8月19日、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)で朝鮮労働党中央委員会第7期第6回総会が開かれた。「金正恩委員長は演説で、今年、複数の側面で予想しなかった不可避な挑戦に直面した主・客観的環境と朝鮮半島周辺地域の情勢について分析し、歴史的な第7回党大会が行われた時からこれまでの4年間、朝鮮労働党と国家活動で収められた成果と欠陥について評価した。(中略)総会では、朝鮮労働党第8回大会をチュチェ110(2021)年1月に招集することを決定した」(「栄えある朝鮮労働党の戦闘的行路にもう一つの特記すべき出来事として刻み付けられる政治的決定朝鮮労働党第8回大会の招集について朝鮮労働党中央委員会第7期第6回総会」 2020/8/20 ネナラ)という。大韓民国の保守系新聞の朝鮮日報は20日付の労働新聞を引用し、『金正恩は2016年の第7回労働党大会で示した「5カ年経済計画」が失敗に終わったことを認めた格好だ。北朝鮮が最高指導者主導の経済政策の失敗を認めたのは異例で、経済危機に対する危機感を反映しているとみられる』(『金正恩委員長「成長目標はるかに及ばず」、経済失敗を公に認める』 2020年8月21日 朝鮮日報)と、今回の総会で異例なことが起きたと報じている。またスケジュール通りにいけば、来年1月にはアメリカ合衆国(米国)もDPRKも強固な体制ができているだろう。
6月25日には河野防衛大臣が秋田、山口両県への「イージス・アショア」配備の断念を発表した(「地上イージス、秋田・山口への配備断念 河野防衛相」 2020/6/25 日本経済新聞WEB版)。『ャ塔yオ国務長官が米メディアに、六月の板門店(パンムンジョム)での首脳会談で、金氏が核実験とともに「中、長距離ミサイル発射の凍結継続」を約束したと明かし、今回も約束が守られていると評価。「短距離は容認」が事実上、両首脳で一致しているとの考えを示した』(「米が北短距離ミサイル容認 日本置き去り 現実味」 2019/7/28 東京新聞 TOKYO Web)。著述家の牧田寛氏は、萩はグァムを狙うIRBMの絶好の迎撃位置、秋田はハワイを狙うICBMの絶好の迎撃射点と書いている(『【HBO!】「誰がためのイージス・アショアか?」配備地から導き出される、ある推論』 2018/9/7 ハーバー・ビジネス・オンライン)。最近のDPRKのミサイル演習は短距離ばかり。米国を標的とする中・長距離ミサイル開発が断念されれば、「イージス・アショア」も不要だ。さらに米朝関係が改善すればDPRKにとって南北の共同連絡事務所も不要。爆破しても問題はない。
8月22日には朝鮮戦争時に金日成側に義勇軍を送った中華人民共和国(中国)の楊潔チ中央政治局外交担当政治局委員が訪韓し、大韓民国(韓国)の徐薫国家安保室長と会談、『徐室長は「韓国政府が韓半島平和プロセス進展に向け外交的努力を継続していくだろう」と強調し、楊委員は「今後も韓半島非核化と平和定着に向け持続的な疎通と協力をしていくだろう」と話した』(『韓国大統領府「コロナ安定し次第習近平主席の訪韓早期実現で合意」』 2020年8月23日 中央日報)と、半島情勢についても意見交換している。首都ソウルから離れたプサンで会談するとは、周囲の雑音がないところで話し合いたかったのだろう。米朝関係が改善し、米国が朝鮮半島の南北問題に関して中立の姿勢をとれば、南北で軍事衝突が起こった場合、中国がDPRKを支援しないようにクギを刺しておく必要がある。「この国の不都合な真実 日本はなぜここまで劣化したのか?」(菅沼光弘著 徳間書店 p82)に、「そこである程度お金がたまると八百屋をやめて他の事業に移っていきました。そして子供たちは、ハーバードやカリフォルニア大学などに行かせて、医者や弁護士などの仕事に就かせました。そういう人たちがいま、アメリカ国内の韓国人社会で非常に力を持つようになっていて」とあるように、米国内で韓国系の社会的地位は高くなっている。米国への中国系の移民の歴史は古く、人口も多い。両国とも自国をルーツとする移民から米国内の情報を得やすい立場にある。一方、米国のアジア系社会と交わらなければ情報は得にくいだろう。
追記:2020/9/12の朝鮮日報日本語版に「金与正氏が主導、米朝交渉が水面下で進行中」の記事が掲載されている。
「マイ・ドリーム バラク・オバマ自伝」(バラク・オバマ著 白倉三紀子/木内裕也訳 ダイヤモンド社 p220 「第二部 シカゴ」第九章 雇用訓練センター)には、地元商工会のまとめ役のような人が、
『「私は韓国人の文句は言いませんよ」
彼はドアの近くに箱を積み上げながら言った。
「韓国人だけは、ちゃんと商工会議所に会費を納めてくれますから。彼らはビジネスの本質を理解していますし、協力することの大切さも分かっています。貯金もしています。お互いに貸し借りもしています。…」
と語っている場面がある。米国で韓国系社会の評判は悪くない。(2021/10/10)
2021年、韓国人女優ユン・ヨジョン氏がアカデミー助演女優賞を受賞した映画「ミナリ」には、アーカンソー州へ移住した韓国から移民の一家がコミュニティとの絆を求めて教会に行くシーンがあるという(『映画「ミナリ」地味なのに全米で大ウケの真因』 2021/4/10 東洋経済オンライン)。戦前にも「写真花嫁」のような米国では異質な行為を行った日系移民は、韓国系のような地域社会に溶け込む努力はしたのだろうか?韓国ではミナリ(セリ)には、子供世代のために親世代が懸命に働くという意味があるという(『移民の苦難と家族の絆 映画「ミナリ」』 2021/3/19 日本経済新聞電子版)。米国社会で韓国系が高い地位を占めるのも理解できる。
(2024/6/9)
イラン情勢も動き出している。「ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争 上」(デイヴィッド・ハルバースタム著、山田耕介・山田侑平訳 文藝春秋 p133)で、「トルーマンは対照的に、つぎの矛先はイランと予想した。トルーマンとは何かにつけめったに意見が合わないマッカーサーも同意見だった」と、朝鮮戦争に連動して事が起こるとトルーマン米国大統領とマッカーサー司令官が予想したのがイランである。
8月28日に安倍首相が辞任することを発表した。決めたのは24日の月曜日だという。昨年の日米首脳会談後の記者会見で、米国産トウモロコシを民間企業に購入させると発表してからまる1年。この案件が履行されたとは寡聞にして知らない。2017年2月に提案した10年で1500億USDの対米インフラ投資の件はいったいどうなったのだろう?もう3年以上経過している。米国製人工呼吸器を購入する件は履行されたのだろうか?日米貿易交渉の第2段階も迫っていた。潰瘍性大腸炎は「ストレスなどは症状を悪化させる原因になる」(「安倍首相の持病、潰瘍性大腸炎とは 国内患者22万人」 2020/8/28 日本経済新聞WEB版)という。できもしないことを約束し、その履行期限が迫っていることがストレスになっているのであろう。
なお、朝日新聞との単独会見でライトハイザー米通商代表が日米貿易交渉の第2段階開始を急がないと表明したのは8月25日(『日米交渉「第2段階」急がず TPP「いずれ中国が加入」 ライトハイザー米通商代表』 2020/8/27朝日新聞デジタル)。米国政府は安倍首相の辞任を知っていたのだろう。
追記:辞任会見の前、最後に安倍首相が記者会見をしたのは6月18日、ライトハイザー米通商代表が日米貿易交渉の第2段階を数か月以内に始めると米国議会で証言した(『米通商代表、対日交渉の第2段階開始「数カ月以内に」』 2020/6/18 日本経済新聞WEB版)翌日。