投資家の目線

投資家の目線833(新型コロナ下の住宅ローン問題とサブプライム問題)

 2021年7月11日の日本経済新聞朝刊に、「住宅ローン 返せない」という記事があった。新型コロナウイルス感染拡大の中、失業や収入の減少で住宅ローンの返済ができなくなる人が出てきているというのだ。そんな中、任意売却を選択する人が増えてきているという。任意売却は、ローンが支払えなくなった場合に金融機関の合意を得て自宅を売却する仕組みだそうだ。この方法を選ぶと、裁判所で競売をかけられるより売却までに時間の余裕ができ、価格の面でも有利だとか。ただし、任意売却後に残ったローンは支払わなくていいという誤った情報を伝えられたり、打ち合わせ代金としてお金を請求されたり、相場よりかなり低い査定額を提示されたりといった悪質な不動産業者に付け入られる例も出ており、複数の業者を比べるなど慎重な選択が必要だとも記事には書かれている。

 またそれに関連した記事「減免新制度、成立まだゼロ」には、昨年12月に金融庁などが新型コロナの影響で収入が減った個人の住宅ローンを減額・免除する新設を新設したが、まだ成立はゼロだという。

 「危機と決断 前FRB議長 ベン・バーナンキ回顧録 下」(ベン・バーナンキ著 小此木潔訳 角川書店)には、サブプライムなどの住宅ローンに関連して次のような記述がある。ブッシュ政権からオバマ次期政権への移行期の頃、ローンの残額より住宅評価額の方が低い「水没現象」が起こり、返済意欲が影響を与え始めた。そして、「経済と社会に与える一連のコストは、借り手の損失と退去や引っ越しを強いられた家族たちの苦痛をはるかに上回っていた。誰も住まなくなった差し押さえ住宅は近隣社会を荒廃させ、近所の住宅の価値と固定資産税を押し下げていた。
 ハンク・ポールソンが二〇〇七年一〇月に着手した有志によるホープ・ナウ・プログラムは差し押さえ対策として効果的な滑り出しをみせていた。しかし、政府財政の支えがなかったので必然的に活動範囲が限定されていた。二〇〇八年七月には政府のホープ・フォア・ホームオーナーズ計画が施行された。連邦住宅局が借り換えを促進する制度だったが、議会が面唐ネ利用条件や手数料を課して実質的に妨害していたので、住宅保有者と貸し手の参加を押しとどめてしまった。
 この間、FRBは国内で一〇〇回を超す差し押さえ防止のイベントを開いていた。ボストン連銀は二〇〇八年八月にアメフトのニューイングランド・ペイトリオッツの本拠地であるジレット・スタジアムで大がかりなワークショップの開催を支援した。差し押さえ問題を解決するため、困窮した債務者や金融機関、住宅ローン斡旋業者、相談員ら二二〇〇人を超す人たちが参加した。私たちは非営利法人のネイバーワークス・アメリカと協力して、地域社会が差し押さえによる荒廃を最小限にとどめる手助けをした。」(「危機と決断」 p119~p120)、「私たちは一度限りの借入金の減額など、差し押さえを防ぐための代替案の分析を行い、ショートセールなどの代替案を奨励した。ショートセールは、ローンの総額に満たない額であっても借り手が自宅を売却すれば貸し手は債務からの解放を認めるというものだ(借り手にとっても貸し手にとってもショートセールの方が差し押さえよりも低コストだし、近隣の住人にとっても空き家にならない分ショートセールの方がよいのだ)」(「危機と決断」p313)。

 ただでさえ空き家問題がある日本において、当時の米国同様、ローン返済ができずに空き家が増えるのは望ましくないだろう。不公平感は出るかもしれないが、現在の家に住み続けることができるような住宅ローン対策をすることは、住宅ローンの債務者だけでなく、住宅価値を維持できる近隣住民にも好ましいことではないだろうか?米国のように一か所に集まってワークショップを行うことで複数の業者を比べ易くなり、悪質な不動産業者の問題も緩和できるのではないかと思う。ただし、人々が一か所に集中するのであれば、疾病の感染が拡大しないように対策をとる必要はある。残ったローンを支払わなくてはならない任意売却と異なり、金融庁の新減免制度はFedが提案したショートセールにいているように思う。コストパフォーマンスの点から、金融機関も新減免制度を積極的に受け入れてもよいのではないだろうか?

 日本の新型コロナ下の住宅ローン問題に、サブプライムローン問題に対応した当時の米国当局の対応は参考になると思う。

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