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ART&CRAFT forum

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編む植物図鑑④『紙を作る植物』  高宮紀子

2017-09-20 11:41:10 | 高宮紀子
◆写真1 楮 

◆写真 2

◆写真 3

◆写真 4

◆写真 5

◆写真 6

2007年7月10日発行のART&CRAFT FORUM 45号に掲載した記事を改めて下記します。

 編む植物図鑑④『紙を作る植物』  高宮紀子

 作る作業が行き詰ったり、壁があると思った時には、書くのがいいと私は思っています。紙に書いて考える、そして考えたものを繋げたり、分析したものをまた紙に書く。書くことで壁が無くなったり、自分を客観的に見ることができます。これも作るという作業の一つです。家庭でもペーパーレスという時代になりましたが、完全に紙なしの生活は私にとってはちょっと無理。

 情報のやりとりという点でも、紙というのは人間の文化にとても深く関係しています。情報を記録するため、世界にはいろいろな方法があります。先日、武蔵野美術大学で沖縄の民具の展覧会があり、期間中わら算の講習がありました。わらを束にして結んで数や種類を記したというものです。結び方にはルールがあって、実際に当事者がいなくても検証が可能です。結ぶだけだから書くものもいりません。

 記すということが一番簡単なのは、石や葉などの表面に直接ひっかいてキズをつけることです。原始的な方法ですが、簡単です。次は、ちょっと痛々しいですが動物の皮も利用しました。

 その次は樹皮のジンピ繊維を叩いて伸ばすというもの。樹木によっては薄く伸びて、つなげることもできます。模様なども入れて、日用品や衣料などにも使います。でも、その労力を考えるととても貴重で、使い捨てなんていうのはとても無理。次は植物のセルロースを重ねていくという方法。パピルスはあまりにも有名です。茎を縦に切って、直角に並べて層を作って圧力を加えると表面がなめらかで平らな面ができます。

 そして最後に、ばらばらにした繊維を水の力でからめて面を作るという紙漉きの方法
です。

 紙漉きができる植物で、まず思いつくのがコウゾです。写真1はまだ小さい苗なので、葉も小さいですが、クワ科の植物らしく、葉の切り込みが不規則です。このジンピ繊維を取って、つまり皮を剥いで、その内側の繊維を使います。外側の茶色い皮をつけたままま乾燥しているのが写真2です。先日、小川町へ紙漉きの体験に行った時に、見つけました。

 写真3はミツマタ。これも同じ所でみかけたものでまだ蕾です。黄色い花が下向きに咲きます。これも皮をはいで使います。

 偶然にも本コウゾで紙を漉かせてもらったのですが、紙漉きというのはつくづく水との関係が深い、と思いました。紙を漉くとき、水を貯めたり、捨てたりするのですが、これがむつかしい。できあがりの紙に必ず、影響します。リズミカルなぽちゃぽちゃという水の音を聞いていると、繊維がそろう一瞬がわかるそうです。ミツマタはジンチョウゲ科の植物です。庭木のジンチョウゲの皮をはぐと繊維が強いということがよくわかります。ただ、枝の分岐同士の距離が短いので、長くはとれませんが。写真4がミツマタのジンピ繊維。紙料として売られています。

 以前、ある研究所から紙料の植物リストを送ってもらったことがあります。私のHPでかごの植物図鑑を掲載しているのですが、その参考になればと送って下さったもので、すごく詳しく驚きに満ちていました。考古学的な物証の研究をされているので、とても興味深かったのですが、見れば私が使う繊維植物と同じです。繊維があるものはすべて紙にすることができる、ということがわかりました。竹、藁、麻などはいうまでもなく、編む繊維植物である草本、木本にいたるまで、共通していました。

 紙を作るのは、植物ばかりではありません。コットンペーペーという言葉を聞いた方があると思います。綿の繊維からも紙を作るのですが、工場で作られていたのは、なんと、中古の綿の衣類が材料でした。

 平塚市美術館でかご展に参加したときに来日したスコットランドのアナ・キングさんがやっているのはキノコの紙。ある種のキノコがいいようで、たまたま宿泊地の庭にあったからと、採ってきてくれました。(写真5の右下の赤いもの。)下にひいた紙はキノコの紙の作り方ですが、どのキノコがいいのか、まだ試していません。でも、じゃがいもをすってミキサーに入れ、紙を作ったぐらいのシンプルさではないかと思います。

 紙を作る技術は、ばらばらの繊維にして、または繊維の性質を利用し、以下に平らにするか、という技術です。これに比べ、編むという技術は、ばらばらの繊維を繋げていかに連続した線材や面にするか、という技術です。ばらばらの繊維からいろいろな方法が可能です。例えば撚るという方法がありますが、撚りながらできるのは、縄、ループ、結びという形があり、一つではありません。

 写真6は私が作りました。素材はスギの樹皮です。スギの樹皮は厚いのですが、それを薄く剥いだり、叩いて柔らかくすることができます。この作品は一枚のスギの皮の硬いところを残して、他を叩いて柔らかくしたもの。下の柔らかいところは紙になりそうです。スギはクラスの参加者の皆さんと採りに行きました。

 今年のかごクラスの参加者は面白い実験をする方が多い。Mさんは洗濯機で紙バンドを洗ったり、ビニールを熱で溶かしたりしています。またSさんはCDを螺旋状に切って、ダブルにつながった螺旋を作ってきました。Fさんはシュロの繊維を煮てきた。KさんはPPバンドから新たな物質を作り出し、Nさんはゴムを解いた。その他にも驚くものがたくさんあります。実験ですが、実験だけに終わりません。これによって新しい個性的の自分だけの素材をみつけることができるのです。

編む植物図鑑 ③ 『アケビ科・ツヅラフジ科』 高宮紀子

2017-09-10 10:12:30 | 高宮紀子
◆ツヅラフジのかご

◆写真 2

◆写真 1 

◆写真 3

◆写真 4

◆写真 6

◆写真 7

2007年4月10日発行のART&CRAFT FORUM 44号に掲載した記事を改めて下記します。

編む植物図鑑 ③ 『アケビ科・ツヅラフジ科』 高宮紀子

 ◆アケビ:
写真1は私の庭の現在のミツバアケビです。去年、家の電話線が入っているポールに登り始め、今年はどこまで登ろうか、といったところです。もう植えて永いのですが、その間、何度も隣りの木に登っては切られていました。金属のポールに最初はあまり興味が無かったようでしたが、ついに登り始めました。もう芽が出ていますが、まだ寒いようです。ミツバアケビは落葉するので、この写真では葉がありませんが、名前の通り三枚の葉があります。

写真2がミツバアケビです。造形作家のHさんに連れていってもらったアケビを栽培している農家で写しました。ここではいけ花の花材としてツルの先端の所を出荷しています。畑では骨組を建てて何本も紐を縦方向に張り、その紐にツルの先端を巻きつかせて、くるくるとなった先を作るのです。ツルの先は上へ上へと螺旋状に探りながら、何かに掴って登っていくので、チャンス!とばかりに紐をよじ登ります。これがぐるぐる巻いた形になります。

このアケビは半分栽培しているようなものなので太さもそろっていますが、山のアケビは太さがいろいろあります。手では曲がらない太さのものや細いランナーまで、いろいろです。
この農家では、ツルの先は売れるけれども、下のツルが売れない。なんとかしてかごを編めないだろうか、ということでかごに使えるか試してみることになりました。農家のツルはよじ登ったものもあるので、ずいぶんと長い時間水につけて柔らかくする必要がありました。編めないことはなく慣れれば大丈夫ですが、商品となると難しいか、という結果でした。

かごを編むアケビはミツバアケビ、ゴヨウアケビです。写真3のツルは売っているもの。小田原のYさんが見つけてくれました。アケビの種類はわかりませんが、細くて使いやすそうなものです。かご用のツルを採るのは、日当たりの好い斜面とか水分の多そうな日影などを探します。地面に這っていて根を所々で出しているランナーと呼ばれるツル、あるいはそこから分岐している細いツルを採ります。採る時期は地域によって違いますが、一般にはツルが太った晩秋や冬と言われます。9月ごろ葉がついている間に採るという地域もあります。一般には寒い所のアケビは赤みがあって綺麗だと言われますが、入手がむつかしい。ツルは外皮が付いたまま編むか、皮をとって編む所もあります。野沢温泉のアケビの鳩車が有名ですが、その他にも皮をむいてかごを編む所があります。ツルは採ってきたら、よほどの汚れがない限り洗わず、そのまま輪にして乾燥します。何週間かしたら、水分が抜けているのがわかるようになるのでそのまま保存します。
アケビ科の仲間には、アケビ、ミツバアケビ、ゴヨウアケビそして、ムベというものがあります。ムベはツルでかごを編むのはむつかしい。あまり柔軟性はありません。家の近くによく散歩する里山があります。里山といっても農家はなく近くまで宅地がせまっているような小さな山ですが、そこにゴヨウアケビの小さなのが少し生えています。ゴヨウアケビはアケビとミツバアケビとの雑種だそうですが、小さな手の平のような5枚の葉が出ています。編む前にアケビは水に一晩浸けて柔らかくしますが、他のツルに比べて細くて硬く弾力に富んでいます。だからいろいろな編み方ができるようです。写真4は青森のループ状に編んだかごの部分です。青森、秋田、岩手、宮城などの東北や福島では今でもアケビ細工がさかんに行われている所があるようです。アケビが伝統的なかごの材料になったのは、その丈夫さだろうと思います。特にカビに関して比較的強いと思います。

◆ツヅラフジ:
かごを編むツルの中でも一番長いのはツヅラフジじゃないかと思っています。実際にはもっと長いものがありそうですが、採った時にたどっていくのに苦労したから、そう思っています。ツヅラフジ科の植物で、かごを編むのに使われてきました。ツヅラフジという植物は昔から薬草として使われたようです。他のかごを編むツルも薬草の部類に入っているものが多いです。私は感じなかったのですが、編んでいて手がすべすべする、と言う人もいます。私がかごの素材として使ったことがあるのはオオツヅラフジ、アオツヅラフジ。

オオツヅラフジとアオツヅラフジをどう見分けたらいいか、と考えたことがあります。とにかく太さ、葉の形が違いますのですぐわかりますが、友人にアオツヅラフジにもものすごく太いのがある、という人がいて判別がむつかしい場合もあるのではと思いました。二つのツルとも、真っ青な緑色をしています。アオツヅラフジは太くなると褐色が多くなりますが、オオツヅラフジは割りと太い所でも同じ色をしています。

写真5はツヅラフジのかごです。宮崎県のもの。ツヅラフジは太いのですが、柔らかくて編みやすいツルです。乾燥すると黒っぽい色に変わるのが特徴。このかごは名人が編んだので美しく真ん中が膨らんだ形ですが、この形に編むのはむつかしそうです。腰につける紐がついていました。

アオツヅラフジはオオツヅラフジに比べたらとても細いのですが、柔軟性もあるので作品に使ったりしています。もちろん伝統的なかごを編む材料でもあります。写真6は青い実がなっているところです。とても日当たりのいい所に生えていました。晩秋だったので、葉が黄色くなっていてハートの形が際立っていました。

このツルとよく間違えるのはヤマイモです。ヤマイモの葉も同じような形だし、茎も青いので間違えます。アオツヅラフジを採ったことが無かった時、これだ!と思って採ったのがヤマイモ。その時は満足した気分で帰ったのですが、しばらく乾燥させると、ずいぶんと痩せてしまい、間違えたことがようやくわかりました。今となってはいい思い出ですが、悔しくてヤマイモのツルで作品を作りました。アオツヅラフジは細いツルが使えるのでいいのですが、あまり先端は丈夫ではありません。細いところばかりで作品を作って、何年かしたらぼきぼき折れてきてしまった、ということもありました。

◆オカメヅタ:
以前日比谷公園でかご作りのワークショップを行うことになってオカメヅタを使ったことがあります。このツタは庭木でもありますが、ウコギ科の仲間で日陰に生育することから公園の大樹の下などに植えられていました。これをかごの素材にしてみたのですが、柔らかく編みやすかったです。公園のあちこちに生えているのでいくらでも採ることができたのも便利でした。もちろん、伝統的なかごの素材ではありませんが、公園で見るツタを使うなんて楽しそう、ということでOKになりました。かごの素材として使えるか使えないかは、乾燥した後にかかっています。乾燥しても萎れなく、水につければまた柔軟になる、そういうツルが伝統的なかごを作る材料になったわけです。その一方で、半乾きにして、そのまま編むクズ、フジの例があります。オカメヅタは生のまま使うことになりました。細い先の方は乾燥すると萎れて頼りなくなるからです。生のまま束にして使ってもらうことで乾燥してもなんとか編み目を保つことができるのではと考えました。写真6はそのオカメヅタです。付いている葉は逆むけにしごいて全部落として編みました。

『編む植物図鑑②: カヤツリグサ科、Cyperus, Carexなど』  高宮紀子

2017-09-02 09:29:35 | 高宮紀子
◆写真 4 スカリ

◆写真2 パピルス


◆写真 1

◆写真3 イワスゲ

◆写真7. 桧枝岐の編み袋

◆写真5. ヒロロ

◆写真6. ヒロロ(乾燥したもの)

◆写真8. 焼酎ビンの覆い(シチトウイ製)

◆写真9 カンエンガヤツリの編み袋


2007年1月10日発行のART&CRAFT FORUM 43号に掲載した記事を改めて下記します。

 『編む植物図鑑②: カヤツリグサ科、Cyperus, Carexなど』  高宮紀子

 カヤツリグサ科といえば、身近なのがカヤツリグサ。子供の頃、その茎を結んでいたずらしたり、茎をからませ、引いて遊んだ人もいらっしゃると思います。強く、引っこ抜こうとしても根が張っていてとれない。畑の雑草でも粘り強い植物の一つです。カヤツリグサにはたくさん種類があります。ハワイ島でみかけたのは巨大なカヤツリグサ、日本でおなじみの草の“でっかいの”でした。これを組んでマットを作るそうですが、実際のマットにはお目にかかれませんでした。
 カヤツリグサ科の仲間には編む植物が多いようです。最も古くから人間の歴史と関係が深いのはパピルスでしょう。茎をスライスして直角に交互に重ねて紙を作った他、縄や履物、かご、舟や建築材に使いました。日本ではカミガヤツリとも言います。写真1はそのパピルスの花を図案化したもの。ずっと前に彫金をやっていたころ私が作りました。といっても打ち出しの途中のものですが。図案は壁画の写真からとったものだと思います。子供のときからこの形が好きでしたが、これがパピルスだと知ったのはずっと後のことです。

以前バスケタリー作家のIさんの知り合いがエジプトからパピルスを持って帰られ、Iさんのお宅ですごく増えたというお話を聞き、私も分けてもらいました。高さが5メートルになる大型のパピルスとは違いますが、小型のものでかわいい。Iさんから根つきの苗をもらいましたが、葉を下にして土に埋めれば増えますよ、と言われました。根が出そうも無い葉を下にして土に植えるというのは、とても不思議に思ったのですが、後で根が出たと聞きました。今でもわが家の庭にいますが、何回か、根がまわって植木鉢を取り替え、その度に根を小さく切りましたが、それでも強く戸外でも越冬してどっこい生きています。茎を編むことができ、いつも冬前に茎を収穫しています。写真2のような緑色は乾燥するとなくなり、ベージュ色になります。写真左下は三角形の茎の断面です。

 スゲというのも編み組み品の素材によく使われます。正確にはスゲ属ですが、多くの種類があります。山に入るといろいろなスゲの仲間に出会います。でもこのスゲというのは、なかなか判定がむつかしい。
 以前秩父の吉田町に、スカリという編み袋(背負い袋)を習いに数回通いました。スカリはイワスゲで作られています。このイワスゲはカンスゲの仲間、ミヤマカンスゲです。秋の終わり、その時のかごクラスの生徒さんと一緒に行き、イワスゲを採るところから体験させてもらいました。
 イワスゲは澤の近くやその上のがけに生えています。株の中の若い芽を引いて束ごと採ります。その後は煮たり、そのまま乾燥させて編みます。習ったのは七宝結びの袋ですが、他に捩り編みの編み方のものもあります。どちらにしても、とても長い縄、その時で250mぐらいの縦縄をなうことが必要です。写真3はその時採ってもらったイワスゲです。葉が太い方がいいだろうと思って採ると、葉の端にぎざぎざがあってうっかりすると手を切る。写真4はできあがりのスカリです。

 このスゲ属で編む袋類が各地に見られます。背負い袋が多いのですが、福島や茨木、群馬、栃木などにみることができます。九州にも同じような作り方の背負い袋があります。どれも長い縄をなって縦縄にして枠を使って編むというのが共通しています。
 ミヤマカンスゲについては、生えている場所として、山地の樹陰だという記述もありますが、同じ種類でも生えているところで違ってきます。葉だけで見極めるのは専門家でもむつかしい、と聞きました。
 福島県の三島町ではスゲ属のヒロロという草で編み袋を編んでいます。写真5はそのヒロロです。
三島で使われるヒロロは同じ種類の秩父のイワスゲに比べて葉が細くて柔らかい。オクノカンスゲといいます。乾燥したものが写真6です。秩父のイワスゲをみせたらウバヒロロだ、と言われたと知り合いから聞きました。三島の美しい丈夫な柔らかい縄ができるのは細くて柔らかいオクノカンスゲだから、ということもあるようです。写真7は桧枝岐で作られていた編み袋。同じくスゲ属の植物で作られています。今はあまり作られていないようです。どこも後継者不足。

 以前、ワラ細工の柳田さんからフトイをもらった、という話を書いたことがあります。フランスでワラ細工の実演をした時にむこうでかごを編んでいる材料を分けてもらったそうで、そのフトイをもらいました。カヤツリグサ科の茎の断面は三角になっているのですが、フトイは違います。円いのです。この仲間で太いのはトトラです。何本も4メートルぐらいの茎を束ねてボートを作ります。束を作って縄でたばね、それらを何本かあわせてまた縄でくくる、これはもうバスケタリーの方法です。

 いろいろと珍しい植物を園芸店でみかけると、ついつい買って連れて帰っては失敗していますが、今も元気でいるものの中にカヤツリグサ科のものがいくつかあります。例えばシチトウイ。これも茎が強く編むことができます。畳の材料として栽培されています。この畳はイグサの畳と違って織り目が大きい。その分粗い感じがしますがうんと丈夫です。大分県ではこのシチトウイを編んで編み組み品が作られているようです。茎を半分に裂いて編んでいる、とのことでした。写真8はシチトウイ製の焼酎のビンの覆いです。

 韓国に行った時にひじょうに柔らかいかごの素材があることを知りました。写真9がそのかごです。これもカヤツリグサ科の植物でカンエンガヤツリ、地元ではワングルと呼ばれています。葉、茎の皮、茎の中箕が編みに使えるそうです。漂白した素材を買ってきましたが、ひじょうに柔らかい、でもうっかりするとカビが生えやすい。日本にも仲間があるようですが、確かどこかの県で絶滅危惧種に指定さています。
カヤツリグサ科についてはまだまだ語り足りないのですが、今回はこの辺で。

編む植物図鑑①『ヤナギ:Salix』 高宮紀子

2017-08-24 09:23:06 | 高宮紀子
◆写真 2ヤナギのかご

◆写真1Salix viminalis

◆写真3. 柳で縄がなえる


 ◆写真4

◆写真5 

◆写真7 

◆写真6 夏期講習


2006年10月10日発行のART&CRAFT FORUM 42号に掲載した記事を改めて下記します。

 編む植物図鑑①『ヤナギ:Salix』 高宮紀子

 新しいシリーズ『編む植物図鑑』を始めます。前回の『民具のかご・作品としてのかご』では民具と自分の作品の繋がりを書いてきました。その中でも繊維植物について書くこともありました。植物については知識や自分の体験を記録してきましたが、集めたままのばらばらの情報で、新シリーズになったのを機会にここらでまとめてみようと思ったわけです。これまでと同じ、かごの視点ですが、主役を植物にして、編むという角度から、植物学の図鑑にはない内容にしたいと考えています。編める素材の植物図鑑というものになれば、と思い名前をつけました。

第一回目はヤナギです(写真1Salix viminalis)。ヤナギ科の植物はそれぞれ川や山、高山と育つ場所が違います。また枝の形も曲がりくねったもの、扁平、あるいはしだれるもの、そして樹木の高さも草のようなものがあれば何十メートルになるのもある。花穂は似ていると思えば、葉は細長いものだけでなく、輪状やギンドロやポプラのようにハート型もあります、という具合です。古代より人の歴史と関わって、材や薬に使われる他、かごが作られました。
身近なものはシダレヤナギ:Salix babylonica、かごの伝統的な素材ではありませんが、これで編んだことがある方もおられると思います。風にそよぐ長い枝が柔らかく編む材に、太い枝からは樹皮がとれます。枝は生の時は柔らかく編めるのですが、乾くと柔軟性はありません。細い先はぽきぽき折れます。そこで乾燥したものは4,5日水に浸けて柔らかくします。ただ生のような柔軟とまではいかない、と思っていました。小田原に住むYさんのシダレヤナギは乾燥後も4,5日水につければ十分柔らかくなるとのことです。Yさん作のフレームバスケットは、縁のところで編み材が折れることなく折り返っています。少しは折れるものもある、とのことですが柔らかいらしい。シダレヤナギにも数種類ありますし、環境の違いも影響するでしょう。いろいろな方の体験を聞いた方がいいと思いました。

 ヤナギのかご、といえば柳行李。中国、韓国に同じものがありますが、素材はコリヤナギ:Salix koriyanagiで皮を剥いて使います。川に生えるヤナギですが、豊岡では畑で栽培していました。柳行李の技術は縦に並べたヤナギの枝を細い麻糸で織る方法で、太い枝から細い枝まで使える万能の方法です。この方法は枝で編むというよりは細い麻糸で織ってまとめるというもの。一番細い枝を使うのはお弁当箱で、直径が2~3mmぐらい。この他、細い枝をまるっぽ使って、タテ材、編み材ともに使うかごも作られています。枝は細く真っ直ぐで分岐が無い枝が必要となります。そのため夏には芽をとらなければならず、たいへんな手間です。どちらも枝は収穫後皮を剥き、よく乾燥させて使う前に水につけて柔らかくします。

 ヤナギのかごといえばヨーロッパ。長さや太さ、色も違うたくさんのヤナギの種類があり、その加工方法やかごの技術が確立されています。ヤナギは採取後乾燥させ、長さによって束に分け、かごの素材として売っています。使う時は水に浸けて柔らかくします。ヤナギのかごはウイッカワークと呼ばれます。ウイッカーとは、ヤナギの枝のような柔軟な枝のことをいい、ウイッカワークとはヤナギなどの枝で作られた物のこと、かごも含まれます。写真2のように一見、普通なかごですが、実は特別な技術でできています。
特殊な技術とは、まず底です。普通ですとタテ材は底から側面を通って縁に出るわけですが、ヤナギのかごでは円盤状の底を作り、側面のタテ材を底に挿して編みます。これはヤナギの枝の元と先の太さの違い、長さ、かごの丈夫さから考えられた方法です。側面の編み方や縁のしまつも籐のかごの編み方と一見同じですが違います。かごの作り方としてはこの他、フレームバスケットという作り方が多く見られます。太い材を使ってフレームを作り、あばら骨のような骨格を作りその間を編んでうめる方法です。柳のほかの木材のへぎ材も使える方法で、どちらもヤナギの性質をうまく活かした方法です。

 今年になってヤナギを栽培している農園主のT氏を紹介してもらいました。栽培されている品種の中にかごを編むオランダヤナギがある、とのことでした。このヤナギはもともと花材として栽培されましたが、かごに使われるという説明が苗の解説にあったそうです。T氏はヤナギを知り尽くした方ですが、編むということにも関心を持って下さりいろいろと実験して報告して下さいとのことで、送ってもらうようになりました。
最初に送られてきたのは鉛筆より太い枝。編めるか試してみたのですが、まず驚いたのが、枝全体が捩れに対して強いということでした。これはシダレヤナギと違う点で、全体が柔軟で繊維の束のようにしなって捩れ、曲げに強い。例えば、写真3のように枝で縄をなうこともできます。

 とにかく生のままかごを編んでみました。太い枝だったので、ずいぶんと力はいりましたが、久しぶりに全身で編むということを体験できました。枝の柔軟性は独特です。急な曲げにはポキンと折れるのではなく、ふにゃりと曲がります。太いものは編むのがたいへんですが、鉛筆ぐらいの太さまででしたら、捻るようにして編むと少し楽に編めます。この性質が発揮されるのは、捻り編みの類の編み方の時です。太いものでも3本、4本で追いかけて編む捩り編みですと(写真4)とてもよくわかる。普段、一つの編む技術としてみていたこの技術が、実はヤナギを編む技術だったのだとその時初めてわかりました。枝が持つ弾力のおかげで、他の素材ではむつかしい構造も可能です。たとえば写真5のようなトレイ。枝で輪を作り、タテに太い枝を渡して横に枝を入れて編むだけのものです。輪に材の端がかかっているだけですが、とまっています。密に材を入れれば外れることはありません。
枝からへぎ材をとることもできます。半分に割り、それを半分にして1/4にします。割った材の真ん中の隋を削って表面の層だけにすると柔軟な編める材をとることができます。これでどんな作品を作るのか、今はわかりませんが。このヤナギの学名はSalix viminalis、ヨーロッパでかご編みに使われるヤナギであることがわかりました。

 編むヤナギを体験できる、そう思った私はT氏に夏期講習用にヤナギを大量に切ってもらうことをお願いしました。実はヤナギを切るのは冬。夏は枝が水をいっぱい吸っているので、乾燥後皮に皺がよってしまう、品質も心配。それで水をあげてない季節に切るといいのですが、ヤナギの枝は得がたい素材です。いろいろな都合もあって夏にお願いすることになりました。
講習が始まる一週間ほど前に、農園に伺い、ヤナギの畑をみせてもらいました。切ってもらうのは二年目の株のもの。ずいぶんまっすぐ伸びています。心配していた分岐も先だけでした。というのも分岐するとその先の枝は細くなるからです。写真6は夏期講習の模様です。大量に送られてきたヤナギを参加者に手伝ってもらい、葉をとり、枝を分けているところです。
夏期講習は、ヤナギを使ってもらい、伝統的なヤナギのかごの技術を体験してもらう内容でした。普段は造形的なチャレンジを勧めているのですが、実際の素材を使って技術を体験することで、素材と技術との関係が見えるかもしれない、そう思いました。
クラス中、枝の長い先が飛んで、鞭のようにしなったり、太くて編めなかったりでいろいろな問題が起こりましたが、そのつど問題解決をしてもらい、なんとか終わりました。ヤナギを編む技術というのは、ほんとうによく考えられていて、ヤナギの太さや長さを常に勘定にいれて編むことに徹底しています。枝の元から編み、先で編み終えたり、必要な箇所で必要な編み方をする合理的な方法です。柔らかい素材ですと自分の造形意思がかなり通せるのですが、ヤナギの場合はそうはいきません。そこに面白さがあると思いました。

 緑色をしていた枝も今は黄色から薄茶に変わってきています(写真7)。これからもオランダヤナギとのつきあいが続けばと思っています。未知のことが多い楽しみなヤナギです。



『縄からはじまる』高宮紀子

2017-08-17 09:41:11 | 高宮紀子
◆トイシ入れの展開(藁)

◆トイシ入れ(藁)・写真2

◆バンダンの縄(写真3) 

2006年7月10日発行のART&CRAFT FORUM 41号に掲載した記事を改めて下記します。

民具のかご・作品としてのかご(27) 
 『縄からはじまる』高宮紀子

 いろいろな植物による縄が作られています。加工品や金属など、様々な用途の縄を店で手に入れることができます。昔の生活でも縄は大活躍の道具だったと思います。例えば、蔓の縄、これで橋も作っています。そして葉や繊維。これは植物1本の葉や茎では弱いけれど、束にして綯うことで丈夫な縄になります。昔の民家の屋根裏をご覧になったら縄がたくさん使われていることがわかります。藁や蔓、そして硬そうな竹の縄が使われています。
 縄を綯うというのは一番簡単な技術だと思いますが、均一な太さの縄を綯うのは難しい。例えば藁細工、基本は縄綯いということを人からよく聞きました。このシリーズでもずいぶんと藁細工のことを書いてきました。全ての藁細工に縄ないが必要というわけではありませんが、縄を使う民具は多い。縄綯いの技術には藁を束で扱う技術が凝縮されていると思います。
 縄を綯う技術は簡単です。葉や繊維を束にして同じ撚りをかけて反対方向に撚り合わせる、というシンプルな工程です。しかもこの技術は植物の繊維の強さを試すことに使うこともできます。自然素材を使うと植物に関心ができ、庭や散歩の途中で見つけた植物が気になってきます。それでこの植物は使えるだろうかと試してみたくなります。手っ取り早い方法が縄をなうことです。葉を生のまま、よりをかけて綯ってみます。そうすると繊維の強さがある程度わかってきます。
 藁細工では縄を見ると、作り手の技量がわかるといわれます。私は最初から技量的なことは無理、上手な人がいくらでもいらっしゃる。例えば、足半では誰々さん、馬では、というようにその道を極めた作り手がおられる。その方々は膨大な作業量から技術を工夫してこられたのですから、そういう方にはかなわない。私が藁細工をやってきたのは、知識を得る楽しみもありましたが、その他に、藁を使ってものを作るというのはどういうことかを感覚的に掴みたいということでした。
 藁細工で最初に行ったのは、柳田利中さんの藁細工ビデオの編集でしたが、それからいろいろな方と藁つながりでお会いすることができました。例えば、藁筆を作っておられる方や、東北地方の作り手さん、韓国の藁と草の博物館の館長さん、そして嬉しかったのは少ないが若い藁細工の後継者ががんばっておられることもわかりました。
 藁細工の技術の素晴らしさを何か違う方法で皆さんにみていただけないだろうか、と思うようになりました。ただし、藁には問題もあります。虫がつきやすいし、ゴミも出る。飾りだといいのですが、実用的なものは作っても使うのが難しい、という意見もあった。それならば、技術展開を造形で見せるということは私にもできそうだ、と思うようになりました。
 技術自体の素晴らしさというのは、博物館のようにそれ自体を伝統的な形、たとえばゾウリで展示しても伝わらない。見た方は、ただゾウリだと思うでしょう。それはそれでいいのかもしれませんが、それより藁細工の技術は現代にも生かせるものなのだ、ということを伝える展覧会をしたい、と思うようになりました。
 二年前、韓国の藁と草の博物館の館長さんとお話した時に、いつか藁細工の交流展をやりましょうと言われ、企画書を提出してみました。不幸にもその後反日感情が高まったこともあり、展覧会の実現が今は難しいということになりました。企画の内容は、伝統的な技術保持者による伝統的な藁細工と実演、藁を今日の生活に活かそうとしている人々の作品、私達の造形という三部の構成だったので、あまりにも大きすぎたというのが今の反省です。
 その後、すっかり頓挫していた藁の展覧会でしたが、たまたま千疋屋ギャラリーでキャンセルが出て、前号の足半の記事を読んで下さったTさんより連絡があり、急遽、藁の展覧会をやってみることになりました。
 展覧会のタイトルをどうしようか、と考えた時に柳田さんの縄綯いが基本、という言葉が頭に浮かびました。それで縄に関係するということで参加を呼びかける作家の顔がタイトルとほぼ同時に頭に浮かびました。そしてタイトルは『縄からはじまる』になりました。
 参加する作家は岩崎睦美さん(縄のバスケタリー)、東明美さん(藁筆)、山本あまよかしむ(草の面)さんと私(素材・技法の展開)の4人です。それぞれ、作る分野は違いますが、みなさん、柳田さんに関わってきた人達で藁、縄という共通項があります。
 展覧会に向けて、私のテーマは素材・技法の展開ということで制作を始めています。上の作品はその一つで、縄の技法ということで伝統的な“トイシ入れ”の方法を展開しています。
 “トイシ入れ” は縄でできているのですが、何箇所か縄を出っ張らせて作るので、縄の進む方向が面白い。また、普通とは違う方法で縄にするという所がずいぶんあって、縄をどういう手順で連結していくか、が面白くいくつか作っています。もう一つ、縄関連ということでゾウリの技術の展開をやってみたいと思っています。
 もう一つのテーマは縄の素材の展開です。様々な素材による縄というのも面白いですが、いろいろな素材が使えるということがわかっても博物館的な展示になってしまう。実際縄を綯う時にいろいろなことが素材の性質で起こるわけです。それを形にしてみよう、というのが今回の課題。
 例えば、写真3枚目はパンダンという呼ばれる素材で縄をなったものです。素材の特徴を手でとらえていくと、こういうこともできる、したくなるというのが自然にわいてくる。それを形にしたいと思っています。パンダンでは折れ曲がったり、こぶを作ったりしています。他にもいろいろな素材で縄を作って、手で触って見てもらいたいと思います。
 宣伝ですが、期間中、ワークショップをやります。千疋屋ギャラリーではあまりこういうことが行われるのは見たことがありませんでしたが、今回、ギャラリーのご好意で実現できることになりました。ワークショップの意味は体験してほしいということ。形を作るよりは素材と向き合い、藁筆を作ったり、縄を綯うことで、自分と素材との関係を作る、というプロセスを楽しんでほしいと思っています。

展覧会名:「縄からはじまる」
-藁の可能性- 縄・藁を使った造形作品展とワークショップ
日時:2006年7月17日から22日 於:千疋屋ギャラリー 
(ワークショップなどにつきましてはhttp://www001.upp.so-net.ne.jp/basketry-idea/pages/sub6.htmをご参照下さい。)
 


読者の皆様へ:
『民具としてのかご・作品としてのかご』の連載は1999年より始まりました。このシリーズで自分とかごの伝統とのつながりについて考えてみよう、と思い書きました。そろそろ違う視点で、というご意見があり、このシリーズを終了し、テーマを変えて再出発したいと思っております。今までお読みいただきましてありがとうございました。新タイトルは未定ですが、かごに関することは変わりなく、新しいものはないと思いますが、また皆さんに呼んでいただけたら幸いです。