霊の日

大地の恵みを受け 大きく育ったクワディーサーの木々の間を

夏至南風(かーちーべー)の 湿った潮風が引き抜ける

せみの声は微かに 風の中へと消えてゆく

クワディーサーの木々に触れ せみの声に耳を澄ます

みるく世がやゆら

「今は平和でしょうか」と 私は風に問う

花を愛し 踊りを愛し 私を孫のように愛してくれた 祖父の姉

戦後七〇年 再婚をせず戦争未亡人として生き抜いた 祖父の姉

九十歳を超え 彼女の体は折れ曲がり ベッドへと横臥する

一九四五年 沖縄戦 彼女は愛する夫を失った

一人 妻と乳飲み子を残し 二十二才の若い死

南部の戦跡へと 礎へと

夫の足跡を 夫のぬくもりを 求め探しまわった

彼女のもとには 戦死を報せる紙一枚

亀甲墓に納められた骨壺には 彼女が拾った小さな石

 

戦後七〇年を前にして 彼女は認知症を患った

愛する夫のことを 若い夫婦の幸せを奪った あの戦争を

すべての記憶が 漆黒の闇へと消えゆくのを前にして 彼女は歌う

愛する夫と戦争の記憶を呼び止めるかのように

あなたが笑ってお戻りになられることをお待ちしていますと

軍人説の歌に込め 何十回 何百回と

次第に途切れ途切れになる 彼女の歌声

無慈悲にも自然の摂理は 彼女の記憶を風の中へと消してゆく

七〇年の時を経て 彼女の哀しみが 刻まれた頬を涙がつたう

蒼天に飛びたつ鳩を平和の象徴というのなら

彼女が戦争の惨めさと 戦争の風化の現状を 私へ物語る

 

みるく世がやゆら

彼女の夫の名が 二十四万人もの犠牲者の名が刻まれた礎に 私は問う

みるく世がやゆら

頭上を飛び交う戦闘機 クワディーサーの葉のたゆたい

六月二十三日の世界に 私は問う

みるく世がやゆら

戦争の恐ろしさを知らぬ私に 私は問う

気が重い 一層 戦争のことは風に流してしまいたい

しかし忘れてはならぬ 彼女の記憶を 戦争の惨めさを

伝えねばならぬ 彼女の哀しさを 平和の尊さを

 

みるく世がやゆら

せみよ 大きく鳴け 思うがままに

クワディーサーよ 大きく育て 燦々と注ぐ光を浴びて

古のあの琉歌(うた)よ 時を超え 世界中を駆け巡れ

今が平和で これからも平和であり続けるために

みるく世がやゆら

潮風に吹かれ 私は彼女の記憶を心に留める

みるく世の素晴らしさを 未来へと繋ぐ

 

                     みるく世がやゆら = 平和でしょうか、という意味 

                     「戦世や・・・」の琉歌 = 叙情短詩形の歌謡。

                             「戦争の時代は終わった。平和の世にやがて

                              なるのだから、嘆くな臣下たちよ、命こそ宝」

                              という意味。

                     クワデゐーサー = シクンシ科の大高木。

                                和名モモタマナ(桃玉名) 公園や校庭に

                                よく植えられ、木陰は憩いの場となる。

 

                                  (2015年6月24日 しんぶん赤旗より)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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