石ころ

ちり紙交換




 ちり紙交換のスピーカー音が聞こえてきた。飛び出して保存しておいた新聞紙を出そうとして、先日町の回収に出してしまっていたことを思いだした。溜まって我慢できなくなってしまったのだった。
一袋だけ残っていたので急いで家の中の新聞紙をかき集めて足し、玄関先に出ておじさんを待っていた。

少なくて申し訳ないないなぁ・・と思ったとき、ふっとおじさんが足を引きずっている様に見えたので、
「足、怪我でもされたのですか。」って聞くと、
「この間から体の具合が悪うて、4ヶ月ほど寝てました。何処が悪いのか検査してもわからず仕舞いで、ただしんどうて・・しんどうて・・もう、これでお仕舞いかと思いました。」
「もう、大丈夫?」
「まあ、なんとか此処まで良うなりました。」
「お大事に・・また来てね。」運転台でおじさんはニコニコと頭を下げて下さった。私も・・。

 おじさんにいつもポケットティッシュを頂いて、新聞をため込んで待つようになって何十年にもなる。おじさんが年を取るのも当たり前か・・。
近頃は地域で回収するようになり、ちり紙交換の人もほとんど来なくなってしまった。

「家を新築していて忙しくて来られなかった。」と聞いたとき、「良かったね」って嬉しく思った。
「風邪を引いて来られなかった。」と聞いたとき、まだ風邪気が残って居るようだったので気がかりだった。

おじさんの家が遠いことを聞いたとき、「なぜこんなに所まで来るの?」なんて私の不躾な質問に、「こんな仕事を家の近くでする人はおまへん」フフフ・・アハハ・・って、なんだか可笑しくて二人で笑った。
ちり紙交換が恥ずかしい仕事だとは思わないけれど、その気持ちもよく分かるので・・。おじさんもカラッと笑っていた。

 ずっと来てね、ずっとずっと来てね。それが無理であることは良くわかっているけれど。
しんどくて・・そう、なんだかしんどくなって、昨日まで出来たことが今日は出来なくなり、そうして・・思い出になってゆく。
この町に暮らして数十年。思い出の人が増えて・・、時々その人とのあのこと、このことなどを主人と話して寂しさを分け合っている。

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