投資家の目線

投資家の目線352(戦争の経済学)

 ポール・ポースト著、山形浩生訳「戦争の経済学」(バジリコ株式会社)によれば、第1次世界大戦からイラク戦争までの主な戦争の戦費は次のように賄われた。

①第1次世界大戦
 戦争費用の33%は所得税で、次に自由債の発行で賄われた。債券の約2割は銀行が購入したが、残りは銀行以外の民間が購入した。愛国的市民たちは、この債券に殺到したという。

②第2次世界大戦
 一部は増税によって賄われた。大増税にならないように消費財価格は統制下におかれ、クーポンによる割当制になり、それによって政府は貯蓄率を上げさせ、世帯が戦争債を購入できるようにした。また、連邦準備制度は政府債の利率を低く抑えたので、連邦政府の資金調達は低コストになった。

③朝鮮戦争
 増税と非軍事支出の削減で賄った。

④ベトナム戦争
 当初は負債による資金調達だったが、1968年には増税を行った。

⑤湾岸戦争
 600億ドルの戦費のうち、440億ドルを日本とドイツが拠出した。クウェートとサウジアラビアも主な戦闘作戦完了時に95億ドルを拠出した。

⑥イラク戦争
 ブッシュ政権と議会は2001/2002年に減税に同意したが、こうした減税を続けるのは歴史的に見てむずかしい、としている。


 まとめると戦費調達は、増税、非軍事的支出の削減、借金、外国による資金拠出、で行われている。もし、日米安保条約に基づき武力行使が必要になったとき、現在のアメリカ合衆国はどうやって戦費を調達するのだろう?

○増税
 茶会党が「Tax Enough Already」と言って反対しそうだ。

○非軍事的支出の削減
 社会保障が削られるのならば、「ウォール・ストリートを占拠せよ」が反対するかもしれない。

○借金
 現在、米国債の保有は中華人民共和国と日本国で1位、2位を占める。両国に米国債を買い増してもらうのか?むしろ日本に武器を売り、日本国民に戦ってもらうほうが賢明な選択だろう。

○外国による資金拠出
 ドイツはユーロ危機への対処が優先ではないか?日本には先の通り自身で戦ってもらうほうが良い。


 災害救援活動のようなコストの低い安全保障業務(米軍の「トモダチ作戦」の予算は最大で68億円と報道されていた 2011/4/6YOMIURI ONLINE 思いやり予算の年に約2,000億円に比べると微々たるものだ)ならともかく、巨額の資金が必要な大規模な戦闘行動は戦費が調達できないため、実現不可能ではないだろうか?スタンフォード大学国際安全保障協力センターの中国人研究者は「今の米国には中国のような地域的核大国と長期対立する財力はない」としている(2012/1/27 サーチナ「米国には中国と対立する財力がない」)。そう考える中国人がいるということは、日米安保条約は「抑止力」にすらなっていないのではないか?

 カーター政権の大統領補佐官だったブレジンスキー氏は、フォーリンアフェアーズ2012年1月号に『「欧米世界」をユーラシア、日韓へ拡大し、日中和解を模索せよ』という論文を寄稿している。レーガン政権時の国家安全保障会議(NSC)スタッフで「アイデンティティ=パワー・アプローチ」を提唱するヘンリー・R・ナウ氏は、その著書「アメリカの対外関与」(村田晃嗣、石川卓、島村直幸、高橋杉雄訳 有斐閣)で日米韓の三国同盟化を提案している(韓国紙の中央日報2011/5/18「地震で見られた韓日協力が軍事部門にもあれば」でも、当時の在韓米軍司令官が日韓間の軍事協力を望んでいた)。アメリカ合衆国との同盟さえあれば、アジアの国との協力なしでも十分という選択は、もはや現実的ではない。


追記:
1.米国の国防予算は17年度までの5年間、毎年9%前後の支出削減が決まっている。

2.ケビン・メア氏も著書「決断できない日本」(文春新書)で、日韓合同の軍事訓練の必要性を説いている。


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・3月5日の文化放送「夕焼け寺ちゃん活動中」で、ジャーナリストの岩上安身氏が震災の瓦礫処理について、県外処理は宮城、岩手両県の瓦礫の全体の2割で、8割は地元で処理するといっていた。新党日本の田中康夫代表のブログに岩手県の岩泉町長の瓦礫処理引き受け発言や、陸前高田市長が市内に瓦礫処理の専門プラントを作れば、より速いスピードで処理できると国や県に相談したら門前払いされたことが書かれている(「みんなの力で瓦礫処理」)。この瓦礫処理協力は何か怪しげ。

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