投資家の目線

投資家の目線827(天安門事件から32年)

 先日の6月4日は、天安門事件から32年目の日であった。以前にも書いたが(投資家の目線736(「ショック・ドクトリン」を読んで考える) 投資家の願い )、中華人民共和国のトウショウヘイ主導の経済改革がミルトン・フリードマン流の新自由主義経済改革で、天安門事件の抗議運動のリーダーの一人は、学生だけでなく工場労働者や零細企業の経営者、教員なども参加した1989年の天安門事件を、その経済改革に対する抗議運動と捉えている。1980年にはフリードマンを招待し官僚や大学教授、党の経済学者を前に講演させ、天安門事件の頃にはフリードマンを訪中させて経済改革に対するお墨付きを得ようとしたが民衆は納得せず、天安門事件にまで発展した(「ショック・ドクトリン―惨事便乗型資本主義の正体を暴く―上」(ナオミ・クライン著、幾島幸子・村上由見子訳、岩波書店 p.259、p.263)。同書(p.111)にはチリのシカゴボーイズがフリードマンらをサンディエゴに招いたことが書かれているが、中国共産党もそのやり方をまねたのだろう。ただし、北京に合弁企業があった日本企業の人から、公共交通が止まる中、就業時間に遅れながらも工場労働者が徒歩で出勤してきたと聞いたことがある。合弁企業は待遇がよかったこともあるようだが、労働者層も一枚岩ではなかったと言える。

 「ゴルバチョフ回想録 下巻」(ミハイル・ゴルバチョフ著 工藤精一郎・鈴木康雄訳 新潮社 p.510)には、天安門事件の直前にゴルバチョフ氏とシュワルナゼ氏が北京を訪問した様子が書かれている。民主化の必要性を説くゴルバチョフ氏と趙紫陽総書記の会見中の、『「実は、私は民主主義の条件の中で活動することを学ぶ必要についてシュワルナゼがトビリシで言ったことを思い出したんですよ。わが国では今天安門にたくさんの民衆が集っています。どうでしょう、シュワルナゼ同志にそこへ行って、無政府状態の広場を説得していただけませんかね?」 趙はこれを冗談めかして言ったが、私にはまったく真剣なように思われた。この会談の席にいたシュワルナゼは笑いながら、それはリスクが大きいですね、と言った。』というシーンが出てくる。ゴルバチョフ氏らは、天安門広場が無政府状態にあることには同意しているようだ。

 香港の「民主化」デモも、経済格差の拡大が要因の一つと指摘されていた(『香港デモの燃料は「経済格差」、騒乱と失業率上昇がスパイラルに上昇する DOL特別レポート 』 2019/9/26 ダイヤモンド・オンライン)。親北京政府側と認識された店舗が荒らされる様子は、もはや無政府状態と言われても仕方がない。

 現在の日本政府の経済自由化政策も格差を拡大させる方向のものだ。日本の中世は、耕作地にできる土地の開発があらかた終わり、敵を唐オて領地を奪うしか一族郎党が成長できない共食い上等の時代だった。対外輸出主導の成長が行き詰まった現在の日本も(米国トランプ、バイデン政権の「バイ・アメリカン」政策で、この傾向はより強まるであろう)、中世同様、政権の「オトモダチ」が成長するためには、「オトモダチ」でない人々から収奪するしかない。米国のバイブルベルトでは、教会や地域コミュニティの人々等が支え合いの「福祉」を担っていたが(「ルポ トランプ王国2-ラストベルト再訪」 金成隆一著 岩波新書 p.240)、現在の日本には米国の教会に相当する「福祉」を担う強力なコミュニティはないように思う。支え合いのない日本で国家による福祉が削減されれば、「収奪された人々」は生存を脅かされることになるだろう。改憲の焦点になっている「緊急事態条項」は、「収奪された人々」の抗議行動を弾圧することには役に立つであろう。

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