城山(しろやま) 魚籃観音(ぎょらんかんのん)
【データ】城山 563メートル▼25000地図 熱海▼最寄駅 JR東海道本線・湯河原駅▼登山口 神奈川県湯河原町の湯河原駅▼石仏 城山の北西にあるしとどの窟
【案内】源氏再興の兵を挙げた源頼朝は小田原市の南にある石橋山の戦いに敗れ、しとどの窟に逃げ隠れたという。その岩屋には、近世になって地藏信仰の地蔵菩薩、大師信仰の弘法大師、観音信仰の三十三観音菩薩、念仏信仰の念仏塔などさまざまな石仏が祀られてきた。大きな岩屋の中央には滝がかかり、修行の地としてあるいは聖地として申し分ない環境が石仏建立につながったのだろう。それにこの箱根一帯は古くから山岳修行の行場であり、日金山を中心として地藏信仰の聖地、念仏行者の修行地としてさまざまな修行者が足を留めた山であることも見逃せない。多くの石仏のなかで魚籃観音が美しい。籃(らん、かご)は伏籠(ふせご)、竹で編んだ目の粗い大きなかごで、魚籃観音は魚をいれたかわいい籃を下げる。観音菩薩が衆生救済のために現れる三十三の姿・三十三体観音の一員で、『仏像図典』(昭和37年、吉川弘文館)には「魚商をしていた一美女が、法華経普門品、金剛経、法華経をよく読誦するものに嫁することを決心し、ついに馬氏の婦人になった故事に基づくもので、その婦人が実は観音の変化身であった」とある。湯河原から城山へは中腹まで林道歩き。湯河原駅から元箱根行きバス「しとどの窟入口」下車でも行ける。
【独り言】しとどの窟には先客がいて、三脚を据えて石仏の撮影中でした。私は遠慮して端のほうにある石仏を撮影していると、先客は三脚を回収して無言ではありましたが、場所を譲ってくれました。待ってましたとばかりに、早速中央にあるこの日の目的であった魚籃観音を撮影、ついでに奥に鎮座する石仏も手早く写しました。一段落すると先客から話し掛けてきました。始めはたわいもない話しでしたが、「フィル ムのモノクロ写真にこだわっている」と聞いて、これは只者ではないとお名前を尋ねますと、山梨在住の武藤勝彦という老練カメラマンでした。そしてこの日は一日、このしとどの窟の石仏と対峙して過ごすとい言葉に、石仏撮影の基本を諭されているようでした。窟の中央に焚かれた線香も武藤さんが供えたもの。これに対し、駆け足で山の石仏を写し歩いている我が身の軽率さが、なんとも情けなくなりました。この日の私の一挙一動が、武藤さんにとっては不愉快だったに違いありません。写真は地藏菩薩(左)と弘法大師(右)。