何年も前に買ったDVDだが、久しぶりに見返してみた。
これは、ブライアン・ウィルソンがバックメンバーを集めて、ビーチボーイズの名作アルバム「ペットサウンズ」をオープニングから最後までを、生で完全再現したコンサートの模様を収録したものである。
会場はロンドン。
私は、ブライアンが、この「ペットサウンズ」や「スマイル」を完全再現する日本公演を見に行ったことがある。それぞれ別のツアーであった。
どちらも素晴らしかった。
このDVDを見ると、ブライアンが生で再現するコンサートを見に行った時のことを思いだし、自分がいかに素晴らしいライブを生で見れたことか・・・ということを実感する。
今更のように。
「ペットサウンズ」そして「スマイル」。これはブライアンの音楽キャリアを考えた場合、特筆されるアルバムであることは言うまでもない。
1960年代に無事に完成にこぎつけることができた「ペットサウンズ」。
そして、1960年代には完成できず、21世紀になってから完成した「スマイル」。
「スマイル」の紆余曲折を考えると、「ペットサウンズ」だけでも、あの時代に無事に完成して本当によかった・・・と思える。
あの時代の、あの時のメンバー、あの時のブライアンの状態で完成できたのだから。
よく「スマイル」と比較されるビートルズの「サージェントペパーズ」にしても、仮にもしビートルズの四人が今も生きていて、今「ぺパーズ」を作ったとしても、60年代当時に完成した「ペパーズ」にはならないだろうから。
まあ、それはともかく。
「ペットサウンズ」完全再現。
アルバム1枚をまるまる再現するライブってのは、日本では決して多くないはず。
少なくても、私はそんなに例は聞かない。全くない・・というわけではないにしても。
そして、再現するアルバムが世紀の名作「ペットサウンズ」とあっては、これはもう他の普通のコンサートとは意味合いが違うのだ。
思えば、60年代後半・・・ビーチボーイズは、ブライアンの傷心と共に本国アメリカでは人気が下降気味だった。だが、それを救ったのが、イギリスのファンであった。
ビーチボーイズのサーフィン音楽のイメージが強かったアメリカは、ペットサウンズでのビーチボーイズの変化を当初はとまどっていたらしい。
でも、イギリスでは「ペットサウンズ」は熱狂的に受け入れられ、ライブバンドとしてのビーチボーイズもイギリスで人気を博した。某音楽雑誌の人気投票でも、ビーチボーイズはビートルズと並走できるバンドであった。
本国でとまどわれた「ペットサウンズ」の素晴らしさを、本国アメリカよりも認めてくれたのがイギリスだったようだ。
なので、このDVDに収められているファンの反応も実に暖かく、熱狂的だ。
このコンサートの時、すでにブライアンは60代。かつての体調不良や精神状態の不安定を経由して到達した60代のブライアンは、20代の頃のあの天使のようなファルセットボイスは、出ない。
でも、再起不能の噂まで流れたブライアンが、ここまで復活してくれた事実。
そしてバックメンバーの完璧なサポート。
暖かいファン。
そしてそして、何よりも、良質の楽曲の素晴らしさが、60代のブライアンを光り輝かせている。
1曲1曲をやる前に、一言ずつ、その曲に関するコメントをして演奏するブライアンは、客の反応を心から喜んでいるのが分かる。
一見、固い表情のように見えて。
かつてのビーチボーイズにあった、勢い、若さ、オーラの代わりに、緻密で高い演奏技術で安定感たっぷりに聞かせるバックメンバーは、ブライアンを、そしてブライアンの音楽を心からリスペクトしているのが分かる。
ブライアン本人と一緒に、歴史的なポップミュージックを演奏できる・・・ということは、彼らにとって名誉なことだろう。
サウンドの方は、ほぼレコード通りで、完成度が高い。
ペットサウンズをさんざん聴いてきたファンにとっては、このサウンドに幻滅することはないはず。
強いてあげれば、さらにここにビーチボーイズのメンバーの声があれば言うことなしだが、他界したビーチボーイズメンバーがいることも考えると、それはもう無理なこと。
なにより、ブライアン本人がステージの真ん中にいて、客席に語りかけ、実際にペットサウンズの曲アルバムの曲順通りに、サウンドもレコードと遜色なく再現してくれているという事実が特別なのだ。
そして、なにより幸せなのは、ブライアン自身がすごく満足そうなこと。
ブライアンのファンとして、それは何物にも代えがたい。
聴きなれたペットサウンズだが、こうして改めて聴いてみると、その楽曲の素晴らしさがとびきりである。
曲やサウンドは非常に凝っているし、高度なことをやっている。
だが、ブライアンのすごいのは、そういう難しいことをやっていても、メロディ自体は親しみやすいということだ。
高度な演奏や、凝った構成の曲をやると、ともすれば曲は難解になりかねない。
だが、ブライアンの音楽は違うのだ。
難しいことをやっても、楽曲は誰が聴いても美しく、覚えやすく、心地よいのだ。
しかも、変化に富み、カラフルで、面白くもあり、飽きない。万華鏡のようなサウンド。
穏やかに聴き流して心地よくなるもよし、構えて聴いて、その凄さを体感するもよし。
何十年も前の曲ではあるが、これは時代性を超越している曲たちであり、古さは微塵も感じない。
というか、今から何十年も前に、こういう曲を作り上げたということに感嘆するしかない。
ロックとか、ポップスとか、単純なカテゴリー分けが難しい。
ロックであり、ポップスであり、シンフォニーであり・・・。
個人的には、これは・・・プログレポップスとでも言いたくなる。
おそらく、この楽曲群には、時の流れは関係ないだろう。
クラシック音楽がそうであるように。
「時間の外」で流れる音楽。
このアルバムがリアルタイムで発売された当時、この凄さに気づかない人が多かった・・というのは、今考えると仕方ないとさえ思う。
気づかなかった人たちに罪は無いと思う。
罪があったとすれば・・
あの時代に、このサウンドや楽曲が到達してしまった次元そのものかもしれない。
だが、音楽ファンもさるもの。その後、時間をかけて、その次元に到達していったのだ。
この良さが分かる感性に。
これを見ると・・・日本でも行ってくれた「ペットサウンズ再現コンサート」を、私は見ておいて、本当によかったと思う。
実際にコンサートに行くことが出来て、本当に幸運ですね。
だんぞうさんのように、あらゆるジャンルでも、オリジナル楽曲を持っていらっしゃる御方には、ペットサウンズも、きっと魅惑的な刺激・影響になったでしょう。
ペットサウンズは、ポプュラー音楽初心者が聴いたり、演奏するものではありませんよね。
やはり、相当のジャンルの音楽を聴きこなしている、或いは様々な音楽を演奏してきた人でなければ、本当に極められないと考えます(笑)
だんぞうさんのオリジナル楽曲でも、ペットサウンズのように編曲したい歌も数々ありますか?
あらゆるジャンル?と、とんでもない。
かなり偏ってますよ、私の自作曲の範囲は。
気の向くままに作ると、、私の曲はどれも同じようになってしまいます。
だから、目先を変えることはありますが、結局は、、だんぞう節だったりします。
ペットサウンズは、発表当時は賛否両論あったようですが、今では不滅の名盤とされてます。
ブライアンの目指した高みに、世間の評価が追いつくには少し時間がかかったのでしょう。
でも、その凄さをリアルタイムでいち早く見抜いていた、レノン・マッカートニーはあせったようです。
私の曲など、ペットサウンズみたいなアレンジになど、とうていできそうもないです。
憧れはありますけどね。