昔むかし、ある島に氷さんがおりました。氷さんは、島で一番評判の高い仲人でした。どんなに難しい縁談でも、見事、解決してしまうのです。
ところで、別の島に、氷さんと争える力をもった仲人が一人いました。
重箱島のおにぎりさんです。
氷さんはおにぎりさんの存在を耳にし、憤慨しました。
「仲人として縁談をまとめ続けて40年、俺はどんなに困難な男女でも、夫婦にしてきた。島でもかなりの評判だ。それを、うわさにも聞かない仲人に負けるわけがない」
今こそどちらの力が上か、証明してやろう、と、急いで身支度をすませると、家を飛び出しました。
途中、めんどり夫婦に出会いました。
「やあ、こんにちは。君はきのう結婚した。どうだい、夫婦仲良くしているかい?」
「そ、そりゃもう。な?」「え、そそうね。」
めんどり夫婦はあわててにっこり笑うと、頭をすりよせました。
「あつあつだな。まあ、きのうだもんな。でも、何かあったらいつでもおいでなさい」
「そんな心配いりませんよ」
夫婦はもう一度にっこり笑うと、頭を下げました。
背中ごしに、コケーッという悲鳴とともに、バタバタ、と、羽ばたく音がひびきました。
また、しばらく歩いていくと、若い夫婦が道の真ん中で言い合いをしていました。
「なによ、あんたなんか、ちっとも家に帰ってこないじゃない。あなたにはね、子どももいるのよ」
「仕事だから仕方ないだろう。これからは教育費だってばかにならないし、お互い自分の持ち分を頑張ろうって約束したじゃないか」
「それにしたって、夜は帰らないわ、朝は早いわで一度も顔を合わせない日もざらじゃない。もういいわ。あなたとなんか、離婚よ。」
氷さんは、これは俺の出番、とあわててかけだしました。
「こらこら、喧嘩はよくないな。お互いもっと話し合って」
「なによ、あなた。関係ない人はひっこんでてくれます?だいたい、この人とはもう何ヵ月も前から」
これだから若い夫婦は、と氷さんは冷たい息を吐きながら、めんどり夫婦を抱き寄せました。
「しばらく頭を冷やしなさい」
めんどり夫婦は二人ぴったりくっついて、カチンコチンに固まってしまいました。
氷さんの通る道、みんなばらばら逃げていきます。
さてその時、おにぎりさんは畑を耕していました。そこへ梅干しさんがお弁当を持ってきました。
「おにぎりさん、お昼にしません?ほら、おにぎりさんの大好きな塩のり」
おにぎりさんは笑顔で受け取ると、口いっぱいにほうばりました。
おにぎりさんが畑をするというと、なんだか変な感じがしますね。
でも、おにぎりさんも仲人です。なるだけみんなが好きな人と結婚できるように、元気な野菜たちを育てているのです。
「それにしても、今日は暑いなあ」
おにぎりさんは汗水をたらし、その場にへたりこみました。
「しっかりおしよ、なんなら私お手製の特別辛い塩をかけてやろうか?」
「いや、大丈夫だ」
おにぎりさんは苦笑いしました。
梅干しさんが作る塩はとっても辛くて、元気がでます。しかし、ちょっとヒリヒリしました。
二人が仲良くお昼を食べていると、氷さんがやってきました。
「島で評判の仲人というのはお前か」
おにぎりさんはふりかえり、首をかしげました。
「評判とは、聞いたことがないが」
「違うのか」
「いや、でも、仲人をやってるのはこの島では私だけだ」
その言葉を聞くと、氷さんはにんまりしました。
「なら、話ははやい。俺とお前のどちらが早く縁談をまとめられるか、勝負しないか」
おにぎりさんはかおをしかめます。
「結婚は争うものではないでしょう」
「何をぬるいことを。縁談をまとめられなければ仲人とはいえない」
「しかし、あなたと争うためにまとめるものでもないはずです」
「しかしそれでは…仕方ない。ならば相撲はどうだ?どっちが強いかはっきりするぞ」
もはや縁談とはなんの関係もありませんが、それなら、とおにぎりさんが承諾したので、午後にも勝負をすることになりました。
土俵のまわりにはたくさんの応援が集まりました。そなかには若い女の人もちらほら。
「勝ったほうが、あの中から好きな女を妻にできるってのはどうだ?」
「あなたって人は。女の人に失礼じゃないですか。それに私にはもう妻がいます」
氷さんはつまらなそうに舌打ちをしました。
仕切りは昆布が行いました。
-見合って見合って、はっけよい、のこった-
二人の取っ組み合いが始まりました。力は五分五分。両者ひけをとりません。
-頑張って
-負けるな
たくさんの声援がとびかいます。
中には
-おにぎりさん、負けるな。
というものも。
力が五分五分というだけでも悔しい上に、おにぎりさん限定の応援。氷さんはムカムカしました。
-こんなやつ、一発でとっちめてやるのに!
氷さんはおにぎりさんの体に冷たい息をふきかけました。
動けないおにぎりさんはどんどん押されます。
怒ったのは梅干しさんです。
「突然押しかけてきた上になんて卑怯な。これでもくらえ!」
梅干しさんは水をびしゃっとかけました。
氷さんはみるまに溶けていきます。
傍にいたおにぎりさんにもしぶきはかかり、体の氷が溶けていきました。
「ふん、二度とくるな」 梅干しさんはそう、なんども呟きながら、おにぎりさんの湿った部分を取り除き、お手製の強力なお塩をかけます。
おにぎりさんはほっとほほえみました。
さて、氷さんはどうなったでしょう。
氷さんは水になってしまいました。水は青い空に溶けて雲を作りました。氷さんはあきらめていません。次の勝負にむけて、今も力を蓄えています。
ところで、別の島に、氷さんと争える力をもった仲人が一人いました。
重箱島のおにぎりさんです。
氷さんはおにぎりさんの存在を耳にし、憤慨しました。
「仲人として縁談をまとめ続けて40年、俺はどんなに困難な男女でも、夫婦にしてきた。島でもかなりの評判だ。それを、うわさにも聞かない仲人に負けるわけがない」
今こそどちらの力が上か、証明してやろう、と、急いで身支度をすませると、家を飛び出しました。
途中、めんどり夫婦に出会いました。
「やあ、こんにちは。君はきのう結婚した。どうだい、夫婦仲良くしているかい?」
「そ、そりゃもう。な?」「え、そそうね。」
めんどり夫婦はあわててにっこり笑うと、頭をすりよせました。
「あつあつだな。まあ、きのうだもんな。でも、何かあったらいつでもおいでなさい」
「そんな心配いりませんよ」
夫婦はもう一度にっこり笑うと、頭を下げました。
背中ごしに、コケーッという悲鳴とともに、バタバタ、と、羽ばたく音がひびきました。
また、しばらく歩いていくと、若い夫婦が道の真ん中で言い合いをしていました。
「なによ、あんたなんか、ちっとも家に帰ってこないじゃない。あなたにはね、子どももいるのよ」
「仕事だから仕方ないだろう。これからは教育費だってばかにならないし、お互い自分の持ち分を頑張ろうって約束したじゃないか」
「それにしたって、夜は帰らないわ、朝は早いわで一度も顔を合わせない日もざらじゃない。もういいわ。あなたとなんか、離婚よ。」
氷さんは、これは俺の出番、とあわててかけだしました。
「こらこら、喧嘩はよくないな。お互いもっと話し合って」
「なによ、あなた。関係ない人はひっこんでてくれます?だいたい、この人とはもう何ヵ月も前から」
これだから若い夫婦は、と氷さんは冷たい息を吐きながら、めんどり夫婦を抱き寄せました。
「しばらく頭を冷やしなさい」
めんどり夫婦は二人ぴったりくっついて、カチンコチンに固まってしまいました。
氷さんの通る道、みんなばらばら逃げていきます。
さてその時、おにぎりさんは畑を耕していました。そこへ梅干しさんがお弁当を持ってきました。
「おにぎりさん、お昼にしません?ほら、おにぎりさんの大好きな塩のり」
おにぎりさんは笑顔で受け取ると、口いっぱいにほうばりました。
おにぎりさんが畑をするというと、なんだか変な感じがしますね。
でも、おにぎりさんも仲人です。なるだけみんなが好きな人と結婚できるように、元気な野菜たちを育てているのです。
「それにしても、今日は暑いなあ」
おにぎりさんは汗水をたらし、その場にへたりこみました。
「しっかりおしよ、なんなら私お手製の特別辛い塩をかけてやろうか?」
「いや、大丈夫だ」
おにぎりさんは苦笑いしました。
梅干しさんが作る塩はとっても辛くて、元気がでます。しかし、ちょっとヒリヒリしました。
二人が仲良くお昼を食べていると、氷さんがやってきました。
「島で評判の仲人というのはお前か」
おにぎりさんはふりかえり、首をかしげました。
「評判とは、聞いたことがないが」
「違うのか」
「いや、でも、仲人をやってるのはこの島では私だけだ」
その言葉を聞くと、氷さんはにんまりしました。
「なら、話ははやい。俺とお前のどちらが早く縁談をまとめられるか、勝負しないか」
おにぎりさんはかおをしかめます。
「結婚は争うものではないでしょう」
「何をぬるいことを。縁談をまとめられなければ仲人とはいえない」
「しかし、あなたと争うためにまとめるものでもないはずです」
「しかしそれでは…仕方ない。ならば相撲はどうだ?どっちが強いかはっきりするぞ」
もはや縁談とはなんの関係もありませんが、それなら、とおにぎりさんが承諾したので、午後にも勝負をすることになりました。
土俵のまわりにはたくさんの応援が集まりました。そなかには若い女の人もちらほら。
「勝ったほうが、あの中から好きな女を妻にできるってのはどうだ?」
「あなたって人は。女の人に失礼じゃないですか。それに私にはもう妻がいます」
氷さんはつまらなそうに舌打ちをしました。
仕切りは昆布が行いました。
-見合って見合って、はっけよい、のこった-
二人の取っ組み合いが始まりました。力は五分五分。両者ひけをとりません。
-頑張って
-負けるな
たくさんの声援がとびかいます。
中には
-おにぎりさん、負けるな。
というものも。
力が五分五分というだけでも悔しい上に、おにぎりさん限定の応援。氷さんはムカムカしました。
-こんなやつ、一発でとっちめてやるのに!
氷さんはおにぎりさんの体に冷たい息をふきかけました。
動けないおにぎりさんはどんどん押されます。
怒ったのは梅干しさんです。
「突然押しかけてきた上になんて卑怯な。これでもくらえ!」
梅干しさんは水をびしゃっとかけました。
氷さんはみるまに溶けていきます。
傍にいたおにぎりさんにもしぶきはかかり、体の氷が溶けていきました。
「ふん、二度とくるな」 梅干しさんはそう、なんども呟きながら、おにぎりさんの湿った部分を取り除き、お手製の強力なお塩をかけます。
おにぎりさんはほっとほほえみました。
さて、氷さんはどうなったでしょう。
氷さんは水になってしまいました。水は青い空に溶けて雲を作りました。氷さんはあきらめていません。次の勝負にむけて、今も力を蓄えています。