答えは身体が知っている

セラピスト兼アスレティックトレーナーが自分の好きな事や日々感じた事を書く、息抜きブログ

大阪国際女子マラソンの解説

2011-01-31 17:32:55 | 陸上競技
昨日(1/30)行なわれた大阪国際女子マラソン
赤羽有紀子選手が過酷な気象条件の中、
強さを見せつけて優勝した。

確か、気温が6℃を下回ると身体が冷えてしまい、
マラソンには寒すぎる悪条件となる

(日本陸上競技連盟の研究によるリポートを専門誌で見た記憶がある)
その上に強い風が吹いていたので、
女子選手にはなおさら条件が厳しかった思う。
そのような気象条件の中での
2時間26分をわずかに超えるタイムと言うのは、
気温10℃前後、無風の条件と比べれば、
恐らく3~4分は損をしているであろう。
世界選手権代表の最有力候補といっていいであろう。

2位に入った伊藤舞選手も奔放なフォームと積極的な走りで
赤羽選手と最後まで競り合って26分台で走ったことは、
陸連も大いに評価すべきである。


ところで、このエントリーの主題は、
今大会のテレビ解説の方である。
大塚製薬監督の河野ただす氏の解説は、
他の数多いる長距離・マラソン解説者の中で群を抜いて素晴らしかった。
さすがに理論的である。
元選手と言うだけの解説者には、
もともと理論を語る知識も無いので問題外だが、                 ※1
元とか現監督・コーチという肩書きがあっても、
結構科学的な裏付けや正確な知識に基づいていない
”適当”なことも語っているものである。

良い記録を出したり良い成績を収めるようになると
解説者はその選手を無批判に褒めたりする。
しかし、今回の河野氏は、
赤羽選手のそれまでの欠点(疲れてきた時に腰が落ちる/体幹の強化が必要)を
はっきりと指摘し、
今回赤羽選手がそうした欠点を改善してきていることを
レースの後半の早い段階で言及して、
赤羽選手有利を予想していた。                         ※2

また、自チームの選手である伊藤舞選手について、
上に飛び上がっている(跳ねる)フォームに見えるが、
じつは着地時にすぐに脚に腰(重心)が乗っているので
飛び上がっているのではなく前に進むフォームである
という意味のコメントをしていたが、
まったくそのとおりであると思う。
やたらと上に飛んではいけないとか、
地面を這うようなピッチ走法がいいとか、
一方的な狭い考えがあたかも真実であるかのようなマラソン解説を聞くが、     ※3
ランニングフォームにはもっと様々な要素で成り立っているので、
多面的に分析をして評価しなければいけない
し、
解説もそうでなければいけないであろう。

その他のコメントも冷静でわかりやすかったし、
一つ一つが理にかなっていた。
その理由として、本人の性格や立場があるだろうが、               ※4
筑波大学卒と言うことで競技だけでなく勉強にも励んだことが
今も学び続ける意欲に結びついているのではないかと
勝手に想像している。
私がトレーナーとして合宿で河野氏とご一緒した時に、
きちんと書物(学会誌)で勉強されていることを伺わせる出来事があった。
他人から話を聞いて勉強したつもりになる人もいるが、
その出典は何か、根拠はどこに示されているのか、
きちんと自分で直接書物・論文等に当たって調べないと
本当に勉強したことにはならない


とにかく、河野氏の解説は理論的でわかりやすかった。
数多いるスポーツ解説者には、
こうした河野氏の態度を見習って欲しいし、
そうした能力を持って初めて解説を引き受けてもらいたいと思う。



※1 元選手と言うだけの解説者には、もともと理論を語る知識も無い

だから無用と言うわけではない。
理論や科学的な知識など無いのだから、
選手心理など選手の目線で語ることに
元選手の解説者の存在意義がある。
そして、選手にも様々な個性の選手がいるから、
自分の見方や感じ方は一般化できないことも自覚して
誤解を招かない(狭い見方に偏らせない)ように語るべきである。


※2 (河野氏は)レースの中盤過ぎに、赤羽選手有利を予想

結果論でモノを語るのではなく、
感覚(何となく)で予想するのでもなく、
しっかりとした、しかもわかりやすい観点に基づいて説明していること、
これこそ専門家の解説といえるものであろう。


※3 一方的な狭い考えがあたかも真実であるかのようなマラソン解説

日本に蔓延しているこうした狭い考え方では、
エチオピアやケニアの選手が何故速いのかを説明できないであろう。
これらの国の選手は”別次元”と考え、
日本人とは根本的に違うと思考停止していたら、
日本人は長距離・マラソンの分野でも世界から取り残されてしまうであろう。
(もう男子は取り残されているけど。)

上に飛んでいるようでも着地時につぶれないで高い腰の位置を保てるのと、
上には飛ばないけど着地時に膝や股関節が大きく曲がって(潰れて)
実は接地時の重心の上下動が大きいのとでは、
どちらの方がランニング効率がいいだろうか?
上に飛んだかどうか、ストライドが広いかどうかだけを問題にするのは
全くのナンセンスである。


※4 (河野氏の)立場

大塚製薬陸上競技部監督
日本陸上競技連盟長距離・ロード特別対策委員会副委員長)