![]() | 武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書) |
磯田 道史 | |
新潮社 |
・明治維新で武士の特権の多くが剥奪されたのに、多くの武士が受け入れたのは
俸禄が減ったにもかかわらず、武士の身分による支出が増大して耐え切れなくなったから。
・「武士身分としての格式を保つために支出を強いられる費用」とは、
親類や同僚と交際する費用、武家らしい儀礼行事を執り行う費用、
先祖・神仏を祀る費用、召使を雇う費用などである。
これらは制度的、慣習的、文化的強制によって支出を強いられる費用だった。
・厳しい世襲身分制である江戸時代で農民革命が起きなかったのは、武士は身分が高くても
経済的に困窮しており、身分の低い農民や商人の方が豊かだったから。
・江戸時代は圧倒的な勝ち組を作らないような社会だった。
このように権力・威信・経済力などが一手に握られない状態を
社会学では「地位非一貫性」という。
社会に地位非一貫性があれば革命は起こりにくい。
身分による不満や羨望が鬱積しにくく、身分と身分がそこそこのところで
折り合って平和が保たれるからである。
・武家の女性は結婚してからも実家と密着していた。
何故ならその嫁がいることで血縁関係が広がり、政治的にも血縁的にも
家が強くなることが期待された。
・明治維新以後、新政府の官員になれた武士はごくわずかだった。
官員に出仕出来た武士と出来なかった武士との収入差は天と地ほどの差があった。
・新政府を樹立した人々は、お手盛り超高給をもらう仕組みを作って、散々に利を得た。
官僚が税金から自分の利益を得るため、好き勝手に精度を作り、それに対して
国民がチェックできないというこの国の病理は、すでにこの頃から始まっている。
・猪山家が明治以降、高給をもらえたのは、藩時代では蔑まれていたソロバン役についていたから。
由緒家柄は身分制度がなくなれば無価値だが、会計技術は新体制になっても引く手あまただった。
江戸幕府が終わったのは、財政的に行き詰っていたのが大きな理由で、
そこには武士に支出を強いる様々な仕組みがあった。
新時代に対応する臨機応変さ、学問に励んで技術をみにつける、
ルールを作る側に参加することが重要である。
武士に支出を強いるのは、元々は謀反を起こさせないようするためだったのかも。