投資家の目線

投資家の目線882(キナ臭い世界情勢)

 スタニスワフ・ミコワイチクは第2次大戦時のポーランド亡命政府の第二代首相である。「奪われた祖国ポーランド ミコワイチク回顧録」(スタニスワフ・ミコワイチク 広瀬佳一・渡辺克義訳 中央公論新社 p.154)には、1944年10月13日、モスクワでスターリン、チャーチル、イーデンと会談した時(ハリマンがアメリカのオブザーバーとして臨席、司会モロトフ)、ミコワイチクはポーランドの東部国境線をカーゾン線(民族誌的境界線にほぼ一致。名称は提唱者の一人である英国外相カーゾンの名にちなむ 同書p.50)にすることに相当抵抗していた。現在のウクライナやベラルーシの西部は、大戦前はポーランド領だった。とはいえ、第2次大戦前の東部国境は、ピウスツキに率いられたポーランドがウクライナ全土征服をめざしたウクライナ侵攻に始まるソビエト・ポーランド戦争の末に1921年3月のリガ条約で決まったもので(「新版 世界各国史 20 ポーランド・ウクライナ・バルト史」 伊藤孝之、井内敏夫、中井和夫編 山川出版社 p.254、p.313)、昔からのものではない。以前にも書いたが、ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領とウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、両国が「もはや国境を持たない」という希望を表明しており(投資家の目線878(ウクライナの終わりと終わらない食糧・エネルギー不足))、実質的に両国の国境線は消滅させられたと言える。ベラルーシの軍事演習(「ウクライナ国境付近で演習 ベラルーシ軍、6~7月に」 2022/6/2 日本経済新聞WEB版)は、ポーランドに対する警戒感から来ているのだろう。第2次大戦後には旧ドイツの東部がポーランド領となり、アドリア海に面するトリエステでも帰属問題があった。日本も北方領土返還を主張している(1951年10月の国会で西村熊雄外務省条約局長がサンフランシスコ講和会議で領有権を放棄した千島列島には南千島も含まれると答弁していたが)。ウクライナで国境変更が起これば、他の地域にも飛び火する可能性はないのか?

 

 リトアニアが封鎖しようとし(まるでベルリン封鎖のようだ)、新たな火種となることが懸念されるカリーニングラードは(「ロシアの飛び地カリーニングラード、次の火種になるかもしれない理由」 2022/6/24 CNN.co.jp)、宗主国がポーランド王国であった時代があった。1795年の第三次ポーランド分割の際にリトアニアはロシア帝国の属州となったが、ポーランドとの連合国家が400年続いたので、リトアニアの上層階級はポーランド・リトアニア連合国の復活の夢を断ち切ることができなかったという(「新版 世界各国史 20 ポーランド・ウクライナ・バルト史」 伊藤孝之、井内敏夫、中井和夫編 山川出版社 p.272)。

 

 ポーランドは韓国製の戦車などにも興味を示しており(「訪韓したポーランド国防相、K2戦車·K9自走砲に関心」 2022/6/20 韓国経済新聞)、米国から兵器の供給が得られなかった場合でも他国から調達できるようバックアップ体制を整えている。もっとも、スティンガーやジャベリンなど米国製兵器で武装していたウクライナは敗北に向かっており、ロシア製兵器の前にどれだけ通用するかわからないが…。なお、クラウゼヴィッツは著著「戦争論 中」(篠田英雄訳 岩波文庫 p.302)で、「ポーランドは、タタール人の国家であった、ポーランド人は、クリミア半島のタタール人のようにヨーロッパ国家圏の辺境にあるところの黒海沿岸に定住する代りに、ヨーロッパ内部を貫流するヴァイクセル河の沿岸に土着したにすぎないのである」と書いている。ポーランドは欧州の諸国家とは異質な国家と見られていたようだ。

 

 『ロシア下院のカルタポロフ国防委員長らは24日、ロシアで「第2次大戦終結の日」とされてきた9月3日を「軍国主義日本への勝利と第2次大戦終結の日」に名称変更するための法案を下院に提出した。ウクライナ侵攻で対ロ制裁を科した日本側への対抗措置の一つと説明している』(『終戦の日、名称変更へ法案 「軍国日本」、ロ下院』 2022/6/24 日本経済新聞WEB版)。ロシアはウクライナの非ナチ化を標榜している。歴史修正が進行中の日本に対して、第2次大戦時の日本の軍国主義を否定することは整合的である。プーチン大統領の支持率は高い(『プーチン氏「信任」80% 侵攻開始後最高に並ぶ』 2022/6/25 日本経済新聞WEB版)。南米の大国の一つアルゼンチンのフェルナンデス大統領は、ロシアも加盟するBRICSへの正式加盟を希望している(「アルゼンチン、BRICS加盟希望 実現なら影響力強化」 2022/6/25 時事通信)。一方、米国のバイデン大統領の支持率は低く、連邦最高裁判所による中絶禁止容認は米国内で内乱を起こしかねない勢いだ。テキサス州共和党は、アメリカ合衆国からの独立を問う住民投票を要求している(テキサス共和党、アメリカからの脱退を問う住民投票を要求 2022/6/21 ニューズウィーク日本版)。

 

 フランスの国民議会選挙で与党連合が敗北して過半数割れした(「欧米政権に物価高の逆風 仏マクロン与党、過半数割れ」 2022/6/20 日本経済新聞WEB版)。ブルガリアでは親EUのペトコフ首相率いる連立政権に対して不信任案が可決された(「連立政権、半年で崩壊 議会で不信任案可決―ブルガリア」 2022/6/23 時事ドットコム)。イギリスの下院補選ではボリス・ジョンソン首相率いる保守党が2選挙区とも落とした(「英ジョンソン保守党 補選で2敗 党の議長が辞任」 2022/6/25 TBS NEWS DIG Powered by JNN)。NATO加盟国で、ウクライナでロシアが特別軍事作戦を開始した時の政権にNOが突きつけられている。29日には岸田首相がNATOの首脳会議に出席するというが、人民の支持の無い首脳と会談して何になるというのだ?今後の世界情勢を考えれば、日本も政権の顔ぐらいは替えておいた方が賢明ではないのか?

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