* ≪aura≫  INTERVIEW TIME *

 
さっぽろの建築デザイン事務所 『aura』 をめぐる、
発見とくつろぎのインタビュータイムです♪

◆≪aura・インタビュータイム≫ ④ auraのお仕事実例 Vol.1 ~ Kさん邸

2012年05月06日 | ◆施主 Kさん インタビュー
◆『アウラ・インタビュータイム』◆<4>
“aura のお仕事実例①” Kさんのお宅取材&インタビューの巻~


「みんなの家」プロジェクト

お待たせしました!
 今号からは、“カウンセリング・アーキテクト” 山下一寛さんの、
 札幌でのお仕事例をご紹介します。


Kさんのお宅は、高台にある公園に面した、札幌市内の一軒家。


カッチリ、どっしり、スッキリ。
 そして何だか、オシャレ~な雰囲気。

 「おじゃましま~す」 と玄関のドアを開けると……

広々明るい! まるでセレブなプチホテルか、
 プライベートなARTショールームみたい♪


廊下を進むと、最初に和室が。


和空間なのにヨーロピアンテイストを感じるのは、
 窓・壁・畳の色や形、間接照明などの効果でしょうか……?


和室のお隣は、これまた個性的なデザインの寝室。

 壁紙は奥様のお見立てで、「モダンデザインの父」 と呼ばれた
 イギリスのデザイナー&詩人である、ウイリアム・モリスの花柄デザイン。

 ベッドの向こうには大きな窓があり、
 ベッドから起き上がると芝生のお庭が目に入る設計とは、
 う~ん、贅沢!


個性的な窓の形や壁のデザインに
 以前訪れたNYのアートギャラリーを思い出しながら、
 階段を上って、メインフロアである2Fへ。

 この部分は、

 「公園に面した立地の開放感は楽しみたいけれど、
  不特定多数の人に家の中を見られては困る」

 という立地の課題をステキに解決した、
 借景の恵みと明るさは得つつ、プライベートは明かさない という、
 山下さんの設計アイデアが光るポイントの一つ。

 「この公園で町内会の盆踊りや運動会があるときも、
  『あなたんちって、見えそうで見えないのよね~』 って、
  ご近所の方に言われるんですよ」

 と奥さまもニッコリ。


こちらがこのお宅のメインスペースである、
 リビング+ダイニング+キッチン。
 まるでゴージャスホテルのペントハウスにやってきたような気分の、
 広々した個性的な空間です。


な~るほど、
 外から見えた窓の部分の内側はこうなっていたのですね。


窓バックの特等席は、音楽好きな旦那さまのライブステージ。
 オベーションのエレアコギターの音色が高い天井にこだまして、
 いやはや、たまらん夢心地です。


このリビングルームで、Kさんご夫妻にしばしお話を伺いました。

「最初は山下さんが僕のお客さんだったんです」

 とおっしゃるKさんは、法律家。

 山下さんがお友達の紹介で法律相談のためKさんを訪ねたのが、
 お二人の出会いだったそうです。

「そのころ僕はちょうど家を建てようと思って
 いろいろ調べていたところだったので、山下さんが建築家だと知って
 何気なくいろんな質問をしたり、意見を聞いたりしたんですね。

 話をしていくうちにだんだんと彼の人柄がわかってきてね、
 『この人はなかなか面白いぞ』 と思って、意気投合したわけです」



実はKさんが家を建てるのは、今回で3度目だそう。

 けれどこれまでの2軒は若くして予算もないのにムリして建てたせいもあり、
 「寒いし、雨漏りはするし、ひどい欠陥住宅だった」 とのこと。

 「だから今回は、もう失敗できなかった。

  僕は今まで仕事のことで、家族にとても苦労をかけてきたんです。
  だから今度こそ妻や娘たちが安心して快適に暮せる、
  家族を幸せにできる家をつくりたかった。

  それで、平凡でも安全をとってハウスメーカーに頼むか、
  建築家さんに僕のつくりたい路線で設計してもらうかで迷って、
  いろんなハウスメーカーや建築家さんに会いに行っていたんです。

  でも、結局はどちらも、なかなかピンと来なくてね……

  ハウスメーカーからはありがちな設計プランしか出てこなくて、
  人と同じことはしたくない性格の僕としては、物足りなかった(笑)。

  でも、建築家の方の作品を見ても、著名な方の場合は特に
  建て主の意向より “自分の作品づくり” という観点のものばかりで、
  会って話をしていてもやっぱり、お客の立場に立つ、というよりは
  作家としての自我の方が強く感じられて、
  僕らが住みたい家を作ってもらえるようには思えずにいたんです。

  けれど山下さんは、僕らの要望を聞いた上で、
  それに基づいたいろんなアイデアを次々出してくれるんですね。


  だから僕は意気投合して、この人に頼みたい!と思いました。
  でも妻は最後までハウスメーカーの方が安全なんじゃないかと思っていて、
  実は最後まで、妻と僕の意見がデッドヒートしていたんです(笑)。

  結局最後は、
  国が定めた “長期優良住宅法” をクリアする建物にすると妻に約束し、
  ハウスメーカーではなく、山下さんにお願いすることに決めました」



こうして始まった家づくりのコンセプトは、「みんなの家」

  このキーワードには、
 
 「今いる4人の家族だけでなく、娘たちがお嫁に行ったあとも、
  新しい家族とともにいつでも遊びに来たくなるような、

  親戚や友達も気軽に集って、
  食事や会話や音楽を共に楽しめるような、
  
  そんな “みんなに嬉しい空間” をつくりたい」


  という、Kさんの想いが詰まっています。

「みんなの家」 の中心に据えられたのは、
 “いちばん長く家にいる奥様が快適に過ごせるキッチン”

キッチンのすぐ裏側が、娘さんたちのお部屋。
 引き戸を開ければすぐ、顔を合わせて会話もできます。

そして、キッチンの前には、
 大画面TVもある、開けたリビングルーム。

 その上部にグルリとあしらわれた パノラマウインドウ からは、
 天然のマルチスクリーンのように、彩雲、陽の光、鳥、星、月……と、
 毎日ダイナミックな変化を遂げる空の景色が楽しめる、という仕掛け。


「実はこの壁の向こうには、住宅地が広がっているんです。
  だからここに、ふつうの窓は作りたくなかった。
  けれども開放感は欲しかったから、
  高いところに窓を、という発想になったんですね」


 と、山下さん。

 なるほど、ここも、
 立地条件の課題をクリアするためのアイデア が
 功を奏した結果だったのですね。

しかも、天井近くにガラス窓を配置したことによって、
  暖房の上昇熱が冷やされて下に降り、
  暖気が自然に室内を循環する構造になっているとのこと。素晴らしい!

 まさに、必要は発明の母
 そしてきっと “発明の父” は、 山下さんの
 “楽しみながら課題をクリアする発想と技術” なのでしょう。

「ここからはまるで、
  キャンプに行ってテントから見るような季節ごとの空の景色が、
  天気や寒さに左右されることなく、快適に楽しめるんです。


  こんないい景色を独り占めしてるなんてもったいなくてね、
  たくさんの人に見せてあげたいんですよ。
  ほんと、みんなに 『泊まりにおいで』 って言いたい(笑)」


  ひゃ~ステキ♪ 次回は私もぜひ、
  寝巻きとワイン持参で、オジャマしたいものです(笑)


ここはダイニングキッチン部分の床下に広がる、
  隠れ家のような納戸への階段。


階段の手前には、こんなガラス張りのスペースがあって、
  宝島のようにいろんなモノが眠っている納戸の一部が、
  わざとシースルーで見えるデザインになっているのです。



納戸の天井は、クリムト美術館。
  いや~隅々にまで、遊びゴコロ満載ですね!


そうかと思えば、トイレはまたまたホテル級。
  本当に 「快適さ」 と 「遊び心」 の両方が、隅々まで満載のお宅です。


この家には本当に大満足。毎日快適で楽しくて、
  『ああすればよかった』 と後悔するところは、一つもありません。

  『みんなの家』 というコンセプトとともに、
  僕が最初に山下さんに提示した設計上のテーマは、
  『バリアあり~の、エリアフリー』 というキーワードでした。

  明るく開放感あふれる家にしたかったから空間をドアで仕切りたくなくて、
  この家には引き戸以外の扉は一つもないんです。

  今はバリアフリーが流行ですが、
  段差や階段で日常的に体や感覚を鍛えられますし、
  広々とした開放感を大切にしつつ 、楽しいバリアで
  いろんなエリアをフリーに行き来できるデザインに大満足です。


  山下さん以外の誰も、こんな提案はしてきませんでしたからね。


 僕は建築家の発想を狭めたくなかったからヴィジュアルは提示せず、
  敢えて言葉だけで、希望やイメージを伝えました。
 
  山下さんはそれを期待以上にふくらませてくれて、
  僕のアイデアも引き出し、実現してくれた。

  言いたい放題ワガママも言わせてもらって苦労をおかけたし、
  最後は真剣勝負のケンカ状態になったこともありましたが(笑)、
  家づくりは本当に楽しく、おかげさまで大満足の家ができました。

  山下さんは誠実で信頼のおける方だし、もう家族のような存在ですね」

   
 と、Kさん。

 建築家冥利に尽きるお言葉に恐縮しつつ、山下さんも嬉しそう。
 お二人の心に通い合う温かな信頼を感じ、
 第三者ながら、私も胸いっぱい、幸せな気持ちになりました。



Kさんのお話を聴いて、私は以前 山下さんからお聞きした 
  「広場」 についてのお話を思い出しました。


これは、山下さんが建築科の学生時代に出合った
 生涯のバイブル、 「広場の造形」。
(著者:1843年にウィーンで生まれた建築家・画家、カミッロ・ロッジ)

  山下さんはこの本との出合いについて、
  こんなふうに語っていたのです。
  
 「この本に出合って、“広場” に夢中になりました。

  広場とは、まちの中心であり、まちの原点。

  子どもが遊び、商いが営まれ、祭事が開かれ、情報が行き交い、
  様々な出会いが生まれて人々がつながる、
  笑いあり涙ありの生活フィールドなんです。

  どんな建物をつくるときも僕は心のどこかで、
  そんな “広場的な空間” を目指している気がします」



 広場とは、そこで暮らす人々の日々の物語がイキイキとめぐる場所。

  今回取材させていただいた札幌市内に建つKさんのお宅は、
  そんな山下さんの建築観が施主さんの望みを受け止めて実現した、
  ご家族それぞれの物語を包み込み、つなぎ、輝かせる、
  Kさんファミリーにとっての 「生きた広場」 であるように感じました。

  Kさんの広場物語は、ご家族の歴史の変遷とともに、
  まぶしい光の向こうに広がる、未知の未来へ続いていくのでしょう。

  山下さんが 「みんなが憩えるスペイン階段」 と笑った
  リビングの白い階段に座って、私もまたいつか、
  このご家族の物語に耳を傾ける広場の一員になれたらいいな、と思います。


◆*◆INTERVIEW & TEXT By プランナー&ライター はらみづほ◆*◆