~青いそよ風が吹く街角~

映画(主にミニシアター映画)の感想文を軸にマイペースで綴っていきます。

『大きな虹のあとで~不動四兄弟~』 ※ネタバレ有

2017-09-18 19:14:07 | 〔RR〕


  『大きな虹のあとで~不動四兄弟~』:公式サイト

砂のおにぎり
託された想い

初演から20年に渡り再演され続けた演目を今回は研音所属の若手俳優・女優を中心に再演。
終戦前の特攻部隊に志願しつつも葛藤する四兄弟や周囲の人達の姿を描く。

大掛かりなセットはひまわりのプロジェクションマッピング?ぐらいで
ステージに長い台が置いてある程度。
小道具も少なく、衣装チェンジもクライマックスで三兄弟が特攻服になる時のみ。
装飾が少ないので、出演者の表現力が試される。

四兄弟は皆180cm超えなので、そのうちの3人共、特攻服は見栄え良く似合っていました。
ただ、背格好が似ているとパッと見では顔の見分けはつきにかったですが、声でわかりました。
竜星以外の3人は男性にしてはハリのある高めの声質で
竜星はヴェルヴェットボイス(ハスキーでマイルドな声質)。
舞台向きの声質ではないのは明らかだったし、声量では若干劣っていたが、気迫で補って同等にもっていっていた。
クライマックスの特攻場面では彼が他を上回って声が通っていた。

前半は兵隊さん達を見届けてきたお茶屋の女主人が、
四兄弟が気になっている女学生たちに彼らの事を話す。

 麻樹への恋に浮ついている三男:大地
 大地を応援しようと親身になるけど実は自分のほうが麻樹に想われていた四男:草太
 料理人になる夢が叶うわけがないと強がりながらも戦後に夢をとっておく望みをもっている次男:空
 父親代わりになりつつも上から目線にはならず、弟たちと同じ目線で接し見守っている長男:月

戦時下の中でも日常を明快に描いているが、突然、明朝の出撃命令を伝えられる場面から空気が一変する・・・。
四兄弟皆それぞれ動揺しているが、最も動揺したのは意外にも四兄弟の中で一番大人に見えていた空だった。

空は他の兄弟みたいに賑やかになりすぎたりはせずに、一歩引いてクールに物事見ている。
空は料理人を目指していて、夢は自分の店を出すこと。
内面には熱いモノを秘めていたのかもしれない。
出撃前夜、伏し目がちの悲壮感漂う表情で海岸の砂浜?の砂で慈しむようにおにぎりを握り、声を上げず慟哭する。
砂だから決して固まらないおにぎり。
その砂のおにぎりに逃れられない自分の末路を悟ったのだろうか?
単に悲しさではなく、悔しさ、憤り、そして、死への恐怖。
言葉に出来ない様々な感情が表情に滲んでいた。
一見、皆や現実を俯瞰するように見ているけど、実は人一倍繊細な空。
それを理解しているのは多分月だけで、月が崩れそうな空を支えて家に連れ帰る姿が強く印象に残った。
そんな月も決して強くはなくて、
女主人に「もう我慢しなくていいんだよ」とたしなめられ、弱さをさらけ出す表情もやるせない。

空役の竜星涼の悲痛な表情で流れた涙も鼻水も尊く美しい演技でした。
切り返しの早い演出の中で台詞もなく静かに苦悩し泣く演技は
瞬発力が求められるので難易度高いと思うけど、スムーズにこなせていた。

昨年の朗読劇『私の頭の中の消しゴム』の時は激しく叫んで顎下まで大筋の涙が落ちている豪快な泣き方だった。

 朗読劇『私の頭の中の消しゴム 8th letter』〔竜星涼&真野恵里菜ペア〕 ※ネタバレ有

だけど、今回の涙は頬の真ん中ぐらいまでの一筋の涙で正直、涙の量が少ないなと思ったので、
もう一筋ぐらい欲しいなと思ったら、鼻の下辺りから大束の鼻水が見えかかっていて、良い意味でそうくるか参ったなと。
『私の頭の中の消しゴム』のほうが迫力はあったけど、今回は激しさ勝負ではなく、
内面からの浮き彫りになる感情の機微が涙や鼻水として表れる。
すなわち、勢いで役に入るのではなく、
役に染まって役の体温から感情が滲み出てくるメソッド演技のアプローチなんですよね。
他の俳優さん達が汗だくで熱演を繰り広げる中、彼は汗一つかいていなかった。
ステージ上は冷房もないから演じる上では汗かいて当然なんだけど、
役としては普通の場面でも汗かいているのはおかしい。
それは、本人が頑張って演じている姿をあからさまに誇示するのではなく、
役になりきって役としてステージに立つと言うか、役として生きて空の感情に寄り添おうとしていたのかも。

海外のとある歌手(ステージモデルもしている)のお話しで、
人前に出る時に自分の汗をコントロール出来る術があるのはきいたことあります。
もし、この一年の間にそれを習得したのなら、陰で物凄く努力しているんだろうな。
(『私の頭の中の消しゴム』の時は汗も涙も鼻水も飛ばしていたから。)
後半の涙を溜めた横顔、大地にアイコンタクト取る前に
そっと目の下辺りを片手で覆ったらすっと涙が引いて意を決した表情になっていた。
もしかしたら、涙もコントロールしているのかとも感じたり。
目線の動きも細かく表現していたな。

そして、主題を伝えるメッセージ性の強い台詞は竜星に一任させていた。
竜星はこの演出家に信頼されているんだなと感じた。

あと、お茶屋の女主人が麻樹を叱咤激励する場面もうるっときたな。

 私でいいのかなではなく、あなたじゃないとダメなの

死にゆく人に自分の想いを伝えるのは相手に負担をかけてしまうと悩む麻樹の気持ちもわかるし、
だけど、女主人は死にゆく人だからこそ自分を想ってくれる人がいた事を伝えるべきだと。
最期の瞬間まで生きているから自信をもたせてあげなさいということなのかな。
麻樹にも草太にも心残りがあってはいけない。
それは多くの兵隊さん達を見届けてきた女主人だからこそ言える言葉なんだろうな。
戦況下では男性が最も辛いが、それ以上に心が強くならないといけなかったのは女性達だったのかもしれないですね。
(結局、草太は特攻にはいかなかったけど、その後、麻樹と結婚したのか?
ラストで子供達に四兄弟の話を聴かせる女性は二人の子孫なのか?ちょっと気になりましたよ。)

演出的にはテンポが早すぎて、特に4兄弟の場面は早口でやりとりしているのが多かったので、
もう少しゆっくりしたテンポにしてほしかった場面もありました。
物語的には前半の大地・草太・麻樹の三角関係でコメデイ色を強めたかったのはわかるけど、
空に想いを寄せる百合とのエピソードも掘り下げれば対比が効いた気もする。
休憩なしの1時間50分はコンパクトではあるし、
舞台を初めて観る若い子達には観やすいだろうけど、休憩入れて2時間半ぐらいにして、
もう少しゆっくりしたテンポでそれぞれの登場人物に寄り添える間の取り方の余白があるほうが私好みだったかな。

 女性が好きな男性に告白しやすい世の中に
 男性が料理しやすい世の中に

自由が制限された時代に生きた人達の日常のささやかな願いが反映出来た現代になっているのだろうか?
その時代に生きた人が今の世の中を見たらどう感じるのだろう?
今を生きる私達がその人達に恥じない生き方が出来ているのだろうか?

使命を背負い、いつくるかわからない時を意識しながらも、恋をする者、夢を抱く者。
特攻隊の遺族の方への取材のもとに書かれた脚本なので、彼らを偉大な兵士ではなく、市井の若者として見つめている。
英雄伝ではなく、儚くも真っ直ぐに生きた彼らの煌めき。

今の日本は弾道ミサイルのニュースがあったりはしているけど、国自体に内戦があるわけではなく、
他の諸国と比べると戦況の緊迫感はない国かもしれない。
だけど、隣国は休戦状態で今でも青年たちが兵役に就いている。
日本だって、いつどうなるかはわからない。

 命と隣り合わせの日常は特別ではなく、リアルな日常

だからこそ、空の主張は心に刻まれる。


P.S.
竜星くんは試合中の事故で左半身麻痺になり車椅子生活を余儀なくされるバスケ部エース役のドラマ『GTO』〔2014年〕8話や、
難病で余命わずかな中で笑顔で接してくれる女性を愛する青年役の映画『泣き虫ピエロの結婚式』〔2016年〕など、
一途であるがゆえの葛藤が入り交じった表情が真に迫っている。
そういった演技が半端なく重いから好みは分かれるだろうけど、独特の感受性をぶつけてくるから私は心つかまれる。

明るく味のある役もこなせる人だけど、私的には絶望と向き合うシリアスな役でもっと観たい役者さん。

竜星くんの次回作は10月14日土曜23時05分からスタートするテレ朝系の連ドラ『オトナ高校』。

 『オトナ高校』:公式サイト

妻を亡くし5人の子供を育てるシングルファーザーで毒舌キャラの教師役を演じる彼。
次はどんな顔を見せてくれるのか楽しみです。


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