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旧・鮎の塩焼キングのブログ

80年代を「あの頃」として懐かしむブログでしたが、子を亡くした悲しみから立ち直ろうとするおじさんのブログに変わりました。

D&D冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話02節 ダンジョン・アタック後編〜囀りのガヴと竜の秘宝〜

2025-04-02 18:02:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説です。


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〇二

 洞窟に降りるために打ち付けられた簡易的な階段。こんなものを誰が作ったのだろうかとテーリは疑問に思った。この《竜のねぐら》の持ち主はあんなお粗末で美しさのかけらもないような代物を作るはずもない。木の板を石壁に打ち付けるだけの簡単な造作は、いかにも《ゴブリン》らしい建築物であった。仮に《ゴブリン》が階段を作ったとして、それは何のためだったのか。

 神秘的で美しい洞窟ではあるが、所々から頭を出しているエメラルドは魔法で造られた紛い物である。そんなことは洞窟外へ石を持ち出せば、瞬時にわかることだ。いかに知能の低い《ゴブリン》といえども、この大洞窟が金にならないことにはすぐに気付けたはずだ。それでは何故、あの階段は造られたのだろう。テーリには遥か先まで伸びている大洞窟の奥底に、その答えがある気がした。


 偽エメラルドのおかげで洞窟内は《ウォーグ》の洞穴よりも遥かに明るく見通しも良かった。天井までゆうに20メートルはあろうかという広大な空間。大洞窟は川の流れに沿う形で緩やかに蛇行しながら奥へと続いていく。歩きやすく均された地面や「何者かの爪」で抉られた壁面から、「ある者」が建造した古代の遺跡であるとテーリは推測した。

「ここってまさか《緑玉の大超竜》の棲家だった跡なのかな?」

ナーレは《サンダー渓谷》の由来ともなった、雷鳴の如き悲鳴をもたらす大超竜の伝説を思い出して身震いした。その棲家と言われればそうとしか思えない、荘厳な趣が漂っている。ハーラもテーリも答えなかった。棲家であると認めてしまうと、どこかに潜んでいた《緑玉竜》が飛び出してくるような気がしたからだ。

 30分ほど歩くと洞窟内の様子が一変した。洞窟内の壁面が艶やかに磨かれたようになった。凹凸一つない壁面が湾曲して天井に伸びている。地面は一段高くなり、整然とした石畳の道が現れる。天井も石畳を貼った造りになった。まさしく《竜》の棲家といった、美しくも堅牢な遺跡が現れたのだ。ナーレが壁を触るとほんのり冷たく心地が良かった。

 曲がりくねりながらどこまでも続く一本道。美しくはあるが変わり映えのない風景に義兄弟は不安を募らせた。実は地獄まで続く、果てのない道なのではと不穏な考えが頭をよぎったからだ。この時、洞窟探索に不慣れなテーリは大きな見落としをしていた。滑らかに磨かれた壁面には多くの隠し扉が設置されていた。しかしそれらは巧妙に偽装され、テーリに気付ける代物ではなかったのだ。テーリもまさかピカピカに磨かれた岩盤の後ろに部屋や通路があるとは、夢にも思わなかった。このような通路や扉を巧みに隠すことで有名な《竜》、それが《緑玉竜》であった。隠し扉の仕掛けに一つでも気が付ければ、この先に待つ困難への対処も大きく変わったことだろう。

 視界の遥か先に巨大な扉が見えた時、三人は安堵とともに緊張もした。あの扉の向こうで待ち受けるのは宝物なのか、はたまた《大超竜》なのか、と。


【第2話後編〇三に続く】 

毎週 月水金曜日 更新


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《緑玉竜》の課す謎解き。困惑する3人は扉の前で佇むだけだった。



D&D冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話01節 ダンジョン・アタック後編〜囀りのガヴと竜の秘宝〜

2025-03-31 08:54:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説です。


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ハテナの交竜奇譚

第2話 ダンジョン・アタック後半

〜囀りのガヴと竜の秘宝〜


〇一

 ひんやりとした空気が真夏の湿気でほてった身体に心地が良い。澱みのない真水のような空気は、吸い込む度に血の匂いで溢れかえった肺臓を清めてくれる。静謐で広大な空間に降り立った義兄弟の末弟ナーレは興奮のあまり言葉を失っていた。


 《ゴブリン》の間から、大洞窟の壁沿いに打ち付けられた簡易的な階段を一段一段慎重に降りてきた。底に近付くにつれ、自分たちはとんでもない大発見をしたのではないかと胸が高鳴った。あまりにも美しすぎる《竜のねぐら》は、人型生物が安易に踏み込んではいけない神の領域に感じられた。床も壁も天井も隙間なくエメラルドの原石が飛び出している。柱状に岩盤から「生えた」エメラルドはまるで生き物の鼓動のように明滅を繰り返し、大洞窟全体を仄かに照らしていた。目の前に広がる天然の宝の山にどれだけの価値があるのだろうかと、口を開けてとんでもない金額の皮算用を始めた。

 「ナーレ行くよ。この石は魔法で作られた偽宝石だ。この洞窟から離れた途端に輝きを失う。価値のない石ころに騙されるんじゃないよ。」

テーリは冷たく言った。初めはその美しさと途方もない規模に肝を抜かれた。しかしテーリはよくよく観察することで、《魔法技師》がよく使う《魔法の小発明》を応用した初歩的な魔術であることを看破した。

「うそーん…これがただの石なの。」

唇を尖らせてテーリの跡を追うナーレ。大冒険の報酬に相応しいと目を輝かせていたナーレは、とんだ床喜びだと腹立たしく思い、エメラルド風の柱状石を蹴り飛ばした。石は簡単に砕けると、乾いた音をあげて遠くまでカラカラと転がっていった。折れても偽エメラルドの輝きが失われることなく、淡い光の明滅を繰り返していた。

 ハーラは小さい頃から領主の父に宝石の原石をねだっては、買ってもらっていた。そのため妖しく輝く大洞窟の石に違和感を覚え、取り立てて興奮はしなかった。テーリの説明を聞いて自分の審美眼に満足した。ナーレに魔法について雄弁に語るテーリを見つめ、《野伏せり》としても《魔法技師》としても確かな実力であると、テーリを改めて見直していた。森や魔法都市でどれだけ勤勉に学んできたのだろうかと、テーリの過去に少し興味をもった。また、偽エメラルドの輝きに目を奪われ、直後に落胆の憂き目に会ったナーレをとても愛おしく思った。ちょっと知恵が回らないところが、長男心をくすぐった。次はどんな勘違いをしてくれるのかと、ハーラはこれからのナーレとの旅路が楽しみになった。


【第2話後編〇二に続く】

毎週月水金曜日 更新

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緑に輝く遺跡を進む義兄弟。荘厳な遺跡を作り上げた主を思い浮かべるだけで身震いがした。そして現れた大きな扉。


ハテナの交竜奇譚再開記念!今年度チャレンジしたあれこれ&生成AIすげ〜!

2025-03-30 08:08:00 | 小説
いよいよ明日で令和6年度が終わりますね!

区切りが良いので、明日からハテナの交竜奇譚第二話の後編の連載を開始したいと思います。

振り返ると今年度はチャレンジの年でした。職場内の異動で全く違う業務を任され四苦八苦。他部者との調整が上手くいかず眠れぬ日々でした。

勉強が苦手な三男の高校受験。これも辛かった。何せ受験生はピリピリしがち。家庭内が険悪な雰囲気になる事もしばしば。でも志望校に受かったから「ばんじゃーいでした!」私のチャレンジじゃないけど、三男のナイスチャレンジという事で。


お墓を建てたのも今年度でしたね。私は毎週磨きに行っていますが、その他の家族はまだお墓に行く気にならないようです。仕方ない。


母と兄の介護生活も始まりました。今は自宅から通って、たまに泊まる程度ですが、兄の人生を再生させる事に、嫌々チャレンジ真っ最中です。

そして趣味でも大チャレンジ!次男を亡くした夜から寝ることができなくなり、そんな永い夜の時間、私の苦しさを和らげてくれた《タツノオトシヨ》の物語。頭の中にだけあった世界を文字に起こそうと、小説を書き始めました。飽きっぽい私がもう半年もコツコツと書き進めています。これも大きなチャレンジでした。


辛くて悲しくて仕方がないけど、家族と共に生きていくために、いろいろなチャレンジをしています。でも、ここを訪れる方々もきっと同じですよね。

自分一人だけ辛いんだと腐らないで、来年度もチャレンジを続けて、前向きな自分でいられるようにしたいです。

さて、連載再開にあたって、ちょいと面白いことをしてみました。それはYahooのAIアシスタントに「ハテナの交竜奇譚のあらすじ」を書いてもらったことでーす!

パチパチパチ!

ネットの片隅に転がっているブログの記事までちゃんと読み込み、95%くらいは中身があっているあらすじに仕上げてきました。しかもほんの1秒ほどで。と言うわけで、YahooのAIさんの実力をご覧ください!
私のアイコン

ハテナの交竜奇譚 第2話 ダンジョンアタック前編

AIが回答を生成中
AIアシスタント

「ハテナの交竜奇譚」第2話「ダンジョン・アタック前編」では、義兄弟3人(ハーラ、テーリ、ナーレ)が《ウォーグ》と呼ばれる敵と戦闘を繰り広げます。戦闘時間は30秒にも満たないものの、ナーレは大きな傷を負います。 目的である《ウォーグ》の殲滅は達成されましたが、洞穴の奥が気になり、テーリは財宝への期待を抱きます。

ナーレの負傷により、休憩を取ることにし、テーリは森で木の実、キノコ、野草などの食材を集めます。ナーレがそれらを使って料理を作り、その美味しさにハーラとテーリは感動します。

さらに、洞穴の近くには小型の黒い竜が現れます。チッチ(別の登場人物)は、この竜を見てヴァッロたち(おそらく義兄弟たちを含むグループ)に引き返すよう命じます。竜の目的や敵味方は不明なまま、物語は次のエピソードへと続きます。 物語全体は、作者が亡くなった次男に捧げたものとされています。 一連の出来事を通して、義兄弟たちの連携と戦略が評価されており、少ない戦力で多勢の敵と戦える基本がしっかりと押さえられていたと描写されています。

要約すると、短い戦闘、ナーレの負傷、森での食材採取と料理、そして洞穴の奥と現れた謎の竜という展開が、第2話前編の主要な出来事です。 戦闘は短かったものの、ナーレは深刻な傷を負い、物語は洞穴の奥と竜の謎を残したまま、次のエピソードへと繋がっています。

以上です。大まかな流れを完璧にまとめています。チッチ一団のヴァッロをハテナ義兄弟の仲間と誤認したり、前編最終話で正体の判明した黒竜王ガヴリエルについての言及が甘かったりと、ツッコミどころはあります。しかし、私が何も考えずとも勝手にAIがここまでまとめてくれるとは、正直驚きました。

しかも私のやったことは、《ハテナの交竜奇譚 第2話 ダンジョンアタック前編》と検索欄に入力しただけです。

生成AIはすでに素人でも作画、作詞、作曲が出来るまでに成長しているらしいですね。近い将来、小説を全文読み込ませただけで、一瞬で動画化までしてしまうのでしょうね。

頭の中のイメージを素人が映像化できる、良い時代になったものです。まずはコツコツと今のペースでテーリの物語を書き続けて、いつかは生成AIさんのお力を借りて映像化したいですね。

ではでは、また明日からもよろしくお願いします。


次男よ!父ちゃんは少しずつだけど、昔みたいにやりたい事が見つけられるようになったからね!


D&Dリプレイ風冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第一話『素っ裸の出会い〜ハテナ義兄弟の契り〜』冒頭

2025-03-27 13:37:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説です。


どこかで彼が読んでいることを願い、第一話を五分割して、まとめて読めるようにしました。


その5までで合わせて26000文字以上の物語なので、読み切るまでに45〜55分程掛かります。一編あたりは10分程度で読めると思います。


と、ここまで書いて恐縮ですが、字数制限が厳しくてデータが全く貼れませんでした。ブログ未掲載の第1話冒頭を掲載しますので、ご興味が湧きましたらリンク先にある物語の続きを読んでいただけたら幸いです。


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ハテナの交竜奇譚

【第一話】その1

『素っ裸の出会い〜ハテナ義兄弟の契り〜』


〇一

 心臓の鼓動を一際大きく感じ、朦朧とした意識がわずかに覚める。少年のあどけなさを残すその青年は、静かに薄目を開く。仄暗く揺らいで見える川底には、一面に泥と翠に光る小石が見える。皮膚にまとわりついた穢れを一枚一枚剥がすように、緩やかで冷たい流れが肌を刺激する。青年はうつ伏せになっていた身体をゆるりと半転させると、水面(みなも)に視線を移した。曙が瞳を焼くかのように、視界が一瞬真っ白になる。青年はそんなに深くもないなと、朧げな意識で自分の漂う深さを確かめていた。

 静かな渓流の澱みの中。川底近くに青年は身を委ねていた。体側に沿ってなびく両腕を、大きく弧を描くように広げてみる。ゆっくり、なるべくゆっくりと。合わせて両足も大きく広げる。こちらもゆっくり、できる限りゆっくりと。その気持ちの良さに、目覚めつつあった意識がまた遠のいていく。どれくらいの時間潜っていたのか定かではないが、逃れ難い睡魔にも似た安寧に、青年は心を奪われる。耳に籠る泡を纏った水音。幻想的に揺れる銀の腹を見せる川魚。このまま息が続かずとも、この川の流れの一部となることに何の不満があるのだろうか。青年はそう考えると目の前に迫る「死」を容易く受け入れられる気がした。何事もなかったように、青年は命の灯火を消そうかと静かに目を瞑る。意識はますます遠のいていった。


 テー…。テー…。死な…ないで…。


 自分の名前を呼ぶ声に俄かに覚醒する。青年の名前はテーリといった。語尾までは聞き取れなかったが、確かに自分の名前を呼ぶ声が谺(こだま)した。途端に息苦しさと「死」の恐怖がテーリを襲う。心地良かった水音は、いまや命を吸い込む奈落からの轟音に変わった。はっきりとした意識の中で、死にたくないと強く思ったテーリは、力を込めて大きく水をかいた。水面の白い光が急激に眼前に迫る。思った通りさして深い川底ではなく、ほんの三かきで水面から頭を出すことができた。自分が本来住む世界、空気の満ちた水上に顔を出したテーリは肺に命の素を流し込む。空気と共に《織》が身体中に満ちていくヒリヒリとした感覚。たちまちテーリの「死」への欲求は消え失せた。短く刈り上げた襟足。少し長めに揃えた前髪。ほのかな金を差した黒髪は艶やかで、水を振り払おうと首を振る様からは、生命力に満ちた若さがほとばしっている。黒い瞳を輝かせ、大きく口を開けたテーリは、大きめな前歯を剥き出しにして笑った、腹の底から大声で。

 ふとテーリは我に返った。

「ここは、どこだ。僕は、何をしているんだ。」

周りの様子を確かめようと両手で顔の水を拭った。ぼやけていた視界が晴れると、テーリは自分を覗く真っ赤な双眸と目が合った。なんの感情も湧かず、テーリはただその二つの真紅の輝きを見つめるだけであった。その赤い瞳の持ち主は、川べりから首を伸ばし、テーリを睨みつける四つ脚の魔獣であった。せっかく「生」にしがみついたのに、また「死」に引き戻されるのか。目前に迫った「死」の恐怖は、たちまちテーリの感情を揺さぶった。

 テーリが水中に頭を引っ込めると同時に魔獣の牙が空を切った。すんでのところでテーリは命拾いをした。テーリは無我夢中で対岸に向かって泳ぎ出した。後ろからは、水に何かが飛び込む鈍く響く音がした。同じような振動が数回、テーリを襲った。魔獣が川に飛び込んだのだ。魔獣は群れで狩りをする。これはとんでもないことになった、なんでこんなことになったんだ。テーリは急に痛み出した頭を抱えることもできず、ひたすらに水をかくのだった。


〇二

 対岸までの十数メートルが恐ろしく遠く感じた。テーリは泳ぎに自信があったが、それは人間相手の話である。競う相手は魔獣。魔獣は人間を遥かに凌駕する肉体と能力をもつ、野生の狩人だ。長い距離を競い合って、泳ぎ勝てるわけもない。いつ追いつかれるかもしれないという恐怖と闘いながら、テーリは一心不乱に岸を目指した。足先に魔獣の爪が掠ったのか、それとも浅瀬の砂利を踏んだのか。つま先に走る疼痛の正体を確かめる余裕もなく、陸に上がったテーリは駆け出していた。

 開けた場所、または小高い場所はないか。少しでも自分が有利になれる地形はないかと、テーリは走りながら周囲に目を走らせる。次々と魔獣が川から跳び出る水音が聞こえた。そして、大量の水飛沫が宙を舞い、必死に逃げるテーリにも降りかかる。テーリを追跡する足音と低く唸る息遣いから、振り返るまでもなく魔獣の数が三匹であることをテーリは確信した。川底に沈んでいた我が身は全裸である。魔獣に抗うための弓矢も短剣もない。故郷の森で隊商から偶然手にすることができた金属の弾を撃ち出す近代兵器、ご自慢の《銃》もない。森で育ち森の中で生きる術を叩き込まれたテーリでも、丸腰どころか丸裸では魔獣から逃げ延びれる可能性は零に等しかった。目をやるとそこかしこに手頃な枝が散乱している。手近な一本を、ないよりマシと速度を落とすことなく拾い上げた。眼前に迫る森の前には、2メートルばかりの高さの岩場があった。テーリはこれ幸いと魔獣の方に向き直るや否や、後ろ向きのまま器用に岩肌を駆け上がった。岩の天面は滑らかで3メートル四方の広さがあった。前面と左右を見下ろすことができ、背面は鬱蒼とした森を背負う形となった。窮地においてこの上ない立地に陣取れた。

 岩に飛び乗ったテーリの肉体は美しかった。少年のか細さから青年の逞しさへと変貌する、正に一瞬の変化を留めた痩身。まだ筋肉がつき切らない身体のためか、手足はその175センチメートルという身長以上に細く長く見える。均整の取れた肉体とはいえずとも、魅惑的な身体付きが中性的な美のベールをまとっていた。

 テーリにも多少の近接戦の心得はあった。しかし手にした武器は、カラカラに干からびた流木の枝である。枝を構えて魔獣に相対したものの、武器の心許なさから、冷静にはいられなかった。追い縋る魔獣をまじまじと見やると、その巨体と禍々しさに気圧されてしまった。テーリはこの魔獣をよく知っていた。オオカミに似た容貌をしている魔獣《ウォーグ》だ。自分より弱い者を嬲りながら食い殺す醜悪な捕食者。狡猾な狩りを好み、腕っこきの狩人も時折策略にハマり、森の奥に連れ去られることも珍しいことではなかった。その《ウォーグ》が三匹、目の前に迫っている。《ウォーグ》の眼は、テーリを追い詰めた悦びに醜く歪んでいた。不意に襲った激しい頭痛と現実味を帯びた「死」の恐怖から眩暈を覚え、テーリはこめかみに手をやった。

「ここまでか。」

最期を悟ったテーリは、大きく息を吐くと天を仰いだ。


〇三以降は以下リンク先よりお読みください。

第1話 『素っ裸の出会い〜義兄弟の契り〜』続き






冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話その28 『ダンジョン・アタック前編』 〜《ウォーグ》の洞穴〜

2025-03-21 12:12:00 | 小説
亡き次男に捧げる冒険小説です。


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二八(第二話前編 最終回)


 黒竜王ガヴリエル・ガブリエル。洞穴の前に舞い降りた《竜》の名前である。取り巻きからはガヴ様と呼ばれている。《囀る黒色竜》の彼はこの世に生を受けてまだ三年に満たない幼体であった。黒く艶やかな鱗はまるで黒曜石のようであった。大事にされているのか、鱗には傷一つない。少し肥満気味の体躯にサスペンダーを引っ掛け、金銀財宝を飾り付けていた。ガヴのお気に入りは右腋にぶら下げている「黒い筒」であった。これが余の権力の源よと、優しく撫でる。黒い筒はガヴの体色に溶け込むほど黒光りしており、余程目を凝らさないと見分けのつく物ではなかった。

 ガヴは洞穴より少し離れたところにいつも通り着地をすると、《織》をまとい人型生物へと変身した。身なりの良い貴族の子息といった出立ちからは、とても《竜》であるとは思えない愛嬌と気品があった。ガヴの本来のサイズでは洞穴は狭すぎた。そのためにこうして人型に変身せざるを得ないのだ。いつもなら変身の光を放つと、我先にと《ゴブリン》どもがおべんちゃらをまくし立てて迎えに出てくるはずだ。それなのに今日に限っては誰一人出てこない。ガヴは妙だなと歩を進めた。

 眼前には血の海に沈む、つい先刻まで《ウォーグ》と《ゴブリン》だった物体が散らばっていた。咽せ返るような血の匂いがガヴの食欲を刺激する。下僕に対してそんな感情をもつとは下品であるぞと、自らを嗜めてガヴは血の海を悠々と進んでいく。グシャリと肉塊を一つ踏みしめると、

「余のためによく働いてくれたのに哀れよのう。」

と何の感情も湧かないのに、格好をつけて呟いてみた。

 余の宝を狙う痴れ者が遺跡に侵入したかも知れない。ガヴは面倒くさそうに洞穴に入っていった。どうせ逃げ場はないし、宝を奪うことはできない。ゆっくり追い詰めてやろうと不適な笑みを浮かべて、ガヴは鼻唄まじりに床下に通じる階段を降りていった。


【第2話後編 〇一に続く】

毎週 月水金曜日 午前8時更新

※来週は更新を一時休止し、特別記事を掲載します!


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第2話後編 予告

謎の遺跡に足を踏み入れたハテナ義兄弟。そこで待ち受けるのは謎かけと、《竜》であった…。